幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第78回はタレントの加藤シゲアキさん(NEWS)について。現在『二月の勝者-絶対合格の教室-』(以下、二月の勝者)(日本テレビ系)に出演中の加藤さん。現役アイドルですから見た目よし、文学賞を受賞。わたしのように書いて、作って、仕事をしている人間からしたら持つことができる感情は羨望のみです。でもそれだけではなく感謝の意もあることを伝えたいのです。

"書き手の気持ちが分かる演技"に集まる注目

ドラマで見る柳楽優弥さんはやはり引き込まれてしまう『二月の勝者』。ドラマのあらすじを紹介しよう。

学習塾『桜花ゼミナール』の校長に就任したのは、スーパー塾講師として有名な黒木蔵人(柳楽)。塾は子どもの将来を売る場所だと言い切り、我が子の勉強方針に迷う親たちを、独自のセールストークと方針で入塾へと導く。そんな様子を見守るのは、同じ塾講師の佐倉麻衣(井上真央)。ただ黒木の元後輩である灰谷純(加藤)は納得がいかず……

学習塾を舞台にしたドラマはこれまでいくつも放送されてきた。両親たちによる義務教育以外の教育奔走は、作品が放送されるたびにえげつなくエスカレートしている。おそらく現実も同じくだ。わたしの住む地域には、1カ月数十万円するお受験専門の塾がある。そんな大金を誰が支払うのかと思いきや、モンクレールのダウンを制服のように羽織って、保護者たちが大挙している様子を見かける。入塾も抽選制だと噂で聞いた。

『二月の勝者』は保護者たちだけではなく、子どもたちも合格プレッシャーが高まっている様子がリアルに描かれているのが面白い。そこに加わるのは金ヅルだと割り切って、保護者たちを操縦する黒木。そこに無駄な感情は存在していない。

加藤さんが演じているのは『ルトワック』の塾講師・灰谷だ。かつては黒木を慕っていた後輩のはずなのに、突然『桜花ゼミナール』へ転職をした先輩に不信感を抱いている。というか、ライバル意識バリバリだ。灰谷の所属する塾は生徒たちを差別しない既存の教育方針で、いわゆる正統派の塾である。

黒木と灰谷。二人揃って、ビートルズファンを疑いたくなる重厚前髪だ。ラストまでに黒木の本心は見えてくるのだろうか。

読書のイメージを明るい方向へ照らしてくれた

2012年、加藤さんが『ピンクとグレー』で小説家デビューを果たしたことは、出版界には衝撃だった。彼はスターなのだから、新人にして尋常ではない売り上げ部数が見込めるという出版社への羨望……と、同時に斜陽産業だと騒がれ続けている業界にとっては明るい兆しであったことは間違いない。

グループ内でも事件が続く中、心中がざわついていたはずなのに加藤さんはコツコツと裏で努力を重ねていたらしい。その結果が昨年の『吉川英治新人賞』の受賞である。ここでアイドルという殻がはがれて、彼の作品は多くの人に知られていった。

受賞後、今年の初めに放送された『六畳間のピアノマン』(NHK総合)を見て思ったことがある。加藤さんがこの作品で演じていたのは、ブラック企業に勤務経歴のある契約社員。淡々と生活をする裏にはパワハラで自殺をした同僚への思いが隠れていた。試聴をしながら「ああ、文字で表現できるひとが何かを演じるとこうなるのか」と思った。書き手の気持ちをわかってくれる人が演じてくれるのは、僭越ながら安堵感がある。演者が舞台を演出することと同じで、感覚を知っていてくれる人の存在はありがたいのだ。

それから加藤さんは"読書家"のイメージを明るくしてくれた。これまで「読書が趣味です」というと、インテリぶっている、物静かであるという陰キャっぽい連想があった。加藤さん以前にお笑い芸人の又吉が読書家から、小説家デビューを果たしたときは世間が「ですよね」という風潮だったことは否めず。

加藤さんのように、キラッキラの衣装を着て歌い踊る人がガチの読書好きだというのは意外だった。「アイドルが趣味の内容を盛っているだけでしょ」という余分な見解をしてくる人もいただろう。でも文学賞の紋所を突きつけられたら平伏せざるをえない。事実、彼の作品はファン以外の読者へ浸透しているのは売り上げ数字が物語っている。一冊が売れたら購入者はほかの本にも興味を持つという相乗効果付きだ。

読書、執筆、演技、ステージ。この流れを今後も循環させてくれることを願うと同時に、出版に携わる者としてお礼を込めたこの文章を贈りたい。