8回目となる今回は、DAY1より藍井エイル、OLDCODEX (五十音順・敬称略)をご紹介。いずれも過去の「アニサマ」でトリを務めた経験のある地力をもった2組が、本来であれば今年の「アニサマ」で至高の時間を体感させてくれたであろう曲について、今回も”予習”していく。

【藍井エイル】長くともに歩む作品へとあてた、新時代の”王道アニソン”

2011年にアーティストデビューを果たしてから、一時活動休止期間を挟んだものの、足掛け10年にわたって2010年代のアニソンシーンを引っ張ってきたシンガーのひとり。それが藍井エイルである。彼女の歌声の特徴といえば、シャープかつクールで、それでいて伸びやかな高音部のハイトーンボイスも併せ持っていることだろう。そのうえで、「シリウス」といったカラッと明るいロックチューンから「ラピスラズリ」のようなオリエンタルなサウンドのナンバーまで、幅広い楽曲を見事に歌いこなしている。

幾度となく出場を果たしている「アニサマ」では、昨年・2019年に堂々と大トリを飾っており、その大役を経ての大舞台でのステージングにどんな変化が生まれるのか、期待が高まっていた。

☆この曲を聴け!……「I will...」(TVアニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』2ndクール EDテーマ)

2ndシングル「INNOCENCE」から、『ソードアート・オンライン』シリーズの主題歌を数多く担当してきた藍井エイル。この曲では、次々と展開していくサウンドに自ら手掛けた歌詞を乗せることで、言葉と歌声の両面からも物語を描き出した。

まずこの曲は、ED映像ともリンクする水面を連想させる美しいピアノの音色とともにスタート。序盤ではメロディラインのもつ切なさを歌声でも素直に反映したかと思えば、Bメロではそこに暖かさを付加。この曲を受け取る者への、優しさや慈しみを前面に出した。

そして曲の表情が一変するのがサビ。とにかく激しく速く打ち鳴らされるドラムから、激情を感じずにはいられない。その一方でボーカルはその激しさも汲み取りながらも締めくくりでは柔らかく着地したりと、ただ荒ぶるのではなく、明確に相手をイメージしてこの曲を届ける――ということを大事に歌われたように感じられる。

それは、この曲の歌詞にユージオがキリトへと贈る言葉や想いを乗せたからではないだろうか。重要キャラクターへと感情移入し言葉に変換することで、受け手への歌いかけ方などの明確なイメージを生み、ドンピシャな歌声という形でアウトプットされたのだろう。ちなみに、期間生産限定盤のジャケットに描かれたキリトと青薔薇の花びらも、そんな楽曲を反映してのものなのではないだろうか。

その他にも、意外な部分にもビープ音やノイズのような電子音が散りばめられていたりと、MMO RPGが舞台となる作品世界を想起もさせるこの曲は、まさに"ザ・アニソン"と呼ぶにふさわしい仕上がり。『SAO』の世界とキャラクターに徹底的に寄り添った、2020年の”王道アニソン”として誕生した1曲だ。

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【OLDCODEX】TVサイズだけではもったいない! フルサイズで感じてほしい、燃えたぎる感情

OLDCODEXは、ボーカル・Ta_2("鈴木達央"として声優業などでも活動)とペインター・YORKE.のふたりからなる音楽ユニット。ヘヴィでラウドなミクスチャーロックを主軸とし、ライブでは楽曲の披露と並行してYORKE.によるライブペインティングも行い、聴覚に加え視覚の面からも世界を形作っていく。

「アニサマ」には、これまで三度出場。特に語り種になっているのは、やはりDAY1のトリを務めた2018年だろう。このとき彼らは、オーディエンスのペンライトを消灯させて拳を振り上げさせることで"ライブハウス・さいたまスーパーアリーナ"を生み出し、ラストナンバー「WALK」ではステージを降り客席通路を闊歩しながら歌唱。2万7000人を、規格外のステージングで魅了していった。実は筆者もその日、彼らに魅せられたうちのひとり。だからこそ2年ぶりの「アニサマ」で、ベストパフォーマンスをどう更新してくるのかが楽しみで仕方がなかった。

☆この曲を聴け!……「Take On Fever」(TVアニメ『警視庁 特務部 特殊凶悪犯対策室 第七課 -トクナナ-』OPテーマ)

TVアニメのOPとしてオンエアされていたため、TVサイズだけでの印象で終わってしまったアニソンリスナーもひょっとしたらいるかもしれないが、この曲はTVサイズと音源化されたフルサイズとでは受ける印象が変わってくる。

シリアスでスピード感のあるロックナンバーであるこの曲、特に1コーラス目ではTa_2のボーカルも力強さはありながらも刺々しさはあまり感じられず、彼の声質も相まって澄んだようにも感じられる比較的素直なものに。サウンドの面での重さがなければ、爽やかささえ感じられるものとして締めくくられた、TVサイズになっていたかもしれない。

そこに”OLDCODEXらしさ”の成分が色濃くなってくるのは、実は2コーラス目に入ってから。特に変化が顕著に感じられるのはAメロの前半で、表にははっきりと見せていなかった、内面に抱えていたマグマのように煮えたぎった感情をのぞかせているような印象を受ける。

ただそれは、決して攻撃的に歌唱することありきで見えたものではない。歌唱アプローチとして感情の振り幅をさらに広げ、1コーラス目以上に深化させた結果生まれ、現出した静かな荒さである。

そしてその感情は、垣間見えたと思ったら一気に噴火する。続くラップパートでは、デスボイスで思い切りラウドにがなり立てて、リスナーへと感情をガンガン叩きつけてくる。大サビも、一見1サビに近いテンション感での歌唱のように感じられるが、ラストのロングトーンに御注目。

最後に吐き出す感情は、やはり激しく荒い。タイトル通りに、自身も熱を帯びていきながら歌われていくこの曲において、一度燃え上がった感情は最後まで止まらないのだ。

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各々が前回の出場時よりも、確実に進化を遂げているであろう2組。今回はそれぞれ「アニサマ」での未歌唱曲の中から楽曲をご紹介したが、その他にも名曲は枚挙に暇がないほど存在する。過去の定番曲も合わせて2組の音楽を愛し続けて、来年の夏の祭典を楽しみに待とうではないか。

次回はDAY2より、Argonavis from BanG Dream!・GRANRODEO・GYROAXIA(五十音順・敬称略)の"バンド"3組をピックアップ。ボーイズバンドプロジェクト『ARGONAVIS from BanG Dream!』発の初出場バンド2組と、2015年の「アニサマ」では大トリを務めた経験もあるGRANRODEOの必聴曲について掘り下げていく。どうぞ、お楽しみに!

●著者プロフィール
須永兼次(すながけんじ)。群馬県出身。中学生の頃からアニメソングにハマり、会社員として働く傍らアニソンレビューブログを開設。2013年フリーライターとして独立し、主に声優アーティストやアニソンシンガー関係のインタビューやレポート記事を手がける
Twitter:@sunaken

記事内イラスト担当:jimao
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