悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「時間の使い方が下手」な人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「時間の使い方が下手すぎる」(29歳男性/営業関連)


やる気がないわけではないし、ものごとはきちんと進めなければいけないという意識だって持っている。にもかかわらず、ふと気がつけば、必要以上に時間をかけすぎていた。ひょっとして、時間の使い方に問題があるのではないだろうか?

今回のご相談内容を代弁するとすれば、こんな感じになるのではないかと思います。ずいぶん具体的だなと思われるかもしれませんけれど、それもそのはず。程度の差こそあれ、これはビジネスパーソンであれば誰でも悩まされる問題だからです。

そもそも多忙な毎日を送っていることは間違いないのですから、時間管理に関する自己嫌悪に苛まれたとしても無理はありません。もちろん自分のなかに改善すべき問題がある場合も考えられるでしょうが、その一方では、どうしようもない物理的な事情が影響していたりもするもの。

だからこそ、自戒の念を抱きつつも必要以上に自分を責めすぎず、同時にいかなる状況にも対応できるように準備しておくべき。なかなか難しいことですし、すぐにうまくいくわけではないでしょうが、それでも日々の積み重ねは大切なのです。

ひとつひとつの仕事には"かけるべき時間"と"かかる時間"がありますが、問題は、両者の間でうまくバランスを取ることはなかなか難しいという事実。いうまでもなく、それがうまくいかなかった場合は"時間を使いすぎてしまった"という結果につながってしまうわけです。

では、どうすればそれを改善できるのでしょうか?

最適な時期を選んで予定を立てる

この問いに対し、『時間錬金術 「いつかやりたい」を「いまできる」に変える時間のつくり方・使い方』(宮崎伸治 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は次のように述べています。

  • 『時間錬金術 「いつかやりたい」を「いまできる」に変える時間のつくり方・使い方』(宮崎伸治 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

正確な時間を割り出すには、単なるイメージだけで「だいたいこれくらいかな」と予想するより、作業あたりの時間を考えましょう。そうすれば想定以上に時間がかかったということも少なくなるでしょう。(147ページより)

ただし、作業あたりにかかる時間を考慮しながら予定を組むにあたっては、忘れてはいけないこともあるようです。

もちろん、予定通りに物事を進めていくことは大切です。しかし、あまりに早くから予定を立ててしまうと、あとでもっと重要な用事が発生した場合、最初の予定を変更せざるを得なくなることもありうるのです。

変更するのが"自分だけの予定"であるなら、人に迷惑をかけるようなことにはならないでしょう。しかし、他人が関わってくることなら話は別。自分の都合で予定を変更したのであれば、関わる誰かに迷惑をかけてしまうことになるからです。

例えば、半年後に開催されるイベントがあり、そのイベントのために準備する期間が1ヶ月必要だとしましょう。そのような場合は、5ヶ月が過ぎたあたりから準備を開始しても十分に間に合うのです。 ところがせっかちな人は、早く準備すればするほど良いとでも思っているのか、半年前から準備をするようなことをするのです。しかし半年前から準備をしていても、事情が変わってしまうと調整せざるをえなくなることもありますし、最悪の場合は準備したことがすべて水泡に帰すことすらあります。そうなると早めに準備したことが無駄になるだけでなく、それに付き合わされた人々の努力も無駄になるのです。(146〜147ページより)

もちろん、物事を早めに進めるのは基本的にいいことですが、そこに人間関係のような事情が絡んでくることもありうるわけです。したがって、少なくとも"他人が関わってくる未来の予定"については、「早く入れるよりも最適なときに入れる」ように意識すべき。著者はそう主張しています。

かかる時間を意識するだけでなく、最適な時期を選んで予定を立てることも、時間管理能力のひとつ。時間をさまざまな角度から捉えるべきだということなのでしょう。

「PDCA」を回し続ける

ところで、PDCAということばがあります。いまさら説明するまでもないことですが、「計画(Plan)」→「実行(Do)」→「評価(Check )」→「改善(Action)」と表されるフレームワーク。

『自分を劇的に成長させる! PDCAノート』(岡村拓朗 著、知的生きかた文庫)の著者によれば、これは時間管理にも応用できるそうです。その際に忘れるべきでないのは、PDCAを回す行為を習慣化すること。短期の仕事ならともかく、長中期的な仕事においては、長くPDCAを回し続けることが成長の鍵になるというのです。

  • 『自分を劇的に成長させる! PDCAノート』(岡村拓朗 著、知的生きかた文庫)

ポイントは、次の3つ。

・時間や行為とセットにすること
・すぐに、簡単にできること
・やることが決まっていること(53ページより)

習慣化を実現するために重要なのは、「時間や行為とセットにする」こと。たとえば、朝ご飯や晩ごはんを食べたあとに歯磨きをすることは、ほとんどの人の習慣になっているはず。この場合、「ご飯を食べる+歯磨きをする」という2つの行為がセットになっているわけです。

ここかわもわかるように、時間を決めるか、もしくは行為とセットにすれば習慣化はしやすくなるのです。

ただし、それだけで習慣化がうまくいくわけではないでしょう。そこで大きな意味を持つのが「すぐに、簡単にできる」こと。

複雑で毎回すごく時間がかかるものを習慣化するとなると、ハードルは一気に上がります。しかし、すぐ簡単にできることであれば、面倒くささを感じることなくサッと終わらせることができるのです。

そして、「やることが決まっている」について。たとえばPDCAを習慣化しようとしたときに、毎回、「今回はどうしようかな」と考えなければならないのだとしたら、PDCAが回らなくなって当然。たとえば歯磨きを例に考えてみれば、それはよくわかります。

「きょうはどこから磨いていけばいいんだろう」
「まず奥歯から磨いていき、次に前歯に行くのがいいかな」
「昨日は前歯から奥歯に行ったから、今日は違う順番のほうがいいのだろうか」

毎回こんなことを考えていたのなら、まず続かないはず。毎回考えたり、悩んだり、意思決定をしなければならないものは、難しいと感じるため続ける気になれないのです。

しかし逆に"なにをするか"が決まっていれば、習慣化は楽になります。したがってPDCAを回す習慣をつくる際も、「なにをするか」という行動を先に決めておく必要があるのです。

なおタイトルからもわかるように、本書ではこうした考え方を「ノートを使う」という行為と紐づけています。その考え方を理解し、実践してみれば、強力な武器を身につけることができるかもしれません。

「習慣を変える」決意をする

時間を管理するということは、自分自身を時間の流れに適応させるということである。要するに、自分自身を管理するのである。時間が自分の手に負えないものに感じられるとしたら、それは自分自身がコントロールできていないということである。(11ページより)

『「ダラダラ癖」から抜け出すための10の法則』(メリル・E・ダグラス、ドナ・N・ダグラス 著、日経ビジネス人文庫)の著者は、こう主張しています。

  • 『「ダラダラ癖」から抜け出すための10の法則』(メリル・E・ダグラス、ドナ・N・ダグラス 著、日経ビジネス人文庫)

始業時に、上司から「夕刻までに報告書を出してほしい」と告げられたとしましょう。それは、2時間程度でできる仕事だと思ってください。

ところが著者が見てきた"仕事のできない人たち"は、「はい」と答えるものの、すぐに手をつけようとはしないというのです。

「まずは自分の仕事を終わらせてから」と思っているのかもしれませんが、3時か4時になったあたりでパニックに陥るのだとか。しかし、明らかにそれは自分の時間管理が甘かったからにほかなりません。

自分自身をもう一度自分の管理下におくためには、より適切な新しい習慣を採用しなければならない。今までの習慣を変えなければならない。(12ページより)

習慣は自分のなかに深く染み込んでいるものなので、あらためることは決して簡単ではないでしょう。しかしそれでも、本当に時間の使い方を変えたいと思うのであれば、「習慣を変える」という決意をしなければならないと著者はいいます。

誰にせよ、長年しみついた習慣をそう簡単に改められるものではないが、慎重に計画を立てさえすれば必ず改善できる。それに、何か一つの行動が変われば、それが引き金となって、ほかの行動も次々に変わるものである。(12ページより)

つまるところ、これこそがもっとも大切な考え方なのではないでしょうか?