ビジネスメールは仕事のやり取り。「先日の配布資料をパワーポイントデータでもらえませんか?」「明後日までに修正をしてください」等、依頼は多いでしょう。

しかし「データは内部資料なので渡せない」「明後日まで出張で、修正はできない」等、先方の依頼に対応できないことも多々あります。

「できません」は強い否定

しかしここで「そのデータはお渡しできません」「現在業務多忙中につき、明後日までの対応はできません」とメールに書いてしまった場合、相手から見れば返事は完全に「NO」。ダメ・できない・無理という、強い否定に聞こえます。できないことはできないのですが、もう少し和らかく返信をしたい場合、どんな風に伝えればよいのでしょうか。

否定しないで伝えられるよう、表現を工夫する

例えば「データは内部資料なので渡せない」ではなく「概要版でよければお渡しできます」「パワーポイントではなく、PDFでしたらお渡し可能です」と言い換えてみる。

「明後日まで出張で対応できない」ではなく「来週以降でしたら、対応可能です」等、「できない」という否定を使わなくていいように、できる条件に変えて相手に伝える。これが最もシンプルな表現の変更方法です。ビジネスマナー研修で学ぶ「報連相」と同じことを、ビジネスメール上で表現するだけです。

意外とよく否定形を使っている

ただ、メールを見返してみると「できない」という表現そのものはなくとも、以下のような表現はよくやりがち。代替案とともに、ご紹介します。

「○曜日は、忙しくて無理です」→○曜日以外ならできます。
「その金額では、お受けできないですね」→いくらならお受け可能です。
「今は考えていません」→いつ頃でしたら検討予定です。
「その条件では難しくて…」→こういう条件に変えていただいたら可能です。
「忘れ物がないようにお越しください」→持ち物をご確認の上お越しください。
「加工はしないでください」→加工をする場合は当方へご連絡ください。

同じことを伝えるにしても少し表現を変えるだけで「条件が合えば可能」というプラスのニュアンスで相手に伝えることができます。

「よろしくお願いします」も、強引に使えばマイナスの印象

否定形でなくても、表現を見直した方が良いケースがあります。例えば「こちらは弊社のルールですので、よろしくお願いします」というもの。つまり「ルールだから、従ってください」と伝えたいのです。

「よろしくお願いします」で括っても、要求を突きつけるような強いニュアンスから相手にきつく伝わり、読んで不快感を抱く方も多いです。このような場合は「弊社のルールで大変恐縮なのですが、ご対応をお願いします」と言い換えると印象が変わりますね。

ストレートな表現は勘違いされやすい

「その書き方ではよくわからないので、電話でお話しできますか?」は、相手に怒っているのか、けんか腰かな?と思われても仕方のない表現です。ただ、書いた本人は、わからないから電話したいと思っているだけ、というケースもありました。

これは「あなたの書き方が下手だから、私が理解できない。だから、電話で説明してください」と読み取れるため、相手を不快にさせてしまうのです。書き換え表現の一例としては「私の理解不足で大変申し訳ないのですが、一度お電話でお話を伺ってもよろしいでしょうか」だといかがでしょう。ストレートな表現をよく使う方は、相手から勘違いされやすいので気を付けてください。

相手の返事に決定権のない質問は、嫌われる

例えばメールに「資料確認してもらっていいですか」「聞いてもらっていいですか」という文章。質問をしているので、相手に「YES、NO」どちらか選ぶ権利があります。ですがこのような内容の「いいですか?」とあった場合「嫌です」と答えることは、できません。

何となく不快な表現ですが、掘り下げてみると「一見相手に選ばせるようにみせかけて、実際は行動を強制している」というのが不快感の理由です。言い換えとしては素直に「ご確認をお願いします」と伝えた方が、よほど丁寧なのです。

ちょっとした言い換えを知っているだけで、相手の信頼を得られる

ちょっと意識して、言いまわしを変えるだけでこんなに丸く伝わる。メールのスキルの高い方はこうしたノウハウをメールの文章の中に使っていらっしゃるので、気持ちのよいメールのやり取りが可能です。

この人のメールはいつもいいなと思う相手は、こんなスキルをお持ちなのかもしれません。自分のメールの下書きができた段階で、肯定的な表現にできる部分やポジティブな表現に置き換えられる部分がないか、自分のメールをチェックしてみてください。

長野ゆか

長野ゆか

一般社団法人日本ビジネスメール協会認定講師
元大阪府八尾市職員。情報システム部門に在籍し、市役所内部や自治体間、教育機関、大手IT企業のSEや営業の担当者等とのやり取りを行う中で、電子メールを主なツールとして利用。また市民からのメールに対して、返信を行う総合窓口業務経験をもち、これまでの電子メールの送受信実績は、10万通を超える。整理収納アドバイザー1級認定講師(全国24名)、情報資産管理指導者等の資格をもち、オフィスの片付け・コンサルティング等を実施しており、オフィスファイリングシステムの構築を基本とし、データや電子メールの効率的な管理・共有・分類も得意分野としている。自治体、青年会議所、税理士事務所から一般の状況企業まで、ビジネスメール・ビジネスマナー・オフィスの整理収納・ファイリングセミナーなど、多数の企業研修を実施。一般公開講座としては、毎月大阪・奈良にてビジネスメールコミュニケーション講座を開催。著書に「この1冊で安心!!新人公務員のメールの書き方」(学陽書房)がある。

日本ビジネスメール協会

日本で唯一のビジネスメール教育専門の団体。ビジネスメールに特化した講演・研修などの事業を10年以上前から行っており、これまでにメールに関する書籍を中心に28冊出版(内2冊は翻訳され台湾で出版)。メディアには1,000回以上登場し、ビジネスメールについて情報発信してきた。仕事におけるメールの利用状況と実態を調査した「ビジネスメール実態調査」を2007年から毎年行っており、本調査は、日本で唯一のビジネスメールに関する継続した調査として各メディアで紹介されている。ビジネスメールに関する研修(講師派遣)や講演(公開講座)を実施。2時間でビジネスメールを学ぶ、「ビジネスメールコミュニケーション講座」は東京を中心に毎月開催。研修の問い合わせも受け付け中。