今年も残すところあとわずかとなりました。本来2020年は東京でオリンピック・パラリンピックが開催され、日本経済にとっても飛躍が期待される年でした。ところが、新型コロナウイルスという予想もしなかった敵が現れ、今なお対策に追われています。新しい生活様式が求められ、ビジネスの現場にも大きな変化が生まれました。

例年この時期になると、年末の挨拶のために企業を訪問する姿をよく見かけます。年始の挨拶まわりの準備も進めていたところかもしれません。しかしながら、今年は例年とは違った様相を呈しています。

アポなし訪問はNG?

10月28日、政府は新型コロナウイルス対策として経団連や企業に、年末年始休暇を延長することを要望しました。来年は1月4日(月)が仕事始めの企業が多く、年末年始の帰省や旅行の集中による混雑が予想されることから、その人出を分散させることが目的です。具体的には1月11日(月)まで年始の休暇を取ることができるようにするもので、すでに複数の企業が、期間中の有給休暇取得を推奨すると発表しています。

また、年末年始の挨拶を目的とした、事前のアポイントや連絡なしの訪問自粛をお願いする企業も増えています。これまで、この時期は多くの企業でアポイントなしでの訪問が許されていました。しかしこのコロナ禍においては、密を防ぐという意味で、不特定多数の人の出入りを制限するよう企業側も対策を進めているのです。

働き方改革時代 挨拶まわりの必要性

さらに今年は、各企業にとってもう一つ大きな変化の波がありました。働き方改革関連法です。中でも残業時間の上限規制は2020年4月より中小企業においても適用され、長時間労働の是正が叫ばれました。多くの企業でさらなる業務の効率化、生産性向上の必要性が問われています。

ここで興味深い調査結果を紹介します。ランスタッド・リサーチインスティテュートが2018年に実施した「年末年始の挨拶まわりに関する調査」です。

調査によると、年末年始の挨拶を「必要」と感じている人の割合は22.1%。一方で、約2倍の42.6%が「不要」と感じているといいます。

そこで、「挨拶に行く側」と「挨拶を受ける側」それぞれに、どのような点が大変なのか聞いたところ、挨拶に行く側は「他の業務に使える時間が限られてしまう」(27.5%)、「挨拶だけで済まなくなるから/挨拶以上に時間が取られる」(19.9%)が上位に。一方、受ける側の上位は、「訪問者の対応のために時間が取られてしまう」(32.0%)、「対応のために業務が圧迫されてしまう」(25.4%)などが挙がりました。ともに挨拶まわりによって時間が取られてしまうことが最多となっています。

さて、ここまで読んで、年末年始の挨拶まわりをどうすべきか悩まれた方もいると思います。そもそも挨拶まわりの目的を考えてみましょう。

挨拶に訪れることによって、実務では接点のない目上の方との接点が築けたり、新たなビジネスチャンスにつながったりという可能性もあるでしょう。しかし一番の目的は、なんといっても取引先との関係構築です。訪問することによって、お互いの関係性にプラスの影響を及ぼすならば、挨拶まわりをするべきかもしれません。

一方、新型コロナウイルス感染拡大防止や働き方改革の観点から、取引先に迷惑と感じさせる可能性があるのならば、挨拶まわりを見送るべきではないでしょうか。このときに、ただ見送るだけの選択をするのはもったいないと感じます。年末年始の挨拶の手段として、ビジネスメールの活用をぜひ考えてみてください。

1対1のコミュニケーションだからこそ

メールは場所を選びません。取引先の方と直接会うことができない場合でも、挨拶ができます。取引先の状況だけに限らず、ご自身がテレワークだったとしても同様です。さらに、メールは好きな時間に読むことができるため、相手に時間的な負担をかけることも少ないでしょう。

ここからは、年末年始の挨拶をメールで送る際のポイントをお伝えします。書くべき内容としては、お世話になった「今年のお礼」と「新年の抱負」です。今年、仕事をした上で印象に残っていることや、来年どういったことに取り組んでいきたいかなど、具体的に伝えることで気持ちが伝わります。

あまり堅い表現を使う必要はなく、普段やり取りをしている言葉遣いで構いません。逆に、テンプレートのような挨拶文をただ送ることは避けましょう。印刷された市販の年賀状に、ただ宛名だけ書かれたものを受け取っても嬉しくありませんよね。それと一緒です。相手の顔を思い浮かべながら、しっかりと気持ちを伝えましょう。

複数の人に同時に送ることができるのもメールのメリットですが、ここでは忘れてください。「お取引先各位」や「株式会社〇〇 ご一同様」のようなメールは事務的な印象を受け、やはり気持ちが伝わりません。1対1でしか書けないメールを送ることで、ハガキあるいは対面以上の気持ちを伝えることができるのです。メールは返信もしやすいため、そこから新たなコミュニケーションに発展する可能性も考えられます。

繰り返しますが、挨拶まわりの目的は取引先との関係構築です。移動に費やす時間が削減できるとしたら、その時間をメールの作成に充てるのも一つの方法です。環境や取引先の状況も考慮し、最適な手段を選択しましょう。

井上賢治

一般社団法人日本ビジネスメール協会認定講師
1974年生まれ。宮城県出身。大学卒業後、大手製紙メーカーグループの印刷会社に勤務。入社3年目で営業成績1位を獲得。翌年にはその経験を活かし、新たな印刷会社の立ち上げに参画。新規開拓において数多くの実績を残し、出版物の制作や大手企業のセールスプロモーションを手がける。その後、ヘッドハンティングにより移籍した会社では東京支社長に就任、20名の部下を統括する。テレアポや飛び込み訪問による営業スタイルを確立していたが、さらなる受注拡大の実現、そして組織全体の営業力強化、人材育成など、幅広い業務を担うなかでビジネスメールの有用性を実感。1通のメールがコミュニケーションを円滑にし、業績向上にも結びつくとの想いから、認定講師としての活動を開始。営業経験、管理職経験を活かした実践的なビジネスメールの指導を得意とする。

日本ビジネスメール協会

日本で唯一のビジネスメール教育専門の団体。ビジネスメールに特化した講演・研修などの事業を10年以上前から行っており、メールに関する書籍を中心に30冊出版(内3冊は翻訳され台湾で出版)。メディアには1,000回以上登場し、ビジネスメールについて情報発信してきた。仕事におけるメールの利用状況と実態を調査した「ビジネスメール実態調査」を2007年から毎年行い、日本で唯一のビジネスメールに関する継続した調査として各メディアで紹介されている。ビジネスメールやビジネス文章、ビジネスマナーなど集合研修(講師派遣)や講演(公開講座)を会場とオンラインの両方で実施中。