直近の航空業界トピックスを「ななめ読み」した上で、筆者の感覚にひっかかったものを「深読み」しようという企画。今回は、カタールのキャセイ出資、香港エクスプレスの業務拡大停止、一律1,000円以内の「出国税」について取り上げたい。

カタール航空、キャセイパシフィック航空の株式9.61%を取得
カタール航空は11月6日、キャセイパシフィック航空(拠点: 香港)の株式9.61%を取得したと発表した。この投資に関してカタール航空のアクバ・アル・バクルCEOは、「キャセイパシフィック航空はワンワールドに加盟する世界最強の航空会社のひとつであり、将来にわたって大きな可能性を秘めています」とコメントしている。

今回の出資は「今後の中国進出への足がかり」として注目を浴びた

欧米vs.中東のひとつの布石となるか

カタール航空のキャセイ航空への10%弱の出資は、「今後の中国進出への足がかり」として注目を浴びた。同じワンワールドに属する両社は過去2014年に香港=ドーハ間の戦略的業務提携(両社発表、ATIによるジョイントベンチャーではない)での双方向のコードシェアを開始したが、その後解消している。

今回の資本参加でカタールは第3位の株主となったわけで、香港航空とのシェア争いや安売りによるイールド低下などが要因とされる、ここ2年のキャセイ航空の業績低迷を受けての資本参加となる。どのような提携強化が図られるのか、昨今の中東3社をめぐる欧州フルサービスキャリアとの関係にも影響を与える可能性もあり、今後の展開が注目される。

折しも11月のCAPAカンファレンスには、カタール航空のアクバ・アルCEOがCAPAの「Man of the year」アワードを受賞するため来場しており、本件についても、「今後そのような戦略提携がお互いのメリットになるかさらに具体策を検討する」とのコメントを行っている。

またこの場で、アル・バクルCEOは米国大手航空3社がロビイストを駆使して政府を動かし、「カタール航空が政府補助などでアンフェアな事業経営を行っている」との批判を世界中で繰り広げていることに対して、中東で最も影響力ある航空経営者との評判の片鱗を感じさせる自信に満ちた声で対抗した。

曰く、「不当な政府補助は事実でない」「米国大手はチャプター11による倒産劇を繰り返しているが、これによる債権放棄は実質的に民間による補助金のようなもの」「カタール航空が米国人の雇用を奪っているというが、50機以上のボーイング機の新規発注でどれだけ雇用を増加させているか」など、会場では判官贔屓もあってか盛大な拍手を浴びた。

一方米国からは、大手3社、全米パイロット組合、客室乗務員組合などが連合して形成している「The Partnership for Open & Fair Skies」なる団体が、CAPAによるカタール航空CEOへの最高経営者賞授賞に対し、"最高の詐欺師(Cheater of the year)"なる呼称がふさわしい、と色をなして非難した。航空関係の組織が一民間団体のアワード授与にこれほど反応するのは異例だ。

これに対しCAPAも公式ホームページで、アル・バクルCEOがアラブ諸国との国交断絶や上空通過拒否という困難な環境を克服して、カタール航空の事業を成長させていることなどから授賞は当然とし、また、該社への不当補助など事実に反する非難をもってアワードの是非を論じることは極めて不適切と反論を展開。ある種異様な光景が演じられている。

今後も欧米メガキャリア対ガルフキャリアの戦いは、それがフルサービスキャリア各社の収益源泉であるプレミアム旅客の争奪戦であるだけに、果てしなく続くだろう。ANA・JAL両社としては現状、欧米はJV(ジョイントベンチャー)パートナーと、空白地帯の中東はUAEの提携パートナーとの協業を使い分けることができている。

しかし今後、日本=南米・アフリカ路線の日本人客の増加が見られれば欧米か中東のどちらのハブを使うか、利用者の嗜好も多様化してくるだけに、なかなか難しいかじ取りを迫られることになってくる。日本の関係者も今回の出来事を対岸の火事とせず、日々丹念な航空情勢への目配りが求められていると言えよう。

香港エクスプレスが6カ月間の業務拡大停止--10月国慶節の大量欠航問題で
香港エクスプレス航空は11月9日、10月の中国の国慶節(建国記念日)連休中に運航を予定していた香港=大阪/名古屋/ソウルを結ぶ3路線18便を直前になって欠航した件で、香港の航空管理当局に対し、今後6カ月以内に既存のビジネスおよびネットワーク規模を維持する改善策を提示した。香港の航空管理当局は、パイロットや客室乗務員など人員不足による大量欠航には、背景に企業統治上の問題があったと指摘している。

香港エクスプレスの業務拡大停止の影響は、日本の地方空港(自治体)にもおよんでいる

「北東アジア85%」というリスクをどう回避するか

香港エクスプレスは10月の国慶節期間に乗務員不足に起因する急な大量欠航を出し、香港航空局(CAD - Civil Aviation Department)から「単なる運航上の問題ではなく企業統治の不備に関わるもの」と指弾されており、早急に業務改善策を提出しなくてはならなかった。

11月9日に公表された同社のリリースでは、「CEOだったAndrew Cowen氏の退任を含む経営陣の刷新(後任は同族会社の香港航空から招聘)」「乗員配置方式の改善、スタンバイ要員の増加、訓練教官の増員、CAの採用など、乗務員確保の具体策」「リスク管理を徹底する社内体制の整備」などをすぐに実施するとし、これらが効果を発揮するまで今後、6カ月間の事業拡大を停止することを宣言した。

これを受けて香港CADは、「施策の確実な実行を見守る。それまで"しばらくの間(For the time being)"は同社の事業拡大はない」とのコメントを出しており、増便・増機、路線新設の停止は必ずしも6カ月で終わらない可能性もある。ちなみに、Andrew Cowen氏はその後、HNAグループの投資会社Uriel Groupの副会長兼U-FlyアライアンスのCEOに就任しており、今回の責任を取ってグループ外に出されたというわけではないようだ。航空局向けの「姿勢を示す」行動が必要だったということか。

この一連の事業停止問題で、日本の地方空港(自治体)にとっては、北東アジアにかなりの事業シェアを割いて新路線の開拓に熱心であった香港エクスプレスはメインの営業先であったため、当面の誘致活動にブレーキがかかることとなった。

香港エクスプレスは2006~2014年までは赤字だったが、LCCとして本格的に事業を転換し2015年から黒字に転じている(CAPAアナリスト分析)。しかし、2016年後半以降は香港空港のスロット制約や、同じ海南(HNA)グループで香港本社のオフィスも玄関を挟んで右左というフルサービスキャリアの香港航空が日本・韓国マーケットで香港エクスプレスを下回る運賃を出す等、適切な共存関係を築いているとは言えない状況にある。

また今般の事業凍結により、このところ低下傾向にあった機材稼働の改善や香港の夜間スロットの活用もできず、韓国での鳥獣疫病など北東アジアに85%という大きな事業シェアを置くことに潜む局地的な突然の事業リスクの分散化も進んでいない。なお、韓国LCCのチェジュ航空の北東アジア地域の事業シェアは39%となっている。

親会社のHNAグループはこれらの事業構造を改善するため、リソースの共有などを含む両社の「緩やかな合併」を検討するのではないかとの見方も出ており、ここ半年のU-Flyアライアンスを含むHNAグループの動きには注意が必要だ。

観光庁、「出国税」は全出国旅客一律1,000円以内
観光庁は11月9日、次世代の観光立国実現に向けた観光財源のあり方検討会の中間とりまとめを公表した。観光施策の財源として検討中の「出国税」について、日本人・外国人ともに、ひとり一回の出国につき1,000円を超えない範囲とするのが妥当と考え、必要となる財政需要の規模も勘案しつつ、今後具体的な負担額を設定するとしている。

「出国税」実現を急ぐことへの批判が噴出している

「出国税ありき」な議論に疑問が募る

同議題は同連載の9回「『出国税』の議論に先立つ懸念、ジェットスターの宮崎線で深まる"九州戦争"」でも取り上げ、税金の使い道、受益と負担の整合についての十分な詰めと、透明性あるルール作りを行うことが必要との筆者の見解を述べた。

その後、有識者会議、そこでの関係者(エアライン、旅行業界、空港会社等)ヒアリングを経て中間とりまとめが出されたのだが、わずか2カ月の審議での提言という短い期間での判断、1,000円という基準ラインの決まり方、そして、年間400億円の税金をどこにどのように使うのかが定められていない状況など、決定内容や審議プロセスには多くの疑問があると言わざるを得ない。

「あまりに拙速」「本当に観光立国実現のために必要な施策ならばもっと財務省にきっぱり予算要求すべき」「アジアのエアラインにおける1人あたり利益額が500円に過ぎない(IATAデータ)のに、新たに1,000円を旅客に課すことでエアラインの収益性がさらに悪化するのでは」など、ここにきて出国税実現を急ぐことへの批判が各界から噴出している。ヒアリングを受けた国内関連業界は、関空など民営化された企業以外は、やはり国交省の「出国税ありき」の方針にこの局面で反対することは、種々の日常業務で睨まれることを懸念して(事業計画の認可権限を国が持つことも起因している)黙認の横並びになっているようだ。

他方、IATA(国際航空運送協会)は明確に出国税の新設に反対する意見を国交大臣や観光庁長官に表明したとみられる。筆者に聞こえてくる範囲だけでも、「クルーズ船等の海洋ルートへの課金がないのは整合が取れない」「通常の航空旅客ではなく、ビジネス機等で飛来する場合はどのような方法で課金するのか」など、突っこみどころ満載だとの声は絶えない。

「受益と負担の整合」についても、「なぜ海外に出国する日本人が、地方空港に到着する外国人がWi-Fiで観光情報を得るための通信システムのために税金を払わなければいけないのか」など、関係者でさえ理解できない状況への十分な説明もない。日本人にも等しく課税しないと外国人からの不満に耐えられないなど、実務処理上の困難があろうことは理解するが、それにしてもわずか2カ月の形ばかりのヒアリングによる提言~税金の法制化には無理があると言わざるを得ず、一体国交省は何に忖度したのか、不可解は募るばかりだ。

少なくとも、「何をどうするための税金の新設なのか」「それを一般予算では財源を確保できず利用者負担に転嫁せざるを得ない理由は何か」「使い道を決める上で公正性、透明性は担保されているのか」などを明確にし、現在、業界等から指摘されている「拙速すぎ批判」を払拭できるような説明責任を果たした上で、制度化プロセスに入るべきではないだろうか。名称を「観光促進税」に付け替えるだけでは、乱暴な審議を糊塗することはできない。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。