悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「"伝える"ことに自信がない」という人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「自分の話が相手に伝わっているか自信がありません」(25歳男性/営業関連)
伝えたいことを相手に伝えるのは、とても難しいこと。
事実、「うまく伝える自信がない」という悩みを抱えている方は意外に多いのではないでしょうか?
そもそも、「きちんと伝えなければ」と意識すればするほど、ことばは空回りしてしまうものだったりします。しかも、「なんとかうまく話せたぞ」と実感を得ることができたとしても、相手の側が真剣に聞いてくれていなかったというようなケースもあります。そうなると余計に追い詰められ、悪循環に陥ってしまうかもしれません。
ですから、今回のお悩みも充分に理解できます。でも、まずは「伝わらないものは仕方がない」と、あえて肩の力を抜いてみてはいかがでしょうか?
「伝わらなければ意味がないじゃないか」と思われるかもしれませんが、伝わらないものは伝わらない。それは事実なのですから、少しでも伝わりやすい方法を模索していくべきだと思うのです。
さて、この問題について、3冊のビジネス書の答えを確認してみることにしましょう。
「死んでもこれだけは言っておく!」ことを見つける
タイトルからもわかるとおり、『9割捨てて10倍伝わる「要約力」』(山口拓朗 著、日本実業出版社)の著者が「伝える」にあたってその重要性を強調しているのは「要約力」です。
はたして、それはどのようなものなのでしょう? この問いに対して著者は、「死んでもこれだけは言っておく! を見つけること」だと答えています。
「これだけは言っておく!」でもいいのですが、そこに覚悟を植えつけるために、あえて「死んでも」と添えました。
今、この瞬間、この相手に、死んでもこれだけは言っておきたいことは何なのか? そのことについて徹底して考え抜くことが要約です。(35ページより)
たとえば、「あなたはどういう人間ですか?」と聞かれたとしたら、どう答えるでしょうか? このことに関連し、著者は2つの伝え方を例示しています。
伝え方(1)
えっと、自分は明るくて、それから、楽しいことが大好きで……仕事も、転職というわけではないかもしれないけど、営業の仕事を一生懸命にやって……たいした趣味はないけど、お酒を飲むことはまあまあ好きで……家族のことも大切にしています。好奇心も人よりあると思うけど、あ、そうそう、歴史だけはとても好きで、とくに戦国時代の武将から人生に大事なことを学んできたかも……。(36〜37ページより)
こんな調子で頭に浮かんだことをそのまま言語化してしまうのでは、相手に興味を持ってもらえなくて当然。無駄な情報が多く、まとまりにも欠けているからです。いってみれば、こそこそまさに「要約力」が低い状態だということになります。
では、「要約力」が高い人は、どのように話をするのでしょうか?
伝え方(2)
目標達成型の人間です。仕事だけでなく、趣味や恋愛、ダイエットなどでも、目標を立てて、コツコツと取り組むことが大好きです。(37ページより)
たしかにこれなら頭に入りやすく、「どういう人間か」を無理なく理解することができます。そして著者によれば、「伝え方(1)」になくて、「伝え方(2)」にあるものこそが<死んでもこれだけは言っておく!>の意識なのだそう。
「あなたはどういう人間ですか?」という問いに対して「伝え方(1)」は、ただ思いついたことだけを羅列しています。
対する「伝え方(2)」は、数ある自分の特徴(情報)を把握したうえで「グループに分ける→優先順位をつける→<死んでもこれだけは言っておく!>を決める」という手順を踏み、最終的に「目標達成型の人間です」と結論づけています。言葉数は「伝え方(1)」の半分に満たないのに、「伝え方(1)」をはるかに上まわる印象の強さを生み出しているわけです。
ムダな話や余計な話は、相手にとってノイズ(雑音)です。<死んでもこれだけは言っておく!>の内容が明確になっていればいるほど、具体化するときにノイズが紛れ込む余地がなくなります。その結果、言葉を受け取る相手の理解度が高まるのです。(38〜39ページより)
つまり究極の要約力とは、<死んでもこれだけは言っておく!>だということ。このことを意識しておくだけでも、伝え方は格段に向上しそうです。
複数人での会話のコツを知る
ところで、「伝えるべき相手が複数人になると、なかなか発言できず、結局は聞くだけになってしまう」という方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで参考にしたいのが、『複数人での会話がラクになる話し方』(みやたさとし 著、フォレスト出版)。著者はコミュニケーション講師として活躍している人物ですが、もともとは会話が苦手な「コミュ障」だったのだそうです。つまり本書は、そのようなバックグラウンドをもとに書かれたものだということ。
(1)聞き役として場になじむ
(2)質問役としてみんなをしゃべらせる
(3)話し役として楽しく会話に参加する
(「はじめに」より)
このように、段階を踏んでステップアップしていけるようになっているところが本書の特徴。なるほどこの流れに沿っていけば、困難なハードルを乗り越えながら進んでいけそうです。
ただ、聞き役になるにしても話し役になるにしても、恐ろしいのは「沈黙」ではないでしょうか? 会話がひと段落ついて沈黙が訪れると、つい焦ってしまうものだからです。しかし、そんなときこそ「話題を振る」ことにチャレンジしてみようと著者は提案しています。
話題を振るときに守るべきは、「その場にいる全員が参加できそうな話題を選ぶ」こと。たとえば4人で会話しているとき、自分とAさんの2人しか通じないような内輪ネタを出すのはマナー違反だというわけです。
あなた「そういえば、Dさんが結婚したの知ってる?」
Aさん「えー、知らない! 相手はどんな人?」
あなた「それがさ……」
(174〜175ページより)
このように特定のメンバーしか知らない人の話題を持ち出されたら、他の人たちは傍観者になるしかありません。そこで、どうしても話したい内輪ネタがあるなら、知らない人でも参加できるように工夫すべきだというのです。
あなた「そういえば、Dさんが結婚したの知ってる」
Aさん「えー、知らない」
あなた「あ、本当に?(BさんとCさんに向かって)あの、僕らの大学時代の友人でDさんという男性がいて、先月結婚したんですよ」
Bさん「へえ!」
Cさん「それはおめでたいですね」
Aさん「で、相手はどんな人?」
あなた「それが……、奥さんが10歳も年上なんだって!」
Aさん「えー、本当に!?」
あなた「ビックリだよね。みなさんは10歳上の人と結婚ってどうですか? ありですか?」(175〜176ページより)
このように補足説明を入れたり、結婚観という誰にでも関わりのある問題に振っていったりすることで、その場にいる全員が参加しやすくなるのです。
相手との共通点探しをやめてみる
とはいえ相手のことをよく知らない場合など、共通の話題がなくて困ることもあるものです。たとえば、お互いの共通点を見つけようと、いろいろな話を出し合うのに、いまいち盛り上がらないとか。
『劇的にコミュニケーション力が上がる 大人の雑談力』(桐生 稔 監修、リベラル社)の著者は、そんなときには根本的に考え方を変えたほうがいいと述べています。共通の話を見つけようと必死になるのをやめてみるべきだということ。
もしも、自分が知らない話をされた側だったとしたら……それは、知らないことをはっきり伝えた上で、相手から詳しく話を引き出してみるチャンスです。その際、その話題について、「昔はどうだったのか」「今はどうなのか」を軸にして聞いてみると、話がしやすくなりますよ。(28ページより)
逆に、話を自分からスタートさせる場合はどうするのか。共通の話題を探してアレコレ話をかえるのは賢明ではありません。例えば「私は●●が好きなんですけど、あなたはどうですか?」と相手に回答権を振るのです。たとえ自分の興味とは違う話題を振り返されても、「わからなければ聞く」の形に持ち込むことができます。(28ページより)
もちろん、「これさえ押さえておけば伝え方は"絶対に"うまく行く」などという魔法のような手段があるわけではないでしょう。が、状況に応じてこうした手法を使い分ける習慣を身につけていければ、伝えることの困難さも少しずつ解消していけるのではないでしょうか?