悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「会話が苦手」と悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「会話が苦手で困っています」(28歳女性/事務関連)


僕は話すことが決して嫌いではありませんが、それでも「話し上手」とはいえないと思っています。気心の知れた友人と話すときなどは問題ないものの、電話で要件を伝えなくてはならないときや、コンビニのレジなどでは必要以上に緊張してしまい、アワアワしてしまったりすることがあるからです。

以前はラジオの番組を持っていたこともあったけれど、あのときも自分のトークの瞬発力のなさ、滑舌の悪さなどに嫌気がさしたしなぁ……。

とはいえ、じつは誰しもそんなものではないかとも思うのです。もちろんものすごい会話力を備えた人もいますが、大多数の方は自分の会話に多少なりともコンプレックスのようなものを抱いているのではないかと。

少なくとも、そう考えておけば多少は気が楽になるのではないでしょうか? 無責任ないいかたに聞こえるかもしれませんけれど、気を楽に持つということは、スムーズな会話を実現するうえでとても重要です。

「地味な人」ほどおもしろい話がしやすい!?

ところで「会話が苦手」という意識の背後には、「おもしろい話ができない」というような思いが多少なりともあるのかもしれません。「別に爆笑されなくてもいいんだけど、相手が少しはクスッとするような"おもしろい話"ができれば会話も楽になるだろうになあ」というように。

しかし『おもしろい話「すぐできる」コツ』(渡辺龍太 著、PHP研究所)の著者は、相手の好みに合わせて話を盛ったり、フリ・ボケ・ツッコミなど「お笑いの特殊技能」をマスターしたり、センスや才能に頼ろうとしたりするのは間違いだと断言しています。

  • 『おもしろい話「すぐできる」コツ』(渡辺龍太 著、PHP研究所)

そういった才能や技術が求められるのは笑いを職業にする人だけであり、普通の人の場合は「自分の感情を、そのままていねいに説明して、相手に伝えること」をするだけでいいのだと。

テレビやYouTubeなどに出ている俳優、アイドル、ミュージシャン、ビジネスマン、学生といった、お笑い芸人ではない「素人」のトークを改めて見て下さい。
そうした人たちの多くは、フリ・ボケ・ツッコミなどを多用して、お笑い芸人のような雰囲気で話しているわけではありません。その代わりに、そういった人たちは、例外なく、「自分の感情」をあの手この手を使って、視聴者に伝わるような工夫をしています。(「はじめに」より)

なかには、「自分のように地味な人間は、おもしろい話なんかできない」と感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、「地味だという先入観を持たれているなら、それは大チャンス」なのだと著者はいいます。そういう人にこそ、本書で紹介している「おもしろい話」のメソッドが効くというのです。

それどころか、「地味な人ほどおもしろい話がしやすい」とまで断言しているのです。なぜなら“地味な人”とは、いいかえれば事前情報が少なく、聞き手にとってはキャラクター設定しづらい人だということだから。

また、テクニックというより心構えの問題であるものの、「地味な人はすごい人」と思っていた方がいいのだそうです。

世の中には、見た目が地味そうな人でも、おしゃべりな人はたくさんいます。あるいは、職場では地味なのに、プライベートでは目立って生き生きとしている人がいたりもするでしょう。そう考えると、「地味」とは不思議な現象であるとも考えられます。

そして著者の見る限り、「自分のことを地味だと思っている人」ほど「自分のような人間に、他人が興味を持つわけがない」と主張し、自分の感情を口にするのをとても怖がるのだとか。

その結果、個性が伝わりにくい、客観的な事実や行動だけを伝える話し方になってしまうわけです。さらには、最大のポイントがあるようです。

自分のことを地味だという人に限って、感情を語り出すようになると、とても個性的でおもしろい人が多いということです。(中略)だから地味な人というのは、生まれながらに個性が強く、何もしなくても目立ってしまうので、人生のある時期に「自力で地味になった人たち」なのではないかと、最近、思うようになりました。それくらい、皆さん独特な方ばかりです。(「はじめに」より)

たしかにそう考えれば、「自分は地味だから会話が苦手」というように決めつけてしまうことにはあまり意味がないということがわかるかもしれません。

「うれしいことば」に変換する

また「会話が苦手」を前提にし続けていると、自分でも気づかないうちに「つまらない人」になってしまっているという可能性も否定できないのではないでしょうか。『嬉しいことばが自分を変える』(村上信夫 著、ごま書房新社)の著者も、このことについて次のように述べています。

  • 『嬉しいことばが自分を変える』(村上信夫 著、ごま書房新社)

「だめだなぁ」「つまらないなぁ」「面白くないなぁ」
思わず口にしていませんか? そうすると、駄目になるし、つまらなくなるし、面白くなくなる。ことばは現実化するのです。(「はじめに」より)

会話に自信が持てないと、「話すのは苦手」「初対面だから緊張する」「うまくいかないに決まっている」など、否定的なことばを無意識のうちに口に出してしまいがち。しかし、そういうことばが自分だけではなく相手をも袋小路に追い詰めシャットアウトしてしまうかもしれません。そのため、これらを著者は「武器ことば」と呼んでいます。

それに対して「うれしいことば」は、提案型肯定型。相手に身を委ねながら、いつでも入り口は開いているわけです。そんなときはよく考えて意識的にことば選びをしているものでもあり、だからこそいつの間にか、武器ことばが「楽器ことば」に変わるというのです。

たしかに「会話が苦手だ」と決めつけてしまっていると、無意識のうちに否定的なことばを選びがちです。しかし、たとえば相手が不安を感じているようなときには、「そうだね、心配だね」などというよりも、「大丈夫だよ」「できるよ」ということばを投げかけたほうがいいはず。それによって相手は不安を拭うことができますし、自分もまたいい気分になれるのですから。

そこで本書では、「うれしくないことば」を「うれしいことば」に変換した77種の実例を紹介しているわけです。

一例を挙げてみましょう。たとえば当初の予想に反する結果になったことを、落胆の気持ちを込めていう場合に「そんなはずがない」ということばを使うことがあります。しかし、いうまでもなくここには否定的なニュアンスが含まれています。そのため、このことばを投げかけられた相手は少なからず、嫌な気分になるかもしれません。

したがって、そんなときには「そんなこともあるんですね」と返せばいいと著者は述べています。

断定、決めつけは嬉しくないことばになる。
「そんなはずはない!」
こう頭ごなしに言う人がいる。自分には間違いがあろうはずがないと思い込んでいる人は困ったものだ。
まだまだ自分の知らないことがあって、それを知った喜びを、
「そんなこともあるんですね」
と素直に表現したらいい。(104ページより)

この、「素直に」という部分はぜひとも意識しておきたいところです。

なお後半には、人の話を"きく"際の心得も掲載されています。そのため本書は、話すときにも聞くときにも、なにかと役に立ってくれるのではないかと思います。

嫌なことを言われたら「鈍感力」のある返し方を

さて、会話においては、相手のほうから嫌なことばを投げかけられることもあります。それらは多くの場合、予想外のものだったりもするので、そんなときにはどう返したらいいか咄嗟に判断できなかったりもするものです。そこで最後に、『嫌なことを言われた時のとっさの返し言葉』(森 優子 著、かんき出版)をご紹介しましょう。

  • 『嫌なことを言われた時のとっさの返し言葉』(森 優子 著、かんき出版)

著者はここで、あらゆる嫉妬や皮肉にも動じないためには、いい意味での鈍感力が必要だと主張しています。鈍感力こそ、自分を守りながら相手に対して反撃する武具であるのだと。なお鈍感力のある返し方は3つに分類できるそう。

まずは「リピート」です。
相手が言ってきた嫌な言葉を、そのまま相手に返します。
カッとなって、怒りの口調ですぐに投げ返すのではありません。(中略)
落ち着いて、少なくとも2秒ほどおいてから、はっきりさらっと返すのです。
次が「すっとぼけ質問」です。
相手が言ってきた嫌な言葉に対して、逆に質問をします。相手に関する質問ではなく、飛んできた嫌な言葉に対して、すっとぼけるような質問をなげかけるのです。
すると相手は虚をつかれるため、意外と効きめがあります。(中略)
最後は「ユーモア」です。(中略)
くやしさをユーモアで返すのは、センスです。
センスのある言葉を返されたら、相手は「あっぱれ」となるはずです。(22ページより)

慣れないうちは難しいかもしれませんが、多少の時間がかかったとしても、こうした鈍感力を身につけておくことは無駄ではないかもしれません。