グローバル社会を生き抜くための最先端知識、世界が注目するユニークなアイデア、世の中を揺るがす問題に一石を投じるレポートを読めるのが翻訳書の醍醐味──。「知識の素、考えるきっかけになるものを提供したい」という思いで数々の翻訳書を手掛けていると語るのが、ダイヤモンド社の編集者、廣畑達也氏だ。同氏に、ビジネスプロデューサー・書評ブロガーの徳本昌大が、翻訳書から得られる「失敗を成長の糧とするヒント」について聞いた。

ダイヤモンド社 書籍編集局・第一編集部の廣畑達也氏。反脆弱性 / 人工知能 人類最悪にして最後の発明 / この世で一番おもしろいミクロ経済学、といった海外書籍を編集している

最高のメンターが贈る「起業して、成長して、成功する」方法

今回、廣畑氏が紹介するのは、帯コピーで"1000の起業家を育てた今世紀最高のメンターからのアドバイス"と謳った、リンダ・ロッテンバーグ著『THINK WILD あなたの成功を阻むすべての難問を解決する』(ダイヤモンド社 / 2017年5月発売)だ。

THINK WILDは、Facebookのシェリル・サンドバーグ、LinkedInのリード・ホフマン、DELLのマイケル・デルからも絶賛されているベンチャー企業論で、廣畑氏は「起業して、成長して、成功するまでの3ステップが書かれた本」だと端的に説明する。

廣畑氏は、「自分がこの書籍の翻訳を手掛けたことには、運命的なものを感じます」と振り返る。なぜなら、「原著と出会うよりもはるか昔から、リンダのことを知っていたから」だ。

廣畑氏がリンダ・ロッテンバーグについて知ったのは、マーク・ザッカーバーグやジェフ・ベゾスといった著名人のエピソードが集められた書籍の中だった。"最初の一歩を踏み出した"著名人の列伝のあいだに、リンダが交じっていたという。そこで披露される彼女のエピソードは、ザッカーバーグやベゾスにも引けを取らない非常に個性的なもので、印象に残ったのだ。それは、彼女の座右の銘から取られたこの本の原題が『Crazy Is a Complement』、つまり「おかしいといわれるのは褒め言葉」であることからも察することができるだろう。

そんなリンダが立ち上げたのが、アメリカ発のグローバルNGO「エンデバー(Endeavor)」だ。エンデバーは、1997年の創業以来、27の国、45を超える都市に拠点を置き、1400人以上の起業家を物心両面で支援してきた団体である。

「すごいアイデアを持っているけどどうしたらいいかわからない。そんな一人の起業家の卵を育てて、その会社が成長してたくさんの雇用を生み出すことができれば、世の中をよくなる。そんな信念を持って活動しているNGOなんです」と廣畑氏は説明する。非シリコンバレーを中心に、1000を超える起業家を支援してきた実績から、彼女は「メンター・キャピタリスト」とも呼ばれている。

ユニークなアイデアを、時に「クレイジーだ」と言われながらも貫き通してきた。そんあリンダにずっと惹かれてきたからこそ、「本を出したと聞いたとき、自分がやらねば、と思いました」。

『Crazy Is a Complement』という原題のとおり、リンダはクレイジーという言葉を糧にして「新しい一歩」を成功させてきた、と説明する廣畑氏

「みんながジグしているときにザグする」ためには?

現在、日本のマーケットは縮小傾向にあり、既存のビジネスを続けるだけでは尻すぼみになることが目に見えている。またグローバルマーケットのスピードは速く、大企業において上層部の承認を待っていては、スピード感をもったビジネス展開が難しい。

こういった状況の中でビジネスを発展させていくためには、ベンチャー・マインドが欠かせない。THINK WILDは、まさにそういった手法が説かれた本だ。

廣畑氏はここで、原著のサブタイトルを教えてくれた。そのタイトルは、『みんながジグしているときにザグする力』(The Power of Zigging When Everyone Else Zags)。つまり『みんなと違う方向に行け』というメッセージだ。批判をものともせず、クレイジーといわれるくらいでなくては、新しい一歩も、新しいビジネスも成功しない。リンダ・ロッテンバーグはそれを実行してきた人物だからこその、言葉と言えるだろう。

廣畑氏は、起業家だけでなく、ビジネスパーソン、ひいては失敗を恐れて一歩を踏み出すか悩んでいる人すべてに対するヒントがTHINK WILDにはあると説明する

このように批判を恐れず行動することを勧めるTHINK WILDだが、ただ理想のために突き進むだけの話ではない。リンダ・ロッテンバーグはビジネスでもプライベートでも数多くの失敗や苦難を経験しており、THINK WILDではリスクヘッジが欠かせないことも伝えている。

廣畑氏は、この本の目次に注目してほしいと述べる。「最初は心の壁の取り払い方、次にリスクの正しい取り方、そして(リスクを取ったが故の)逆境の乗り越え方、そして自分を知る方法やメンターを得る方法。最後に自身の健康そして家族との時間。ビジネスにおいて突き当たる壁について、順を追って書かれているんです」。

THINK WILDは、リンダ・ロッテンバーグが失敗を糧としてどのように成長してきたかを記した本ということもできそうだ。「自分が今どのステージにいるかによって、どの章が心に響くかが変わってくるはずです」と廣畑氏は言う。

「24時間働く」という誘惑に負けないこと

THINK WILDでリンダ・ロッテンバーグが最後に語っているのが、夢を叶えるための秘訣だ。その中で、労働時間の長い日本人が深く考えさせられるのが、「成功したら愛する人のために時間を取る」というものだ。

この章では、ファッションデザイナーが娘に問いかけられたエピソードをもって、『「24時間働く」という誘惑に負けない』よう説かれる。その内容は、ぜひ同著で確認してほしい。

大切なのは「ORの圧力」つまり仕事か家族かどちらかを選べという圧力に負けず、「ANDの才能」両方を手に入れる才能を目覚めさせることだ。ビジネスが順調な人ほど、心に留めておかなければならない話だろう。メンターとは、このような気づきを与えてくれる存在といえる。廣畑氏は、「褒めてくれる人はもちろん大事ですが、ときに厳しいことを言ってくれる人を大事にすべきでしょう」という。

廣畑氏は最後にこうまとめる。「この本は、たしかに起業家向けの内容が語られています。ですが起業家でなくとも、またビジネスのことですらなくてもいいんです。人と違うことを思いついたときに『この直感は正しいのかもしれない、やってみようかな?』と、一歩を踏み出すきっかけになればいいなと思っています」。新しいことを始めたい方、ビジネスや人生に躓きを感じた方は、ぜひ一度THINK WILDを手に取ってみてほしい。

THINK WILD あなたの成功を阻むすべての難問を解決する



シリコンバレーから中東、アフリカ、そしてブラジルの路地裏まで、世界中のありとあらゆる場所で600社、1000人超の起業家を育てた「今世紀最高のメンター」からのアドバイス。シェリル・サンドバーグ(Facebook)、リード・ホフマン(LinkedIn)、マイケル・デル(DELL)大絶賛!


リンダ・ロッテンバーグ 著/江口泰子 訳
定価:本体1,800円+税
発行年月: 2017年5月