悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「他人の目が気になる」人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「他人の目が気になってしまう」(32歳男性/メカトロ関連)


「人からどう思われているのか不安」「嫌われていたらどうしよう」などなど、なにかと他人の目が気になってしまうという人は決して少なくありません。

まー結論からいえば、多くの場合それは考えすぎでしかなく、つまり他人は自分が思うほど自分のことは見ていないものだったりもするのですけれどね。

とはいえ本人にとっては、やはり切実な問題。実際に見られているようなことがあるかないかは別としても、“気になってしまう”という事実に変わりはないのですから。

でも、そういう状態が続けばやはり疲れがたまってしまいます。かといって、すぐにどうこうできるものではないかもしれませんが、そんなときこそ多くの書籍から知見を得て、少しでも気持ちを楽に保ちたいものです。

自分が一番好きになれる環境を見つける

どんな理由があろうとも、そもそも他人の目を気にするのは悪いことではないーー。

そう主張するのは『"他人の目"を気にせず動ける人の考え方』の著者。他人の目を気にする人には、「他人の目センサー」が備わっているというのです。

  • 『"他人の目"を気にせず動ける人の考え方』(堀田秀吾 著、秀和システム)

敏感な「他人の目センサー」が備わっている方々は、ある意味、すごい武器を持っているとも言えます。そのセンサーが優秀なおかげで、とりあえず無茶なこともせず、仕事も人付き合いも無難にこなし、身なりから生活から「ちゃんとする」ことが可能になっているのではないでしょうか?(「はじめに」より)

たしかにそのとおりでしょう。にもかかわらずネガティブに考えてしまうからこそ、思うように立ち回ることができないと考えることもできるわけです。

いずれにしても、「人からどう思われているのか」を気にしすぎるとしたら、それは多少なりとも「自意識過剰」だということになります。「ありのままの自分を認めてほしい、でも自分で自分のことを認められるほどの自信はない」というとき、人は他人の評価ばかりを追い求めがちだからです。

しかし、それもまた程度の問題。度を越してしまえば、やがて心を病んでしまったとしても無理はありません。

だから意識にとどめておきたいのが、ここで紹介されている「1人の人のなかには3種類の人間がいる」という考え方です。

それは、『現実の自分』、「こうありたいと願う『理想の自分』」、「こうでなければならない」と自分を縛る『義務的な自分』の3つ。それらの間で齟齬が生じると人は不快感を覚え、悩むことになるわけです。

が、心理学的にはむしろ「そもそも本当の自分など存在しないのだ」という考え方のほうがおすすめできると著者はいいます。

立命館大学のサトウと帯広畜産大学の渡邉は、「人は時と場合によって性格を変えている」とし、「モード性格論」を提唱しています。
私たちは、「自分とは一定なもの、変わらないもの」だと信じ「相手によって態度を変える人」を軽蔑したりします。しかし「自分」というものは、それほど一定で、確固たるものでしょうか?(44ページより)

そうではないはずです。たとえば親しい友だち同士でタメ口で話しているときと、仕事相手に対応するときでは、ことばづかいも立ち居振る舞いもまるで違うのではないでしょうか。そんなところからもわかるように、私たちは無意識のうちに、時と場合に応じて異なる自分を使い分けているのです。

だからこそ「こうありたい」「こうしなければいけない」という思いが強いほど、現実の自分との間で苦しむことになるわけです。

「自分はこういう人間だから」と決めつけることなく、もっと気軽に、「いろいろな自分を見つけていく」生き方のほうが、人間にとっては自然だと思います。その過程で「自分が一番好きになれる自分」が見つかれば、もうけものです。(46ページより)

もし、その「自分が一番好きになれる自分」でいられる時間を長くしたいなら、そんな自分になれる「環境」を探すほうがモード性格論的には近道なのだとか。

もちろん、自分を変えるのは難しいことです。けれども、「自分が一番好きになれる環境なら見つかるかもしれない」。そんなふうに考えてみれば気持ちも楽になるでしょうし、人の目を過度に気にすることもなくなっていくかもしれません。

「HSP=敏感すぎる人」の特徴

ところで近年は、"HSP(highly sensitive person: 敏感気質)"ということばを目にする機会が増えました。わかりやすくいえばそれは、「敏感すぎる人」のこと。はっきり断定はできませんが、もしかしたら他人の目が気になってしまうことの原因はHSPかも。

そこで参考にしたいのが、HSPであることを自認する著者による『「繊細さん」の4つの才能』(コートニー・マルケサーニ 著、和田美樹 訳、SBクリエイティブ)。

  • 『「繊細さん」の4つの才能』(コートニー・マルケサーニ 著、和田美樹 訳、SBクリエイティブ)

とかくHSPは社会で面倒くさがられる傾向にありますが、じつはそうではなく、むしろHSPの敏感気質は「強み」だと主張しているのです。

HSPの人は、情報を感じとったり分類したりするだけでなく、それを使ってどうすべきかを考えるのも得意です。(中略)
また、(たとえば医師やセラピストとして)他者の強い感情を受け止める、脅威を感知する、「天才」の知識や思考を追体験する、クリエイティブな考えをもつ、運動感覚が鋭い、人を深く思いやる、といった能力にも長けています。HSPの人は、このような自らの才能に気づき、かけがえのない自分の感覚を大事にしてほしいものです。(「Prologue」より)

別の角度から見れば、上記の「他者の強い感情を受け止める、脅威を感知する」という部分をネガティブに解釈すれば「他人の目が気になってしまう」ということになるのでは? だとすれば、解釈の仕方を変える必要がありそうです。

HSPの人は、"過感受性"と呼ばれる、非常な繊細さのせいで、拒絶を強く恐れることがあります。人をがっかりさせてしまったと思うと、たとえ相手はそう感じていなくても、どうしようもないほど傷ついてしまうのです。(50ページより)

「他人の目が気になってしまう」ことも、おそらくここにあてはまるのでしょう。では、それを克服するためにはどうすればいいのでしょうか?

周囲の小さなサインに気づき、注意を向ければ、敏感さに傷つけられるのではなく、それを武器にすることができます。生い茂った雑草をなたで刈りとりながら進むのを想像してください。つるが絡み合う雑草は、無意味な要らない情報で、それらを取捨選択しながら進むイメージです。HSPの人がパワー全開で"感じる才能"を発揮しようとすると、情報を拾いすぎてしまうことがあります。自分の今の気づきのレベルを知れば、どこを伸ばし、どこを捨てるべきかを見定められるようになるでしょう。(51ページより)

ポイントは、「取捨選択しながら進む」という部分ではないかと思います。もちろん最初からうまくいくとは限りませんが、大切なのは続けること。そうすれば、いつか必ず慣れていくはずだからです。

「人前でアガってしまう」なら場数を

さて、「他人の目が気になってしまう」のだとしたら、根底の部分で「人前でアガってしまう」ということとつながっている可能性も否定できません。そこで、最後にそうした観点から考えてみることにしましょう。

『脱ムダ、損、残念! 今度こそ、やめる技術』(美崎栄一郎 著、あさ出版)の著者は大人数の講演会やセミナーなどでもアガることはないそう。ただし際立った能力があるということではなく、ただ慣れてしまっただけなのだと明かしています。

  • 『脱ムダ、損、残念! 今度こそ、やめる技術』(美崎栄一郎 著、あさ出版)

最初は誰でも緊張します。
それが数をこなすうちに、だんだん平気になっていくのです。
必要なのは読経ではなく、場数です。(中略)
そこで、手軽に場数を踏む方法をご紹介しましょう。
いわゆる、イメージトレーニングです。(176ページより)

たとえばスポーツ中継のヒーローインタビューやタレントの会見などを見ながら、自分が当事者になったつもりでインタビュアーの質問に答えてみるわけです。あるいは、大人数を相手にした講演やプレゼンテーションを利用するのもよさそうです。

ポイントは、その場の状況をリアルにイメージすること。
何百人、何千人、何万人もの観客、たくさんのマイクに、テレビカメラ。
具体的にイメージできればできるほど緊張してくるでしょう。それでいいのです。そのうえで、自分が壇上に立ったり、記者たちに囲まれたりしたつもりで話をしてみてください。(177ページより)

「他人の目が気になってしまう」こととは違うようにも思われるかもしれませんが、根っこの部分は同じではないでしょうか? "度胸"を身につけることは、少なからず武器になるのですから。そこまでたどり着くことができれば、いつしか他人の目も気にならなくなるはずです。