
2016年のデビュー曲「Location」で注目を集め、翌年のアルバム『American Teen』の大ヒットによって、若くして世界的スターとなったカリード(Khalid)。メロウなR&Bサウンドと等身大の歌詞で同世代の共感を集めてきた彼が、最新アルバム『after the sun goes down』で新たな境地を切り拓いた。デビューから約10年、成功の裏で抱えてきた葛藤や音楽的な進化から、12月3日に控える8年ぶりの日本単独公演への期待まで、音楽ライターの渡辺志保が話を聞いた。
自分らしさを解き放った最新作
ー今日はお時間を割いていただきありがとうございます! まず、昨年リリースされたアルバム『after the sun goes down』について聞かせてください。発表から約1年が経ちましたが、今振り返ってみて、改めてどんな作品だと感じていますか?
カリード:僕にとって『after the sun goes down』という作品は、自分自身を本当の意味で受け入れることを意味しているんだ。アーティストとしてだけじゃなく、一人の人間として、そして成長していく一人の男性としてね。アルバムでは、これまで以上に自分らしさを大切にして、日が沈んだあとの時間を思い切り楽しむということを表現し切った。今も基本的には同じことをしているけど、1年経った今、改めて振り返ってみると、あの時期ならではのカリスマ性やエネルギーを感じられて「本当にいい作品になったな」って思う。
ー今はアーティストとして、以前より自由になれたと感じます?
カリード:うん、ずっと自由になれたと思う。何かをするときに、あれこれ考えすぎたり、ためらったりするんじゃなくて、自分の本当の衝動に従って決断できるようになったと思う。ただ自分らしくいられるし、そんなありのままの僕をファンのみんなが受け入れてくれる。それって本当に素晴らしいことなんだ。
ー2024年にはSNSでゲイであることをカミングアウトしていましたよね。カミングアウトしたことが、アーティストとしてどんな影響をもたらしたと感じますか?
カリード:正直に言うと、自分がインスピレーションを受けるものともっと深くつながれるようになったと思う。それに、自分のクィアとしてのアイデンティティを深く掘り下げることを怖がらなくなった。華やかで大胆な自分もいれば、寡黙で落ち着いた自分もいる。そういういろんな面を表現できるようになったし、何の制限もなく、本当の自分でいられるようになったかな。自分のセクシュアリティをオープンにして、誇りを持てるようになったことは、間違いなく僕の音楽にもプラスになっているよ。100%そう思う。
ーカミングアウトしてから、世界中のLGBTQコミュニティとのつながりも、以前より強くなったと感じることはありますか?
カリード:うん、それもすごく感じる。特に、アメリカだけじゃなく、世界中のLGBTQコミュニティとのつながりが強くなったと思う。僕に共感してくれるファンが世界中にたくさんいて、僕が自分らしくいることを祝福してくれる。そう思うと、これからも自分を表現し続けたいし、同じLGBTQコミュニティの仲間たちのためにも声を上げていきたいと思えるんだよね。
ーサウンド面についても伺いたいと思います。『after the sun goes down』では、UKガラージからノスタルジックなR&B、ポップスまで、さまざまなサウンドを取り入れています。音楽的には、どんなことに挑戦したかったのでしょうか?
カリード:今回は、少しテンポを上げることに挑戦したかったんだ。僕はどちらかというと、ゆったりしていて、気軽に聴ける音楽を作るアーティストとして知られていると思う。でも今回は、とにかく踊りたかった。踊って、自由を感じて、もっとテンポを上げていきたくて。
それで、以前から大好きだったけど、まだ本格的には取り組んでいなかったダンス・サウンド、特にインターナショナルな雰囲気のあるUKのサウンドに挑戦した。アーティストとしての自分にはどんな側面があるのか、そしてどんなアーティストとして知られたいのか。そういういろんな可能性を探れたのは、本当に楽しかったよ。
ー今年リリースされた「Save My Love with Kygo and Gryffin」や「Faded Eyes with Zerb」といったコラボレーション・シングルも、ダンス・ミュージックのテイストが取り入れられていますよね。
カリード:そうなんだ。最近やっているダンス系のコラボレーションは、まさに僕が感じている自由を表していると思うし、とにかく、僕は踊りたいんだよ!
ーアルバムのアートワークにはダンスフロアが写されていて、周りの人たちはお酒を飲んだり、踊ったりして楽しそうにしていますよね。一方で、あなたはどこか遠くを見つめているようにも見える。叙情的な美しさを感じました。
カリード:僕にとってあのアートワークは、クラブにいて、光や音楽に包まれているときに、ふと自分に何かを語りかけてくるような、たった一人の相手と目が合う瞬間を表しているんだ。それから、これまでの作品のアートワークと今回の大きな違いは、以前の作品では僕が一人で立っていることが多かったということ。だから今回は、いわゆる「第四の壁」を壊して、リスナーと直接つながりたかったんだ。「僕はここにいるよ。君と一緒にいる。そして僕たちは一緒に踊っているんだ」って伝えたかったんだよ。
ーアルバムのエグゼクティブ・プロデューサーを務めたのはスウェーデン出身のイリヤ・サルマンザデー(Ilya Salmanzadeh)です。彼はマックス・マーティンとも仕事をしてきたプロデューサーであり、ポップスの王道も得意とする人物だと思うのですが、彼と共にアルバム一枚を作り上げていく中で、どんなふうに相性の良さを感じて行ったのでしょうか。
カリード:イリヤとの仕事は本当に素晴らしかったよ。彼は自分の仕事を極めた、まさに職人のような人だと思うんだ。何世代にもわたって、数え切れないほど素晴らしいアーティストたちと仕事をしながら、独自のサウンドを作り上げてきた人だからね。そんなコラボレーターから学べたこともすごくよかったし、二人で自分たちだけの世界を作れたのも素晴らしかった。僕が自分のヴァイブスやサウンドを持ち込んで、彼も彼ならではのヴァイブスやサウンドを持ち込む。そうやって一緒に作り上げていったんだ。正直、イリヤとスタジオで過ごしたあの日々が、今でもすごく恋しく感じるよ。
ーそもそも、イリヤとはどのようにして親しくなったのでしょうか?
カリード:音楽が大好きだという共通点があったし、実は香りや香水、コロンが好きだというところでも意気投合したんだ。
ーそんな共通点があったんですね。
カリード:そう。僕は独特な香水やコロンが大好きだから、そういうところでもすごく気が合ったんだよ。それに、彼は僕をまるで家族の一員みたいに迎え入れてくれた。本当に素晴らしい経験だったよ。
ーそうだったのですね。イリヤ以外にも才能豊かなソングライターやプロデューサーが大勢参加していますよね。特に「out of body」を手掛けているロドニー・ジャーキンスの参加には驚きました。個人的に、彼が作り出してきたR&Bのサウンドにどっぷりハマった世代なので。スタジオ・セッションの様子はいかがでしたか?
カリード:最高だったよ。彼は何世代にもわたる素晴らしいミュージシャンたちに影響を与えてきたプロデューサーだからね。それもR&Bだけじゃなく、ポップスやヒップホップの世界でも。そんなレジェンドと一緒に座って、間近で仕事ができて、しかも僕にとって本当に特別な曲を作れたんだから。ものすごく楽しかったよ。
ー『after the sun goes down』を完成させたことで、音楽的に新しい自分のスタイルや居場所を見つけられたと感じていますか? 今後の音楽につながる、新たな道が開けたような感覚は?
カリード:うん、本当に新しい道を見つけたと感じているよ。ある意味、今回のアルバムで踊りたいという気持ちはかなり発散できたから、今度はもう一度、自分の魂のもっと深いところを掘り下げてみたいと思っているんだ。そして、僕らの世代に語りかけるような音楽を書きたい。僕らも大人になってきているからね。僕もミュージシャンとしての活動が10年目に差しかかっている。だからこそ、これまで以上に深いところでリスナーとつながれるような音楽を作りたいんだ。
デビュー作からの10年で手にした自信
ーデビュー作『American Teen』のリリースから、もうすぐ10年になりますね。当時と比べて、ソングライターとしてのご自身はどのように変化したと思いますか?
カリード:自分がどんなアーティストになりたいのか、どんな人間になりたいのかを、以前よりずっと理解できるようになったと思う。少し忍耐強くなったし、人と協力してものを作ることも、前より上手になったんじゃないかな。スタジオで過ごす時間についても、何をしたいのか、もっと明確な意図を持つようになった。集中力もずっと高まっているよ。
それは年齢を重ねたからこその変化だと思う。これまで、何もしていなかったというわけじゃないけど……そうだな、かなり長い時間、休みを取っていた時期もあったんだ。でも今はまた音楽に戻って、曲を作ったり、パフォーマンスをしたりしている。だから、この勢いを止めずに、ずっとアクセルを踏み続けていたいんだ。
ーそうだったのですね。デビューと同時に「Location」や「Young Dumb & Broke」と立て続けにシングルもヒットし、大きな成功を収めましたよね。当時のあなたはまだ10代でした。成功に伴うプレッシャーに苦しんだことはありますか?また、そうした時期をどのように乗り越えてきたのでしょうか?
カリード:うん、プレッシャーと向き合うことは、間違いなく僕が経験してきたことの一つ。それこそ子どもの頃からそうだったし、高校生の頃に音楽を作り始めたときもそうだった。
僕の場合は、いろんな場所を転々としながら暮らしてきて、自分に本当の自信を持てないまま過ごしていたんだ。あ、ごめん! うちの子犬(puppy)が……。
ーワンちゃんがいるんですね! 全然構いません。
カリード:でも、自信が持てなかったからこそ、もっと自分の中に自信を見つけようとするようになったんだと思う。その気持ちをソングライティングに注いできたんだ。そして、孤独だった時間を音楽に変えることで、自分の周りにコミュニティを作ることができた。だから、ここまでの道のりで僕を支えてくれた人たちには、本当に感謝している。そういう人たちのおかげで、自分自身に対する自信を大きく育てることができたと思うよ。
ツアーの展望、日本公演への想い
ーツアーについても聞かせてください。2026年は常にツアーで世界各国を回っている状況だと思います。久しぶりに本格的なツアーライフを過ごしていると思うのですが、気分はいかがですか?
カリード:ツアーに戻ってこられて、本当に最高の気分だよ。この10年間で出会い、築いてきたファンのみんなの前でパフォーマンスできるんだからね。僕のキャリアのいろんな時期にファンになってくれた人たちがいる。他のアーティストとのコラボレーションをきっかけに知ってくれた人もいれば、『American Teen』や『Free Spirit』、最新作の『after the sun goes down』、あるいはEPを聴いてファンになってくれた人もいる。どの時期から僕の音楽を聴き始めてくれたとしても、今もこうして一緒にいてくれる。それが本当にうれしいんだ。みんなで楽しみながら、僕自身にとって偽りのない音楽を作り、ファンのみんなを受け入れて、一緒に祝福する。僕はツアーが大好きだし、ファンのみんなのために自分の曲を歌うことも大好きなんだ。だから今回のツアーは、本当に喜びにあふれた経験になっているよ。
ーしかもワールドワイドな環境で、その喜びを感じることができるのはとても特別ですよね。
カリード:世界中でパフォーマンスできるというのは、本当に恵まれたことだと思う。「僕がどこでこの音楽を作ったかなんて関係ない。国が違っても、国境の向こう側にも、僕と同じような人がいるんだ」って感じることができるから。その人たちも音楽を聴いて、音楽を体験している。そして、僕と同じように誰かを愛したり、何かを失ったり、自分自身を探したりしているんだ。世界のどこにいたとしてもね。だから、世界中のファンのみんなに自分の音楽を直接届けられるのは、本当に素晴らしいことだよ。ずいぶん長い間、それができていなかったからね。
ー今回の「It's Always Summer Somewhere Tour」の見どころを教えてください。
カリード:懐かしさをたっぷり感じられると思うし、最高のヴァイブスもある。とにかく楽しくて、すごく楽しくて、本当に素晴らしいショーになるよ。
ー個人的に気になっているのですが、これほど大規模なツアーをしているときは、どんな生活を送っているのでしょうか? 日程を見ると、本当にものすごいスケジュールですよね。ツアー中は、どんなふうにリラックスしたり、エネルギーを充電したりしていますか?
カリード:大切なのは、その瞬間をありのままに受け止めることだと思う。少なくとも外に出て、新鮮な空気を吸ったり、散歩したりする時間は作りたいんだ。街を歩いて、その街の雰囲気に浸ることも大切だと思う。ツアー中は、どの街にも本当に短い時間しか滞在できないからね。だからこそ、街の中に身を置いて、その瞬間があっという間に過ぎ去ってしまわないようにしたい。そして、その場所が自分にもたらしてくれるものを、きちんと受け止めたいんだ。
ーツアー中の今、クリエイティブな面ではどんなモードにいるのでしょうか? 新しい曲を書きたいという気持ちが高まっていますか? それとも、今はツアーそのものに没頭している?
カリード:今はものすごく創作意欲が高まっているよ。実は、すでに別の新しいプロジェクトにも取り組んでいるんだ。一度音楽を作る流れが生まれると、その勢いは止まらないんだよね。だから、これからもツアーを続けて、いろんな国でパフォーマンスするなかで楽しみにしているのは、それぞれの国で感じたものを、自分の中に持ち帰ることなんだ。そして、できればそれを次のアルバムにも取り入れたい。例えば、訪れた国でいろんな音を録音して、その土地の音や雰囲気を音楽の中に溶け込ませることができたらいいなと思う。世界中をツアーしていると、アイデアが次々に浮かんでくるんだ。そして、そのアイデアはいつでも家に持ち帰ることができる。

ー今回のツアーを終えたあと、どんな新しい音楽を聴かせてくれるのか本当に楽しみです。そして12月には、8年ぶりとなる日本での単独公演が予定されていますね。今回の来日では、何を一番楽しみにしていますか?
カリード:この8年間で、日本のファンベースがどんなふうに成長したのかを見るのが楽しみ!それから、懐かしい顔にも会いたい。8年前のライブに来てくれて、今もずっとファンでいてくれる人たちにも会いたいんだ。ずっと応援し続けてくれている、本当のファンのみんなにね。ここまで本当にいろんなことがあったから、長い道のりをずっと支えてくれた人たちには、直接会って心からありがとうと伝えたいんだ。
ー今回の日本滞在で、何か体験してみたいことはありますか?
カリード:うーん、そうだな。街を見てみたい! あの大きな交差点にも行ってみたいんだよね。えっと、確か渋谷だよね?
ーそうです!
カリード:それから日本の食べ物や文化にも、どっぷり浸ってみたい。ショッピングもすごく魅力的だよね。もちろん、そんなに時間がないことはわかっているけど、限られた時間の中でもたくさん楽しみたい!ちょっとした「やりたいことリスト」を作れたらいいなと思っていて、日本にいる間にその項目を一つずつ実現できたら嬉しいなって感じ。
ーでは最後に、日本のファンの皆さんに向けてメッセージをお願いできますか?
カリード:もちろん。日本のファンのみんなに伝えたいのは、戻ってくるまでにこんなに長い時間がかかってしまって、ごめんね、ということ。でも、今回が最後の来日になるわけじゃないからね。それから、みんな、ちゃんと歌詞を練習しておいてね。ライブでは一緒に大合唱するつもりだから!みんなで思いっきり楽しもう!

Khalid: It's Always Summer Somewhere Tour
2026年12月3日(木)東京ガーデンシアター
OPEN 18:00 / START 19:00
公演詳細:https://www.livenationhip.co.jp/all-events/khalid-tickets-ae928417

Khalid|カリード
アルバム『after the sun goes down|アフター・ザ・サン・ゴーズ・ダウン』
発売中(2025年10月10日リリース)
購入・再生:https://khalidjp.lnk.to/afterthesungoesdownAW
【収録曲】
1. medicine
2. in plain sight
3. nah
4. impulsive
5. out of body
6. please dont call (333)
7. tank top
8. whenever youre gone
9. dumbstruck
10. rendezvous
11. true
12. instant
13. momentary lovers
14. yes no maybe
15. angel boy
16. hurt people
17. nobody (make me feel)
