
CHUDAHYE CHAGIS(チュダヘ・チャジス)は韓国の伝統的な歌謡文化とダブ/レゲエ〜ファンクの境界を消失させる、実に摩訶不思議なプロジェクトだ。
韓国民謡をニューウェーブを融合させ、Tiny Desk Concertsにも出演するなどワールドワイドに活躍していたバンド=SsingSsingのボーカルであるチュダヘは、解散後に自身のイマジネーションを徹底的に突き詰めるためにCHUDAHYE CHAGISを新たに立ち上げた。そこではアジアン・サイケの怪しい音像を保ちつつ、「クッ」という朝鮮半島の伝統的なシャーマニズムの儀礼からの影響が色濃く表れている。
巫堂(ムーダン)と呼ばれるシャーマン/祈祷師が人と神々をつなぐ存在として歌い踊り、今もなお民間信仰として息づいているクッ。チュダヘはその節回しをモダンなグルーヴと混ぜ合わせ、まさに唯一無二としか言いようのないアンサンブルを繰り出している。リズム隊を担うのは、田島貴男やmei eharaとのコラボでも知られる韓国のジャムバンド、CADEJOのキム・ジェホ(Ba)とキム・ダビン(Dr)。そこにギタリストのイ・シムンが硬軟織り交ぜたプレイで色彩を加える。2ndアルバム『SOSUMINJOK』が第23回韓国大衆音楽賞で「今年のアルバム」を受賞、収録曲「Heosse!」も最優秀R&B・ソウル・ソング賞に輝くなど、韓国国内においても高い評価を獲得している。
そんな彼らが、内田直之のオーガナイズするライブイベント『ELECTRIC DELAY LAND Vol.2』で初来日。11月7日(土)と8日(日)の両日、アルバムのエンジニアとしてもタッグを組んだ内田のライブ・ダブと共にライブを披露する予定だ。今回はバンドの核であるチュ・ダヒェにインタビューを実施し、CHUDAHYE CHAGISのコンセプトやアイデンティティを聞いた。
「Heosse!」韓国・Asian Pop Festivalでのライブ映像
巫歌とファンクの出会い
―まず、CHUDAHYE CHAGISというプロジェクトが始まった経緯について教えてください。
チュ・ダヒェ:SsingSsingの解散後、ソロプロジェクトを構想していたときに、偶然クッを観る機会があり、巫堂(ムーダン)のパフォーマンスに強く魅了されました。その経験をきっかけに、巫歌(ムガ)を学びたいと思うようになり、「巫歌とバンド音楽を組み合わせてみたらどうだろう?」と考えるようになったんです。
その後、まずギタリストのイ・シムンに連絡して、一緒に音楽制作を始めました。そしてシムンを通じてキム・ジェホとキム・ダビンに出会い、現在のCHUDAHYE CHAGISが結成されました。
―以前活動されていたSsingSsingでも、韓国民謡を現代的なポップミュージックと融合させる試みが行われていました。CHUDAHYE CHAGISの音楽的な個性をより明確に理解するために、SsingSsingがどのような理念や方向性のもとで活動していたプロジェクトなのか、説明していただけますか?
チュ・ダヒェ:SsingSsingにおいて、3人のボーカリストは韓国民謡を歌うソリクン(韓国の伝統的な歌い手)の役割を果たしていました。それにギターとベースとドラムを加えた6人編成のバンドです。歌を土台に、バンドでセッションを重ねながらアレンジを加え、伝統的な形式にとらわれず、自由に音楽を作っていたんです。
大小様々なステージで自由に歌いながら活動していたのは確かです。ただ、SsingSsingのグループ内で音楽的な方向性について十分な合意ができていなかったことは、少しだけ心残りです。結局、それぞれが思い描く方向性の違いを埋めることができず、解散することになりました。
SsingSsing: NPR Music Tiny Desk Concert
―以前のインタビューで、子どもの頃は俳優を志していたと伺いました。その後、いかにして韓国民謡に親しみ、シンガーとして活動するようになったのでしょうか?
チュ・ダヒェ:幼い頃からずっと俳優になりたいと思っていたのですが、両親に反対され、そのたびに夢を諦めなければならなかったんです。そんな中、18歳のときに偶然、西道ソリという平安道(ピョンアンド)や黄海道(ファンヘド)に伝わる歌を習うことになったんです。私には歌の才能があったのか、1年ほど学んだあと、民謡を専攻するために大学へ進学しました。
ただ、俳優への未練はまだ残っていたんです。それで改めて演技を専攻するために大学に入り直しました。その過程でミュージカルや声楽、ジャズなど、様々な音楽に触れたのですが、自分にフィットするものは見つけられなかったんですよね。その後、SsingSsingでの活動を通じて再び民謡を歌うようになり、音楽を創作する楽しさを知りました。そのとき初めて、民謡が持つ魅力に深く引き込まれていったんです。それからクリエイターとして、自分で楽曲を構想し、ステージを作り上げる経験を重ねてきました。その積み重ねが、現在のCHUDAHYE CHAGISの姿につながっているのだと思います。
―子どもの頃に俳優を志していた経験は、現在のステージでの表現にどのような影響を与えていると思いますか? また、歌うことと演じることの間に、共通するものを感じますか?
チュ・ダヒェ:私は演技を専攻していましたし、現に今も演劇やミュージカルの俳優として活動しているので、そうした経験が歌うことにも良い循環をもたらしていると思います。ボーカリストとしてだけでなく、様々な舞台で役を演じながら観客と出会い、経験を積んでいくことで、自然と視野が広がり、表現力も豊かになっていくように感じています。
私はそうした経験を、歌にも積極的に活かそうとしています。ただ音程を正確に歌うだけでなく、歌詞を深く感じ取り、繰り返し噛みしめながら、そこに込められた感情や物語を自分なりの方法で表現する。そうして私が感じ取り、表現したものが、観客の皆さんにもしっかり届いてほしいと常に願っています。
チュダヘ(Photo by Sosuminjok Company)
―では改めて、CHUDAHYE CHAGISについて伺います。このプロジェクトを通じて、どのようなビジョンを実現したいと考えたのでしょうか? プロジェクトの核となるコンセプトについても教えてください。
チュ・ダヒェ:CHUDAHYE CHAGISを始めるにあたって、最初に考えたのは巫歌とバンド・サウンドを組み合わせることでした。クッのファンキーな魅力を伝えたいと思ったんです。巫歌にはあまり馴染みがなかったり、難しく感じたりする方もいるとは思います。ただ、私はそこにあるリズムやエネルギーそのものが、ものすごく魅力的だと信じているんです。
同時に、クッという儀式のポジティブな働き──人々の心を癒やす力ですね──も音楽に溶け込ませたいと考えました。単に巫歌を現代的なバンド・サウンドで再解釈するだけではなく、クッが持つエネルギーや癒やしのメッセージを、観客の皆さんがそれぞれの方法で体験できるような音楽を作ること。そして、そこに自分たちならではの色を加えていくこと。私にとって、過去の文化を保存すること自体には、それほど大きな意味はないんです。過去の歌を現代の音楽へと取り込み、今の時代にも息づく音楽として、新たに生み出すことに力を注いでいます。それが、CHUDAHYE CHAGISの中心にある目標です。
―巫歌を自身の音楽に取り入れるにあたって、その歴史や文化的背景をどのように学び、理解を深めてきたのでしょうか?
チュ・ダヒェ:実際に韓国でクッを執り行っている2人の巫堂の元を直接訪ね、教えを受けました。実際に現場へ足を運んでクッを観察し、関連資料を調べ、普段から疑問に思っていたことを質問して確認するという過程も重ねました。現場での経験と資料をもとに、一つひとつ考証し、学びながら巫歌を身につけたのです。

独自のグルーヴと「少数派」の矜持
―CHUDAHYE CHAGISの音楽には、ダブ/レゲエやファンクの要素も色濃く表れています。こうした音楽にはどのようなきっかけで親しむようになり、自身のプロジェクトに取り入れるようになったのでしょうか?
チュ・ダヒェ:ファンクについては、ジャンルそのものを再現するというより、音楽全体のムードやエネルギーを取り入れることに重点を置きました。レゲエは伝統的な歌と自然に調和する音楽ですし、ダブに関しては内田直之さんから受けた影響が大きいです。
―現在、ともにライブを行っているバンドメンバーについても教えてください。彼らとはどのように知り合い、一緒に活動するようになったのでしょうか?
チュ・ダヒェ:ギターのシムン、ベースのジェホ、ドラムのダビンがCHUDAHYE CHAGISのメンバーです。私を含め、メンバー全員がそれぞれ異なる音楽的なバックグラウンドを持っていますが、レゲエ、ソウル、ヒップホップなど、様々なジャンルやユニークな音楽が好きだという共通点があります。巫歌を扱うバンドという、馴染みがないけれども魅力的なところから出発し、お互いに楽しく意見を交わしながら、即興的なセッションを通じて自由に音楽を作ることが多いです。
―1stアルバム『Underneath the Dangsan Tree Tonight』には、「Ritual Dance」というファンクチューンが収録されています。私もAsian Pop Festivalでライブを観ましたが、強烈なグルーヴと中毒性が特に印象に残っています。この楽曲は、どのようなインスピレーションから生まれたのでしょうか?
チュ・ダヒェ:「Ritual Dance」は、済州島の巫歌を参考にしながら、神と人間をはじめ、あらゆる存在が一つになって楽しく遊ぶ場を思い描いて作りました。サビのリフレインが特徴で、制作を始めたときにシムンがフレーズを作り、ヒップホップのサウンドがよく合いそうだと考えたんです。ほかのメンバーもそれぞれのグルーヴを存分に活かしながら、曲を完成させました。
―2ndアルバム『SOSUMINJOK』についても聞かせてください。ネオソウル的なサウンドが強まり、バンドメンバー同士の呼吸や一体感も、より深まったように感じました。今回はどのようなコンセプトのもとで制作を進めたのでしょうか?
チュ・ダヒェ:『Underneath the Dangsan Tree Tonight』は全曲が巫歌をベースに作られているので、民謡的な要素はそれほど目立っていませんでした。また、私が構想を立ち上げ、主導的に制作を進めたため、メンバーそれぞれの音楽的な個性を十分に表現するのは難しかったと思います。
一方、『SOSUMINJOK』では、5年間にわたるライブ活動を通じて培ってきたメンバー同士の結束力や息の合った演奏が自然と反映されています。特定のコンセプトを事前に計画したわけではないものの、共に過ごしてきた時間がお互いに影響を与え、より有機的で密接な関係のなかで生まれた作品なんです。結果として、メンバーそれぞれが持つマイナーでユニークな個性が、より鮮明に表れました。
―『SOSUMINJOK』(少数民族)というタイトルには、多数派とは異なる道を歩んできたCHUDAHYE CHAGISならではの音楽的なアイデンティティが込められていると伺いました。なぜこの言葉をアルバムのタイトルに選んだのでしょうか? また、音楽的に少数派の道を歩むことに、どのような誇りや価値を見出していますか?
チュ・ダヒェ:私が考える大衆音楽とは、より多くの人が気軽に、親しみを持って聴ける音楽です。ただ、私を含めたバンドメンバーは、大衆的な好みよりも、それぞれが持つマイナーでユニークな趣味嗜好のほうが強かったんですよね。
アルバムタイトルの『SOSUMINJOK』は、実際に少数民族が演奏する音楽という意味ではありません。現代に生きる少数民族の暮らしに目を向けると、多数派とは異なる生き方をしながらも、自分たち固有の文化やアイデンティティを守り続けている、独自性に富んだ力強い姿があります。そうした姿が、私たちの音楽に対する姿勢と似ていると感じたんです。
確かに私たちの音楽は、大衆にとって簡単には親しめないものかもしれません。でも、それが私たちならではのアイデンティティなのであれば、無理に別の道を探すよりも、自分たちが進みたい道をそのまま進み続けようと思いました。そのなかで、自分たちだけの音楽を作り続けることに意味と誇りを感じています。
内田直之との化学反応、ライブで届ける「祈りと祝祭」
―巫歌やクッは音楽であると同時に、祈りや儀礼としての側面も持っています。CHUDAHYE CHAGISのライブでこうした音楽を披露するとき、音楽的な魅力と儀礼としての意味をどのように両立させていますか?
チュ・ダヒェ:かつてのクッは、村全体の宴であり、祭りでもありました。私たちもライブのたびに、私たちの宴に来てくださった皆さんが思いきり楽しく盛り上がり、厄を払い、良いエネルギーだけをたっぷり持ち帰ってくれることを願っています。私たちが望んでいるのは、それだけです。

Photo by National Theater of Korea
―今回は内田直之さんが全体のミキシングを手がけるイベント『ELECTRIC DELAY LAND Vol.2』への出演で来日されます。内田さんはこれまでCHUDAHYE CHAGISの音楽制作にも参加されていますが、そもそもどのようなきっかけで知り合ったのでしょうか? また、内田さんとの共同作業は、CHUDAHYE CHAGISの音楽にどのような影響を与えてきたと思いますか?
チュ・ダヒェ:以前、シムンがNST & The Soul Sauceと仕事をした縁で内田さんと知り合い、制作をお願いしたところ、快く引き受けてくださったのです。
内田さんとの仕事は、CHUDAHYE CHAGISの音楽に、サウンド面で新たな可能性をもたらしてくれました。私は楽曲の背景や意味、私たちが目指すサウンドの方向性を説明する程度にとどめ、それ以外はすべて内田さんにお任せしたんです。それほど多くの言葉を交わしたわけではありませんが、制作に入る前から、私たちの音楽に対する深い信頼と連帯感が感じられました。何より、私たちが想像もしていなかったようなミキシングによって、CHUDAHYE CHAGISならではの音楽的な個性を、より鮮明にしてくださったんです。
まるで同じバンドのメンバーであるかのように私たちの音楽を理解し、応えてくださった共同作業でしたし、私たちにとっても、それまでの自分たちの音楽を新たな視点から見つめ直す経験になりました。今後また新しい作品を一緒に作る機会があるなら、真っ先に内田さんと再び仕事をしたいと思っています。
内田直之インタビュー、CHUDAHYE CHAGISとの出会いを語る(日本語・韓国語字幕)
―そんな内田さんとともに、今回の来日公演ではどのようなライブを披露する予定ですか?
チュ・ダヒェ:これまでアルバム制作でしかご一緒できなかった内田さんとの仕事が、ついにライブのステージで実現するという意味で、私たちにとっては夢のような、とても特別な公演です。
セットリストは私たちのアルバム収録曲を中心に構成する予定ですが、何よりも内田さんと一緒に披露するライブ・ダブがとても楽しみです。アルバムで完成させたサウンドが、ライブのステージでどのように新たな形で展開されるのか、私たち自身も大いに期待しています。
―最後に、以前から個人的に気になっていたことを一つ聞かせてください。ステージで身に着けている羽のような装飾品は、いったい何なのでしょうか?
チュ・ダヒェ:これは……韓国をはじめ、アジアの様々な地域のシャーマンや祭司たちが、共通して頭に装飾品を身に着けていることから着想を得たアイテムなんです。神と人間をつなぐ役割を担うシャーマンにとって、頭の上に長く伸びる装飾品は、「天と繋がりたい」という願いを表現したものなのではないかと、そう考えたんですよね。現代的なシャーマンの姿を表現するのにふさわしいスタイルだと思いましたし、今ではCHUDAHYE CHAGISならではのシンボルになっています。
韓国・Asian Pop Festivalでのライブ映像

ELECTRIC DELAY LAND Vol.2
2026年11月7日(土)・8日(日)東京・恵比寿LIQUIDROOM
開場/開演:15:00
11月7日(土)DAY 1
LIVE:CHUDAHYE CHAGIS(From KOREA)、LITTLE TEMPO、FLYING RHYTHMS、ANJI
DJ:E.O.U、大石始
11月8日(日)DAY 2
LIVE:CHUDAHYE CHAGIS(From KOREA)、OKI DUB AINU BAND、TURTLE ISLAND、んoon
DJ:COMPUMA、George Williams
ALL MIXING:Naoyuki Uchida(内田直之)
チケット(税込・別途ドリンク代)
1日券:前売 5,500円/当日 6,000円
2日通し券:前売 8,500円/当日 9,500円
