全国各地で勃発する嫁姑問題。Twitterでは2人の男の子を子育て中の秋山さんの義母ツイートが話題を呼んでいる。「孫の誕生日プレゼントは水ようかんの空き容器」「手土産にお菓子よりも現金を要求する」……そんな衝撃的な義母との終わらない戦いに挑む秋山さん。今回は「3人目の妊娠が分かったとき」の話をお届けしよう。

  • 3人目の妊娠、その時義母は......

    3人目の妊娠、そのとき義母は……

3人目の妊娠

私は現在妊娠7カ月で、来年の2月に第3子を出産予定である。私には少しキャラの濃い義母がいる。義母は私が生きてきた中で培った倫理観や常識といった枠にとらわれない、別世界で生きている人間である。今回はそんなお義母さんに妊娠を伝えたときの話をしたいと思う。

3人目の妊娠が分かったのは次男の2歳の誕生日を過ぎたあたりである。翌週にはひどい眠気と倦怠感、そしてなによりつらい吐き気に襲われることになる。つわりの始まりである。平日は仕事のある私だったが、仕事中は気を張るからか吐くこともなく、誰にも妊娠には気づかれず過ごすことができた。

しかし問題は仕事のある平日よりも週末である。毎週末は義実家に子どもたちを連れて行くのが慣例になっていた。健康体のときでさえかなりの体力を使うところに吐きつわりが加わり、どうしても義父母の顔を見られる状態ではなかった。こればっかりは気を張っても無理だと私の心が言った。

当時はまだ心拍確認前で、妊娠を伝えたあとに何かあっても申し訳ないと思い適当な理由をつけて夫と子どもだけで行ってもらうことにした。しかしそこはさすが義実家である。何度目かの訪問を仕事だと言って欠席すると、麻薬探知犬並みの嗅覚を持つ義母が何かを察したようで「ねえあの子は本当にお仕事なの?」と夫に聞いたようである。お義母さんはごまかせない。

忍び寄る義母

夕方、義実家訪問を終えた夫が子どもたちと帰ってきて、そのまま夕飯の買い出しに出かけていった。私は休日の定位置となっていたソファーでひどい船酔い状態に耐えるため朝からずっと横になっていた。すると突然インターフォンが鳴った。出るべきだろうが体を起こすのがつらい。荷物なら宅配ボックスが受け取ってくれるだろう(ありがとう宅配ボックス)。と思い居留守を決め込んでいると、急に「ガチャ」と玄関のドアが開錠された。

その瞬間、朝どんなに具合が悪くても職場の玄関を通ると気持ちが切り替わるのと同じ原理で体が外モードに切り替わった。ドアが開いて「ねえ! 大丈夫なの?」と言う声は私の想像したとおりだった。お義母さんがなぜかドアを開けて玄関まで入ってきたあとに、しつこく内側からドアをノックして叫んでいるのである。普通ドアは入室前にノックするのだが、お義母さんはそんな常識なんかに縛られない人間なのである。

「どうしたんですか!?」と精いっぱいの平静を装って玄関まで行くと、顔を見るなり「やっぱり」と嬉しそうな声。そしてドアを叩く手を止めて「あなた妊娠したんでしょう!」と言うのである。「それだけ確かめに来たんですか?」と聞くと満足そうに「ふふ、女の勘ってやつよ」と人差し指で自分のこめかみをコンコンと叩いたのがシンプルにうざかった。

隠しておいてもしょうがないので実は……と打ち明けると「前回のつわりと何か違う?」と聞かれた。「強いて言えば眠気がすごいです」と言うと「じゃあ次は女の子かもね」と実に嬉しそうな顔をする。

お義母さんの特技は悪気なく人を傷つけることである。女の子がいい、というのは次男妊娠中から言われていたので内心(また始まったか)という思いもあった。そのあとも食の好みの変化や体重の増え方などを尋ね、自分に満足のいく答えが返ってくるたびに「じゃあ女の子かもね」というのである。

「内緒よ、ね?」

私のつわりは一日の終わりにかけてひどくなる。この日も胃のあたりの不快感が増す時間帯に差し掛かっており、できれば残りの体力はお風呂と子どもの寝かしつけに取っておきたかった。あのそろそろ……と玄関で立ち話を続ける義母へ切り出そうとしていたところへタイミング良く夫が帰ってきた。お義母さんは夫が両手に持った食材の袋を見て「あら、早速いいパパをしているのね」と満足そうだった。「勝手に家に上がって何をしているんだ」と聞く夫に義母は「内緒よ、ね?」と私に向かって笑いかけた。あのときの私は上手に笑い返せていただろうか。

通常良い姑というのは、こういうときに嫁の体調を気遣うものだろう。すでに2人いる孫を気にかけて「何かあったら頼ってね」と嘘でも言い残したりしないのか。そもそも良い姑というものはアポなしで突撃訪問もしてこないのか。分からない。私には良い姑がいたことがないから。

玄関が閉まると、なんとなく事情を察した夫がごめんね、と謝ってきた。こういうとき夫はすぐに謝ってくれる。悪いのはあなたではない。ドアノックの仕方も分からない人間がすべて悪いのだ。後日届いた「女の子だと嬉しいです」というメールにはまだ返信していない。