幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る“脇役=バイプレイヤー”にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第85回は 女優の酒井若菜さんについて。現在『シジュウカラ』(テレビ東京)に出演中の酒井さん。最近、母親役が続く彼女ですが、高校生や20代前半の息子持ちというとどう見ても違和感がある。まだ妊婦の役でも十分なのに……と、改めて公式サイトを見たら、41歳という年齢に驚きました。あのモチッとした雰囲気が非常に好きです。
息子が超絶イケメンばかりで羨ましいぞ、モー子!
既婚、未婚に関わらずアラフォー女性たちの心を掴んで離さない『シジュウカラ』。最終回が近づく、本編のあらすじをチラリと。
綿貫忍(山口沙也加)は大学生の息子を持つ母親であり、モラハラ夫と暮らす、漫画家。窮屈な生活に嫌気がさし、少し前にアシスタントをしていた橘千秋(板垣李光人)と恋に落ちて離婚しそうになる。ただ同時期に夫が病に倒れてしまい、恋心は泡と消えてしまった。それから数年。忍には不倫と知りつつも、新しい恋の予感がしていて、千秋もまた別の女性と生活を共にしていた。
これはよくある刺激のない生活に飽きた女性が若い男とどうの、というゲス作ではない。体の関係はない、純粋に気持ちが通い合っている年齢差のある恋の物語なのだ。山口沙也加さんが見せる心の機微がすごくわかりやすく、独身の私でさえも既婚者になったような気分にさせてくれる。それからモラハラ夫役の宮崎吐夢さん。この作品では視聴後に残像が残るほど、抜群にムカつく演技を披露している。さまざまな要素が詰まったドラマが楽しみすぎて、原作は読んでいないけれど、どんなクライマックスへ向かっていくのか。
この作品で酒井さんが演じているのは橘千秋の母親役・冬子。実は忍のモラハラ夫とかつて不倫関係にあり、今は場末のスナックで働いているシングルマザー。橘家に十分な生活費はなく、千秋は自分の体を売って生活費を捻出していたこともある。我が子のそんな醜態を見て見ぬふりをしている、いわゆる毒親にカテゴライズされる冬子。
……? と思い出すと、酒井さんがここ数年でこのタイプの母親を何人か演じていることに気づいた。私の中では(勝手に)『木更津キャッツアイ』(TBS系・2002年)で演じた、モー子のイメージがまだあるのにもう母親役なのか。
母親役の経験もいつか文章で読んでみたい
2021年、酒井さんはシングルマザー役が2作続いている。
24時間テレビ内で放送されたスペシャルドラマ『生徒が人生をやり直せる学校』(日本テレビ系)では、道枝駿佑さん演じる高校生役の母親役。こちら、冬子は全く追い付かないほどの酒に溺れるクズ母ぶりで、最後は命を落としていたはず。個人的にモー子が払拭できておらず、軽い衝撃だった。
『それでも愛を誓いますか?』(テレビ朝日系)では5歳の可愛い息子を持つ、中学校教師役。ここでもシングルマザーだ。今回も『シジュウカラ』でまた共演となった池内博之さん演じる純須武頼と、不倫の恋に落ちかけていた。武頼の妻に匂わせをしていたのが、なんともまた。
なぜこういうタイプの役が続くのかと思うと、そこには演技力も求められるけれど、ご本人の文筆力というものも多いに関わってくると思う。ちなみに私も自分の名前で本を書いているので"文筆家"の一派になるわけだが、毎日のように妄想力を求められる。その一環として不倫くらいしておいてもいいのでは? という意見もちらほら。しないけど。
酒井さんは読書家としても知られていて、これまでに3冊の書籍を上梓している。そこから漂わせる物憂げな雰囲気と、本人の想像性。これがここのところ続いたレアであり、難しそうな母親役に繋がったのかもなあとしみじみ。少なくとも私なら SNSでひたすら明るい話題を心がけていそうな人を、シングルマザー役にキャスティングはしないと思う。彼女の母親役はここからどんなふうに変遷していくのか。