輸入車ハッチバックの代表格といえるフォルクスワーゲン「ゴルフ」の新型が日本でも発売となった。通算8代目となる「ゴルフ8」だ。プラットフォームやパワートレインは先代の進化形だが、デザインはどう変わり、どこが見どころなのか。実車を見て考えた。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」

    新型「ゴルフ」の見どころは? デザインをじっくり観察

「ゴルフ」を「ゴルフ」に見せている部分とは?

今回の新型で通算8代目となるフォルクスワーゲン(VW)の「ゴルフ」が、もともとはイタリア生まれのカーデザイン界の巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロの手により生まれたことを知っている人はどのくらいいるだろうか。

  • フォルクスワーゲンの初代「ゴルフ」

    ジウジアーロがデザインした初代「ゴルフ」

当時のVWは、第2次大戦直後から販売を始めた「ビートル」(正式名称はフォルクスワーゲン・タイプ1)をはじめとする空冷リアエンジン方式のラインアップを一新しようと考え、水冷フロントエンジン前輪駆動の経験が長いアウディの協力を得て、前輪駆動への転換を画策していた。

エンジンの搭載位置からして違うので、当然ながらデザインも一新する必要がある。それをジウジアーロに依頼したのだ。ゴルフだけでなく、上級セダン/ワゴンの「パサート」、日本でも一時販売していたクーペの「シロッコ」も、初代は彼のデザインだ。

つまり、現在のVWのデザインは、かなりの部分がジウジアーロによって築かれたといっても過言ではない。

ゴルフはその中でも、彼のデザインコンセプトをもっとも忠実に継承している1台だ。基幹車種なので大胆な変革が難しいこともあるが、肝を守り続けていることも、定番商品として世界中の多くの人に親しまれている理由になっているのだろうと思う。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」
  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」
  • 定番商品の「ゴルフ」は、初代のデザインコンセプトをもっとも忠実に継承しているクルマだ

実は新型ゴルフ、フルモデルチェンジではあるものの、プラットフォームは先代で初採用した「MQB」の進化形「MQB evo」を採用しており、エンジンも先代に搭載していた「EA211」をバージョンアップした「EA211 evo」となっている。

ボディサイズもさほど変わっていない。全長4,295mm、全幅1,790mm、全高1,470mmで、先代と比べると30mm長く、10mm狭く、5mm低くなっているにすぎない。なので、骨格そのものは先代から踏襲していると思われる。静岡県御殿場市で開催されたメディア向け試乗会で実車に対面しても、特にキャビンまわりはそっくりで、ドアのウインドーは共用しているのではないかと思ってしまうほどだ。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ7」
  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」
  • 先代の「ゴルフ7」(左)とボディサイズはほとんど変わらない新型「ゴルフ8」(右)

でも、このキャビンがゴルフをゴルフらしく見せている核の部分であることは、VW自身も認めている。

具体的には、リアドア後方の太い「く」の字型パネルだ。これはジウジアーロ・デザインの初代から連綿と受け継がれている。そういえばゴルフ同様、ドイツ車の定番商品であるBMW「3シリーズセダン」も、リアドア後方のライン「ホフマイスターエッケ」を初代から受け継いでいる。

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    リアドア後方の「Cピラー」が太い「く」の字型を描いている

一新した表情をどう考えるか

ただし、ボディサイドそのものが先代とまったく同じというわけではない。今まではドアハンドルの下を走っていたキャラクターラインは、ドアハンドルを貫く位置に上昇した。それ以外は、ドア下部に先代に似たアクセントが入るぐらいで、すっきりしている。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」

    ドアハンドルを貫く「ゴルフ8」のキャラクターライン

ゴルフの弟分である「ポロ」は、現行型になってキャラクターラインが一気に増え、やや煩雑なデザインになってしまったことを残念に思っていたので、ゴルフが新型になってもシンプルさを保ってくれたことには安心した。

寸法面で個人的に興味を引かれたのは、ホイールベースである。全長がやや伸びたのに対し、こちらは15mm短い2,620mmになった。わずか15mmなので肉眼で短くなったとは感じないのだが、試乗会で聞いてみると、ワゴンの「ゴルフ・ヴァリアント」の新型との差別化を図るためという答えが返ってきた。

試乗会から戻って早速検索してみると、すでにドイツ本国では発表済みだった新型ヴァリアントのホイールベースは、逆に先代ゴルフ7より約50mm長くなっている。

「Cセグメント」と呼ばれるゴルフと同じクラスで、ハッチバックとワゴンの両方を持つ欧州車としてはほかにプジョー「308」、ルノー「メガーヌ」がある。いずれも伝統的に、ハッチバックよりワゴンのホイールベースを長くとってきた。

ゴルフもそれに倣って差別化を図ってきた。少なくとも欧州では、ハッチバックとワゴンはユーザー層が異なることを示している。ただし、キャビンの広さはホイールベース短縮の影響は受けていないとのことで、実際に乗ってもそれを実感した。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」

    ホイールベース(前輪と後輪の間の距離)は先代に比べ短くなっているが、だからといってキャビンが狭くなっているというわけではない

スタイリングでもっとも大きく変わったのはフロントだろう。先代はグリルとヘッドランプの下端をそろえ、ヘッドランプが両端に行くほどせり上がる吊り目顔だったが、新型は逆に上端をそろえており、ヘッドランプは下側に広がっている。ちなみにこの上端のラインは、サイドのキャラクターラインにつながる高さになっている。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ7」
  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」
  • もっとも大きく変わったのは「顔」だ。左が「ゴルフ7」、右が「ゴルフ8」

グリル、ヘッドランプともに薄くなったこともポイントで、逆にバンパーの開口部は広がった。この変更のおかげもあって、空気抵抗係数Cd値は0.3から0.275に下がったそうだ。 しかしこれ、伝統を重んじるゴルフの進化の中では、かなり大胆な変更であることも事実。ヘッドランプについては、初代と2代目で採用した丸目が吊り目に変わった3代目以来の変革である。

メガネをかけたような新型の顔つきは、賛否が分かれそうだ。この辺りは時間の経過とともにどう評価が変わっていくか、見ていきたいと考えている。

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    こちらは「ゴルフ8」の「Rライン」

リアまわりは「GOLF」のロゴがリアゲートオープナーを兼ねたVWエンブレムのすぐ下に移動し、グレード名を示すロゴは消滅した。このあたりは、先に登場したSUVの「Tクロス」や「Tロック」、マイナーチェンジしたパサートと共通する。これ以外ではルーフエンドスポイラー、コンビランプ、バンパーなども一新されているが、フロントに比べれば変化は控えめだ。

インテリアは一気にモダンに

フロントマスク以上に大きく変わったのはインテリアだ。中でもインパネは、10.25インチと10インチのデジタルディスプレイを横に並べた今風の眺めに一新した。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」

    「ゴルフ8」になって室内は大きく変わった

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ7」

    ちなみに、こちらは「ゴルフ7」の室内だ

感心したのは操作のロジックが考え抜かれたものであること。例えばメーターは、クラシカルなダイヤルからナビの地図メインまで4種類の表示が選べて、ステアリングスイッチで左右のサブメニューを呼び出すことができるのだが、いずれもすぐに使いこなすことができた。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」
  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」
  • 「ゴルフ8」のメーターパネル

センターディスプレイの操作はタッチパネル、その下の細長いスイッチ、ハザードランプスイッチ周辺のスイッチの3カ所に分かれていて、一部は音声で操作できる。ハザードスイッチの周囲にはエアコンやドライブモードのボタンを配置。いずれもオーディオやナビに比べれば操作の頻度が少ないことに気づいて納得した。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」

    センターディスプレイとその周辺

一方、オーディオのボリュームやエアコンの温度などを調節するディスプレイ下のボタンは、横方向に指をスライドさせると一気にレベルを変えることができるのだが、短い試乗時間では思いどおりに扱うことができなかった。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」

    ディスプレイ下にはスライド操作に対応したスイッチが。ここではオーディオの音量やエアコンの温度を調整できる

センターコンソールでは、シフトレバーが短い電気スイッチになったことが目を引く。従来はダイヤルだったメーター右側のライトスイッチもタッチ式に変身している。いずれも格段にモダンになった。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」
  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」
  • 左が「ゴルフ8」のセンターコンソール、右がライト類のタッチ式スイッチ

それだけに、ステアリングやその奥のウインカーやワイパーのレバー、ドアのパワーウインドースイッチが見慣れた造形なのは残念だ。トータルデザインという観点でいえば、こういう部分も一新してほしかった。大きなディスプレイを並べたためもあり、エアコンのルーバーが下のほうに位置していることも気になった。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」
  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」
  • 車内はモダンな印象に雰囲気を一変させたが、ワイパーのレバーやパワーウインドーのスイッチは見慣れた造形だった

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」
  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」
  • フォルクスワーゲン「ゴルフ8」
  • アンビエントライトは上級グレードであれば30種類から色を選べる

走りについてはエンジンがマイルドハイブリッド化されたことがトピック。燃費も旧型より少し向上している。ボディの剛性感は相変わらずすばらしい。ただしそれ以外は、先代に初めて乗ったときのような驚きはなかった。

他のハッチバックが急速に実力を高めていることも、ゴルフのデジタル化と電動化を後押ししたのかもしれない。とはいえ、安心して選べるプロダクトであることは変わらないので、一新したフロントマスクが気に入り、デジタル化されたインパネに惹かれるなら、購入を検討してもいい1台なのではないかと思う。