日本は外国と比較して「治安がよい」といわれていますが、事件のニュースなどに耳目が触れる機会も少なくありません。介護疲れが原因の高齢者夫婦や親族間での殺人事件など、現代ならではの問題も。

では、実際に日本において殺人事件の件数はどのように推移しているのでしょうか? 皆さんも考えてみてください。

  • 国内の殺人事件の件数は増えている?(写真:マイナビニュース)

    国内の殺人事件の件数は増えている?

殺人事件は増えている?

Q1.昭和30年(1955年)時点と比べて現在の殺人事件被害者数(年間)は増えている? または減っている?

「増えている」と回答した人もいるかもしれませんが、正解は「減っている」です。

法務省や警視庁の統計データ等によりますと昭和30年頃は年間3,000件程度の殺人事件の認知件数がありましたが、平成に入ると1,000件程度と約3分の1となっており、その後平成28年は816件と減少傾向にあります。

  • 出典:法務省 平成29年版 犯罪白書「検挙人員」

    出典:法務省 平成29年版 犯罪白書「検挙人員」

「治安が悪くなっている」どころか、殺人事件の件数という点では大幅に減少していますが、そんな中、「殺人事件が増えている」と感じた人は、なぜそう思ったのでしょうか? その理由の1つとして、近年はパソコンやスマホで簡単に情報にアクセスできるという点があげられると思います。

TVや新聞が主たる情報源であった時に比べ、今はどこにいても、何をしていても様々な情報に触れることができます。そしてひどい事件はインパクトがあるため大々的に取り上げられる傾向にあります。こういった情報にたくさん触れている人ほど、「最近は殺人事件が多い」と感じるものです。

これを行動経済学では「利用可能性ヒューリスティック」といいます。ヒューリスティックとは「経験則」のことです。よって、想起しやすい情報、簡単に手に入る情報を優先して経験則上から結論を導きやすいことです。

車や電車より飛行機は危険?

利用可能性ヒューリスティックについて知るうえでもっとも分かりやすい事例の1つが飛行機事故です。大変残念なことに、世界各地で飛行機墜落事故は起きており、飛行機事故は大惨事になりやすく、現場の映像、死者の人数などから「飛行機移動はしばらくやめよう」と思う人も。

ただし、明らかに事故発生率という観点では他の乗り物に比べ飛行機の方が低いのです。

オランダの航空機事故についての調査結果によれば、死亡事故に遭遇する確率は1万回以上搭乗して1回あるかどうかというほど低いのです。車や電車の方が死亡事故に至る確率は圧倒的に高いのですが、リスク回避のために「飛行機よりも電車移動にしよう」という発想はまさに利用可能性ヒューリスティックであるといえます。

9.11の同時多発テロの後、飛行機を乗る人が大幅に減少したことも代表例であり、私たちは客観的な統計上のデータよりも、自分が触れる機会の多かったニュースやイメージで意思決定してしまいがちです。

投資は怖いもの?

私達のお金の管理においても「利用可能性ヒューリスティック」が大いに影響している可能性があります。長生きに備えて株式投資をはじめとした資産運用の重要性が高まっていますが、多くの日本人が「投資は怖い」、「投資はギャンブル」というネガティブなイメージを持っているようで、投資に関してはかなり保守的です。

おそらくは投資自体をじっくり学習する機会が少なく、知人や親族など身近な人の投資に対する所見が強く支配しているのではないでしょうか。

株式や債券、投資信託といったリスク商品は、短期的に元本割れすることもありますが、長期的に見ると大きな成果につながりやすいです。ぜひ日頃接しやすい情報のみならず、じっくり投資について調べることで、人生100年時代、みなさん自身がどのようにお金を管理すべきか探求してみてください。

著者プロフィール: 内山 貴博(うちやま・たかひろ)

内山FP総合事務所
代表取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP)FP上級資格・国際資格。
一級ファイナンシャル・プランニング技能士 FP国家資格。九州大学大学院経済学府産業マネジメント専攻 経営修士課程(MBA)修了。