悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、定年後の仕事に悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「定年後の仕事について、具体的な計画が思い浮かばない。就職先があったとしても、やりたいと思える仕事があるのか不安です」(58歳男性/公共サービス関連)


各種メディアにおいて、定年後の人生はとかく華やかに語られがちです。

「さあ、第2の人生だ! これからはやりたいことができるのだから、ずっとやりたかったそば打ちに挑戦しよう」とか(なぜか、そば打ちが出てくる頻度が多いですよね)。

もちろん定年後に好きなことを始め、そこに生きがいを感じる方も少なくないので、必ずしも間違いではないでしょう。ただし当然ですけれど、すべての人の定年後がうまくいくわけではありません。

漫然と過ごしているだけでは充実など望めないでしょうし、時間の経過とともに使えるお金も減っていきます。

だからこそ求められるのは、「なにがしたいか」「なにをすべきか」という明確なビジョン。しかし、それは簡単に決められるものではないわけです。

ましてや何十年も会社員生活を続けてきた方であれば、定年のタイミングで自分を客観視することは難しいでしょう。

したがって、今回のご相談にも納得できます。やりたいことが思い浮かばなければ、それはやはり不安ですものね。

しかし考え方によっては、現時点でそのことに気づけたのはラッキーだったともいえるのではないでしょうか? この時点で気づけているということは、「この先をどうにかできる」チャンスを得ているということでもあるのですから。

そこで、定年後に関する多くの本に目を通し、自分にできそうなことからチャレンジしていくといいかもしれません。

「内的充実」に生き方の重点をシフトする

ということで、まず最初に『知らないと後悔する定年後の働き方』(木村 勝 著、フォレスト2545新書)をご紹介したいと思います。著者によれば本書は、ご相談者さんのようなビジネスパーソンに向けられたもの。

  • 『知らないと後悔する定年後の働き方』(木村 勝 著、フォレスト2545新書)

将来の働き方に不安を覚える、今までご自身のキャリアなど考えたことのなかったごく普通のシニアサラリーマンの皆さんに向けて「人生100年時代を生き残るには、何から始めればいいのか」「働けるうちは働きつづける(稼ぎつづける)ためには今からどんな準備をしていけばいいのか」という実践的で具体的な働き方の処方箋を提供することを目的としています。
年金2000万円不足問題などの不安感も「働けるうちは働きつづける"稼ぐ力"」があれば、自ずから解消されます。(「はじめに」より)

著者は日産自動車に入社してサラリーマン人生をスタートさせた人物ですが、35歳のときに急性心筋梗塞で倒れ、定年まで勤務するつもりだった会社を社命によって44歳で退職して関係会社に転籍し、50歳のときには移転先の会社が外資系企業にM&Aされ……と、なかなか波乱万丈の人生だったよう。

現在は人事専門のインディペンデント・コントラクター(IC=独立業務請負人)として独立されているそうですが、つまりそうした体験が本書のバックグラウンドになっているのです。

そんな本書において、著者は「シニア期に入ったらマインドセットを切り替えよう」と提案しています。

その前提になっているのは、心理学者のユングが唱えたライフサイクル論。ご存知の方も多いでしょうが、人生を1日の太陽の運行になぞらえ、40歳を人生の正午とする考え方です。

人生100年時代のいまなら、人生の正午は40歳どころか50歳あたりかもしれません。ともあれその時点において、いままでの会社での地位や賃金など目に見える「外的達成」から、生きがいや仕事への納得感など、目に見えない「内的充実」に生き方の重点をシフトしていく必要があるというのです。

(1)人生の節目(不遇な時期こそチャンス!)を逃すことなくチャンスとして捉えること
(2)その節目で1度立ち止まってキャリアの棚卸しを行うとともに、将来の方向性を見定めること
(3)その方向性に従って着実にやるべきことを愚直に実行すること
(78ページより)

この23ステップこそが、将来に続く「働けるうちは働くため」のキャリア実現のポイント。そこで以後の章では、多くの実践例も紹介されています。参考にしてみれば、これからの自分はどうあるべきかという道筋が見えてくるかもしれません。

第二の職業人生を設計して「独立」を考える

『50歳からの幸せな独立戦略 会社で30年培った経験値を「働きがい」と「稼ぎ」に変える!』(前川孝雄 著 PHPビジネス新書)の著者も、「定年=リタイア」という既成概念は崩れつつあると指摘しています。

  • 『50歳からの幸せな独立戦略 会社で30年培った経験値を「働きがい」と「稼ぎ」に変える!』(前川孝雄 著 PHPビジネス新書)

そのうえで本書においては今後20年、30年という長いスパンを見据えた「独立論」を展開しているのです。とはいえ、いますぐの独立を勧めているわけではありません。

今50歳のミドルが定年する60歳になる際、委託社員としての雇用延長を選ばずに、自信を持って独立する「10年計画でのキャリア戦略」でよいのです。 (「序章」より)

著者がここで訴えているのは、今後20年、30年と続く第二の職業人生をいかに設計し、そのためにいま、なにをすべきかということ。

「自分には独立して通用するほどの実績もスキルもない」と感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、「企業で20年、30年とキャリアを重ねてきたミドルに『なにもない』ということはあり得ないといいます。

たしかにそのとおりで、蓄えられた知恵、磨かれたスキルがなにかしら必ずあるはず。したがってそこを見極め、既に持っている価値を浮き彫りにするための努力をすればいいという考え方です。

ちなみに「自分にはなにもない」と感じているとしたら、それは社内の人事評価の影響かもしれません。「社内での評価もさほど高くなく、出世レースに残ってもいないような自分が、独立してうまくいくわけがない」というように。

しかし、企業における人事評価というものは、必ずしもその人のコアとなる能力・スキルに対する評価をそのまま反映しているとは限りません。むしろそれ以外の要素が大きく関係してくるものです。(42ページより)

会社のなかで生きていると、自分を拾い視野で客観視できず、会社から受ける評価を絶対的なものとして受け止めてしまいがち。しかし、サラリーマンとしての上司・会社の評価と、「独立してやっていけるかどうか」ということとは関係がない場合も多いということ。

社内での評価が自分の社会的価値であるかのような考えをやめてみれば、独立することの可能性が見えてくることだって充分にありうるわけです。

次に進みましょう。

どんな変化にも対応できる「準備」を進める

「重要なのは『キャリアの転換』。やりたいことがわからなかったとしても、キャリアの転換ができるように準備をしておけば、やりたいことを見つけたときに選び取ることが可能になる」

『ライフピボット 縦横無尽に未来を描く 人生100年時代の転身術』(黒田悠介 著、インプレス)の著者は、そう主張しています。

  • 『ライフピボット 縦横無尽に未来を描く 人生100年時代の転身術』(黒田悠介 著、インプレス)

しかし、だとすればどんな経験をし、なにを蓄積し、それらをどう活用してキャリアを転換させればいいのでしょうか?

本書では、こうした一連の流れについて自身の経験や様々な人との対話、さらに心理学や社会学などの知見をもとに体系化した「ライフピボット」というコンセプトを提唱します。ライフピボットとは、過去の経験による蓄積を足場にして、着実に新しいキャリアへと一歩を踏み出す考え方です。(「はじめに」より)

ここで意識しておくべき重要なポイントは、ビジネスパーソンを取り巻く状況の変化です。

(1)長期化する人生のなかで
(2)ライフスタイルが短期化し
(3)加速する様々な変化に見舞われる
(34ページより)

そんな時代を生きるようになったからこそ、仕事や人生について綿密に計画してもあまり意味がないということ。なぜなら激変する時代の流れのなかで、計画は常に変更を余儀なくされ続けるからです。

だとしたら、どんな変化にも対応できる「準備」を進めておくほうがいい。長い人生のなかで変化は必ず起きるものなのだから、どんな変化があってもライフスタイルの転換によって適応できるような準備をしていくべきだということです。

ただし、やりたいことや楽しさを先送りして我慢するような準備の仕方はおすすめできないと著者。将来がどうなって浮くのか予測できない時代だからこそ、人生をしっかりと楽しみ、味わいながら準備を進めていくべきだというのです。

そこで本書では、具体的な準備の仕方、働き方やキャリア形成の方法などをこと細かに解説しているわけです。


やりたいことが見つからず、その一方で時間ばかりが経過していくとなれば、焦りを感じてしまって当然です。しかし、そんないまだからこそ立ち止まり、冷静に周囲を見渡してみるべきではないでしょうか? そうすれば、きっと大切なことが見つかるのではないかと思います。