悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「会社を辞めてフリーランスで働きたい」という人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「会社を辞めてフリーランスで働きたいと思っていますが、やっていけるのか不安もあります。何か準備しておくことはありますか?」(34歳男性/IT関連技術職)


僕がフリーランスになったのは36歳のときでした。とはいえ緻密に計画したわけではなく、流れに従っていたら“結果的にそうなった”だけのこと。そもそも、強い独立願望を持っていたわけではありませんしね。

早い話が無計画だったわけで、思うように進まず壁にぶち当たったことも数知れず。ずいぶん無謀だったなぁと、我ながら呆れてしまうようなお粗末具合です。そのため、これからフリーランスになろうという方にはとりあえず、「慎重に」ということだけはお伝えしたいかな。

「独立したい」と口にすると、「やめとけ!」とか頭ごなしに否定する人がいらっしゃるじゃないですか。僕にも似たようなことをいわれた経験があるのですけれど、本人がやりたいのであれば、やってみるのがベストだと個人的には思います。

ただ、やる以上はリスクを少なくしたほうがいい。フリーランスになるということは「なにが起こっても、自分で責任をとる」ことだと僕は考えているのですが、そうである以上、自分の身は自分で守らなくてはならない。だとしたら、リスクは少なくしておくべきなのです。

幸い、いまの時代はチャンスにあふれています。僕がかつて勤めていた会社もそうでしたが、昔のサラリーマンは「副業禁止」が常識だったりもしました。が、いまや会社が副業を奨励するような流れになっています。それは改善されない経済状況の影響ですが、とはいえ独立を考えている人にとってはチャンスであるとも解釈できるわけです。

そこで今回は、「フリーランスで働くための方法」だけではなく、そこに付随する可能性についても焦点を当ててみたいと思います。

フリーランスのトラブルや悩みをマンガで学ぶ

『【マンガ】フリーランスで行こう! 会社に頼らない、新しい「働き方」』(高田ゲンキ 著、インプレス)の著者は、フリーランスのイラストレーター。広告会社の正社員デザイナーとして働きながらも多くの不満を抱えていたため、あるときフリーランスになることを決意。

  • 『【マンガ】フリーランスで行こう! 会社に頼らない、新しい「働き方」』(高田ゲンキ 著、インプレス)

2012年には夫婦でドイツへ移住し、仕事術、ライフハック術、人生論などをブログやSNSでも発信しているという人物です。

イラストレーターとなると、「フリーランスといえでも自分とはちょっと違うな」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。事実、マンガで紹介されているそのプロセスには、「イラストレーターだからこそなし得たのだろうな」というようなエピソードもたくさん挟み込まれています。

しかし、イラストレーターであろうがなんであろうが、フリーランスとしてやっていく以上は避けて通れない問題が絡みついてくるものでもあります。

「仕事がこないときにどうするか」とか、「営業はどうやってやればいい?」とか、「ギャランティーが振り込まれない場合はいかに対処すべきか」などなど。職種がどうであれ(とくに慣れないうちはなおさら)、そういったトラブルや悩みはつきものです。

だからこそ、業種に関わらず、フリーランスになりたい以上は本書から多くのことを学べるはずなのです。

たとえば、フリーランスにとっての大きな障壁のひとつが「営業」です。「営業が苦手だからフリーランスになりたい」という方も少なくありませんが、フリーランスになる以上は営業を自分でするしかないのです。それは著者も同じで、営業について次のように述べています。これは、あらゆる業種に置き換えることができるでしょう。

特に営業をしたことがない人は「直接のアポや持ち込みは迷惑じゃないだろうか」と考えて営業をためらうケースが多いのですが、多くの編集者やデザイン事務所等のクライアントに聞いてみると「基本的にはイラストレーターに限らず業務提携可能なフリーランサーの営業は歓迎している」という回答がほとんどです」(53ページより)

僕もまったく同感です。営業に難色を示すクライアントはありませんし、もしネガティブな反応しか得られなかったとしたら、自分がそこに求められていないということにほかなりません。ですからそういう場合は、他のクライアントに営業をかければいいのです。落ち込んでいる暇などないのです。

それに、なによりもまず大切なのは「フリーランスとしてなにをやっていくか」。「なんでもいいからフリーランスになれればいい」というのでは話になりませんが、「これをやりたい」ということが明確に決まっていれば、営業をしようという熱意はいくらでも湧き上がってくるはずです。

会社を辞めずに「起業」を考える

『会社を辞めない起業 失敗リスクを限りなくゼロにできる8つのスモールステップ』(松田充弘 著、日本実業出版社)は「起業」するためのノウハウを明かした書籍ですが、「会社を辞めずに起業するためのマインドセット」という項目のなかには上記の話に通じる重要な考え方が出てきます。

  • 『会社を辞めない起業 失敗リスクを限りなくゼロにできる8つのスモールステップ』(松田充弘 著、日本実業出版社)

いうまでもなく、「人生をかけてやりたいことはなにか?」ということ。それがわかっていないと、自分の力で生きていけるはずがないのです。そこで著者は、「3つの円」を使って考えてみることをすすめています。

まずは1つ目の大きな縁を描く。その円に収まるのは、「生きている間に絶対に成し遂げたいこと」。そのことについて考え続け、心に浮かんだことを円のなかに書いていくわけです。

2つ目の円に書くのは、得意なことや、「自分が世界一になれること」など、「自分がいちばんになれるもの」。世界一などというと大げさに聞こえますが、つまりは本当に自信が持てることを考えてみるのです。

そして3つ目の円に書き込むのは、「自分にできることで人に喜ばれること」。過去に誰かになにかをして喜んでもらったことを思い出し、「いま、自分ができることで、喜んでもらえそうななにか」を思い浮かべてみるということです。

これで3つの円で自分自身を考えるという作業が終わりました。今度は、この3つの円を重ねてみてください。
このとき、3つの円が重なる領域があります。
自分の人生をかけてやりたくて、
一番になれるくらい得意で、
誰かが喜んでくれること。
それぞれの言葉を融合させて、言語化してみてください。それがあなたの人生で果たすべきミッションです。(32〜33ページより)

こうして「自分がやるべきこと」を探し出し、それをフリーランスとして生きていくための手段として考えればいいということ。もちろん将来的にはいくつものハードルが待っているでしょうが、「自分がやるべきこと」が明確であれば、それは乗り越えていくことができるはずです。

趣味を活かした「副業」から始める

いずれにしても、「フリーランスになる」とか「起業する」となると、ハードルはおのずと高くなってしまうものではあります。そこで、まずは「趣味を活かした副業」からスタートしてみてはいかがでしょうか?

参考にしたいのは、15年以上にわたり多くの人々の趣味企業をサポートしてきた"趣味起業コンサルタント"である著者による『1日1時間で月10万円の「のんびり副業」』(戸田充広 著、現代書林)。

  • 『1日1時間で月10万円の「のんびり副業」』(戸田充広 著、現代書林)

つまり「趣味を活かして収入を得る」ことをすすめているのですが、そこには重要なポイントがあるようです。趣味を活かして収入を得るにあたり、その趣味がポピュラーかニッチかは関係なく、その趣味を極めているか否かも関係ないというのです。

実際、「城跡」というニッチな趣味で収入を生み出している人もいれば、アクセサリーのハンドメイドなど、比較的ポピュラーな趣味で収入を得ている人もいます。 また、その趣味のベテランの域まで到達している熟練の人もいれば、まだ見習いレベルという方もあります。
稼ぐ金額の大小、成果が出るまでにかかる期間の長短はありますが、どんな趣味でも収入を生み出せる可能性を秘めているということです。
つまりあなたも、好きなことを活かして収入を生み出せる可能性は充分あるということです。(31ページより)

この記述を見る限り「城跡」を副業にしている人が気になるところですが、どうやらこういうことのようです。

まず彼は城跡好きの人たちと出会うためにブログを書き始め、次にFacebookを活用しました。
そうして集まってきた城跡好きの方々とまずは「城跡お茶会」を開催。これは参加費5000円で、カフェでお茶をしながら城跡談義をするという企画です。
もちろんそれだけでは割高感が出ますので、お土産として当日お渡しする、自作の城跡DVDを作られました。
これに参加申し込みをされたのが3名。彼はお茶をしながら大好きな城跡の話をすることで最初のお小遣いを稼いだのです。
その後、旅行会社とタイアップして城跡ツアーを企画(これはその直後に新型コロナの感染拡大が始まったため中止に)。さらに今ではオンラインサロンを運営され、副業としては充分に稼いでおられます。(35ページより)

このように、ニッチな趣味であってもアイデア次第で収入を生み出すことは可能。いきなり仕事を辞めてフリーランスになるのではなく、こういうところから始めてみるのもいいのではないでしょうか?