コラムニストの小林久乃が、ドラマや映画などで活躍する俳優たちについて考えていく、連載企画『バイプレイヤーの泉』。第148回はモデル、女優の冨永愛さんについて。生活内で問題が起きると「あの人だったらどう対応するか」と、誰かになぞらえて解決策を模索するときがある。昨年末に仕事で面倒なことが起きた。担当者が突然、豹変して企画内で起きたトラブルは全て私のせいだと言ってきた。ほほう。フリーランスで働いていると、数年に一度は起きるような「まさか」だ。
こんなとき、冨永愛ならどうするだろうかと考える。きっと彼女なら自省すべき点があれば堂々と頭を下げて、面倒なことはさっさと終わらせる。凛としている。そうか、自分もそうするかと勝手に気持ちが切り替わる……ということがあった。今回は私の中に小さく灯る、冨永さんへの尊敬と愛について。
日本一、パリが似合う女性
おそらく日本国内で一番著名で、体型維持のためのストイックライフを知られているモデルが冨永さんだ。パリコレと雑誌『VOGUE』が非常によく似合う女性とも言える。『VOGUE』は出版に携わっている者なら誰もが一度は制作に携わりたいと、懇願する媒体だ。ちなみに私は今だに購入する以外、ご縁はない。
もしくは『冨永愛』という彼女の名前を知らずとも「年に2回しか大好きなラーメンを食べない」という強靭なメンタルを持つモデルがいることは、多くの日本人が知っているのではないか。
そんな冨永さんが2022年『日曜日の初耳学』(MBS・TBS系)に出演していた。『冨永愛の熱血授業』と題して視聴者たちの悩みに回答するという企画。この時の回答がすばらしく、彼女らしいエスプリが伝わってくるものだった。中でもよく覚えているのが、30代の経営者の悩み。自分以外のスタッフの仕事ぶりに、苛立ってしまうという内容だった。冨永さんは自らも経営者であり、気持ちがよくわかると言う。
「最近思っていることは(スタッフたちが)自分が持っていないものを持っていてくれるから、一緒に仕事ができるということ。自分が気づかないところに気づいてもらえる。それって同じ視点じゃないからできるんですよね」
はっとさせられた。私も毎日同じようなことでモヤモヤしていた。それは自分が相手に期待しなければいいと解釈していたけれど、こういう可能性もあるのかと膝を打った。
新人女優らしからぬ大物感がいい
冨永さんは前述の番組でこんなことも言っていた。
「私、次は時代劇に出たいんですよ。別にオファー受けてないのに今、殺陣(たて)の練習してますから」
放送時は2022年の初頭。ひょっとしたら2021年末あたりに収録されたかもしれない。当時、30代後半の彼女は『グランメゾン東京』(TBS系)でドラマデビューを飾った後で、他ドラマでもいくつかゲスト出演を重ねていた。それまでに映画出演の経験はあったらしいが、ドラマ出演は意外だった。いや、お茶の間に冨永愛なんて、観る側が緊張するだろう……。
驚いたのはその後である。翌年の年末に『大奥 8代・徳川吉宗×水野祐之進編』(NHK総合)で徳川吉宗の役で出演していたのである。オファーなのか、売り込みなのかは不明だけれど、冨永さんの時代劇での勇姿は有言実行そのもの。感動した。
その後、冨永さんは女優として着々と作品へ出演を重ねている。公開中の映画『グランメゾンパリ』では、ドラマ出演時と同じく、リンダ・真知子・リシャールという世界的なグルメインフルエンサー役に。フルコースを食べるシーンでもレストランの入り口では、赤いリップをしていたのに、いざテーブルにつくとノーリップ。あの演出はきっとフレンチを味わい尽くしているはずの、本人の発信だろうと私は思っている。
そして放送中の『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』(フジテレビ系)では、イタリアンカフェの経営者役に。大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK総合)の出演も決定。彼女は目標を着実にクリアしている。
まだ女優としては新人の域なのに、とんでもない大物感を醸し出すのはさすがである。私は彼女のそういった静かなインパクトが大好きで、年齢は関係なく憧れる。心が疲弊したときには大きな愛に包まれてみたいとも思う。