悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、チーム作りに悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「毎年組織変更をしており、チーム作りがうまくいかない」(34歳女性/その他技術職)


人はそれぞれ人生観も仕事観も異なりますし、性格だって十人十色。自己主張の強い人、マウントを取りたがる人、内気な人など、タイプはさまざまです。

しかも誰かがまとめ役になった場合、その人に嫉妬したり対抗意識を燃やしたりする人が現れることもあるので、なかなか厄介。

ましてやご相談にあるように、組織変更が頻繁に行われたりすると、苦労して積み上げた積み木をひっくり返されるような虚しさに襲われてしまうかもしれません。

ただ、そうはいっても、決まったことには従わなければならないのが組織のつらいところ。だから悩んでしまいがちなのですが、思い切って発想の転換をしてみてはいかがでしょうか?

「従わなければならない」という状況は、逆からは「受け入れるのがベスト」と捉えることもできるわけです。

逆らうことができないのですから、「従うしかない」ではなく、「受け入れるのがベスト」だと前向きに捉えたほうがいいという発想。"目の前にある現実"を直視し、受け入れ、「そこからなにができるか?」を考えていくことがベストなのではないかと感じるのです。

理想論的かもしれませんけれど、大切なのが「そこから先」であることは間違いないのですから。

全員優勝するのが理想

『行動科学で成果が上がる組織をつくる! 教える技術 <チーム編>』(石田 淳 著、かんき出版)の著者は、日経BP社が主催する「課長塾」で講師を務める人物。過去にはさまざまな企業の課長から、「チームを育てるにはどうしたらいいか?」と多くの人に聞かれたのだそうです。

  • 『行動科学で成果が上がる組織をつくる! 教える技術 』(石田 淳 著、かんき出版)

そこで本書では、自身が提唱する「行動科学マネジメント」の考え方に基づき、チームや組織のあり方を説いているのです。ちなみに行動科学マネジメントは科学的なプロセスで得られた法則であるため、「いつ・誰が・どこで」やっても同じ結果が得られるのも特徴のひとつ。

たとえば「チームを活かす技術」という項のなかで著者は、仕事の成果で個人同士を競わせてはいけないと主張しています。

個人の営業成績や売上高をグラフにして貼り出し、メンバーの競争心をあおり、毎月トップの人をMVPとして表彰するーー。そうした方法が昔からありますが、行動科学マネジメントの視点で見ると、よい方法とは言えないというのです。

「でも、少しは競わせたい」というのであれば、チームのメンバーをいくつかのグループに分けて"グループ対抗"という形をとりましょう。"優勝したグループには、リーダーがランチをごちそうする""ポケットマネーで、ちょっとした商品を"など、ごほうびを設定してもいいかもしれません。(152ページより)

このようにすれば、新人にも、成績が伸び悩んでいる人にも、平等に1位をとれる可能性がもたらされるわけです。そればかりか、意欲的なメンバーが新人にノウハウを教えたり、成績が振るわない人のサポートをしたりといった副次効果も期待できそうです。

グループのメンバーは固定化せず、ときどき組み替えを行うのがおすすめ。メンバー全員がまんべんなく優勝を手にできるのが理想だからです。(153ページより)

これは一例ですが、たとえばこうした小さなアイデアを盛り込んで実行することも、強固なチームをつくるためには有効であるはず。

それぞれが自らの力で仕事を進めていける環境をつくる

『社員の力で最高のチームをつくる――〈新版〉1分間エンパワーメント』(ケン・ブランチャード+ジョン・P・カルロス+アラン・ランドルフ 著、星野佳路 監訳、御立英史 訳、 ダイヤモンド社)について、「星野リゾート」代表の星野佳路氏は、「私の経営者人生で最も影響を受けた」書籍だと記しています。

  • 『社員の力で最高のチームをつくる――〈新版〉1分間エンパワーメント』(ケン・ブランチャード+ジョン・P・カルロス+アラン・ランドルフ 著、星野佳路 監訳、御立英史 訳、 ダイヤモンド社)

星野氏は家業の温泉旅館を引き継いだばかりのころ、低い社員モチベーション、高い離職率、採用難という組織の課題に直面することになったそう。そんななか、社員のモチベーションを高めるための有効な手段である「エンパワーメント」の方法論が具体的に示された本書が、大きく役立ったというのです。

著者によればエンパワーメントとは、自立した社員が自らの力で仕事を進めていける環境をつくろうとする取り組み。社員の内部で眠っている能力を引き出し、最大限に活用することを目指しているのだといいます。

複雑さが増す世界で生き残りを目指す組織には欠かせない課題であり、エンパワーされた社員は、組織と自分自身の両方に利益をもたらすのだとか。

仕事にも生活にも強い目的意識を持って取り組み、会社の仕組みや業務の進め方を改善し続ける原動力になるのだといいます。

ちなみに本書の監訳を担当している星野氏によれば、エンパワーメントには次の3つの鍵が必要となるのだそうです。

[第1の鍵]正確な情報を全社員と共有する
[第2の鍵]境界線を明確にして自律的な働き方を促す
[第3の鍵]階層組織をセルフマネジメント・チームで置き換える
(「監訳者まえがき」より)

本書においては、これらを実現するための具体的な方法が、一冊を費やしてていねいに解説されているわけです。したがって実際に読み込んでみることをお勧めしますし、星野氏も「エンパワーメントを成功させるためのコツは、書かれている内容を一言一句、そのまま実践することだ」と主張しています。

導入しやすいところだけを試してみて、部分的にしか行わないことは多いもの。しかし、それでは成果を上げることなど不可能だからです。

苦境に陥ったひとりの経営者の物語を通し、上記の3つの鍵が解説されているため、無理なく読むことができるはず。しかもエンパワーメントは、必ず実現できるものだといいます。

途中で挫折しないためには強い意志が必要でもありますが、チームのメンバーに自発的に動いてもらうためにも、しっかり読み込んで活用したいところです。

全員の仕事の質を上げる

『プレイングマネジャーのルール』(小池浩二 著、あさ出版)の注目点は、ひとりのリーダーの力だけでチームを動かすことは時代にそぐわないと著者が訴えている点です。

  • 『プレイングマネジャーのルール』(小池浩二 著、あさ出版)

現在プレイングマネージャーには、チームをまとめる以外に、戦略的な動きで会社・チームに業績をもたらす仕事が求められています。このベースとなるチーム運営が、全社員でチームを動かすシェアド・マネジメントスタイルです。
(「はじめに」より)

そこで本書では、このスタイルに必要なシステムやノウハウ、スキルを習得して成長したプレイングマネジャーやチームの事例などを多数紹介しているのです。

成熟社会において仕事が複雑化するなかでは、組織で働く全社員に2種類の仕事が求められていると著者はいいます。それは「、「現場の業務」と「チームを動かす仕事」。それを実現するスタイルが、シェアド・マネジメント。

現在は、仕事はあるものの人的資源(能力・数)が足りないから、対応できない企業が多いのです。この環境では、一部の人間が兼任で組織を動かすのではなく、必要な役割機能ごとにJOBリーダーを設け、全社員でチームを動かし、組織内の当たり前のレベルを変えて、全社員のレベルを上げることが重要です。そのために必要な役割機能ごとに権限を与え、それぞれの担当機能分野でリーダーとしての役割を担う機会を提供します。(27ページより)

現代のビジネスシーンにおいては、チームリーダーのみならず全メンバーの仕事の質を上げることが必要。そうでないと生きていけない状況だからこそ、全社員が自分の役割に対して責任を持ち、上司も部下も関係なくリーダーシップを発揮し、目標・目的を実践していく必要があるということです。

つまりは全社員のレベルアップが必要不可欠であるため、本書ではそのためのノウハウが明らかにされているわけです。

とはいえリーダーにとっては、「仕事の任せ方」も重要なポイントとなるでしょう。そこで最後に、「上手に任せる、3つのツボ」をご紹介しておきたいと思います。

できるリーダーになるためには、仕事をメンバーに任せることが必要ですが、そんなリーダーは、メンバーに以下の3つを教えているというのです。

ツボ1 集団の規範
挨拶、言葉遣い、態度、職場の規律など、社会人としてどう振る舞うべきかの手本を示すこと。躾であり、比較的短期間で身につけさせます。
ツボ2 仕事のやり方を教える
躾とは異なり、仕事のやり方はすぐに身につきません。順を追って課題を与え、ある程度の時間をかけて少しずつ「できること」のレベルを上げていきます。
ツボ3 仕事の意味を語る
この仕事は会社の中で、どのように位置づけられるのか。それを担当するメンバーは、会社の中でどのような役割を果たしているのか。そして、この会社で働くことで、お客様や社会に対してどのようなうれしさや楽しみを提供しているのか。自分の体験を語ることが大切です。
(206ページより)

基本的なことではありますが、全メンバーの仕事の質を上げたいのであれば、まずはこうした「当たり前のこと」にしっかりと取り組むことも必要なのでしょう。