幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第108回は俳優の吉田鋼太郎(よしだ・こうたろう)さんについて。四六時中、テレビを見て娯楽を得ている身分からすると、この人が俳優でいてくれて、ありがたいと最近よく思う。シリアスにもコメディにも完全に振り切ることができる吉田さんは、登場だけで面白さは確約される。そんな彼がいま、娘を溺愛する、プリティな吸血鬼の役を演じているのだ。もうこの一文だけで面白さを感じてほしい。

  • 吉田鋼太郎

"役柄に節操なし!"の姿勢がまたいいのだ

まずは『unknown』(テレビ朝日系)のあらすじを。

吸血鬼で週刊誌の記者・朝田こころ(高畑充希)と、警察官の虎松(田中圭)はお互いに秘密にしていたことを話し、夫婦となった。めでたく結婚式を挙げていた最中、虎松の父であり、殺人犯とされていた一条彪牙(井浦新)が殺される。吸血鬼が起こしたという殺人事件も動いており、ふたりの周囲ではすでに計7人の犠牲者が出てしまった。そして犯人と名乗る人物も二人……?

『unknown』、今クールのドラマで、一番楽しいかもしれない。何と言っても物語が高解像度。吸血鬼と過去を抱えた警察官のラブコメディからスタートして、このまま2人が中心に進むと思いきや、今はサスペンス要素が非常に強い。とはいえ、コメディの要素も忘れていない。要するにジャンルが煩雑している。それでも邪魔にならず、最終的には上質なラブストーリーとして脳裏に残るのが、本作だ。

そのコメディ要素として欠かせないのが、闇原海造を演じる吉田さんである。第7話でも闇原家に家宅捜査が入るかもしれない、と一報が入ると虎松たちは大騒ぎ。吸血鬼であることがバレてはならないと、あれこれ画策をする。ただそんな騒ぎはどこ吹く風とばかりに、映画『JOKER』のコスプレで登場、ほかにもマントをまとった吸血鬼の姿も警察の前で披露する海造……。これが腹を抱えて笑った。

シリアスからコメディまで。役柄に節操なし! の前期高齢者の俳優は、芸能界には貴重だと私は思う。なぜ吉田さんが老若男女問わず、全方位から愛されるキャラなのかと私なりに考察をする。そこに浮かんでくるのは、彼がまったく嘘がない(と、感じる)からだ。

あの愛されキャラはどのように構築されるのか

バラエティに出演しても常に本気で、スタジオを笑いに巻き込んでいる様子はもうお馴染み。中でも印象的だったのは、2018年放送の『しゃべくり007』(日本テレビ系)での一幕。同じくゲスト出演だった、女優の吉田羊さんを口説いた、というエピソードをかなりリアルに話していた。他でも好きな女性を目の前にすると恋する中学生のように、口説くという逸話も聞いたことがある。

そんな彼から驚かされたニュースといえば、事実婚を含めた四度目の結婚だ。人生で一度も戸籍を汚していない身分の私からすると、4回の結婚というのは金メダルに相当する。そして彼がそれだけ誰かを真剣に愛することができるという証明でもある。

このニュースを聞いたときに、ふと故人で歌舞伎俳優の中村勘三郎さんと、リンクセオリージャパンの創業者であった佐々木力さんを思い出した。ふたりとも若くして亡くなり、仕事では一線級の力を持っていた。さらに共通項といえば、噂ではあるけれど次から次へと浮き名を流す、モテ男であった。何人もの女性が彼らと関係があったと聞くが、皆、見事に愛されていた。ふつうなら喧々囂々と揉めそうなところ、誰もが彼らなら許してしまう。そういう愛されキャラだったらしい。

吉田さんも同じく。俳優としては舞台で活躍後に、地上波にも進出。本物だった彼は一躍、テレビや映画で愛される人となった。そしてあちこちで、女性のことも愛していたわけだが、恨みつらみを持たれている様子がない。なぜかといえば「だって吉田鋼太郎さんだから」という、結論に尽きる。要は彼の全身に嘘が感じられないのだ。もっと言うと、分け隔てない人なのだろうと褒めちぎっておこうか。そもそも文春砲も発射されるような著名人、というのは、嘘で嘘を塗り重ねて補強しようとしていく。だからスキャンダルが盛り上がっていくだけではないか。そんな雰囲気、吉田さんがもし今後5回目の結婚をしたとしても、我々が感じることはないのだろう。

さて、そんな吉田さんが出演者の中では、ぶっちぎりでユーモラスな演技を見せる『unknown』。最終章はどんな方向へ向かうのだろうか。