悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、仕事をしない上司に困っている人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「仕事をしない上司に困っている」(31歳男性/建築・土木関連技術職)


今回のご相談を拝見して、「うんうん、わかる」と感じてしまいました。昔勤めていた会社にも、一日中社内を回遊しているようにしか見えない"仕事をしない上司"がいたからです。

残念ながら、そういうタイプの人って、どこの組織にもいるものなんですよね。

そして彼らについて考えるときには、意識するべきことがあると僕は当時から考えていました。

こう言ってしまっては身も蓋もないのですが、「"仕事をしない上司"はどうすることもできない」という絶対的な事実です。「冗談じゃない!」と言いたくなる気持ちもわかりますし、僕自身も彼らの振る舞いに憤りを感じたことが何度もありました。

でも現実問題として、彼らは「治らない」のです。そういうものだと諦めたほうがよさそうなのです。

ただし、少しばかりの救いもあるように感じています。すべてがそうではないかもしれないけれど、多くの場合"仕事をしない上司"はなんらかの形で淘汰されるものだということ。

つまり、"仕事をしてこなかったツケ"は、なんらかの形で彼らにのしかかってくるものだと思うわけです。

たとえば僕の近くにいた"仕事をしない上司"も、あるとき"仕事をしてこなかったツケ"を背負うことになったのでした。彼は社長にひっついて社内のリストラを嬉々として行っていた人だったのですが、やがて本人がさっさと首を切られてしまったのです。

たぶん、そういうものなのです。だからこそ、"仕事をしない上司"の振る舞いを不快に感じている僕たちにはすべきことがあるように思います。

「変わるはずのない」彼らに期待をかけるのではなく、自分の気持ちを少しでも穏やかに保つべきだということ。「諦めなさい」と言っているように感じられるかもしれませんが、そうではありません。

彼らが変わらないことが事実であるなら、期待をかけて精神的に疲れてしまうのは損です。それよりはもっと自分本位に、「自分が心地よく過ごす」ことだけを考えるべきだという考え方。おそらく、それがいちばん楽です。

感情的にならない

『一流と言われる3%のビジネスマンがやっている 誰でもできる50のこと』(海老一宏 著、明日香出版社)の著者も、会社のなかには「なにをいっても素直に受け取れない人」や「自分のことしか考えていない人」がいるものだと指摘しています。

  • 『一流と言われる3%のビジネスマンがやっている 誰でもできる50のこと』(海老一宏 著、明日香出版社)

当然ながら"仕事をしない上司"も、そういう部類に入ることでしょう。

では、そういう人たちとはどのようにつき合えばいいのでしょうか? この問いに対して、著者は3つのポイントを挙げています。

(1)まずこちらが感情的にならない
(2)相手の話をメモを取りながら聞く
(3)こちらの意思をきちんと話す
(90〜91ページより抜粋)

今回のご相談にある"仕事をしない上司"には、自分が間違ったことをしているという自覚がない可能性があります。ですから(2)(3)は逆効果かもしれませんが、(1)は重要な意味を持つような気がします。

感情的になりそうなときは、絶対に議論したり注意したりすべきではありません。感情が収まり冷静に話せるまで時期を待つか、第3者に話を頼んだ方がいいでしょう。なぜかというと、彼らは単にわがままなだけで意外に冷静です。そこへ感情的になって議論を仕掛けても負けてしまうからです。(90〜91ページより)

"やるべきことをやらない人"に対してはどうしても感情的になってしまいがちですが、どのみち彼らはいつかなんらかの制裁を受けることになるのではないでしょうか。だからこそ、冷静さを失うことなく静観していればいいわけです。

判断を一時的に棚に上げる

別な表現を用いるなら、彼らのことはあきらめてしまえばいいのです。『「引きずらない」人の習慣』(西多昌規 著、PHP研究所)の著者も、「前向きにあきらめる」という考え方の重要性を説いています。

  • 『「引きずらない」人の習慣』(西多昌規 著、PHP研究所)

「あきらめるのは悪いこと」と決めつけることが、「引きずり」の原因になります。
むしろ「前向きにあきらめる」方法を知っておくことが、大切です。「引きずらない」ために「あきらめる」というやり方を学ぶことで、心の引っかかりを受け入れて、人生を前に進んでいくことができます。(98ページより)

そもそも「あきらめる」とは、仏教用語では「真理を語る」という意味。「諦める」の「諦」という字には、「真理を観察して明らかにみる」という意味があるのだそうです。

つまり、「答えのないものには、答えを出さない」とキッパリ判断することが「あきらめる」ということばの持つ本当の意味。もともとは、「断念する」「投げ出す」といったネガティブな意味ではなかったのです。

ただし、「真理を語る」と言われても戸惑ってしまうかもしれません。そこで著者は、「判断をいったんカッコに入れて保留する」程度でいいのではないかと記しています。現実的に判断を一時棚上げにしてしまうのが、現代風の解決だと。

“仕事をしない上司”についての不満を引きずりそうになったとしても、「棚に上げた」「カッコに入れた」と考えればいいということです。

反面教師にする

さて、『人間の本性』(丹羽宇一郎 著、幻冬舎新書)の著者は本書の冒頭で、「人間は所詮、動物です」と主張しています。もし飢え死しそうになったとしたら、人の命を奪ってでも食べ物を得ようとする本能を持っているということ。

  • 『人間の本性』(丹羽宇一郎 著、幻冬舎新書』

著者はそれを「動物の血」と呼んでいますが、つまり油断をすると、人間のなかに潜む「動物の血」が騒ぎ始めるわけです。だからこそ、怒り、憎しみ、暴力的な衝動を内包する「動物の血」が人間には流れていることを忘れてはいけないというのです。

皆さんは、こんな経験はないでしょうか。歳を重ねても誰かを妬んだり恨んだりと自己中心的な他人を見て落胆しつつ、同様に成長していない自分を見て愕然とするーー。(「まえがき〜人間とは何者なのか」より)

本書では、そのようにつかみどころのない「人間の本性」について、さまざまな角度から考察しているのです。

今回のご相談に関しては、「反面教師からの学びは大きい」という項目が役立ちそうです。「もしかしたらダメだと思える人からのほうが、一流の人からよりも学ぶものが多いかもしれません」と記しているからです。

部下からすれば「バカ野郎!」といいたくなるようなブラック上司はどこの会社や組織にもいるものです。
そんな上司を持ってしまった部下は、「よりによって、なんでこんな奴が俺の上司なんだ……」とつい嘆きたくなります。
しかし発想を変えれば、嫌な上司を持つのは、ある意味ラッキーなことなのです。「自分はああはならないぞ」と反面教師にすれば、実に学ぶことが多いからです。(155ページより)

もちろん、立派な上司からも見習うべき点はたくさんあるはず。しかし、自分がその立場になるのはかなり先の話ですし、時代とともに価値観や環境は変わっていきます。「よし」とされていることが、「よろしくない」と逆の評価に転じることもあるわけです。

でも、「この野郎」と腹立たしく思うことは、どんな時代になったとしても普遍的で変わらないもの。したがって、「けしからん」と思う上司を反面教師にして自戒するほうが現実的だということです。

嫌な人やダメで面倒そうな人には、なるべく関わらないようにしようと思うのが人情ですが、やむを得ず付き合わざるを得ないのであれば、腰をすえて「学び」の機会にすればいいのです。 なぜこの人はこういうところがダメなのか、なぜ嫌な思いをわざわざ人にさせるのか、じっくり観察して分析することで、もしかしたら自分にもこういう要素があるのではないかと戒めたり、自分ならこういうときはこんな対応をしようとか考えたりするのです。(157ページより)

尊敬できる人からのみ、学べるわけではないということ。その気になれば、ダメな人からでも多くのことを学べるわけです。

そんな姿勢でいると、さまざまな人とのつきあいが常に成長の糧になり、人間への洞察力最寄り一層磨かれることになるはずだと著者は主張しています。

つまり"仕事をしない上司"のことも、反面教師として利用してしまえばいいのでしょう。