幼少期から熱血ドラマオタクというライターの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第41回は女優の平岩紙さんについて。ドラマ『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)に出演する平岩さん。一年を通して彼女のことを見かけないクールはありません。いつも静かに、ひた走るように出演作品を重ねている平岩さん。大人しそうな彼女のことを想像しながら原稿を書くと、いつもより静かな気持ちで進めることができそうです。

喜劇女優から、いつの間にか美しさもたずさえて

ドラマ『恋はつづくよどこまでも』に出演する平岩紙

平岩紙

佐倉七瀬(上白石萌音)は高校生の時に出会ってしまった医師・天堂理(佐藤健)のことが忘れられず、看護師の道へ進む。ところが数年ぶりに再会した天堂は、ドSそのもので佐倉のことは一切相手にしない。それどころか「看護師失格だ」と冷たく当たってくる。この恋の行方はどうなるのか?

というのが『恋はつづくよどこまでも』のあらすじ。ヒロインから熱烈に求愛していくパターンの作品を見るのは久々だ。それもただ美しいばかりの演者が揃っているのではなく、主演の上白石萌音さんには、いい塩梅の"垢抜けなさ"がある。これが作品にいい味を醸し出している。最終的にはドS医師とうまくいってほしいと願わんばかりだ。

この作品で平岩さんが演じているのは循環器内科の主任ナース・根岸茉莉子。失敗が続く佐倉のことを、さりげなくサポートしている先輩だ。ほんわかとした平岩さんのイメージを裏切らない、優しそうな役柄で2020年をスタートさせている。

今回の役柄にも通ずるように、平岩さんのことを回想すると"穏やか"、"ふんわり"、"物静か"という形容詞が並ぶ。そんな彼女の出演作で一番に思い出すのは『木更津キャッツアイ』(2002年・TBS系)のミー子役。何かとトラブルメーカーだったモー子(酒井若菜)の友達役として、登場していた。目立つような役ではなかったけれど、透き通るような白い肌と茶色い瞳にインパクトがあった。(芸名なだけに)紙一枚ぶん、地上から浮いているような、ふわんとしたイメージ。

「(やっぱり可愛いよなあ)」

と、平岩さんのことをなんとなく考えていたら、偶然にも渋谷の百貨店のエスカレーター上下ですれ違ったことがある。なかなか稀有な思い出のひとつ。

映像作品すべてに出演しているような錯覚の存在感

平岩さんが他の演者と比べて圧倒的に違うのは、情報量だ。女優として相当露出しているはずなのに、パーソナルなことはほぼ知られていない。

これまで出演した作品で印象的だった役を、ドラマオタクなりに海馬を働かせてみた。でもビジュアル以外の強烈なものが浮かんでこない。唯一『ブラックスキャンダル』(2018年・読売テレビ、日本テレビ系)で見せた、欲深い芸能マネジャー役。ハイヒールに、スモーカー。それまでの勝手な私の印象が、ひっくり返されたようだった。

出演作品を見直しても、失礼ながらどんな役で出ていたのか記憶から抜けている。でも逆に、どの作品にも出演していたと言われれば納得をする、独特の存在感があるのだ。例えるなら、中高生時代の女子グループにいた、目立つこともいじめられることもないポジションの生徒。日当たりのいい教室のカーテンの前、ツインテールで友人たちと話している姿が想像できる。芸能界でもそんな位置にいるからこそ、出演作が途絶えないのだ。

この原稿を書こうとして、気づいたことがある。それは何度も『印象』という言葉を使ってしまいそうになることだ。それだけ、演じることを生業にしている人にとっては、印象づけというのは重要だし、難しい。でも"記憶には残っているけれど、大々的な記憶はない"という状態を、視聴者側に担保していられる平岩さんは、強いと思う。どんな作品でも必要とされる存在だからだ。

とはいえ、彼女の所属先は「大人計画」。今回はテレビドラマを通じた平岩さんのことを綴っただけ。ひょっとしたら舞台上では、強烈ななにかを放っているのかもしれないと思うと、今度は舞台での彼女の姿が見たくなった。

小林久乃

ライター、編集者、クリエイティブディレクター、撮影コーディネーターなど。地元タウン誌から始まり、女性誌、情報誌の編集部員を経てフリーランスへ。エンタメやカルチャー分野に強く、ウエブや雑誌媒体にて連載記事も持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には10万部を超えるベストセラーも。最新刊は『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)。静岡県浜松市出身。正々堂々の独身。