悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、言葉や文化の違う外国人社員との付き合い方が難しいと悩んでいる方へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「言葉や文化の違う外国人社員との付き合い方が難しい」(46歳女性/営業関連)

  • 外国人社員と一緒に働く人へ


コンビニに行くと、中国人やインド人などのアルバイト店員が対応してくれる――。そんな光景は、まったく日常的な光景になりました。

あくまで個人的な感覚ですが、少なくとも僕が客として接してきた海外アルバイトの人たちは総じて真面目。日本人のほうが無愛想だと感じたことすらあるので、異国から来て真剣に働いている彼らには好印象を抱いています。

日本政府は依然として彼らを移民と呼ぼうとはしませんが、現実問題として、いまや彼らなくして日本社会は成立し得ないとすらいえるはず。

そういう意味では(政府がどうであれ)、日常生活レベルで彼らの存在を認め、(たとえばコンビニなどで受けるサービスなどに対しては)純粋な気持ちで感謝したいところです。

ただし、同じ外国人だとはいっても"言葉や文化の違う外国人社員"とのコミュニケーションは難しいものでもあります。矛盾するようですが、"店員と客"という関係性で接するコンビニの外国時なるバイト店員と、社員として日常的にコミュニケーションをとる必要がある外国人社員とでは、距離感がまったく違うからです。

わかりやすくいえば、同じ職場の外国人社員は"すぐそこにいる存在"。そうである以上、ことばや文化の違いも受け入れなくてはなりませんから、さまざまな軋轢が生まれやすいということなのでしょう。

僕自身も昔、同じ社内にいた中国人の営業さんへの接し方に戸惑ったことがあります。決して険悪だったわけではないし、その人はとてもいい人だったのに、「なぜか噛み合わない」と感じることがときどきあったのです。

でも、そういうことはどこにでもあるのでしょうね。この先、外国人と一緒に働く機会はさらに増えて行くでしょうから、日本人としても考えるべきことは少なくなさそうです。

日本人労働者の"ジョウシキ"は捨てるべき

そこでまず、『行動科学を使ってできる人が育つ! 教える技術 外国人と働く編』(石田淳、甲畑智康 著、かんき出版)をご紹介したいと思います。累計で40万部を突破したという『教える技術』シリーズのひとつ。

  • 『行動科学を使ってできる人が育つ! 教える技術 外国人と働く編』(石田淳、甲畑智康 著、かんき出版)

「外国人を採用してみたが、"どのように教えればいいのかわからない""伝わらない"」などと悩む方々はもちろんのこと、「外国人採用に目を向けることの重要性に気づいてはいるものの、なかなか踏み切れない」という方々にも向けられているのだそうです。

外国から日本へやってくる人たちは、当然ながら日本とは異なる文化や社会環境の中で育っています。ですから、一緒に働くなかで違和感を覚えることがあるのは当たり前です。もし、それが業務に支障をきたすようなことであれば、きちんと理由を説明したうえで、改善をお願いする必要があるかもしれません。 大切なのは、相手の国の"文化・習慣"に対する敬意や理解を常に忘れないことです。(「はじめに」より)

また、同じように日本には日本ならではの"常識"があるわけですが、それは他の国から来た人にとっては"非常識"。だとすれば、それを彼らに教えることも必要となります。

著者は、日本人労働者が職場で身につけてきたことを"ジョウシキ"と表現していますが、日本で初めて働く外国人は、それをまったく知らないわけです。つまり、こちらが期待するような振る舞いをしてくれないのは当たり前。

「これだから、外国人は使いづらいんだ」などと不満に思うのは、間違った考え方。その職場、その会社でのやり方に、ぜひとも従ってほしいというのであれば、明確にルール化して、文書として配布や掲示をすべきです。
また、明文化する際には、必ず"なぜ、そうするのか"という理由や背景も書き記してください(69ページより)。

もし「特に理由なんてない。昔からそうやってきただけだ」ということであるなら、その"ジョウシキ"にはまったく意味がないので「捨ててしまうべき」だと著者は主張しています。

外国人は、現代を生きる我々にとっては、それほど身近な存在だからです。
そう、外国人のいる風景は、いまやこの国の日常なのです。
一見、外国人などいないように感じる地方でも、農家や工場では多くの技能実習生が働いているはずです。
旅行者ではなく、生活者として日本で暮らし、働いている外国人が増えているのです。アパートやマンションのおとなりさんが外国人、という状況もいまでは決して珍しくないのです。
本書で注目するのも、私たちにとってより身近な、隣人としての在留外国人、すなわち「となりの外国人」です。(「はじめに」より)

「共に生きる」という考え方を持つ

『となりの外国人』(芹澤健介 著、マイナビ新書)の冒頭にも、こう書かれています。「気に入らない」というような感情論で排斥するのではなく、「共に生きる」という考え方を持つべきだということ。

  • 『となりの外国人』(芹澤健介 著、マイナビ新書)

そこで"「となりの外国人」を知るための本"であるという本書において、著者は彼らとのつきあい方を考えようとしているのです。

そのひとつとして非常に重要なのが「ことば」の問題。ボランティアとして外国人に日本語を教えた経験のある著者も、「外国人に日本語を教えるのはとても大変だ」と痛感しているといいます。

著者が本書で重要視しているのが、「やさしい日本語」。普通の日本語よりも簡単で、外国人にもわかりやすい日本語のこと。1995年の阪神・淡路大震災のとき、災害発生時にも外国人が適切な行動をとれるようにと考案されたものです。

しかし、その後は平時における外国人への情報提供手段としても研究され、行政情報や生活情報、毎日のニュース発信など、現在ではさまざまな分野で取り組みが広がっているそうです。

(変更前例)「空腹ではありませんか?」
(変更後例)「ごはんを 食べたいですか?」

(変更前例)「ゴミ出しの分別のルールはわかりますか?」
(変更後例)「ごみを わける きまりが あります。わかりますか?」 (161ページより)

たとえばこのように、ことばをシンプルにして伝えるわけです。なお、やさしい日本語を使って外国人と話をする際の5つのポイントは次のとおり。

【やさしい日本語 5つのポイント】
(1)難しい言葉を避け、簡単な語を使う
(2)一文を短くして、文章の構造を簡単にする
(3)使用する漢字の量や内容に注意する
(4)あいまいな表現は避ける
(5)知っておいたほうがいいと思われる単語はそのまま表記し、言い換えを添える
(163ページより)

日本語が苦手な外国人社員とのコミュニケーションにも役立ってくれそうです。

考え方や価値観が異なるのは当然

『ビジネスエリートが実践している 異文化理解の全テクニック』(齋藤隆次 著、KADOKAWA)の著者は、パイオニア(株)北米子会社・元社長、ヴァレオ日本法人・元社長。

  • 『ビジネスエリートが実践している 異文化理解の全テクニック』(齋藤隆次 著、KADOKAWA)

大学卒業後、パイオニアに入社し、40歳でロサンゼルスに赴任。その後、転勤となったパイオニア北米子会社で社長に就任。47歳のときには、フランス系自動車部品会社ヴァレオに日本国内事業部長としてヘッドハンティングされたという華々しい経歴の持ち主です。

ところがアメリカ赴任前だった30代のころは、外国人と働くのがとても苦手だったそう。ことばはなんとか通じても、真に理解し合うにはほど遠い状態だったと振り返っているのです。

しかし、7年半にわたる海外駐在と14年におよぶ外資系企業勤務を経験した結果、気がつけばのべ5,000人以上・20カ国以上の人々と仕事をしていたのだとか。本書は、そんな経験によって培ってきた「異文化を理解するためのヒント」を、100のトピックスに分けてまとめたものです。

今回のご相談にもつながる「異文化理解」については、「どちらがいい悪いではなく、『違い』を認めることが第一歩」であると主張しています。

忘れるべきでないのは、異なる国同士の人々がコミュニケーションをとったり、共同でなにかを成し遂げようとしたりするとき、考え方や価値観の違いに直面し、物事がうまく運ばなかったりすることは"往々にして起こる"という事実。

背景が違う以上、考え方や価値観が異なるのは当然のことであり、それを乗り越えることが「異文化理解」の目的です。
異文化を理解するとき重要なのは、どんなに相手の考え方や価値観が自分のそれと違っていたとしても、その優劣を論じるのではなく、違いを素直に認めるということです(69ページより)。

互いの立場を最大限に尊重し、違いや共通点があることを認めたうえで、互いに主張のギャップを埋めて現実的な落としどころを見つける。そうすれば、一致協力して両者が納得できる結果を出すことができるわけです。


そういう意味でも、やはり大切なのは互いを認め合える接点を見つけ出すことなのではないでしょうか? もちろんそれは簡単なことではないでしょうが、これからの時代にはさらに必要とされる考え方なのではないかと感じます。