
10月30日(金)、東京・TOYOTA ARENA TOKYOで、LEXのキャリア初となるアリーナ単独公演「LEX LIVE AT TOYOTA ARENA」が開催された。自身最大規模となるステージでLEXが見せたのは、徹底的に作り込まれた、圧倒的な世界観を持つ演出と、ジャンルの枠を軽々と飛び越えていくパフォーマンス。そのすべてが「LEX」という存在を、繊細に、素直に表現していた。そこには、ヒップホップアーティストという枠に収まらない、ひとりの表現者としての姿があった。
ライブが始まる前から、会場には「LEX!」と叫ぶ声が響き渡っていた。
これからステージに現れる男を待ちわびる、すさまじい熱気。そんな観客の期待に応えるように、オープニング映像で高まった熱を引き継いで始まったのは「レベルアップ」。腹の底まで響く重低音、サイバー空間を思わせるギラギラとしたLED映像。アリーナでは無数のスマートフォンが掲げられ、観客が一斉に「Level up!!」と叫ぶ。
1曲目から登場したのは、盟友のHezron。ステージ上で熱い握手を交わす2人の姿に、胸を熱くしたファンも多かったはずだ。公演直前に公開されたドキュメンタリー『THIS IS LEX』を見ていれば、なおさらだろう。
Photo by Daiki Miura
続く「力をくれ」では炎の柱が噴き上がり、アリーナはジャンプする観客でもみくちゃに。堂々とした立ち振る舞い、観客を煽るタイミング、そして楽曲への入り方。まだ始まって間もないというのに、LEXはすでに会場全体を掌握していた。
Photo by Daiki Miura
今回のステージには、バックDJがいない。広大なステージに立つLEXの存在そのものが、ライブの中心に据えられていた。だからこそ、彼の一挙手一投足が際立つようだ。曲と曲を自然につなぐMC、間奏での視線の動かし方、観客に向ける表情、さらには息を切らす瞬間まで。もちろん、そのすべてが実際に計算されたものなのかはわからない。それでも、そう感じさせるほどに、ステージ上のLEXには隙がなかった。
「今日くらいはいい子でいようよ」を経て、NENEを迎えたDJ CHARI & DJ TATSUKIの「I'm The One (feat. LEX & NENE)」へ。堂々たるホーンの音が響き渡るなか、NENEの力強いラップとLEXの歌声が重なり合う。2人の表現には、強さだけでなく、どこかひとりの人間にも寄り添うような温かさがある。曲を終えて交わしたハグも印象的だった。
NENE(Photo by Daiki Miura)
さらにJP THE WAVYを迎えた「なんでも言っちゃって」から「WAVEBODY」へと続く流れでは、会場の熱気が一段と高まる。タンクトップにデニムというシンプルな装いのLEXは、ただステージに立っているだけでも絵になる。これもまた、LEXの持つスター性だ。
JP THE WAVY(Photo by Daiki Miura)
「右いる? 左! 真ん中! 全員!……完璧だ」
観客の歓声を受け、そのまま「完璧だ」へ。楽曲同士のつなぎ方も実に巧みだ。LEXの楽曲には、思わず声を上げて一緒に歌いたくなるフックが多い。実際、どの曲でも観客は当たり前のように歌っている。LEXの歌が、どれだけ多くの人の日常に入り込んでいるかがわかる光景だった。
「STRANGER」を挟み、それをとりわけ強く感じたのが「OCEAN」。LEXの持つ脆さや素直さが詰まったこの曲を、大勢の人が一緒に歌い、体を揺らしている。誰かの人生に寄り添ってきた音楽が、こうしてひとつの場所で共有されている。その光景には、単に会場が盛り上がっているというだけではない感動があった。
Photo by Daiki Miura
「BABY」が始まると、再び炎の柱が噴き上がった。甘さや切なさを連想させる「BABY」というタイトルの曲が、ここまで熱狂的なアンセムになるのも面白い。フロアには激しいモッシュが生まれ、観客は待ってましたと言わんばかりに踊り狂う。
LEXはステージ上部へと上がっていき、楽曲の終わりとともに姿を消した。そして、幕間の映像が始まる。水中を漂うような映像から、月をモチーフにした壮大なダークファンタジーの世界へ。映像の中でLEXの体に異変が起こり、どこか不穏な空気が漂い始める。ここまでのステージが、まばゆい光を浴びるスターとしてのLEXを描いていたとすれば、ここからはその裏側、あるいは闇に沈んでいく姿を表現しているようにも見えた。
映像が終わると、今年6月にリリースされたアルバム『SPEEDSTAR』の楽曲ゾーンへと入り、「V12」がスタート。LEXはジャケットを羽織り、フードを目深にかぶった姿で登場する。先ほどまでとは打って変わったダークな装いだ。アリーナの観客の間を歩き、センターステージへと移動していく。頭上には巨大なLED、周囲にはレーザーが走る。その光景はどこか神々しくさえあった。
Photo by Daiki Miura
ここから「Melo」「センス」「NEWDAY」「リーリエの手紙」「ELDEN RING」と、アルバムの楽曲を中心にメドレーのように矢継ぎ早に披露していく。「センス」ではSieroが登場。2人の持つ独特のカリスマ性が交差し、センターステージの周囲はまるで祭りのような騒ぎに。熱気はさらに増していく。
Siero(Photo by cherry chill will.)
「WASTED」では一気にテンポが上がり、アリーナのモッシュも加速。もはやステージを眺めるというより、観客全員がLEXの音楽の中に飛び込んで踊っているような時間だった。その後、「Hey アリアナ」を挟み、LEXは炎の演出に包まれながらメインステージへと戻っていく。
そして「GOLD」。LEDには無数の星のような光が広がり、LEXを象徴する蝶が姿を現した。大きな紫色の蝶が舞う幻想的な空間で、再び明るい色の衣装をまとったLEXが現れる。闇からの帰還、あるいは再生と昇華のような瞬間だ。映像の意味が明確に説明されたわけではない。それでも、衣装や照明、楽曲の並びが密接に絡み合い、ライブ全体でひとつの物語を紡いでいることは伝わってきた。ライブを単に楽曲を披露する場としてではなく、ひとつの作品として成立させようとする意志。その徹底ぶりこそが、今回のステージの大きな魅力だったと思う。
Photo by Daiki Miura
そして、ここからがさらに面白かった。「Romeo & Juliet」を境に、ライブの空気が明らかに変わり始めたのだ。序盤のフロアを支配していたのは、重低音に合わせて跳びはね、モッシュを繰り返すヒップホップのライブらしい熱狂だった。しかし、ここからは違う。「Romeo & Juliet」、そして「大金持ちのあなたと貧乏な私」。ロックやポップスの色彩が強まるにつれ、観客の体の動きまで変わっていく。スタンド席からアリーナを見下ろしていると、その変化がよくわかった。さっきまでヒップホップのビートに合わせて激しく跳ねていた観客が、今度はロックバンドのライブに来たかのように、体を揺らしながら歌っている。しかも、その変化がとても自然だ。ジャンルが変わったからといって戸惑う様子もなく、観客はごく当たり前のようにLEXの音楽へと順応していた。考えてみれば不思議な光景だ。ヒップホップアーティストのライブを見に来たはずの観客が、いつの間にかロックのライブを楽しんでいる。そこにジャンルの壁はなく、ただLEXの音楽だけがある。
Photo by Daiki Miura
彼のファンは、ヒップホップだから、あるいはロックだからという理由で踊っているのではない。LEXの音楽だから、自由に体を動かせるのではないだろうか。それはきっとLEX自身が自分に嘘をつかず、素直にジャンルの枠に収まらない表現を続けてきたからこそ生まれた関係性なのだろう。
「ベッドから起き上がるのだるい日とかあるじゃん。みんなに会えると、捨てたもんじゃないなって思える」
「今までも僕を愛してくれてありがとうございます」
そんな言葉を観客に伝えると、LEXは椅子に腰掛け、ピアノの伴奏に合わせて「ALONE」を歌い始めた。
亡くなった大切な友人に向けて作ったというこの曲。アリーナを埋め尽くした観客が掲げるスマートフォンの光が、幻想的な空間を作り出していた。続く「So Sad」でも、鍵盤の音色とともに歌声を響かせる。先ほどまでの激しいモッシュが嘘のように、会場はLEXの歌に耳を傾けていた。やがて小さなギターリフが聞こえてくると、観客は待ちきれないように「ひとりぼっちの夜」を口ずさみ始める。「億万長者」では再び大合唱が巻き起こり、最新シングル「真っ直ぐ生きてゆく」へ。スタンドマイクにもたれかかり、全身を使って歌い上げるLEXの姿は、まさに荒々しいロックスターそのものだった。
Photo by Daiki Miura
「真っ直ぐ生きてゆく」。
この言葉ほど、LEXという人間を表すものもないかもしれない。彼の楽曲には、飾らない感情や弱さが、そのまま言葉になっているような瞬間がある。そうした素直さがあるからこそ、彼の歌は多くの人の心に届くのだと思う。本編最後の「この世界に国が無かったら」では、声を振り絞るように歌うLEXの姿があった。イヤモニを外し、観客の歌声に耳を傾ける。そして、叫ぶ。
「お前ら負けんなよ!」
その言葉に、会場は歓声で応えた。序盤のLEXと終盤のLEX。同じアーティストのライブとは思えないほど、音楽もステージ上の佇まいも変化していた。しかし、不思議とそこに断絶はない。どちらも紛れもなくLEXであり、そのすべてを観客が受け入れている。これほど自由に音楽性を横断しながら、ファンを置き去りにしないアーティストは、そう多くないだろう。
アンコールでは、白い光に包まれたステージにLANAが登場。「明るい部屋」で共演する2人の姿には、やはり特別なものがある。LEXはLANAをひざまずいて迎え、LANAは「お前やっぱかっけーよ!」と声をかけた。兄妹であり、それぞれがシーンの第一線で活躍するアーティストでもある2人。その関係性が、ステージ上の何気ないやりとりからも伝わってくる。
LANA(Photo by Daiki Miura)
「ありのままで生きていこうと思ったんですよ。英語にしたら、This is me」
そんなMCから始まった「This is me」。自分らしく生きることを、LEXは真正面から歌う。斜に構えたり、冷笑したりすることなく、思っていることをそのまま伝える。その真っ直ぐさも、彼の大きな魅力だ。そして、最後の最後に披露されたのは、この日2度目の「BABY」だった。
「僕にとってはみんなが僕のbabyですよ。もう一回いいですか?」
その言葉を合図に、再びビートが鳴り響く。アリーナには、この日最大級のモッシュが生まれた。観客は跳びはね、踊り、もみくちゃになりながら、全身で音楽を楽しんでいる。まるで青春映画のワンシーンのような光景だった。
そして何より印象的だったのが、LEX自身の表情だ。それまで、徹底してステージをコントロールし、ひとつひとつの動作にまで意識を行き届かせているように見えた彼が、この瞬間はどこか肩の力を抜いて、心から楽しんでいるように見えた。もちろん、これもまた演出の一部だったのかもしれない。それでも、最後に見せたあの表情は印象に残っている。
正直に言えば、LEXのラップそのものの凄みを、もっと前面に押し出した瞬間があってもよかったと思う。しかし、それはあくまで筆者自身の好みの話。今回のLEXが目指していたのは、単にラップのスキルを見せつけることでも、フロアを熱狂させ続けることでもなかったのだろう。映像、衣装、照明、楽曲、体の動き、そして観客との関係性までを含めて、「LEX」という表現者をひとつの作品として描き出すこと。そのために、ここまで徹底したステージを作り上げたことに、強いリスペクトを覚えた。そして、あれだけ巨大な空間を、自分自身の表現で満たせるアーティストなのだということも、改めて思い知らされた。
LEXは、やはり特別な存在だ。大きなステージが、よく似合う。
Photo by Daiki Miura











