悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、在宅勤務や時差通勤が求められるいま、朝起きる習慣が乱れてしまいそう、と悩んでいる人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「時差通勤をすると朝起きる習慣が崩れそうで不安です」(42歳男性/技術職)

  • 時差通勤で夜型に? 早起きの習慣を乱さないために(写真:マイナビニュース)

    時差通勤で夜型に? 早起きの習慣を乱さないために


新型コロナウイルスは、いままで「当たり前」だと思っていたいろいろなことを、「当たり前ではない」ことにしてしまいました。今回のご相談も、そのひとつといえるかもしれません。

「3密」を避けるために時差通勤を強いられれば、身についていた生活習慣を改めなければならなくなるからです。

そのため、今回のご相談者さんのお気持ちも理解はできます。時差通勤をすることで従来の習慣が崩れるとしたら、慣れるまではそれなりの時間と苦労がかかりそうですものね。

とはいえ正直に言えば、このご相談には若干の違和感も覚えるのです。なぜって、「朝起きる習慣が崩れる」ことを時差通勤のせいにしているようにも思えるから。

「朝起きる習慣」は、いままで続けてきた仕事の状況を踏まえて身につけたものです。でも、それは"変わらないもの"ではないはずです。新型コロナの問題がなかったとしても、状況の変化によって、事情が変わる可能性はあるわけです。

たとえば、これまでの通勤時間は片道30分だったとしても、転勤になり、片道1時間以上かけなければならなくなったというようなことは、よくある話です。そんなとき、「起きる時刻が変わったから習慣が崩れた」と文句を言ったところで、誰も納得してくれるはずはありません。

つまり端的にいえば、「自分次第」なのであり、環境や習慣の変化のせいにしたところでなんの解決にもならないわけです。

なにより人は"慣れる"ことができるのですから、生活習慣そのものを変え、それを新たに習慣化することが重要なのではないでしょうか? そんな観点から、今回も3冊の書籍をピックアップしてみました。

「朝1時間」を作るために大切なこと

『「朝1時間」ですべてが変わる モーニングルーティン』(池田千恵 著、日本実業出版社)の著者は、"朝イチ業務改革コンサルタント"。早起きで人生を変えたい人の相談に乗ったり、キャリアの方向性を見つける手助けをしたりしているのだそうです。

自身も早起き生活を26年続け、「朝活」研究を11年重ねてきたのだとか。その結果、時間や将来に関する悩みは、朝時間、もっといえば1日の始まりの1時間の使い方だけで解決できると実感したのだといいます。

本書で著者が重視しているのは、「朝1時間」のモーニングルーティンによって優先順位を明確にすること。そうすれば、早起きや朝の準備もうまくいくという考え方です。

とはいえ、そもそも朝起きるのが苦手で、「朝1時間」を捻出できないという方もいらっしゃるはず。その点について著者は、「早起きするには強烈な意志や強い決意が必要だ」「やろうと思ったことができない自分はダメだ」というように、自分を追い込んでしまうことに問題があると指摘しています。

運動や勉強、または何かの習慣を「意志」や「やる気」だけで継続できる人は、たったの2%だと、行動科学の専門家から以前聞いたことがあります。やる気を出して頑張ろう! というのは一瞬しか続かないもの。だからこそ、「やる気」をいかに「仕組み」として生活に組み込むかが大切になってきます。(169ページより)

  • 『「朝1時間」ですべてが変わる モーニングルーティン』(池田千恵 著、日本実業出版社)

そして、もうひとつの重要なポイントは「睡眠時間は削らない」と決心すること。睡眠時間を削るのではなく、「生活時間の朝シフト」をすると考えるべきだというわけです。

私はよく「早起き国に留学したと思ってください」とお伝えしています。「時差1時間の外国に来た」と思って朝方生活をスタートさせましょう。(169ページより)

そのための方法をわかりやすく解説した本書を読んでみれば、環境の変化に左右されることなく「朝起きる習慣」を維持できるようになるかもしれません。

スケジュールは「前夜」も踏まえて決める

タイトルからもわかるとおり、『時間術大全 人生が本当に変わる「87の時間ワザ」』(ジェイク・ナップ、ジョン・ゼラツキー 著、櫻井祐子 訳、ダイヤモンド社)は"時間術"の決定版というべき書籍。

本書のシステム「メイクタイム」は、生産性とは関係ない。作業効率を高めるとか、やるべきことを早く終わらせる、生活をアウトソーシングするという話じゃない。自分にとって大事なことをする時間をもっとつくるためのノウハウだ。(「INTRODUCTION これが『時間オタク』の全技術だ」より)

  • 『時間術大全 人生が本当に変わる「87の時間ワザ」』(ジェイク・ナップ、ジョン・ゼラツキー 著、櫻井祐子 訳、ダイヤモンド社)

いわば時間を有効に活かすためのメソッドであり、当然ながら「朝型人間」になるための方法についても充分なページが割かれています。著者自身も、典型的な夜型スケジュールを、たった2つの簡単なコツによって、「早寝早起きして朝の静かな時間をその日のハイライトに充てる」という日課に切り替えることができたというのです。

■1.「明かり」「コーヒー」「用事」を使う(94ページより)

著者は朝起きると明かりを全部つけ、起床の1、2時間前後でもいいから、できるだけ日の出を見るようにしているそう。夜から朝に移る時間だということを、脳に教えるわけです。

加えて重要なのがコーヒー。手間をかけてコーヒーを淹れながらゆっくりと覚醒し、「きょう、これからのこと」を考え、淹れたてのコーヒーを楽しむ余裕を持つことが重要だということ。

なお、朝に「用事」があると、早く目覚めることが可能になるといいます。

■2.「前夜」をデザインする(95ページより)

自分にはどれだけの睡眠が必要で、実際にどれだけの睡眠をとっているのかを、きちんと調べることから始めてみようと著者は提案しています。適切な睡眠時間は、7~8時間程度ではないでしょうか。だとすれば、たとえば朝5時半に起きるとしたら、21時半ごろにはベッドに入る必要があります。

そんなふうに、前夜からのスケジュールを決めることが重要だということ。夜型の人は、そんなに早く眠れないと思うかもしれませんが、デフォルトの就寝時間は自分の体ではなく、実際には社会によって決められているもの。したがって、それに合わせる習慣をつければいいというわけです。

たとえばアルコールの力に頼らない、明かりを落とすなど、デフォルトをリセットすることはそれほど難しいことではないようです。

考え方を変えれば行動パターンは変わる

ところで時差通勤したくらいで朝起きる習慣が崩れるのだとすれば、そもそも時間の使い方に問題があるのかもしれません。そこで、『「ダラダラ癖」から抜け出すための10の法則』(メリル・E・ダグラス,&ドナ・N・ダグラス 著、川勝久 訳 日経ビジネス人文庫)に掲載されているテストをご紹介しておきましょう。

次の24項目の質問に対し、イエスの場合は○を、ノーの場合は×を□に記入していけば、時間をうまく使っているかどうかがわかるというのです。

1 □ 時間外労働をするのは、多くの場合、仕事の性質に原因がある。
2 □ 自分の仕事は独特のもので、行動の反復パターンを必要としない。
3 □ 誰でも充分だといえる時間を持ってはいない。
4 □ 権限の大きい、地位の高い人たちは、大体において、より優れた決定をくだす。
5 □ もう少し時間があれば、自分の意思決定の質はもっとよくなるはずである。
6 □ たいていの人は、時間の倹約の仕方を数多く知っているはずだ。
7 □ 時間を上手に管理するということは、さまざまな活動に使う時間の量を減らすことだ。
8 □ 自分の仕事は人間相手の仕事だが、どの人も重要で、優先順位のつけようがない。
9 □ 権限の委譲は、自分の時間を大いに解放し、責任を多少とも軽くしてくれるはずである。
10 □ 「静かな時間」を見出すことは、特に狭いオフィスでは、大体において不可能である。
11 □ たいていの人は一生懸命に働くことによって時間の問題を解決することができる。
12 □ 能率的に仕事に集中できる人は、最も有能な仕事のエキスパートである。
13 □ 他人に任せず自分自身の手でやれば、短い時間でより多くのことができる。
14 □ 日常生活の大半については計画を立てる必要がないし、計画の立てようもない。
15 □ どんな仕事でも優先順位をつけてできるというわけではない。
16 □ 問題を見つけだすのはたやすい。難しいのは、その解決策を見つけだすことである。
17 □ ムダな時間を減らすには、管理的な仕事を手っとり早くすます方法を見つけだせばよい。
18 □ たいていの人は時間の使い方を知っていて、一番ムダな時間を食っている仕事を容易に見分けられる。
19 □ 自分の時間をほんとうに上手に管理した場合、人はロボットのように働き、生活することになるだろう。
20 □ 誰よりも懸命に働き、活動的で忙しい人たちは、最高の成果をあげる人たちである。
21 □ 自分の時間を本気になって支配し、管理しようとすると、突然やってきたチャンスを逃してしまう恐れがある。
22 □ 時間管理をした場合の問題は、自発的な行動が除外されるということである。つまり、生活が無味乾燥で、活気に乏しく機械的なものになるのである。
23 □ 自分の目標をわざわざ書きだしてみる必要はない。
24 □ 自分の達成する成果のほとんどは、二、三の重大な活動によってもたらされる。(29~31ページより)

  • 『「ダラダラ癖」から抜け出すための10の法則』(メリル・E・ダグラス,&ドナ・N・ダグラス 著、川勝久 訳 日経ビジネス人文庫)

以下の解答は絶対的なものではないものの、効果的な時間管理を行うという見地から考えて望ましいそうです。

《正解》 1~23は×が正解、24のみ○が正解である。
(正解数)
二二~二四……優。あなたはすでに、優秀な時間管理者である。
一九~二一……良。第一級の時間管理者となる素質は充分にある。
一六~一八……可。あなたの時間管理状態はまずまずといえるが、時間に対する自分の考え方を、今一度見直す必要がある。
十五以下………不可。あなたの時間に対する考え方は、より効果的な時間管理をするうえで妨げとなっているようである。(32ページより)

行動パターンは、その人の考え方に左右されるもの。したがって考え方を変えさえすれば、行動パターンは容易に変えられると著者は主張しています。いま改めて自分の行動パターンや時間に対する考え方を見つめなおしてみれば、朝起きる習慣を崩すことなく毎日を送れるようになるかもしれません。