直近の航空業界トピックスを「ななめ読み」した上で、筆者の感覚にひっかかったものを「深読み」しようという企画。今回は、空港民営化のその後と、エアアジア・ジャパンの就航について取り上げたい。
北海道7空港、熊本、広島など民営化プロセスが活発化
空港運営権の民間委託が順調に進められ、10月17日に行われた広島空港コンセッションセミナーには100社を超える参加があった。また、新千歳空港の運営権者募集に向けて10月28日、北海道空港株式会社(HKK)が道・各市の株式を買い取って3セクを解消するため、これを60億円で購入する方向が報道され、9月には熊本空港民営化に地元連合として九州産交と九州電力がタッグを組んで応募に望むことが各紙地方版で報じられている。一連の空港民営化もようやく全体の出口が見えてきた感があり、2018年5月には福岡空港の運営権者が決まる。
「空港と旅行会社」という関係の議論も
福岡空港コンセッションの一次審査が終わり、次に控える北海道7空港とともに注目を集めるのが熊本空港だ。県がコンセッションを行う静岡空港が間に入るが、2018年3月には募集要項が公表され、1年間の本格的な争奪戦に突入する。熊本空港は震災復興を旗印にスケジュールが前倒しされ、空港民営化事例の中では、ターミナルビルを全面建て替えする事業が新運営権者に任されるという大きな特徴がある。
他方、福岡や北海道で喧(かまびす)しい「地元連合」が動き出した。熊本空港ビルは地方自治体が48.5%の株式を所有しており、九州産交HDは10%、九電が5%、ANA・JALで10%、その他地元企業・団体で26.5%という構図になっている。これまでの流れからすると、復興推進の観点から新運営権社決定後に県が10%程度出資する形が想定され、地元企業が高松空港のように運営権争奪に積極的に参加するとは思われなかった中での動きである。
ただ現時点での動きは、「地元連合」というよりは、旅行会社であるH.I.S.そのものである。九電が参加しているのは、2010年にH.I.S.がハウステンボスの経営に乗り出して以来の経緯がある。2012年にはH.I.S.が産業再生機構の株式を引き継ぎ、TOBで九州産交HDを連結子会社としたわけであり、現在は株式の90%をH.I.S.関係で占めている。
H.I.S.が運営権争奪戦に参加することは当然可能であり、審査結果はどのような連合が組まれ、各コンソーシアムがどのような提案をするかで判断される。これまで、「空港と地元企業(まだ地元が筆頭運営権者として事業を引き継ぐ事例はなし)」「空港と航空会社(高松空港では航空会社の資本参加は認められず)」など、ステークホルダー間の利害関係のあり方は常に議論に上っている。「空港と旅行会社」が民営化を機にどのような関係になるべきか、他の事業関係者との兼ね合いも含め、今後交わされる議論には注視が必要だ。
また、HKKの自治体保有株式の買収は「48倍返し」(読売新聞)と称され話題になっているようだが、自治体保有シェアから計算してHKK全体の時価総額は180億円となり、福岡空港ビルを新運営権者が買い取る価格(募集要項に記載)の450億円と比べるとかなり低い。周辺不動産事業などに多角的に投資してきた結果が会社価値を下げた面もあるだろうし、現在のHKKのキャッシュフロー事情から逆算された面も否定できない。
福岡空港の運営権獲得に必要な金額は「コンセッションバブル」により、6,000億円に達する可能性も取りざたされる中で、赤字を抱える北海道6空港とともに運営権が競られる新千歳空港の価値はどうなるのか。今後もバブルが続くようだと、運営権を獲得してもその後の事業性が大変厳しいものになる可能性もあり、果たして誰のための民営化だったのかとならぬよう、的確な行政当局の舵取りが求められている。
エアアジア・ジャパン、中部=新千歳線10/29就航
エアアジア・ジャパンは10月29日、中部=新千歳路線の運航を開始した。初便の搭乗率は、中部発のDJ0001便は166人で搭乗率は92.2%、新千歳発のDJ0002便は99人で搭乗率は55%となった。同路線は1日2便、毎日運航する。同便は当初の計画より、約2年遅れの就航となった。
グループとしての強みをどう生かすか
ANAと袂を分かってから4年、エアアジア・ジャパンが再び就航した。就航開始予定が発表のたびに遅れ、業界では本当に就航するのかとの疑問の声も出されていた中で、粘り強く航空局との間で折衝を重ねてきた整備・運航部門の努力に敬意を表したい。
もともとエアアジア・ジャパンは、航空運送事業免許(AOC=Air Operator's Certificate)は2015年10月に国から付与されていたのだが、乗員の勤務や運航形態、整備レベルなど、現実に安全運航、定時運行を行う力があるかを当局が審査する運航・整備の管理規程の承認が下りず、デッドロックに乗り上げていた。
この管理規程、運航上の問題を起こさないために、エアラインが日頃から管理を行うための人材・組織体制・運用方法などの審査で、ことごとく当局の納得を得る交渉が必要になる。これをこなせ、当局に認めさせる力量と経験を持つエキスパートの確保に長いこと苦労していたわけだ。
先行のLCCは比較的短期間にこれをクリアーしているが、各社のバックにはANA、JALがいて、「何かあれば責任を持って支援・指導する」ことを約束していたからこその結果である。大手のバックがない春秋航空日本やエアアジア・ジャパンは、最悪な事態を想定しての一種意地悪とも言える追及に耐えなくてはならなかった。
エアアジア・ジャパンは当面、中部=新千歳を1日2往復するわけだが、現在2機のA320を保有しており、これでは当然採算は維持できない。早急に2路線目を開設し、機材・人材の稼働を上げていく必要がある。また、一歩先で「6円セール」を打たれ、「中部の拠点化」を進めるジェットスター・ジャパンと正面競合しながら、必要なイールド(運賃レベル)を維持していかねばならないという困難も伴う。
現在の日本LCC各社は、本来の世界型事業モデルとして機能しているピーチ・アビエーション以外、なにがしかの問題を抱えている。利用率が90%近いのに安売りで単価が低いため黒字の出方が小さかったり、機材拡大に収益路線の確保が追いついていなかったり、本国親会社の路線権益やり繰りに振り回されたり、と言った具合だ。成田・関空よりも一回りふた回り小さい市場の中部を拠点に、どう事業を組み立てるかが急務だろう。
当初の計画では次は台北線開設となっているが、日本=台湾線は現在、国際線では最も激戦地と言え、2018年秋にはスターフライヤーも参入を計画している。ここ3年の路線計画をどう描くのか、パイロットの確保と相まって、スタートから正念場を迎えていると言える。
これには、エアアジアグループとしての強みをどう発揮できるかが生き残りのカギとなろう。アジアでのネットワークシナジー(コネクティビティ)や運航資源の効率化などが必要で、そのためにはグループとしてアジアから中部空港への路線再構築が必須と言える。ジャパンを生かすためにグループで気張って路線を貼るのか、中部空港や財界との摩擦が懸念されるもののジャパンの拠点をエアアジアXの既就航地点とマルチ化するのか、エアアジアCEOのトニーフェルナンデス氏の今後の舵取りが見ものになっている。
筆者プロフィール: 武藤康史
航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。