
斉藤壮馬の1年ぶりとなる5th EP『nameless』には、曖昧で名前のない季節をテーマに制作された4曲が収録されている。ブラスが入った春を思わせる高揚感のあるサウンドに、甘く切ない恋の情景が重なる「Sakura Chill」を筆頭に、今作は、これまで恋の歌を意図的に作ってこなかった斉藤がそのルールを取り払い、初めて恋をテーマにした楽曲にも挑戦した作品でもある。新たなトライがふんだんに盛り込まれた今作について、インタビューで聞いた。
―7月から8月にかけて行われた初のZeppツアー<Blue Adolescence>で、「Sakura Chill」と「Killa Killa」というニューEPに収録される2曲を披露しました。手応えはどうでしたか?
自分がこれまでやってきた音楽の中でも、新しい領域にチャレンジしてみようと思い、ツアーのテーマを「Blue Adolescence」=「青春」にしました。ツアーでは毎回新しいことをやろうという自分なりのルールがありまして、今回は新曲をライブで初めて披露することにして、「Sakura Chill」と「Killa Killa」を演奏したのですが、皆様すごく温かく受け入れてくださいました。それが今回の『nameless』という、どこか青さを感じるEPを作りたいなという着想につながっていきました。
―ツアーの時は、EPの全貌は決まっていなかったんですね。
そうですね。”影も形もない”という状態の、”影”ぐらいはあったかもしれないですが。ファイナルで「11月4日に『nameless』というEPを出します」と言ったがゆえに、僕というよりはチームの皆さんがかなりシビアなスケジュールになってしまいました(笑)。でも今回は、みっちりコンセプトを準備したというよりは、たまたま「Sakura Chill」が春なら「Killa Killa」が夏だろうな、ということは見えていたので、あとは自分の直感がどう働くかが肝でした。でも、そう言っているけどその直感とやらはいつ働くんですか?という気持ちもあったので、スリリングではありましたね(笑)。偶然の連鎖にも助けられて、今日、ぎりぎり取材をしていただけています。
―春と夏をイメージする曲が最初に上がっていたのに、例えば「春夏秋冬」というテーマではなく、曖昧で言葉にくくれない季節をEPのテーマにしたのはどうしてだったのでしょう?
『nameless』というタイトルをどう受け取ってもらえても嬉しいですが、僕個人としては「名前のない季節」という意味合いがあります。例えば今年の9月は雨が多くて、夏でも秋でもない季節に思えて。曖昧なものとか、一言では言い表せないような状態がずっと好きなんです。季節は春夏秋冬で分かれていますが、実際はもっとグラデーションがある。秋のようでもあり、冬のような日もあったりして。そういう曖昧なものがとても好きだと感じているからこそ、今回のコンセプトが生まれました。なんとなく、3曲目の「Autumn Leaves」が秋で、4曲目の「Dry Skin」が冬というイメージではあるのですが、そこまで限定せずに、いろんなシチュエーションで聴いていただけたら嬉しいです。
―季節感に加えて、いろいろな感情が描かれながらも、恋愛感情の存在感が強い4曲だと思いました。恋愛における感情の揺れや気持ちの曖昧さを描くことは、意図していたのでしょうか?
はじめから明確に意図していたわけではなかったと思います。最初に2曲を書いた時は、僕のスケジュールにちょっと余裕がありまして、リリースの予定はないものの、贅沢なことに、とりあえずできた曲をレコーディングしておこうという話になりました。最初に「Killa Killa」ができて、シンセサイザーがキラキラ輝くようなポップロックにしたいと思いました。それでキラ系で韻を踏めないかなと思っていたら、「Killa」がヒップホップスラングでめっちゃイケてる人のことを言うと知ったんです。そこから「Killa Killa」、キラキラというタイトルの曲を僕が出したら面白いんじゃないか、という発想につながっていきました。それで、「じゃあ歌い出しをどうしよう?」と考えた時に、シンセサイザーのキラキラ感が中学生の初恋のように思えて、「恋ってさ、もっとあんなふうに 思ってたよりもとっくに はまっちゃってるみたいなものだろ?」という歌詞を書いて。結果的に、今まで自分が書いていなかったタイプの歌詞が書けて、作っていて面白かったです。
―EPの資料にも、「意図的に恋の歌を作っていなかったが、そのルールを取り払った」と書かれていますが、「Killa Killa」のサウンドから自然とそうなったんですね。
そうですね。次に、もう1曲グルービーな曲が欲しいと思って「Sakura Chill」が生まれました。「Killa Killa」の主人公よりは年齢が上がっている、でもそこまで大人でもない、大学生くらいの年齢なのかなと。子供と大人の間のような時期とも言えるかもしれません。資料に書いてあるように、これまであれこれ自分に制限をかけていましたが、年々そんな制限はどうでもいいじゃないか、という気持ちになってきて。この2曲がよりその思いを後押ししてくれました。ただ、レコーディングしたのは1、2月でしたが、その後、全然時間がなくなって。早めに録っておいて本当に良かったです(笑)。
―「Killa Killa」の間奏の、煌びやかで華やかでカオスな感じは、まさにザ・キラーズ的だなと。
そのオマージュ感も含めて中学生っぽいというか、素直ですよね(笑)。間奏のアレンジはデモにはなかったのですが、Sakuさんが思いのほかヘヴィなものを提案してくださり、結果的には非常に気に入っています。ライブでも皆さんとても盛り上がってくれて、これからもたくさん演奏したい曲ですね。
―初めての恋の曲ではありますが、恋の甘苦しさをとてもストレートに描いていて、振れ幅に驚きました。
表面的には中学生の初恋っぽい雰囲気を醸し出しつつ、色々な読み解きができる歌詞なんじゃないかなと思います。たとえば、この主人公は恋するピュアな若者とも、自分の脳内で物語を勝手に進めている怖い人とも読み解ける。もちろんどんなふうに聴いて、感じていただいても嬉しいのですが、個人的には意外と味わい深い曲だと認識しています。
―「Sakura Chill」は、タイトルが日本語表記ではなく、しかも「Chill」なのが面白いですが、どんな思いがあったのでしょう?
「Killa Killa」があったので、次の曲もストレートなタイトルにしてみてもいいかもなと思いました。歌詞はかなり早く書けましたね。切ない歌詞だと言っていただくことが多いのですが、この主人公……せっかくなので今思いついたことを言うと、地縛霊みたいというか、ずっと何かにとらわれている存在のような気がします(笑)
―恋愛感情にとらわれすぎていますよね(笑)。
恋愛に限らず、その瞬間をずっとループしているような感じというか。<誰もが知らなかったことがわかった ような気がしただけだったんだ>っていう歌詞とか、考えようによってはなかなか怖いじゃないですか(笑)。一方で、僕の曲に「デート」という曲があるんですが、「Sakura Chill」は「デート2.0」みたいな、マイルドにした「デート」というイメージもありますね。ありがたいことに、僕はファーストライブから同じバンドメンバーのみんなと活動させてもらっていますが、ベースを担当してくれている越智俊介さんのグルーヴィーなベースを聴かせたいなと思ったり、「Killa Killa」では重永亮介さんのキーボードさばきを聴きたいなと思ったり、そういう発想から作った曲が今回のEPには多いかもしれません。
―「Sakura Chill」の、たっぷりブラスが入ったアレンジは、Sakuさんとのやり取りの中で構築されていったのでしょうか?
そうですね。「Sakura Chill」の歌のレコーディングのスケジュールを組んだ時は余裕があったんですが、いざレコーディング日になると、僕もSakuさんも前後のスケジュールがめっちゃ詰まっていて、歌を録った後にアレンジを詰めるという独特なやり方で進めました。ブラスのアレンジに関しては、僕からリファレンスもお送りしつつ、リクエストをしました。僕としては打ち込み系のアレンジがいいかなと思っていて、最初はその通りにSakuさんはデモを作ってくださったんですが、だんだん自分のバンドメンバーの演奏で聴きたいなという気持ちになって。結果的に、打ち込みと生音がすごくいいバランスになったと思っています。
―サビ前とサビにラップっぽいフローが入ります。そして、勢いのあるサビではないという展開も特徴的ですよね。
ヒップホップっぽいトラックにしたいというのは、ちょっとあったんですよね。リファレンスを何曲かお送りしたのですが、たとえば同じ事務所の上田麗奈さんの「ティーカップ」や、aikoさんの「花火」、RAG FAIRの土屋礼央さんのバンド、ズボンドズボンの「boy」などでしたね。制作チームに、1Aとか1Bとかセクションに分けて歌詞を送らなかったんですが、どこがサビでどこがCメロなのか人によって解釈がまちまちで、レコーディングがすごく難しかったです(笑)。発想としては、一応ヒップホップ的な、同じコード進行がループしていくんだけど、メロディや展開が微妙に変わって曲の表情が変わっていく曲にしたかったんです。
―3曲目の「Autumn Leaves」は、ポストロックテイストの強い楽曲です。
轟音ではなくクリーントーンのシューゲイザーや、おっしゃる通り、ポストロックやマスロックみたいなサウンドにしたいと思いました。あと、イントロが長い曲だって素敵だぜ、という気持ちをお伝えしたくて。でも満足はしているんですけど、結果的にラジオなどではかけにくくなってしまいました(笑)。アウトロも結構長いんですが、バンドメンバーのみんなが忙しくて、3、4曲目はドラム以外は宅録で録ったものを送っていただいたんです。そしたら、みんなが良い意味で好き勝手に弾いてくれていました(笑)。逆に言うと、今回のスケジュールじゃないと生まれなかった演奏の妙があるんですよ。最初はフェードアウトにする予定でしたが、あまりにも格好良かったのでそのまま採用しました。歌詞はリフレインだし、歌は割とシンプルですね。一枚一枚の葉っぱが風に舞って揺れている。コードが激しく動くわけではないので、音としては違うけど、発想としてはファンク的とも言えるかもしれません。とにかく、うちのバンドメンバーの最高の演奏を聴いてほしい、という気持ちが強くありました。ありがたいことに、我々をバンドとして聴いてくださる方がとても多くて、各メンバーのパートもすごく盛り上がってくれるんです。なので、ライブだと10分くらいになるかもしれません(笑)。
―悲しみ、苦しみ、憎しみ、慈しみを飲み込んで吐き出すことを繰り返すことが、恋愛だと歌っているようにも聞こえたのですが。
この曲は恋愛だけを表現した曲だとは思っていなくて、もっと瞬間的なこと、あるいは永遠性を歌っているのかもしれないですね。先ほども言いましたが、街を歩いていると、たまに葉っぱの一枚一枚がとても細かく風に揺らめいている様子が、ゆっくりに見える時があって。シンプルに恋というよりは、円環や循環の曲ですかね。だから歌詞もループ系というか。<愛したって意味はないって 悟っちゃってるみたいで>という歌詞のところは、本来であれば大気に溶けている精霊のような存在が、この現世で肉体というくびきを与えられ、制限されているようなイメージです。愛したって意味はないと言っていながら、最後も<何度も 巡る>って歌っていますし、手の届かないものや叶わないものへの憧憬もあるのかな。
―4曲目の「Dry Skin」は、3曲を経て、孤独感や喪失感にたどり着くという流れを感じました。
このEP自体が時系列順だとは特に思ってはいませんでしたが、流れで聴いていただくと、確かにそうとも解釈できそうですよね。曲としては、生き物の生命活動が停止すると、当然ですがだんだん体から水分が失われて、肌が乾燥していきますよね。さらに体自体がなくなってしまえば、その乾いた肌にすら触れられなくなる。ほぼ歌詞のままですが、そんな内容の曲です。
―イントロの少し跳ねたビートとメロディアスなリフが絡むアレンジが特徴的ですが、Sakuさんのアイデアだったんですか?
そうですね。僕が最初に送ったデモはもっと暗くて静かな曲で、それこそ深夜の街をあてもなく徘徊するようなイメージでした。ただSakuさんにデモを渡したら「思いついたアレンジがあるから一回試してもいい?」とおっしゃって。もちろんですとお返事したら、わりとすぐに現行アレンジに近いものが送られてきました。ものすごく格好良かったんですが、僕の敬愛するART-SCHOOLさんのとある楽曲にリズム解釈が近寄り過ぎてしまうかも、という懸念があって。だったらいっそ、切なくもあるけどよりポップさを増した方向性に舵を切ってしまおうと決め、今に至ります。この曲もドラム以外は宅録で、曲中のとある一瞬に差し込まれる越智さんのベースが特に気に入っています。
―<ここにはもう何もねえ>という歌詞も、ART-SCHOOLをイメージさせますが。
やはり自分がこれまで触れてきた音楽にはどうしたって影響されてしまいますよね。それでいうと、その部分は個人的には、ART-SCHOOLさんというよりもSyrup16gさんのようなイメージが近いかもしれません。とはいえ、もちろんことさらに似せよう、寄せようと思っているわけでは全くなくて。歌詞に関しては、個人的には<剥身(ひとり)の夜って>という表記や<まるで壊れた/冷蔵庫の中で/引きこもる化け物>というフレーズが気に入っています。この曲の主人公は、大切な存在をなくして、それに触れることはもう二度とないとわかっていながら、<まどろんだふりのまま>街をさまよう。その現実を直視しきれない感じが、曲のポップさと絶妙に絡んでいる気がします。
―<ここにはもう何もねえ>のシャウトっぽいボーカルの後のアンサンブルも、すさまじいですよね。
そうですよね。ここは僕のデモだとすぐに攻撃的なギターソロを入れるつもりでしたが、Sakuさんはその意図を汲みながらも、絶妙なアンサンブルを組んでくださって。当初のシンプルで乾いたギターサウンドから、よりひねくれたポップソングに化けることができました。
―前EPの『Nuance』は、0と1ではくくれない曖昧な領域にフォーカスを当てた作品でした。『nameless』も含めて、今は曖昧なものに惹かれる時期なんでしょうか?
そうだと思います。僕は言葉や歌で表現活動をしていて、言葉にしたらこぼれ落ちてしまうようなものを、逆に言葉を使ったり、歌を通したりして感じたいですね。前々作は『陰/陽』という作品で、陰と陽という相反するものが入り混じっていくような表現が入ったEPでしたが、僕は多分、100%正しい、みたいなことに全く興味がないのかもしれません。言っていただいたように、『Nuance』の後に、「Blue Adolescence」というツアーがあって、今回の『nameless』というEPがある。曖昧さにも無数のグラデーションがありますが、ここ最近はわりと地続きの流れのように感じています。
―今後のビジョンはありますか?
いつでも曲は作りたいですね。デモはたくさんあるんですよ。シティポップ的なものとか、今までにない方向性のものとか。僕は声優という入り口から音楽をやらせてもらっていて、声優は役者ですから、さまざまなキャラクターを演じますよね。その要素は音楽にも多大な影響を及ぼしていると思っていて、曲ごとに全く違う表情を見せるような存在になれたら嬉しいですね。プロデューサーのスマホの中には、僕が送ったデモのかけらがたくさん保存されているんです(笑)。それらを使うかどうかも含めてまだ未知数なのですが、そのときどきの自分の直感や内なる声に耳を傾けていきたいと思います。来年はいよいよ音楽活動10周年なので、さらに楽しいことをしていきたいですね。
<リリース情報>
斉藤壮馬
5th EP『nameless』
2026年11月4日(水)リリース
1. Sakura Chill
2. Killa Killa
3. Autumn Leaves
4. Dry Skin
Official HP:https://www.saitosoma.com/
