TVerの成長を象徴するもう一つの動きが、テレビ画面で視聴するコネクテッドTVの普及だ。8月の月間再生数は2.3億回に到達し、20~34歳の再生数が前年同月比約238%となっている。

若年層のテレビ離れが指摘される中、なぜテレビ画面でのTVer視聴が伸びているのか。齋藤氏は、若者がテレビコンテンツ自体に関心を失ったわけではないと捉えている。

「若い方は、例えばテレビでは番組を見ていなくても、先ほど挙げたように切り抜き動画はすごく見ていて、テレビで話題になった場面を知っている人も多いんです。決してテレビコンテンツが面白くないわけではなく、たまたまその時間にテレビを見る習慣がない人もいるだけなのではないか」

そんな若年層の視聴を後押しするものとして、ここでも“推し活”の存在を挙げた。好きなタレントを応援するためにTVerを利用する人も多く、SNSではTVer上での番組ランキングを気にするファンの声も見られる。

齋藤氏は「そういうところを加速させていければ、まだまだチャンスがあると思います」と期待。テレビを決まった時間に見る習慣がなくても、テレビコンテンツへの関心はある。TVerは、その関心を実際の視聴へとつなぐ役割を担おうとしている。

テレビ局出身者以外の知見を融合 データ分析で広げる視聴機会

齋藤氏は、NTTドコモ、LINE、ジョンソン・エンド・ジョンソンでマーケティングに携わり、2023年にTVerへ入社した。これまでテレビ局出身者が歴任してきたサービス部門の責任者を務めることは、TVerの成長を見据えるにあたって大きな意味がある。

TVerは現在、コンサルティング会社やメーカーなど、テレビ局以外から入社した社員が大半を占めるようになっており、「バックグラウンドが本当にいろいろな人がいるので、その知見を掛け合わせることで、新しいことができるのではないか」と目論む。

「テレビ局の方は、番組制作のノウハウはもちろん、どういう番組がヒットするのかという感覚値がすごくあると思っています」と受け止めた上で、番組制作の経験や感覚と、マーケティングやデータ分析の知見を融合させることに、自身の役割を見いだしている。

地上波と補完し合いながら、新たな番組IPも生み出す

TVerの成長は、地上波放送にどのような影響を与えていくのか。齋藤氏は、今後の役割には大きく二つの方向性があると考えている。

一つは、放送を補完する役割。TVerをきっかけに番組の面白さに気づいた人が、次は地上波で視聴するようになる。例えば『VIVANT』を見逃した人がTVerで視聴し、その翌週はリアルタイムで地上波で見るという流れを作ることで、「相互に補完し合いながら、全体のパイを大きくしていくことがあると思います」と前を見据える。

もう一つは、地上波放送だけでは実現が難しいコンテンツの可能性を広げること。「地上波ではコストなどの問題でできないことも、TVerならできる場合があると思うんです」とした上で、放送局の枠を超えた制作陣の組み合わせや、地上波では挑戦しにくい企画などを例に挙げる。

そうした取り組みが増えれば、既存の番組IPの価値を高めることにもつながり、さらに新たなIPを生み出す実験的な場としても活用できそうだ。齋藤氏は「既存のものを1から10や100にすることと、ゼロから1を生み出すこと、どちらにも可能性がある。だから、どちらか一方ということではなく、両方やっていくことが大事だと思います」と力を込めた。

●齋藤祥平
2010年、NTTドコモへ新卒入社し、デジタルマーケティング業務を担当。LINEでもデジタルマーケティング業務を担当し、その後ジョンソン・エンド・ジョンソンで自社製品のブランドマーケティングに携わる。2023年8月、TVerへ参画。