忙しい年度始めは、残業だらけの毎日になることも多々あります。ところが4~6月は、残業代をもらうと損をするというウワサもチラホラと耳にします。いったいどのようなことなのでしょうか。

社会保険料の決め方

社会保険料は、毎月のお給料から天引きされます。社会保険料はお給料をもとに算出するのですが、毎月一人一人の社会保険料を計算することがなかなか大変なことなので、原則として4~6月のお給料の金額(標準報酬)を基準に1年分を決定します。「4~6月のお給料が多い人には保険料をたくさん負担してもらいましょう、少ない人には保険料を少しだけ負担してもらいましょう」といったイメージです。

会社員の主な社会保険料の目安は次のとおりです。

・厚生年金保険料=標準報酬月額×18.3%×1/2
・健康保険料=標準報酬月額×10%(全国平均)×1/2

その他に雇用保険料や40歳以上の人は介護保険料などがあります。

つまり、4~6月に残業代をたくさん受け取った人は、1年分の社会保険料が増えるのです。そのため、あえてこの期間は残業代を申請しないという「裏技」を使う方がいます。

裏技のワナ

4~6月の残業代の申請を控えると、1年間の社会保険料が減る可能性があります。必ず減るわけではありません。標準報酬月額は、毎月のお給料によって等級で分類されています。この等級が下がれば社会保険料が減ります。残業代を減らしたとしても、この等級が下がらなければ社会保険料も減りません。

  • 【標準報酬月額表の抜粋】

例えば基本給(報酬月額)が23万円の場合、標準報酬月額は24万円となります。仮に4~6月の毎月の残業代が2万円であった場合、残業代を含めた受取額は25万円です。残業代を受け取っても受け取らなくても、標準報酬月額は24万円です。であれば、残業代を受け取った方が得になるのは明確です。特に基本給が少ない新入社員の方は、残業代も年配社員の方に比較するとそれほど多くならない傾向があります。

また、社会保険料が下がった場合でも必ずしも得になるとは限りません。

例えば基本給(報酬月額)が30万円の場合、標準報酬も30万円となります。4~6月の毎月の残業代が4万円であった場合、残業代を申請すると標準報酬は34万円になります。社会保険料はどのくらいの差が出るのかというと……

・年間の厚生年金保険料の差
 (34万円-30万円)×18.3%×1/2×12カ月=4万3,920円
・年間の健康保険料の差
 (34万円-30万円)×10%×1/2×12カ月=2万4,000円

残業代を申請しなかった場合、年間で厚生年金保険料と健康保険料の合計6万7,920円を支払わなくてすみます。一方で4~6月の残業代の合計は、4万円×3カ月=12万円。残業代を申請せずに6万7,920円を支払わないのか、それとも残業代を申請して12万円を受け取った上で6万7,920円を支払うのか、どちらが得なのかは明確でしょう。

とはいえ、40歳以上の場合は介護保険料も含まれます。また、残業代は税引き前で試算をしているので、ずれはありますが、ご自身の状況にあてはめた上で残業代を申請するかどうかを決めていくことが大切です。

社会保険料を減らすことの影響

仮に、残業代を申請しない方が得だという結果になったとしても、もう1つのワナがあります。支払う社会保険料が減るということは、原則として万が一の場合に受け取る金額が減るということです。

標準報酬や保険料を基準に受け取る額を算出する主なものは次のとおりです。

・傷病手当金
病気やケガのために仕事を休み、給与がない場合に受け取ることができる
・出産手当金
出産のために仕事を休み、給与がない場合に受け取ることができる
・障害年金
障害を負い障害認定がおりると、障害の程度により一時金または年金を受け取ることができる
・遺族年金
亡くなった場合、遺族が年金を受け取ることができる
・老齢年金
65歳になると(2018年現在)、それ以降一生年金を受け取ることができる

社会保険料は、万が一のための保険であると同時に、老後の生活費のもとにもなります。一時的な出費を減らことだけではなく、トータルで考えて選択していきましょう。

国分さやか

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お金の教室 おさいふほんわか心もほんわか 代表
創価大学教育学部を卒業後、旧日本興業銀行の保険代理店や政府系金融機関に従事。"得をする方法を知りたい!"という一般生活者が多いものの、実は金融知識の不足から損をしている場面、しかも損をしていることにすら気付かない場面があまりに多い現実に問題意識を抱く。これを解消することを決意し、金融教育に携わる仕事を希望してFPの資格を取得。金融資産が増やすことだけでなく、幸福度数も増えることを大切にしている。現在、個人相談業務と並行して、金融の基礎知識を学ぶためのセミナーやFP資格講座、高校・大学、企業への出張講義などで活動中。


2013年
・第4回日本一のマネー講師決定戦E1グランプリにてグランプリ受賞
・第4回FP向上のための小論文コンクールにて奨励賞受賞
2014年
・三省堂より初めての出版(その後、学研出版等より計5冊の出版)
・日本FP協会電話相談員
・資格の学校TAC専任講師
2015年
・NHKラジオ「午後のまりやーじゅ」「ごごラジ!」お金のコーナー担当
2016年
・日本FP協会パーソナルファイナンスインストラクター

<保有資格>:CFP、FP技能士1級、相続アドバイザー2級、小学校教諭第一種、幼稚園教諭第一種