「営業成績の数字未達が続いて、毎週のように上司から詰められています。いろいろと本を読んだり、セミナーに行ったりしてもうまくいかず、ストレスフルな状況が続いています」

某メーカーの販売会社で営業職であるAさんの悩みは、こういったものでした。そこで私が「どういった勉強をされているのですか?」と質問したところ、いわゆる「自己啓発」的な勉強をしているとの返答でした。

「できると思うから、やりきれるのだ。できないと思うから、言い訳になるのだ」
「心がすべての土台。心を磨け」
「常にポジティブであれ」

具体的に変えたところとしては「抽象的なポジティブ思考」を手帳に書き、それを眺めたり、ポジティブに物事を捉えようとする工夫をしたりしているとのこと。皆さんは、どう思われますか?

  • ポジティブになれば目標は達成できる?(写真:マイナビニュース)

    ポジティブになれば目標は達成できる?

ポジティブだけでは達成できない

Aさんの「現状を打破しよう」という気持ちは伝わってきますし、確かに「こういった心持ちが大切だ」ということは、その通りでしょう。何より勉強をして、現状を変えようとする姿勢は素晴らしいことです。

しかし、こういった「ポジティブであれば、目標を達成できる」という考えは、アメリカの心理学者ガブリエル・エッティンゲン氏(博士)の調査によって正しくないことが証明されています。

なぜなら、目標達成は、そう、すんなりいくものではないですよね。その過程で、何かの障害が出てくる場合が大半でしょう。にもかかわらず、ポジティブ精神論を重視しすぎる人は、障害を予測したり、対処法を準備したり……といった「地に足がついた対処法」を考えず、行動にも移さない傾向があるためだからです。

では、どういった目標設定をすると効果的なのか。エッティンゲン氏は、「WOOP(ウープ)の法則」に沿った方法を推奨されています。

WOOPの法則とは

WOOPとは、「願望(Wish)」「結果(Outcome)」「障害(Obstacle)」「計画(Plan)」という4つのステップの頭文字から取られたもの。

エッティンゲン氏は、このステップに沿って行動していくことで目標の達成率が高められ、ポジティブシンキングで臨んだ時より約2倍の効果があることを研究により証明しました。

願望(Wish)とは「自分がなしとげたい目標」

まずは、そこを定めます。

ポイントは、「自分目線で考えること」と、「現実的であるが、これくらいなら少しがんばればいけるかな」という少し背伸びしたところに置くこと。簡単すぎる目標では成長につながりませんし、目標が難しすぎると、ただのスローガンで終わってしまいがちだからです。

例)願望(Wish):
7月の売り上げ目標○○万円
※内訳:××という商品が○○万円、~という商品で○○万円

結果(Outcome)を書き出す

そして、次に決めるのは「結果(Outcome)」です。立てた目標を達成すると、どのような結果を得ることができるのかを可能な限り書き出すのです。

例)結果:
1.インセンティブとして、自分に××円が入る
2.沢山の顧客の、××という課題解決にお役立ちができ感謝される
3.自分のストレスも減る

障害(Obstacle)の抽出

3つ目のステップが大きな特徴で、「障害(Obstacle)」、つまり、目標達成を困難にしている原因について考えます。障害になりそうなことを、箇条書きで考えられうる限り、複数、上げておきます。ポイントは、自分の内面についても考えておくことです

例)障害(Obstacle):
1.数字に追われるがあまり、顧客へのお役立ちという視座が抜けた営業をしてしまう
2.目標数字達成が厳しいときに、心が折れてしまう
3.1日×件の電話をかける必要があるが、断られることが続いた際に、凹んで手が止まる

計画(Plan)を考える

そして最後に「計画(Plan)」を考えます。障害にぶつかった場合、どうすればそれを克服・回避できるかという計画を、自分にできる現実的な範囲で、1つひとつ、行動プランを考えるのです。

例)計画(Plan):
1.手帳の1ページ目に「営業とは、顧客のお役立ちをすることであり、お役立ちの量に金額は比例する」と書き、顧客訪問前に、見直すことを習慣化する
2.週に4回は、リフレッシュとして、○○を行う
3.営業電話をかけ、断られることが××件続いた際は、席を離れ、3分間リフレッシュすることをルールにする

といった形です。いかがでしょう? もし、目標達成がうまくいかずに悩んでいる場合は、一度、このWOOPの法則フレームを活用してみることをお勧めします。

執筆者プロフィール : 阿部淳一郎氏

ラーニングエンタテイメント 
代表取締役

若手の採用・育成・定着に強い人材開発コンサルタント。早稲田大学教育学部卒。筑波大学大学院(ストレスマネジメント領域)修了。保健学修士。社会人教育を行う東証一部上場企業等を経て2004年に起業。「メンタル不調者を減らし、若者の能力を引き出す」をコンセプトに人材開発業務に従事。大企業から中小・ベンチャー企業、学校、行政まで研修登壇実績は約1500本、コンサルティング実績30社。サンフランシスコ・シリコンバレーへも事業展開中。大学での就職活動領域における講師歴も長い。『これからの教え方の教科書(明日香出版社)』など著書3冊。『NHK』『日経新聞』『読売新聞』『日経アソシエ』『週刊SPA!』など取材実績も多数。