全国各地で勃発する嫁姑問題。Twitterでは3人の男の子を子育て中の秋山さんの義母ツイートが話題を呼んでいる。「孫の誕生日プレゼントは水ようかんの空き容器」「手土産にお菓子よりも現金を要求する」......そんな衝撃的な義母との終わらない戦いに挑む秋山さん。今回は「長男のクリスマス」の話をお届けしよう。

  • クリスマスが楽しみな義母の行動とは

    クリスマスが楽しみな義母の行動とは

子どもも楽しみなクリスマス

うちの子どもたちが大好きなイベント、クリスマスが今年もやってくる。一カ月前からカレンダーをめくって「あと〇〇日だね」と兄弟でソワソワしているのを見ると、親としてもとびっきり喜ばせてあげたいという気持ちになってくる。

あれは長男が3歳の頃、昨年まで枕元に置いてあったプレゼントを見ても何もリアクションをしなかった我が子が、初めてサンタという存在を認識し、「サンタさんにトーマスとパーシーをおねがいする」と言った。それを聞いたサンタは早速近所の家電量販店に行き目当ての車両の購入とラッピングを済ませた。クリスマスまであと2週間ある。ここから当日までは、親子ともにソワソワする期間である。

義母が持ってきたもの

義実家にもクリスマスの日は近づいていた。もともと西洋から来たイベントはしない主義だが、初孫が3歳になった今年、初めてクリスマスなるものをやってみたいと申し出があったのだ。

夫が出張でいませんけど大丈夫ですか、と断った上で義父母が我が家に来たのはクリスマスの1週間前だった。玄関を開けて出迎えた義母は、有名百貨店の紙袋を手に下げていた。

「孫ちゃん、久しぶりだねえ」

毎週会っているのだが、お義母さんは嬉しそうに長男の頭を撫で、長男も嬉しそうに保育園であったことを義父母に報告していた。

「今日はなんと、孫ちゃんにいい物を持ってきました」

お義母さんはそう言うと、先ほどから大事そうに抱えていた百貨店の紙袋から、地球儀を取り出した。だいぶ年季が入っているようで、台座の部分にはホコリが溜まり、回すたびにキイキイと壊れた自転車のような音を立てた。

「これは、孫ちゃんのお父さんが、小さい頃に実際に使用した地球儀です」

一般人に対して「実際に使用した」という言葉を使う人を私は初めて見た。長男は興味津々で地球儀を触ったり回したりして喜んでいた。

「サンタさんは、今ここにいます」

そう言うと義母はフィンランドを指さした。字の読めない長男のために私が「フィンランドっていうんだよ」と言うと、お義母さんはつちのこでも見つけたような、本当に想定外といった顔で「この子、まだカタカナも読めないの?」と聞いてきた。私が「ひらがなも読めません」と言うと「アキちゃん(夫)はこの年の頃には私に手紙を書いて渡してくれたわ」といういつもの話が始まった。

知らない人のために説明すると、夫は1歳前におむつが外れ、1歳になる頃には二語文が出て3歳で母親に感謝の手紙を書く今は普通のサラリーマンである。

「孫ちゃんがいい子にしていれば、サンタさんはここから孫ちゃんの家にプレゼントを届けに来てくれます」

お義母さんはフィンランドに指を置いて、そこから日本までを指でなぞって長男に示した。長男も初めて聞く話にうんうんと聞き入っていた。

「ただ、いい子にしていない子には、サンタさんは来ません」

これにも真剣な顔で長男は頷いていた。

「お母さんのお手伝いをしていますか? いいお兄ちゃんになれますか?」

当時次男を妊娠中だった私を気遣ったのか知らないが、その後もお義母さんは何度も「お兄ちゃん」という言葉を出して長男に迫った。

善意だとは思いたいが、当時の長男は次男の妊娠が分かってから精神的に不安定になることが多く、かなり気を遣いながらようやくここまで来た経緯がある。私が「お義母さん、お兄ちゃんになるのは長男の意志ではないのでやめてください」と言うとそれが気に食わなかったのか、中国大陸まで来ていたサンタが中東辺りまでグッと引き返したのを私は見逃さなかった。

それからは「これから頑張ってひらがなの練習をしますか?」「パパみたいに立派な大人になれますか?」などと意味のない質問をしながら、長男が頷けば東へ進み、首を振れば遠ざかったりを繰り返して遊んでいた。

用意されたご飯を食べ終わり、食後にそれはほぼ牛乳ではないのか、という量のミルクを入れた紅茶を飲んだ義父が「じゃあ帰るぞ」と言ったところで会はお開きとなった。「楽しい時はあっという間ね」と言いながらお義母さんも満足した様子で紅茶を一口飲むと、百貨店の袋に地球儀を詰めて「じゃあね」と言って席を立った。

その時私の中の陣内智則が「いやお前持って帰るんかーーい!!」と叫んだ。全く欲しいとは思わなかったが、まさか見せに来ただけだとも思わなかった。家に残されたのは、食べかけのご飯とシンクに山積みになった食器、そしてお義母さんの香水の残り香だった。

無事に済んだクリスマス

夜、長男が布団の中で「ぼくの家にサンタさん来てくれるかな」と言った。まさか日中の話を聞いて不安になったのかと思い「大丈夫」「いい子にしているんだから絶対に来るよ」と伝えた。本当は当日まで長男と一緒に「来るといいねえ」と言いたかったのだが、こうなってしまっては作戦変更も止むをえない。

それでも、クリスマス当日にプレゼントを見つけた長男はとても喜んでいた。今もたまにその時の動画を見返すのだが、「パーシー」が言えずに何度も「パーチ―だあ」と言って飛び跳ねる姿はかわいくて、これを見るたびに当時の長男にもう一度会いたくなってしまう。

ちなみにこのあと「秋山ちゃんのために言ってあげたのに……『お兄ちゃん』という言葉によって長男だという責任と自覚がなんとかかんとか」という恨みのこもった長文メールが来たのだが無視した。あれ以降、義実家からクリスマスを祝いたいと言われることもなく、たまに私が今も義実家のどこかでホコリをかぶって置かれているであろう地球儀に思いを馳せるのみとなっている。