全国各地で勃発する嫁姑問題。Twitterでは3人の男の子を子育て中の秋山さんの義母ツイートが話題を呼んでいる。「孫の誕生日プレゼントは水ようかんの空き容器」「手土産にお菓子よりも現金を要求する」......そんな衝撃的な義母との終わらない戦いに挑む秋山さん。今回は「PTA活動」の話をお届けしよう。
PTA活動に熱心な義母
今年度、長男の小学校のPTA役員に選ばれた。月に一度の会議の他にも、毎日誰かがPTA室に集まり打ち合わせや資料作りをしている。たぶん近隣の小学校の中でも熱心に活動するほうで、最初の顔合わせのオンライン会議でも、会長が「フルタイムで働いている家庭にPTAのお仕事は任せられません」と言っていた。
私の義母はとにかく人と関わることが好きな人だ。夫が0歳の頃から毎日児童館や親子サークルといったイベントで外出し、積極的に町内会の集まりにも参加していたと聞く。
お義母さんの交流意欲は夫が幼稚園に通い始めてからも衰えない。夫が幼稚園に在園中の3年間は、クラス役員やイベント係に必ず立候補し、年長時には会長も務めた。役員をやりたくない人にとってはありがたい存在かもしれないが、変革への熱意も底なしなので、
「子どもを見守るために、毎朝日替わりで保護者が門の前に立ち挨拶運動をしましょう」
と役員会で提案し、それがそのまま現在に至るまで慣例として続けられているのだと嬉しそうに報告してくれたことがある。
その熱意は小学校、中学校、高校はもちろんのこと、果てには大学の保護者会の役員まで続いていく。立候補はもちろん、誰かに推薦されればそれも全て引き受けた。夫と私は大学時代に知り合ったので、お義母さんが定期的に大学に来ていたのは知っていた。正月の駅伝も毎年応援に行っていたというのは結婚後に聞かされた。ちなみに夫は陸上部ではない。
あれは大学時代、私が希望する業種に全て最終選考で落とされ、最後の最後でどうにか内定を貰えた時のことだ。お義母さんに内定を貰えたことを報告すると、
「私に言ってくれればその業種にコネのある教授にお願いしてあげたのに。でもその教授も言っていたけど、あまりやりがいのある仕事だとは思えないわ」
と言われた。そんな教授が本当にいたのかは分からないが、私は今もお義母さんの言うやりがいのない職場で働いている。あの時諦めずに就活をした自分を褒めたいし、あんなことを言われたにも関わらず結局お義母さんを姑に選んだ自分に「お義母さん、この調子だとあと50年は生きそうだ」ということを伝えたい。
義母がPTAをやりたがる理由
お義母さんのすごいところは他人からどう思われるかを気にしないところである。自分のことは自分が一番理解しているという考えなので、他人からの評価は全て受け流すことのできる強靭なメンタルを持っている。誰かからの評価で一喜一憂しないし、自分以外に興味がないので他者と関わることにも抵抗がない。PTA向きに神が創造した新人類なのである。
対する私は出不精で内向的でネガティブで、まるでPTAに向いていない。月1の会議は毎回気が重いし、おまけにメール配信する環境があるのに月1で会報を刷って配る意味はどこにあるのかと思ってしまうので、とにかく伝統を重んじるPTAという組織に不向きなのだ。私が役員に選ばれた時は神も頭を抱えただろう。
私が今年度PTAをやっていることをお義母さんはとても喜んでいた。子どもの学校生活は母親のがんばりにかかっている。だから自分はずっと保護者会に関わってきたし、それが子どものためにもなるのだと私に熱く語った。一日一日、マニュアルに載っているタスクをこなし早く3月の任期満了にならないかな、などと思っている低俗な人間とは明らかに心持ちが違うのだ。
お義母さんの話は続く。PTAのすばらしさ、やりがい、地域社会への貢献、立派な母親像―――普通はその話に奮起して「よし私も」とならなければならないのだろうが、不思議と私のやる気スイッチは消耗していった。そして途中から点いたり消えたりを繰り返して、最終的にはうんともすんとも言わなくなった。
ただ一つ分かったのは、お義母さんのような熱意を持った人がいる限りPTAはなくならないということだ。
「お義母さんは本当にすごいことをされてきたんですね」
これは本心だ。私のように明日PTAがなくなっても特に困らない人間とは面構えが違う。こういう人があと15人いれば私が今年役員をすることもなかっただろう。
「もちろんよ、アキちゃん(夫)だって私のこういう背中を見て諦めない気持ちや向上心を学んだと思わない?」
お義母さんに謙遜や否定の文化はない。与えられた10の誉め言葉を100で受け止め私に返してくる。ぜひこれも『お義母さんのここがすごい、ベスト100』に加え来世に語り継ぎたい。
「できればこれからもPTA役員はしてほしいわ、絶対秋山ちゃんのためになるから」
と話の途中で何度も言われた。
「今年度は育休中だったので時間が作れましたけど、来年度は復職する予定なのでPTA活動は難しいかもしれません。会長からもフルタイムの人は無理だと言われました」
と言うとそこからまたお義母さんの説得が始まった。せっかく頂いた機会を1年で終わらせるのは勿体ない、なんとか続けられないか会長に直訴してはどうか、と言うのだ。やりたいとも言っていないし、そもそも私のやる気スイッチはすでに壊れている。勘弁してくれと思った。
義母の功労
しかし、本当に夫は私とは違い穏やかで社交性がある人間だ。出会ってから16年、夫が声を荒らげるのを見たことがないし、不機嫌な態度を見せられたこともない。子どもたちは3人とも温厚な性格の夫に似てほしいと思うし、もしそれが本当にお義母さんの影響なら、私も少し気合いを入れてPTA活動に参加しようと帰ってから思い始めていた。
その日の夜、夫に「お義母さん、20年以上ずっと学校の役員をしてきてすごいね」と伝えた。夫の返答はこうだった。
「え、そんなことしてたの?」
親の心子知らず。私はやる気スイッチを窓から投げ捨てた。