ついに日本上陸を果たしたフォルクスワーゲンの新型「ゴルフ」。電動化とデジタル化で新時代に突入した8世代目の「ゴルフ8」だが、搭載するエンジンの排気量によって60万円近い価格差がある。まずは排気量の少ない1.0Lに乗ってみたが、感想としては「こっちが本命か?」といった感じだ。

  • フォルクスワーゲンの新型「ゴルフ」

    こっちを選べばOK? 「ゴルフ8」の1.0Lに試乗!

使い古された言葉ではあるけれども、いつの時代もコンパクトFFハッチバックのベンチマークになってきたのがフォルクスワーゲン(VW)の「ゴルフ」だ。初代ゴルフがデビューした1974年以来、各世代がベストセラーを続けていて、累計生産台数はなんと3,500万台に達している。

フルモデルチェンジを経た今回の新型「ゴルフ」(8世代目なのでゴルフ8と呼ばれる)は、実は2019年に本国ドイツでデビューを果たしていて、日本へは少し遅れて入ってくる形となった。やっと我々の目の前に姿を現してくれたゴルフ8の開発テーマは、「デジタル化」と「電動化」(ハイブリッド化)の2つ。御殿場周辺で開催された試乗会に参加して、その出来栄えを試してみた。

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    本国デビューから1年半遅れで日本に上陸した「ゴルフ8」

「デジタルゴルフ」の使い勝手は

ゴルフ8のボディサイズは全長4,295mm、全幅1,790mm、全高1,475mm、ホイールベース2,620mm。先代ゴルフ7が使っていたプラットフォーム「MQB」の強化型を採用しているので、大きさ自体はほとんど変わっていない。ただし、ノーズを低くしたことで前面投影面積が2.21㎡になり、空気抵抗係数(Cd値)は0.3から0.275へと低減している。

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  • 低いフロントフードには独特なデザインのLEDヘッドライトとワイドなエアインテークが備わる。左右には3本の髭のようなデザインが

「IQ.LIGHT」と呼ばれるLEDヘッドライトや、両側に大きく広がったエアインテークのデザインは少し派手になったけれども、サイドから見ると太いCピラー(リアドア後部の柱)が「く」の字に折れ曲がるデザインがきちんと継承されていて、一目でゴルフであることがわかる。

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    タイヤは16インチのグッドイヤー製を装着

インテリアは、今回の開発テーマである「デジタル化」に大きく舵を切った。「イノビジョンコクピット」と名付けられた新型のドライバーズシートに腰をかければ、目の前のマルチファンクションステアリングの奥には10.25インチのデジタルメータークラスター「Digital Cockpit Pro」が輝き、ダッシュセンターには1,560×700ピクセルの10インチインフォテインメントシステムが並ぶ。画面の下には室温や音量などを調節するタッチ式のスライダーが備わり、さらにその下にある物理ハザードスイッチの周りには、各種の設定をショートカットで画面に呼び出せるタッチパネルが集約して取り付けられている。

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    デジタル化でシンプルになった「ゴルフ8」のインテリア

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  • 前後シートのサイズは余裕たっぷり

ステアリング右側には、ライトやデフロスター用のタッチスイッチをレイアウト。センターコンソールの7速DSGシフトレバーはバイワイヤ式となり、これまでの“握る”タイプから指でつまむようなとてもコンパクトなものに変わっている。

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    ライトやデフロスター用のタッチスイッチ

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    バイワイヤ方式を採用し、小型になった7速DSGのシフトノブ

つまりトータルすると、デジタル化によってドライバーの目に映るコックピットの景色はこれまでに比べて極めてすっきりしたものになっている。それらの使い勝手については賛否両論があり、少し経つと揺り戻しがあるような気がしてならないけれども、とにかくセグメントのベンチマークとしてのデジタル化はやり遂げましたという、VWの主張がひしひしと伝わってくる気がしたのは確かだ。

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    10インチインフォテインメントシステムの画面下に備わるタッチ式のスライダー。室温や音量などを調節できる

マイルドハイブリッドの「電動ゴルフ」はよく走るのか

日本に導入されたゴルフ8のパワートレーンは、1.0リッター直列3気筒ターボと1.5リッター直列4気筒ターボの2種類。どちらも48Vのマイルドハイブリッド(MHV)システムとなっている。TSIエンジン、48Vベルト駆動スターター、ジェネレーター、48Vリチウムイオンバッテリーを組み合わせて“電動化”したシステムを持つゴルフは、「eTSI」の名で呼ばれることになる。

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    「ゴルフ8」のグレードは「eTSI Active Basic」(291.6万円)、「eTSI Active」(312.5万円)、「eTSI Style」(370.5万円)、「eTSI R-Line」(375.5万円)の4種類。「安い方」の2種類が1.0L、「高い方」の2種類が1.5Lのエンジンを搭載する

ブレーキの回生などで48Vリチウムイオンバッテリーに保存したエネルギー(電気)は、別に搭載する標準の12Vバッテリーを介して車両の電気システムに使用するとともに、ベルト駆動式のスターター・ジェネレーター(BSG)を駆動する源になる。BSGはオルタネーター(発電機)とスターターの役割を果たすとともに、発進時にエンジンをアシストする電気モーターとしても機能するので、滑らかで力強い発進が可能になるという。

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    1.0リッター3気筒を搭載するエンジンルーム。右奥のバッテリーは12Vで、48Vリチウムイオンバッテリーは運転席下に設置されている

最初に乗ったのは、最高出力81kW(110PS)/5,500rpm、最大トルク200Nm/1,500~3,500rpmを発生する「eTSI Active」。ボディカラーは「ゴルフ8」のイメージカラーである新色「ライムイエローメタリック」に塗られていて、新鮮なイメージだ。

インテリアは、先に述べたようにデジタル化によって物理スイッチの少ないシンプルな構成になっているが、一方で、グレーのファブリックシートやブラックのパーツが多い車内の雰囲気は、従来からのゴルフらしさを感じさせる。ピアノブラックのパーツを採用したメーター周りは上質さを強調しているものの、外光などを反射してピカピカ光るのはちょっと気になるところ。デジタル化で採用した各タッチボタンは、どこに何があるのかが把握できれば素直にそこに手が伸びるのだろうとは思うが、頻繁に使用することになる室温調整や音量調整用のスライドバーについては、やっぱりダイヤル式に軍配が上がると思う。

本国仕様では「ハロー、フォルクスワーゲン」で起動するボイスコントロールが使えるので、室温やオーディオの音量は声で操作するという別の方法も選べるが、日本仕様には残念ながら音声認識システムは搭載されていない。

コンソールの小さなシフトレバーを手前に引いてドライブに入れ、1.0LのeTSI Activeで走り出してみると、印象はとても良かった。9.4kW(13PS)/62Nmを発生するBSGのアシストが効いた発進は、7速デュアルクラッチギアボックス(DSG)搭載車の癖である出だしのギクシャク感を完全に払拭していて、とても滑らか。アイドリングストップからの再始動でも、「ブルンッ!」という振動がない。車速は息の長い加速感を伴ってゆったりと伸びていくが、エンジン音やロードノイズがしっかりと抑えられているので気持ちがいい。

街中でアクセルペダルを緩めたり高速道路で巡航したりすると、すかさずエンジンを停止してコースティングモードになるのは、メーター上ですぐに確認できる。試乗開始時に550kmとなっていた航続距離が、終了時に580kmに伸びていたのは、今時のクルマらしいところ。満タンで47リッターのガソリンを少し使った状態なので、15km/Lぐらいの燃費が出ていそうだ。

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    巡航中にはエンジンを停止してコースティング走行に入る

オプションのヘッドアップデイプレーは見やすくてわかりやすいグラフィックを採用している。ワンボタンで自動運転レベル2相当の運転支援システムを起動できる「トラベルアシスト」は、雨天にもかかわらずしっかりと仕事をこなしてくれた。

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    「トラベルアシスト」作動中、メータパネルには同一車線や隣の車線を走るクルマのグラフィックが表示される

ちょっと硬めの足回りは、いかにもVWらしいセッティングだ。ゴルフをよく知る人にとっては、「ああ、あの感じね」と納得がいく。ただし、1.0リッターモデルはリアサスペンションがシンプルなトーションビーム式で、サブフレーム素材がスチールとなるため、その度合いがちょっとだけ大きいのだ。

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    ちょっと硬めの足回りがVWらしい

価格が300万円ちょいの「eTSI Active」は、ゴルフ8のエントリーグレードという位置づけではあるものの、VW一押しの「トラベルアシスト」やプリクラッシュブレーキ、レーンチェンジアシスト、緊急時停車支援システムなどの先進安全装備は網羅しているし、3ゾーンフルオートエアコン、キーレスアクセスなどの快適装備を標準で搭載しているので、かなり魅力的な内容になっている。ライバルとなるのは、輸入車ではルノー「ルーテシア」プジョー「208」、あるいは「ミニ」、国産ではトヨタ自動車「プリウス」や「マツダ3」、それと、間もなく登場とのうわさがあるホンダの新型「シビック」あたりか。

メルセデス・ベンツ「Aクラス」やBMW「1シリーズ」と比べたり、モアパワーを求めたりする向きには上級の1.5Lモデルが選択肢になるだろう。その走りやトラベルアシストの使用感などについては別稿でお伝えする。

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