経済の流れ、社会の仕組み、ビジネスマナーなど新社会人にとって学ぶべきものが多く、日々努力している読者の方も多いと思います。そして、それに加えグローバル社会の中、英語はじめスペイン語や中国語など言語習得のために語学スクールに通っている人も多いでしょう。

今回はそんな言語とお金の関係という興味深い研究内容について紹介します。

I will explain it!
この後、説明します!

  • 言語とお金の関係を知っていますか?(写真:マイナビニュース)

    言語とお金の関係を知っていますか?

「未来形」のない言語を使う人は貯蓄体質

行動経済学者のキース・チェン氏は貯蓄体質な人が多い国とそうじゃない国の言語に着目して、一定の相関性を見出しました。それが上で使った「will」です。中学英語で「will」や「be going to」を学びましたが、これを総じて「未来形」といいます。

「これから説明します。」という意味でwillを使いましたが、willを使わなければ現在形となり、「私は(毎日のように)それを説明します。」と、日々の習慣のように伝わってしまいます。よって、これからも分かりますように英語は未来形のある言語です。

一方、中国語はどうでしょうか?

中国人のキース・チェン氏によると中国語は時制の区別がなく、現在でも未来でも過去でも同じように表現することができるということです。

このように未来形のある言語を使う人達と未来形のない言語を使う人達を様々な観点で比較したところ、未来形のない言語を使う人達の方が貯蓄体質にあることが分かりました。貯蓄のみならず、喫煙率や肥満率にも一定の傾向がみられ、未来形のない言語を使う人達の方が健康に配慮し、タバコを吸わない率が高く、また肥満にもなりにくいということです。

「未来」が遠い将来として軽視される

行動経済学では「現在バイアス」や「現状維持バイアス」あるいは「双曲割引理論」などを通して、私達は現在を重視し、将来を軽視することが分かっています。日頃、口にする言葉に「未来形」があることで、将来を軽視する傾向がより強くなるのでしょう。

一方、未来形がない場合は「現在と未来を一体化」し、将来のことを無意識的に近い位置付けと捉えているのでしょう。よって、「将来への貯え」ではなく「今、すべき貯え」となり、「将来病気になりやすいから」ではなく「今から健康を意識して」という具合に現在の事象として取り組むことを言語が後押ししてくれるのかもしれませんね。

日本語に未来形はある?

私達が使っている日本語はどうでしょうか? 言語学者などによると、日本語は、過去形はあるものの、未来形のない言語になるようです。

I played baseball yesterday.
昨日、私は野球をしました。

I will play baseball tomorrow.
明日、私は野球をします。

I often play baseball.
私はよく野球をします。

英語だと昨日のことは過去形「played」になり、未来のことと現在(習慣)のことは、「will」の有無で明確に分けています。

日本語の場合は、「野球をしました」という過去だけ表現が変わりますが、現在と未来は「野球をします」という表現でどちらも表すことができます。これが「未来形」が無いということになります。

チェン氏の研究に従うと、私達日本人は貯蓄への意識が高いという解釈ができそうですね。たしかに、よく見かける夏や冬のボーナスの使い道アンケートの第1位は「将来への 貯蓄」ということが多いです。

貯蓄意識が高い日本人

最近、「老後2,000万円問題」が話題になっており、様々な観点から論じられていますが、私達が老後に向けてすべきことを言葉に意識しながらまとめますと以下のようになります。

「リタイア後、年金だけでは足りないため、老後に向けて私達は2,000万円ほど用意する必要があります」

「リタイア後」や「老後に向けて」という表現を外しても「年金だけでは足りないため、私達は2,000万円ほど用意する必要があります」と文章として成立します。

「老後」といった飾りをつけることで未来を表現していますが、分の構造自体、現在と未来を一体化して捉えているというのがうなずけます。

昔から日本人は勤勉で貯蓄への意識が高いといわれてきましたが、日本語との強い関係があったのかもしれません。ただ、だからこそ将来を過度に心配する傾向も否定できません。将来の株価を「未来のこと」として軽視できないからこそ、投資に抵抗を感じている人が多いということにもつながっている可能性もあります。

「貯蓄から投資へ」というシフトがなかなか進まないのも日本語が1つの要因でしょうか。時には「It will go well.」(きっとうまくいく)といった発想を持つことも大切なのかもしれません。

著者プロフィール: 内山 貴博(うちやま・たかひろ)

内山FP総合事務所
代表取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP)FP上級資格・国際資格。
一級ファイナンシャル・プランニング技能士 FP国家資格。九州大学大学院経済学府産業マネジメント専攻 経営修士課程(MBA)修了。