直近の航空業界トピックスを「ななめ読み」した上で、筆者の感覚にひっかかったものを「深読み」しようという企画。今回は、旅客ターミナル整備を開始した下地島空港の可能性と、「Cシリーズ」に関するエアバスとボンバルディアの提携について取り上げたい。

三菱地所、下地島空港の旅客ターミナル整備開始
三菱地所は10月11日、沖縄県宮古島市伊良部地区において計画を進めてきた下地島空港における国際線等旅客施設整備・運営及びプライベート機受入事業に関し、「下地島空港旅客ターミナル施設」新築工事に着手、地鎮祭を開催した。同施設は2019年3月に開業を予定している。

下地島空港旅客ターミナルは、2019年3月開業を目指している

宮古島の魅力を拡大できるか

下地島と聞くと、航空関係者の間では懐かしい響きがある。昭和54(1979)年の開港以来、航空各社が運航乗務員の訓練を実施し、昭和55(1980)年から平成6(1994)年までは那覇からの定期便も就航した。

下地島に短期出張して訓練機の整備を担当する整備士からは、「訓練後の整備作業が終わると何もすることがなく、人格失調となりかねない」として特別手当の要求が労働組合を通じてなされるなど、「美しい島だが辺鄙そのもの」と言われてきた。宿泊施設や交通手段が乏しく、また、軍用との兼ね合いが常に取りざたされるなど、観光拠点として成長を始めるには至らないまま、乗員訓練も中止となっていたものだ。果たして、今回の三菱地所による事業化に勝算は期待できるのだろうか。

筆者はデベロッパーとしての事業感覚がないので断定的なことは何も言えないが、宮古島の航空旅客が2016年に15%伸びて150万人に達したとは言え、おそらく当初少なくとも10年間は苦労することは間違いないだろうと思われる。

ひとつは誘致ターゲットが二極化しており、どんな施設を重点的に建造し、どのような繁栄を目指したいのかが見えてこないことだ。もともと、星野リゾートがハイエンドのリゾートを計画して利活用事業者に選定されたが、現時点では辞退したままである。また、該社の沖縄離島高級路線のラインナップはある程度出来上がっていることから、しばらくは様子見になりそうだ。

プライベートジェットを使う富裕層を呼ぶと言っても、彼らはまず仕事第一だし、遊びにはよほどレアで、人を寄せ付けないほどのクオリティと希少性を求めるものだ。昨今、「羽田のビジネスジェットスロットが足りなくなる受け皿」として、地方空港にFBO(Fixed Base Operation=プライベートジェットの乗降基地)をつくるアイデアが見られるが、この面からは非現実的と思う。

高級志向の一方でLCCを誘致するなどすれば、空港周辺がショッピングモール化する懸念もある。ただ筆者としては、もともと宮古島がLCC利用者にフィットしているかという疑問を感じてもいる。

もうひとつは、沖縄県の補助金などの後押しが下地島に集中投下できるのかという問題だ。その原資が米軍からの補償金的性格を持たざるを得ない以上、県民が一致してひとつの島、ひとつの民間事業を支持するかには、かなり政治も絡んで難しい問題があろう。

懸念点は少なくないものの、三菱地所が空港民営化への応募と並行して事業化を決断したプロジェクトだ。空港ビル運営とは全く違った視点で開発を進めてくれることを期待しつつ、今後の展開を見守りたい。

エアバス、ボンバルディアの旅客機「Cシリーズ」事業を買収
エアバスとボンバルディアは10月16日、Cシリーズプログラムにおけるパートナーシップ締結の同意書を交わしたことを発表した。エアバスが「C Series Aircraft Limited Partnership(CSALP)」の株式の過半数を取得し、パートナーシップ締結により、今後20年で6,000機以上の新造機需要が予測される100-150席装備の航空機に対し、生産ラインの追加も含めて生産体制を整える。

今回の提携を通じ、両社は100-150席装備の航空機製造の環境を整える

スキマを縫う機材で相互利益な契約

Cシリーズは、ボンバルディアがジェット化で苦戦するターボプロップ機の次世代機として社運をかけて取り組んでいたものだ。サイズは110~130席のCS100と130~150席のCS300の2機種で、エアバス、ボーイングの主力機より一回り小さく、三菱のMRJ、エンブラエルのE-Jetの中間に位置する、いわば「スキマ」的な機材だった。

これまで350機以上の確定発注を受けているが、エンブラエルの新型ジェット小型サイズE2(E-175)とは市場が競合し、同型最新エンジンのPWギアードターボファンを搭載するものの運航コスト比較ではエンブラエルに劣り、今後の事業拡大がどうなるのか注目を浴びてきたところだった。これは、ボンバルディアの事業規模が競合他社に比べて小ぶりで、技術改良に大きな投資ができない環境があったことも要因とされ、これが今回のエアバスの事業買収で大きく前進することになる。

他方エアバスにとっては、70席クラスのATR72ターボプロップ機とA319の間を埋める機材として他社対抗できることと、成長規模予知の大きい130~180席機材にボンバルディアがストレッチで乗り込み、価格相場を乱す芽を摘み取ることができるというメリットが考えられる。

日本への影響としては、現在、ボンバルディアのCRJ900を運航するアイベックスが今後Cシリーズに向かうのか、ボンバルディアの総代理店をしている双日を、現在代理店を持たない方針であるエアバスが販売上活用するのか、などが考えられる。

日本の航空ネットワークのあり方については、系列下でなく中立的な運航事業者の元で地域航空ネットワークを再編する動きや、離島関連での新会社設立などまだまだ様々な展開が考えられる。機材面でも、70~90席のターボプロップ(ATR72、Q400)から100席クラスまでのジェットへの移行(MRJ、E-Jet、CRJ)の選択がどうなされていくのか、エンジン機種による燃油コスト優位が今後の原油高でどう見えてくるのかなど、注目すべき要素が目白押しだ。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。