アヴァランチーズが語る、音に宿る記憶とサンプリングの魔法──細野晴臣や池田亮司との共作、「第二の故郷」日本との絆

人間の記憶は、子供の頃に見た広告や、耳にした音楽と密接に結びついている。でも実はそれが企業によって、人々の記憶に残るよう巧妙に仕組まれたものだったとしたら? 

オーストラリアから登場し、2000年のデビュー作『Since I Left You』でサンプリングを芸術の域まで高めたアヴァランチーズ(The Avalanches)。6年ぶりとなる最新作『No Bad Memories』で、彼らはトレードマークとも言えるキッズ・コーラスやオブスキュアなソウル・ミュージックはもちろん、ありとあらゆるコマーシャルや企業のサウンド・ロゴ、デバイスの起動音などをサンプリングし、聴き手にさまざまなテクノロジーと、ノスタルジーを喚起させる。

日本で撮影され、ハーレイ・ジョエル・オスメントが出演した同名の短編映画と並行して制作されたという本作には、ジェイミー・XX、バリー・キャント・スウィム、アニマル・コレクティヴのパンダ・ベア、フェイス・ノー・モアのマイク・パットン、ジェシー・ランザといった面々に加え、前作に引き続きウィーザーのリヴァース・クオモと、ヤー・ヤー・ヤーズのカレン・Oが参加。ジャングルのメンバーによるローデッド・ハニー(Loaded Honey)や、チュニジアのフットワーク・プロデューサーであるハディージャ・アル・ハナフィ(Khadija Al Hanafi)、ラッパーのジョン・グレイシャー(John Glacier)、ヴィーガン(Vegyn)、ポートレイツ・オブ・トレイシー(Portraits Of Tracy)といった新世代のアーティストたちも抜擢し、さらには日本からも細野晴臣や池田亮司が参加するなど、オールスター・キャストによって、新しいのにどこか懐かしい、奇妙な仮想現実空間を作り出している。

そんなアルバムのリリース当日、プロモーションのために来日していたアヴァランチーズのメンバー3人とのインタビューが実現。メタリカからドンキーコングまで、さまざまなトピックをザッピングする情報量の多い会話の中から、彼らの音楽の原点と、サンプリングの哲学が浮かび上がってきた。

Photo by Yukitaka Amemiya

左からトニー・ディ・ブラシ、ロビー・チャーター、アンディ・セケレス

日本を「第二の故郷」と語る理由

―新作『No Bad Memories』は、2020年の前作『We Will Always Love You』の制作にも参加していた元ミッドナイト・ジャガーノーツのアンディ・セケレスがバンドに加入して初めてのアルバムですが、加入したきっかけは?

トニー・ディ・ブラシ:16年間レコードを作り続けて、助けが必要だと感じていたんだ。それで、一緒に曲を書いて、僕たちを活性化させてくれる人が欲しかった。しばらくの間話し合いを重ねて、他の人たちと一緒に作業をしたりもした。

ロビー・チャーター:何が起こったかというと、僕たちが2枚目のアルバム(2016年作『Wildflower』)を作るのに16年もかかった間に、カニエ・ウェストは10枚ぐらいのアルバムを出したんだ。それで僕たちは「どうやってそんなに早くできたんだ?」って思ったんだけど、「ああ、彼はサンプリング素材を探すチームを抱えているんだ」ってことが分かったんだ。だからまず、何人かの若者と契約を結んで、彼らにサンプルを探してもらうことにした。それから、新しい誰かと曲作りをしてみるのもいいかなと思ったんだ。

トニー:他にも何人か一緒に曲作りを始めた人がいたんだけど、彼らはオーディションに落ちた。それからある日アンディの家に行ったら、彼がサンクチュアリ・レイクス(Sanctuary Lakes)名義で作っていた新しい曲を聴かせてくれたんだ。それが本当に良くって、コード進行も何もかも素晴らしかったんだ。それでロビーに「アンディを呼んで一緒に曲作りを始めて、うまくいくかどうか試してみよう」と言った。そうしたら、本当に素晴らしい結果になったんだ。

―正式にバンドのメンバーになって、どんな気持ちですか?

アンディ・セケレス:うん、ここにいられて良かったと思う。

トニー:本当に?(笑)

アンディ:(笑)ええと、もう少し掘り下げてみよう。確か2017年から、僕たちは一緒にこの旅を続けてきたんだ。僕たちは密接に協力し合い、一緒に仕事をし、曲作りをしてきた。だから、今こうして僕が加入したことを話すのは、なんだか不思議な感じがする。だって、もう長い間一緒に活動してきたんだから。でも、こうして彼らと過ごす時間が増えたり、日本に来て音楽について人々と話したり、僕たちが築いてきた素晴らしいクリエイティブな関係にもっと深く関われるようになったのは、本当に嬉しいことだよ。

―昨年の12月、あなたたちの音楽のファンだという俳優のハーレイ・ジョエル・オスメントと一緒に、群馬県の水上でアルバムと同名の短編映画を撮影したそうですね。これはどういったコンセプトの作品なのでしょう? いつ頃公開される予定ですか?

ロビー:来年初めに公開できればいいなと思っている。当初はアルバムと同時期に公開する予定だったんだけど、本格的な映画制作は初めてで、時間がかかってしまったんだ。コンセプトは主人公が人生で見てきた広告のせいで自分の人生を誤って記憶し、どれが自分の記憶で、どれが人生で見てきた広告なのか区別がつかなくなってしまうというものだ。

―水上は東京からフジロックの会場の苗場に向かう途中にある温泉街ですが、どうして水上だったのでしょう? 「映画にピッタリな素晴らしいアパートを見つけた」そうですが、何か撮影時のエピソードはありますか?

ロビー:とても興味深い撮影だった。そのアパートは水上ではなくて、(東京の)府中にあったんだけどね。マックスという日本の友達が、水上に行って撮影することを提案してくれたんだ。でも、最初に日本でロケ地を探していた時は、廃墟になった建物ばかり見ていた。廃墟になったスキー場とか、そういう類の廃墟をいろいろ調べていたんだ。それで、「あそこで撮影したら面白そうだ」と思った。その後、そのアイデアは一旦保留になったんだけど、水上を車で走っていた時に、「ここは何だろう? 面白そうだ」と思ったんだ。そこは廃墟になった古いスキーリゾートで、ずいぶん前に下調べしていたけど、すっかり忘れていた場所だった。それで僕たちはそこに入って、いろいろ撮影したんだ。まるで自然が部屋を占領したかのようだった。木々や植物が生い茂り、割れたガラスが散乱していて、とても悲しく、どこか不気味な場所だった。でも、それは同時に美しいものでもあったんだ。

僕たちは、主人公が街を離れて広告を後にし、ほとんど迷子になって、方向感覚を失うような状況に陥ることを望んでいた。そして彼は最終的に人里離れた場所で、エルドラド(El Dorado)という缶ジュースの自動販売機を見つけることになる。そして僕たちは……雪の中の自動販売機の写真を撮る、有名な日本人写真家(大橋英児)について調べていて、自分たちもやってみたいと思ったんだ。ハーレイの写真を貼った自動販売機を自分たちで作って、雪の中で撮影したいとね。

トニー:だけど水上に到着すると、雪も何もなかった。それで僕たちは、「雪の中の自動販売機のシーンをどうやって撮ろう?」って思ったんだけど、翌朝目が覚めたら、ロビーが「窓を開けて」と言った。そしたらあたり一面雪景色で、まるでクリスマスみたいだったんだ。屋根や木々に雪が積もっていて、本当に美しかった。僕たちが寝ている間に、そんな景色が広がっていたんだ。まさに最高のコンディションだった。とても寒かったけどね。

―そんなふうに、あなたたちがこれまで何度も日本を訪れてきたことも、新作に影響を与えているような気がします。

ロビー:そう思うよ。芸術家や音楽家との友情もあると思う。僕たちはオーストラリアを離れてインスピレーションを得たり、レコードを探したり、休暇を過ごしたり、曲を作ったりするために、何度もここに来た。そして、今回のアルバムが形になっていくにつれて、僕らの成長過程で親しんできた音楽テクノロジーの多くが日本で生まれたことに気づき、すべてがひとつになって、ここがまるで……。

トニー:第二の故郷のような場所になったんだ。

ロビー:その通り。そうした日本との精神的なつながりが、このアルバムではとても大きな役割を果たしている。すべてが最終的に、ここに繋がっているような感じがしたんだ。

俳優ハーレイ・ジョエル・オスメントは以前からアヴァランチーズのファンで、Instagramで彼らの投稿に「いいね」を連発していたことが交流のきっかけに。東京で撮影された「I Give Everything I Have 2 U feat. Loaded Honey」MVにも出演

メタリカ、池田亮司、任天堂──音楽とテクノロジーをめぐる記憶

―『No Bad Memories』というタイトルは、5インチのフロッピーディスクの広告に由来しているそうですが、アルバムにもフロッピーディスクやレーザーディスク、CD、Spotify Premiumといったメディアの名前がほぼ年代順に登場し、最後はレコードを思わせるノイズ混じりの音で終わります。これにはどんな意図があったのでしょう?

ロビー:それは気づかなかったな。

トニー:まったく意図していなかったよ!(笑) 僕たちはただ、音楽メディアのさまざまなフォーマットを通して、自分たちを表現しているつもりだったんだ。

ロビー:でも、素晴らしい洞察だね。

―ともかく、フロッピーディスクとiPodがジャケットを飾っていたりするように、過去のテクノロジーへの愛着がテーマになっているということでしょうか?

ロビー:そこはむしろ、記憶の探求と言えるだろうね。そうしたデバイスは、僕たちの記憶を保存してきたものなんだ。テクノロジーと記憶は密接に結びついている。だから、そこは探求するうえでとても興味深い領域だったんだ。

―Spotify Premiumへの言及は、その話とどう結びつくのでしょう?

トニー:ある時点で、「どれも今となっては古いテクノロジーなんだな」と思うようになったんだけど、僕はあの時代が大好きなんだ。つまり、メタリカのラーズ・ウルリッヒがNapster(P2P方式の音楽ファイル共有サービス)を訴えた時代のことだね。あれは当時(2000年頃)大きな問題になった。メタリカは著作権侵害に反対する広告とか、いろいろ出していたんだ。それで、現代のNapsterについても言及したら面白いんじゃないかと思ったんだ。Spotifyのことはいつも頭の片隅にある。彼らはアーティストにまともな報酬を支払っていないから。

ロビー:ナンバーワンのプラットフォームであるだけに、自分たちにとっても重要な問題だからね。僕らはただ、みんなにこの問題について考えてほしかったんだ。

―実際、池田亮司さんとポートレイツ・オブ・トレイシーが参加した「Break Out Corporate Tag」では、メタリカがNapsterを訴えた、2000年のMTV Video Music Awardsでのコントがサンプリングされています。当時この騒動を見ていて、どう感じましたか?

ロビー:今になって振り返り、当時の映像を見返すほうが、むしろ興味深く感じるかな。メタリカにとってあの騒動は、散々な結果になってしまったからね。

トニー:それは彼らが金持ちで、大きな権力を持っていたからかもしれない。そんな彼らが「誰かに盗まれている」と文句を言っているようなものだったから。

ロビー:彼らには反逆者というイメージがあったのに、Napsterを訴えたことで、突然ビジネスマンか何かのように映ってしまった。当時、自分がどう思っていたか正確には覚えていないけど、彼ら自身も、自分たちがやっていることをあまり楽しんでいないように感じたのは覚えている。でも、もしかしたら彼らは正しかったのかもしれない。実際、今ではそういったプラットフォームが無料で音楽を奪い去ってしまったわけだから。ラーズ(・ウルリッヒ)は最初から正しかったのかもしれないね。

アンディ:あの騒動は、彼らのキャリアにおける一種の危機的な局面でもあったと思う。もちろん、メタリカは素晴らしいバンドだし、アイコニックな存在だけど、あの頃は時代との接点を失っているようにも感じられた。彼らのドキュメンタリー映画(『メタリカ:真実の瞬間』)で描かれていたのも、ちょうどあの時期だったはずだ。もちろん、彼らはその後に大きな復活を遂げた。でも、Napster騒動の背景には、自分たちの存在意義にまつわる不安があったような気もする。僕の考えが間違っているかもしれないし、彼らの気持ちを代弁するつもりもないけど、当時は少しそんな感じがしたかな。

ロビー:今の話、案外いいところを突いているかもしれないね。

トニー:すぐにラーズから連絡が来るよ。名誉毀損で君を訴えるって(笑)。

アンディ:いやいや、メタリカの悪口を言っているわけじゃないから(笑)。

2000年のMTV Video Music Awardsで、メタリカのラーズ・ウルリッヒが俳優のマーロン・ウェイアンズと共演。音楽ファイルの「共有」を正当化する若者に対し、ラーズが同じ理屈で彼の所有物を勝手に持ち去るという、Napsterを皮肉ったコントを披露した

―同じく池田亮司さんが参加した「Unicorn Quest™」は架空のゲームのサウンドトラックをイメージしたそうですが、彼との作業はいかがでしたか?

トニー:思い返すと、スタジオで過ごした時間は全体の約15%で、残りの約85%は夕食を共にしながらおしゃべりをしていたような気がする。長年憧れていた人と知り合えたのは本当に素敵な時間だった。

ロビー:彼は本当に素晴らしいアーティストなんだ。どんな人なのか、気取ったところがあるのか​​、最初は想像もつかなかったけど、とても気さくで面白くて、本当に素敵な人だった。僕たちは何時間も話し込み、まるで何年も前から彼を知っていたかのようだった。彼と一緒に作業をしていると、そんな風に感じられた。

―音楽的には、少し意外な組み合わせにも思えました。

ロビー:どうだろうね。彼の作品は大好きだし、昔からずっと魅了されてきた。ビジュアル作品も同様にね。観るたびに「一体どうやって作っているんだろう?」って考えてしまう。音を自在に操っているように聴こえるけど、それは自分たちもやっていることだからね。

彼と話をするうちに、僕たちの間にあるつながりが少しずつ理解できるようになったんだ。お互いにノイズやパンク・ミュージックの世界から出てきたという経歴もそうだし、年齢も近い。僕たちが気が合うのも、音楽的なつながりがあるのも、そう考えると納得がいく気がしたんだ。

―マイク・パットンとハーレイ・ジョエル・オスメントが参加した「Superfun!™ TV Spot」は、任天堂とセガの次世代ゲーム機戦争を意識したそうですね。日本だけの現象だと思っていたので海外でも同じような状況だったことに驚いたのですが、ゲームやゲーム音楽にまつわる思い出はありますか?

ロビー:特に印象に残っているのは広告だね。あの2つの会社が若い男性をターゲットにしていたかどうかはわからないけど……。

トニー:そうだったと思うよ。広告はすごく男臭い感じで、まるで商品を買えと怒鳴りつけて、無理やり買わせようとするような感じだった。「任天堂のゲーム機を持ってないアホになるな! 買わないとみんなに嫌われるぞ!」みたいな。

1994年に北米で展開された『スーパードンキーコング』のCM映像。「NOT ON SEGA」のコピーでライバル企業を挑発するなど、当時の攻撃的/男性的なゲーム機競争を象徴している

ロビー:そういう記憶が、今でも頭の中にこびりついてる。でも、君(アンディ)はゲーム音楽にもすごく思い入れがあるよね。

アンディ:うん、僕は子供の頃、間違いなくビデオゲームに夢中だった。特に任天堂だね。すべてのゲーム機を持っていたわけじゃないけど、友達と一緒によく遊んでいたよ。スーパーファミコンのことも覚えてる。僕は持ってなかったけれど、近所に持っている子がいて、みんなでその子の家に集まって遊んでいたんだ。

音楽的な観点から言えば、ゲーム音楽の作曲家についてのYouTube動画をたくさん観ていて、とても興味深く感じた。それぞれのゲーム機のサウンドが、どう進化していったのかを知るのも面白い。ファミコンからスーパーファミコン、そしてNINTENDO 64、それぞれに独特のサウンドがあるんだ。

なかでも『スーパードンキーコング』のサウンドトラックは本当に素晴らしいと思う。確かイギリスのレア社が制作したから、音楽を手がけたのもイギリス人の作曲家だったんじゃないかな。あのゲームが作られたのは90年代半ばで、ローランドのワークステーションや、当時のテクノで使われていたシンセサイザーの多くが、アナログからデジタルへと移行していた時期なんだ。それによって特徴的なサウンドが生まれて、UKテクノなんかでもよく耳にするようになった。そうした音色や、厚みのあるパッド・サウンドなんかが、当時のゲーム音楽にも使われていたんだ。

ああいう音楽の多くは、大きなスタジオでバンドと一緒に制作されたものではなく、ひとりの人間が部屋にこもって作っていた。非常にエレクトロニックな音楽だったんだ。

『スーパードンキーコング』水中ステージで流れる幻想的な楽曲「Aquatic Ambiance / 水中レベル WATER MUSIC」は、アンビエント・ミュージックの名曲として知られる

サンプリングがもたらす「新たな命」

―ジェイミー・XXとコラボレートしたリード・シングルの「Every Single Weekend」ですが、彼の2024年作『In Waves』にも同名のインタールードが収録されていました。あなたたちのバージョンにはカナダのビールのコマーシャルやジルベルト・ジルの曲がサンプリングされて全く違う雰囲気になっていますが、この曲はどのように発展していったのでしょう?

ロビー:もともとはジェイミーのアルバム用に制作を進めていた曲で、確かアンディがアウトロを作ったんだ。ジェイミーはそのアウトロを、自分のアルバムにインタールードとして採用した。実際の曲そのものは入れずに、コーダのような形で使ったんだ。

トニー:かなりクールだなと思ったね。

ロビー:それで僕たちは、「まだ曲が丸ごと残っているじゃないか」と、自分たちのアルバムのために制作を続けたんだ。ビールのコマーシャルを加えたのは、かなり終盤になってからだった。すごく面白い試みだったよ。曲の中間にあるブレイクをどうするか、ずっと決めかねていたからね。

トニー:実際、別の(サンプリング)音源を使ったバージョンで、もうマスタリングに出そうとしていたんだ。それを前日に変更した。いや、もしかしたら当日の朝に差し替えて、そのままマスタリングに出したのかもしれない。

ロビー:相当なリスクを覚悟したのを覚えている。あのブレイクはかなり突飛だし、曲のテンポとも合ってないからね。でも、面白い仕上がりになったと思う。

―ジルベルト・ジルに対しては何か思い入れはありますか?

トニー:もちろん。人生でたくさんレコードを買ったりサンプリングしたりしてきたけど、そこには発見すべき美しい音楽がたくさんあって、出会った時はいつでも嬉しいものだよ。サンプルの権利処理を進めていたとき、彼と連絡を取るのが本当に大変だったんだ。ブラジルではものすごく重要な人物だからね。そのときに、彼が政治家でもあることを知ったんだ。ブラジルの政治家だよね? Wikipediaにもそう書いてある。僕の記憶は正しい! ノー・バッド・メモリーズ!(笑)

ジルベルト・ジル「Axé babá」(「Every Single Weekend」で使われているのは0:50〜の箇所)

―(笑)アヴァランチーズは、サンプリングした原曲の歌詞をタイトルにしていることが多いですよね。原曲を単なるサウンドの素材として扱うだけではなく、そこからイメージを広げて、原曲の持つ意図を尊重しているような気がするのですが、いかがでしょう?

ロビー:サンプルは音としての魅力だけでなく、それぞれに固有の背景があるのが面白いよね。その音がどこから来たのか、どんなアーティストが関わっているのかにも意味がある。僕たちが言うべきことではないのかもしれないけど、音楽の継承について考えるのが好きなんだ。オリジナルの録音が、別の形で新たな命を得ることもあるからね。

―今おっしゃったことを体現しているような曲を、アルバムから挙げてもらえますか?

ロビー:「Our Love Is Alive」かな。電子音楽への愛や、音楽が命を宿す感覚を思い出させてくれるから。スザンヌ・チアーニが手掛けたコカ・コーラのサウンド・ロゴに影響されたんだけど、実際にサンプリングしたのは、彼女が子供番組に出演したときの声だった。そんな思いがけない形で、彼女をアルバムに登場させることができて本当に嬉しかったよ。そこがサンプリングの面白いところなんだ。ひとつの音に、いくつもの意味や文脈が積み重なっているところがね。

―スザンヌ・チアーニや、アルバム1曲目の「Bd-R」でサンプリングしている冨田勲といった電子音楽のパイオニアたちからは、どういった影響を受けましたか?

ロビー:スザンヌからは大きな影響を受けている。もともと電子音楽家としての彼女の作品のファンだったし、アルバムのテーマとして広告の要素がどんどん重要になっていくにつれ、広告音楽やサウンド・デザインの歴史における彼女の存在の大きさを、改めて実感するようになった。彼女がアナログ・モジュラー・シンセサイザーを使って生み出したサウンド・デザインは、信じられないほど素晴らしい。確かコカ・コーラは、今でも彼女が作った音を使っているんじゃなかったかな。

アンディ:制作の初期段階で、君(ロビー)がスザンヌの広告音楽を集めたコンピレーションを教えてくれたのを覚えているよ。僕たちが架空のジングルを作るとき、インスピレーションを得るために、何度もその作品を聴き返したんだ。

ロビー:冨田勲のシンセサイザー作品については何年も前から、何度もサンプリングを試みてきたんだ。アナログならではの美しさを持った、夢のようなサウンドだよね。

―アニマル・コレクティヴのパンダ・ベアが参加した「Highfield」では、ドゥルッティ・コラムが合唱団とコラボレートした「Highfield Choir」がサンプリングされています。彼のトレードマークでもあるギター・プレイではなく、異色とも言えるこの曲を選んだのはなぜでしょう?

トニー:他にもいくつかのバージョンがあって、彼のギターワークをサンプリングしようとした曲もあった。制作過程でたくさんのアイデアが生まれて、そのひとつがあの合唱団だったんだけど、たまたま最後まで残ったのは、とても美しく聴こえたし、特定のサウンドやコードとうまく調和したからなんだ。

サンプリングするときに、「このアーティストはこういうところが素晴らしいから、それを使おう」と決めつけてしまうと、なかなかうまくいかないものなんだ。誰かとコラボレートするときと同じで、曲にぴったり合うかどうかは試してみないとわからない。サンプリングには、そういう謎めいたところがあるんだ。

ロビー:それに、アーティストのスタイルがあまりにも個性的で、その人自身のイメージと強く結びついている場合もある。彼のギターを使ったアイデアも気に入っていたけど、「Highfield」ほどの魔法は感じられなかった。いつか形になるかもしれないけどね。

―この曲には、クレイロが歌った別バージョンもあると聞きました。どうして同じ曲をパンダ・ベアとクレイロの2人に依頼したのですか?

トニー:どうしてそれを知ってるの?

―日本盤CDに封入されているインタビューで、ロビーが話してましたよ(笑)。

ロビー:曲というのは、いくつもの命を持つことがある。僕らはレコードを完成させるのに何年もかかってしまいがちだ。そうなると、未完成のまま残っていた曲が、アルバム全体のサウンドが変化していくうちに、しっくりくるようになることもある。その間に、ひとつの曲を何人もの人に歌ってもらうこともあるんだ。

クレイロについては、彼女が歌っている動画は持っている……いや、持っていたんだけど、きちんとした音源として録音してはいないんだ。今でも街を歩いていると、ふとあのメロディが頭に浮かぶことがある。「何の曲だっけ?」と思って、しばらくしてから「ああ、クレイロが送ってくれたあの動画だ」と思い出すんだ。曲は完成しなかったけど、本当に美しいメロディだった。どこかヴァシュティ・バニヤンを思わせる雰囲気があったよ。

―いつかそのバージョンを聴けるようになると思いますか?

ロビー:わからないな。あの動画が入っていた携帯電話が壊れてしまって、もう手元には残っていないと思う。クラウドのどこかに保存されているかもしれないけどね。

アンディ:でも、パンダ・ベアと一緒に曲を作れたのは素晴らしい経験だった。

ロビー:そうだね。彼とのコラボは必然だったような気がする。サンプリングを駆使して音楽を作ってきたという共通の経歴があるし、お互いビーチ・ボーイズが大好きだったり、共通点がたくさんあるからね。

細野晴臣との共作、AI時代に問い直すサンプリングの意義

―細野晴臣さんが参加したラスト曲「The Pavements Light」では、ハイ・ローズが歌うホーギー・カーマイケル作曲の「Skylark」がサンプリングされています。細野さんは「Hong Kong Blues」や「The Old Music Master」などホーギー・カーマイケルの曲をよく取り上げていますが、これは偶然でしょうか?

ロビー:いやいや、偶然なんだ。ハイ・ローズやフォー・フレッシュメンを知ったのは、若い頃のブライアン・ウィルソンが影響を受けたグループだったから。それで、彼らの音楽を聴いてみたくなって、昔よくレコードを買い集めていた。今回その曲をサンプリングしたのも、そういう経緯があったからなんだ。

―以前、細野さんのラジオ番組にも出演していましたが、楽曲制作はどんな風に進めたんですか?

ロビー:まずはアイデアを交換して、それから彼と直接会って話したんだけど、その後のコラボレートはメールやオンラインだった。

―好きな細野さんの作品はありますか?

ロビー:たくさんあるよ(笑)。ロボットみたいな顔をしているレコードは何だっけ? そう、『S-F-X』! あの作品ではサンプリングも使われているよね。「Sports Men」という曲が大好きなんだ。それから『トロピカル・ダンディー』、『HOSONO HOUSE』も素晴らしいアルバムだよ。

アンディ:YMO『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』の日本盤オリジナル・プレスを持っていて、今でもよくジャケットを眺めているよ。最近は昔ほど聴いてないけど、あのジャケットが大好きでね。アート・ディレクションが素晴らしいと思う。

ロビー:もう一つのお気に入りは、ジャケットに小さな動物がたくさん描かれたエレクトロニックな作品で、なんだっけ……『オムニ・サイト・シーイング』! 実はケイシー・マスグレイヴスと作った曲があって、まだリリースされてないけど、そこであのアルバムの曲をサンプリングしているんだ。

―アルバムのラスト、ハイ・ローズの「Skylark」が終わったあと、コンピューターの起動音のようなサウンドが鳴りますが、少し不吉な印象も受けます。このアルバムはバッド・エンドなのでしょうか?

ロビー:あれはアンディが作ったサウンド・ロゴだよね。

アンディ:最後にあの音が入ることで、アルバムがひとつの作品として完成するような気がするんだ。

ロビー:いいアイディアだよね。そうでなければ、これまでのアルバムみたいに、物悲しいスクラッチ・ノイズが入ったサンプルで終わっていただろうから(笑)。

アンディ:でも、不吉な感じがするっていうのは面白いね。僕はハッピーな音だと思ったから。

ロビー:僕もどこか物悲しさを感じるよ。あの音によって現実の世界に引き戻されるような気がするから。結局のところ、自分たちが聴いていたレコードも、ひとつの商品だったんだってね。

―フィジカル盤には収録されていない曲が、デジタル版にいくつか追加されていますよね。そのひとつが「Total Recall」ですが、同名のアーノルド・シュワルツェネッガー主演映画も、自分自身の記憶だと思っていたものが、実は企業によって植え付けられていたというという物語です。

ロビー:単なる偶然にしては出来すぎているよね。曲そのものに影響を与えたわけではないし、まったく同じテーマというわけではないけど、あの映画は子供の頃の記憶に強く刻まれているし、今回のアルバムと関連する部分はあると思う。

―往年のコピー機の名前を冠した「Xerox Altalink B8055」では、フロッピーディスクへの警戒心が語られています。今では笑い話ですが、こうした新しいテクノロジーには常に不安がつきまとってきました。先日コーネリアスの小山田圭吾さんと細野晴臣さんが、お互いにリスペクトしつつも、AIについて正反対の見解を示しているのが印象的だったのですが、小山田さんは新しい技術に好奇心を持って接していて、細野さんは距離を置いているという感じです。あなたたちはAIが音楽に何をもたらすと思いますか?

ロビー:わからない。僕たちはサンプルを使って作品を作るコラージュ・アーティストだから、AIがもたらすものについて、いろいろ想像してみるんだけど。

すべてのサンプルには意味があると思っている。例えば、YouTubeにアップされている昔の広告をサンプリングするとするよね。それは、かつて誰かが自宅でビデオテープに録画して、大切に保管していたものなんだ。そして何年も経ってから、YouTubeにアップしようと思い立った。つまり、僕たちが使っている音の一つ一つに、そうした記憶や歴史が刻まれているんだ。

その背景にある物語が失われてしまったら、一体何が残るんだろう? もしAIが生成した音楽をサンプリングしたとして、そこにサンプリングならではの魂が宿るのかどうか、僕にはわからない。そうした背景も含めて、音に宿っている魂のようなもの。それこそが、サンプリングの魔法だと思うんだ。

―このアルバムを作り上げたことで、どんな記憶を発見できましたか?

ロビー:まず思い浮かぶのは、子供の頃に見ていた広告の記憶だね。特にオーストラリアのCM。誰かがひとつのCMの話をすると、みんなでその歌を歌い始めたりして。

トニー:オーストラリアのCMって、やたらと派手なものが多かったんだ(笑)。

ロビー:それだけじゃなくて、自分の幼少期や祖父母のこともいろいろと思い出した。広告とは関係なく、子供の頃から記憶に残っている音についてもね。

トニー:僕たちはもともと、S900(※AKAI S900:フロッピーディスク・ドライブを搭載したサンプラー)を使ってサンプリングを始めたんだ。だから、フロッピーディスクを読み込むときの音を聴いた瞬間、僕たちが音楽を作り始めた90年代に一気に蘇ってきた。あの読み込み音は今でも忘れられない。本当に素晴らしい時代だった。実際、『Since I Left You』のデータは、すべてフロッピーディスクに保存されていたんだ。長い間聴いていなかったあの音を久しぶりに耳にして、バンドが生まれた頃や、すべてが始まった当時の素晴らしい記憶が蘇ってきたよ。

アヴァランチーズ / ノー・バッド・メモリーズ【CD】 – UNIVERSAL MUSIC STORE

アヴァランチーズ

『No Bad Memories』

発売中(2026年10月16日リリース)

〈日本盤〉

・ライナーノーツ by 野村訓市・歌詞・対訳付

・メンバーによるインタビュー付

再生・購入:https://umj.lnk.to/TA_NBM