Tani Yuukiが語る、未知との遭遇、美学に加えた新たな1カ条

「W/X/Y」「Myra」などのヒット曲を持つシンガーソングライター・Tani Yuukiが、10月14日、ニューEP『SPACE RENDEZVOUS』をリリースした。

昨年デビュー5周年を迎え、12月には初の日本武道館公演を成功させた、Tani Yuuki。ひとつの節目を経たこのタイミングで作り上げられた『SPACE RENDEZVOUS』には、アレンジャーとしてボカロP・ぬゆり、岩崎慧、プレイヤーに中西道彦(HANA、Number_iなど)、伊藤大地(ex. SAKEROCK)などが参加。さらに、一新されたライブのサポートメンバーにはKOBY SHY(藤井 風など)、伊吹文裕(星野源、あいみょんなど)を迎えるなど、新たなミュージシャンたちがTani Yuukiの音楽にジョインしている。

かつて「自分のアレンジを崩されるのは、アレルギー反応が出るくらいに嫌だ」と語っていたこともあったTani Yuukiにとって、これは大きな変化だ。なぜ今、新たなコラボレーターたちを招いて音楽を作ろうと思ったのか。そんなテーマを軸に話を聞くと、数々のヒット曲を世に送り出してきたアーティストとしての覚悟に満ちた言葉が出てくるとともに、「人を信頼して任せることの怖さ、そして喜び」という人間くさい話へと展開していった。その両面こそが、Tani Yuukiらしさだと思う。

ーまとまった作品としては3rdアルバム『航海士』以降、1年4カ月ぶりのリリースとなるEP『SPACE RENDEZVOUS』を聴いて、モードが変わったというか、突き抜けたなと感じました。

あ、本当ですか。嬉しいです。おっしゃる通りだと思います。昨年12月、Tani Yuukiとしての一個の夢であり、ファンの人たちとの約束でもあった武道館を叶えることができて、5年という節目を描けたかなと思っていて。そのあと、この先5年、10年、自分は何をしたいのか、何を描くべきなのかを考える時間があったんです。年末だったこともありましたし、地元・茅ヶ崎に帰る機会もあったし、歳を重ねていく上で親族たちの状況が変わっていたりとかも含めて、色々考えるところもあって。振り返ってみれば、武道館が終わって一回燃え尽きちゃったタイミングでもあったかもなと思います。そんな中で、もっと新しいサウンドや音楽ジャンルに出会いたい、新しい人と出会いたい、新しい場所へ行きたいと思うようになったんです。逆に、自分自身のことをまだ全然わかりきってないかもしれないとも思ったし。一言でまとめると、「未知との遭遇をしたい」という結論に至ったんですよね。

ーまずひとつ、突き抜けたと感じた要素はーー『航海士』を作り終えたあとにインタビューさせてもらった際、「次の5年は、音楽的な楽曲を作っていきたい。身体が能動的に動く音楽、聴いた人が『なんかわかんないけど楽しい』と思える曲を増やしたい」とおっしゃっていて、それがしっかり形になっているという意味で、着実に目指す方向へと進まれているのだなと思ったんですよね。それはまさに「新しいサウンドに出会いたい、新しい人と出会いたい」という好奇心が形になったものだとも言えそうですね。

ありがとうございます。たとえば「エイリアンズ」は、ボカロPのぬゆりさんにアレンジで入っていただきました。そもそも僕はボカロを通ってきたので、お願いする前から「相性がいいだろうな」と思っていたんですけど、案の定、すごく相性がよくて。ぬゆりさんは音数、手数の多い方で、僕は逆に間を作るタイプのアレンジをするので、そこの化学反応が面白かったなと思います。ぬゆりさんっぽさとTani Yuukiっぽさが掛け合わさって、いいものになったかなという感じがします。「音楽って楽しいんだぜ」ということを前面に出せた曲だと思うので、リード曲になるべくしてなったかなという気がしますね。

ー以前は、自分が作ったデモからアレンジを変えられることがアレルギー反応を示すくらい嫌だとおっしゃっていたのに、そうやって新しい人と出会いたいと思えたり、他の人の要素を自分の曲に取り入れることに喜びを感じられるようになったりしたのは、かなり大きな変化なんじゃないですか?

本当、おっしゃる通りで。確かにそんなことを言ってたなあ。自分の曲に対して、「こだわり」とも言うんですけど、ちょっと執着が強すぎたかなと思って反省する部分もあったり。執着しすぎずに、預けたというか、人のアレンジや要素を取り入れたという意味合いでは、「ムーンウォーカー」が一番大きいですね。これは岩崎慧さんにお願いしたんですけど、もともとワンコーラスだけを作ったときに、自分の中で続きの構成を考えようとすると、想像できて面白くないなと思っちゃって。岩崎さんに、アレンジ含めて続きを作ってほしいという依頼をしまして、返ってきたものが聴いていただいた通り、グルーヴのあるダンスナンバーで、めちゃくちゃ楽しいサウンドになっていて。そこに僕が歌とメロディを乗せたんですけど、自分のディスコグラフィで初めて「ラップを入れたくなるな」と思って、実際に入れてみたりしました。

ー今振り返ると、かつて自分の曲に人の手が入ることに拒絶反応があったのは、どういう気持ちがあったからなんだと思いますか?

自分の手がける部分が減っていけば減っていくほど、Tani Yuukiの純度が削れていくような感覚でいたんですよね。でも音楽って、そういうことじゃないかもなということを、岩崎さんから返ってきた曲を聴いて思いました。だからそのあとの「エイリアンズ」も、ぬゆりさんと一緒にのびのびと制作ができたかなと思います。今回は例外なく全曲、何がしかの形で誰かしらの力を、今までよりも借りていますね。「コールドスリープ」は新しくサポートバンドをやっていただいている方たちに入っていただいたり、「エブリ・デブリ」は初めてフィドルを目の前で弾いていただいたり。「サテライトブルー」も音楽周りのクリエイティブを一緒にやってくれている人に一旦預けてサウンドを追加してもらって、それがすごくよくて、そのあと一緒にスタジオに入って、自分の作品で初めてシンセベースを弾いたり、シューゲイザー的なアレンジを作ったり。今までの制作は孤独を感じることが多かったんですけど、今回のEPはーーもちろん詞曲を作るときにそう感じることは間違いなくあるんですけどーー全ての楽曲で「めっちゃ音楽したな」っていう感じがします。

ー具体的に取り上げるなら、たとえば「ムーンウォーカー」で言えば、TaniさんのルーツにはEDMがあって、Tani Yuukiサウンドのひとつでもあったと思うんですけど、同じダンスミュージックという大きな括りの中でも、2ステップなど今のトレンドを取り入れつつ、より洗練された音楽が誕生したなという印象を受けました。

おっしゃる通り、今までEDM・ダンスチューンっぽいJ-POPは出してきたんですけど、間違いなく、その中にない楽曲になりましたね。

ー「コールドスリープ」は、藤井 風さんのバンドでバンドマスターを務めるKOBY SHYさん、星野源さん、あいみょんさんのサポートで活躍するスーパードラマー・伊吹文裕さんなど、新たなサポートメンバー陣で作り上げられた曲ですよね。

すでにフェスやイベントを一緒に回っているんですけど、これからツアーで一緒にやっていくメンバーなこともあって、今回の曲の何がしかで一緒にアレンジできたらいいなと思って。素晴らしいミュージシャンの方々なので、生音をあてたらすごく化けるのではないかと思って「コールドスリープ」をお願いしたら、結果的にめちゃくちゃよくなりました。一緒にこの曲を形作ったという経験を経て、今回のツアーを一緒に回れたら、より関係性も深くなって素敵な景色を見ることができるんじゃないかなと思っています。

ーしかも歌詞とサウンドの温度感が一致しているというのも、今回のEP全体において大事なポイントだと思うんですよね。これまでは自分の孤独、葛藤、胸の内で燃え上がっているものとかを書いていて、そういった歌詞だと自分の中で煮詰めたサウンドのほうがハマって聴き手に深く突き刺さる音楽になるという部分もあると思うんですけど、今回は歌っている内容も突き抜けているというか、明るいほうを見ているというか。その歌詞やテーマだからこそ、オープンマインドでいろんな人と楽しく一緒に作った音がガチっとハマって、音楽としていいものができているんじゃないかなと思いました。

「kotodama」『HOMETOWN』の時期とか、本当にネガでしたよね(笑)。

ーその頃のインタビューは、内心、ちょっと心配しましたもん。

ははははは(笑)。『航海士』を出したあとの『Still love... this』ツアーのときも「抜けましたわ」とか言っていたのに、内に向かったことを歌っていたりもしたので。そういった意味でも、制作過程や音楽としても、今回のEPは本当に突き抜けられたと思います。曲って、素直じゃないですか。自分はフィルターを通しているつもりでも、音楽って素直だから、ネガな部分が届いてしまうのは違うなと思ったんですよね。僕の美学として、そういうことにはならないようにしていこうという1カ条を追加しました。人間、生きていればネガティブなことはついて回るし、そこが誰かの背中を押すフックになると僕は思っているんですけど、聴いた結果、ネガティブをポジティブに変換できる、聴いていて楽しくなれる、背中を押せるEPにしたいと思ったんですよね。それが今回、関わっていただいた人たちの力をお借りして実現できたかなと思います。

ー「エブリ・デブリ」も、日常の中でゴミみたいに思うネガティブな出来事や感情について歌いながらも、曲調は「ワンダーランド」くらいライブで歌うと多幸感が生まれそうなものに仕上がっていて、すごくいいなと思いました。

ありがとうございます。まさしく「エブリ・デブリ」が、「ネガティブをポジティブに変換しようぜ」の代表曲だと思います。日常で生まれるそういった感情のデブリを燃料にして、宇宙に飛び出せたらいいよね、日常を生きていく推進力にしていこうぜ、っていう曲ですね。

ーしかも<合わない人のご機嫌を取って過ごした日><頼りにしていた仲間が飛ばされちゃった日>とか、Aメロの1行1行がとてもリアルで、リスナーにとって言いたいけど言葉にできなかったことを代弁してくれるものになっていて。「吐き出せなかった気持ちを、曲を聴くことで吐き出させてもらった」というTaniさんの音楽の原点を、次は自分が聴き手に手渡しているという意味で、本当にTaniさんらしい歌詞だなと思いました。

エピソードが見えてきそうな1行ですよね。実際に「仲間が飛ばされちゃった日」とか、本当にあったんですよね。誰が悪いわけでもないけど、はしごを外された感とかがあって。こういう活動の中だけじゃなく、信頼を置いていた人、頑張る糧になっていた人、もしくは推しのグループとかが、ある日突然いなくなってしまったときの空いた穴のデカさってすごいと思うんですよ。それこそ今年の頭のほうにおばあちゃんが亡くなっちゃったりもして、特に2番には僕のリアルを赤裸々に書いています。そこは僕のシンガーソングライター節が効いているところかなと思いますね。

ー「kotodama」『HOMETOWN』あたりは、もともとひとりでTani Yuukiという音楽活動をやっていたところから、規模が大きくなるにつれてたくさんの人が関わってきて、「Tani Yuuki」が自分のものだけじゃなく、いろんな人のものになっていくことへの戸惑いと戦っていた時期なのかなと思っていて。

すごく的を射ていますね(笑)。

ーこのEPを聴いて、そういった戸惑いとか、「Tani Yuukiの純度が削れていくんじゃないか」みたいな不安から、突き抜けられたんだなと思ったんですよね。

そうですね。いろんな要因はありますけど……何かを手にするためには、何かを手放さなきゃいけないということをよく言うじゃないですか。それはネガティブな意味ではなくて。もっとたくさんの人と出会いたいということをテーマにしている以上、今まで以上に動かないといけないし、その先でもっと大きい場所に立ったり、アーティストとして上がっていったりということができるのかなと思うんですよね。たとえば「ムーンウォーカー」を自分が全部監修したとして、今音楽を聴いている人たちに刺さるサウンド感になるのかと言われると、ならないよなっていう。僕が毎日、何時間もいろんな音楽をめちゃくちゃディグりにディグって、アレンジだけを貪り尽くしていたら、そりゃなると思うんですけど、そうじゃないし。

ーTani Yuukiの名前を背負っている立場としてやらなきゃいけないことや、替えの利かないことーーライブで歌ったり、こうやって取材を受けたりーーが、やまほどありますからね。

だから自分の届けたいものをより届けるために誰かの力を借りるというのは、すごく自然な流れなんだなと思うようになりました。もちろん、僕のエッセンスとして入れたいものや入れたほうがいいものはお伝えして上手く昇華してもらうんですけど、それこそ僕が本当にやらなくてはいけないのは、もっと核心の部分なのかなと思って。自分で曲を書いていなければシンガーソングライターを名乗るのはおこがましいと僕は思ってしまうので、そこはTani Yuukiとして譲ってはいけない本質的なところなんだろうなって。そういった思いと、新しいジャンルやサウンドを知りたいという気持ちが相まって、人に預けてみたい、人の音を聴いてみたいというところに辿り着いている感じですかね。実際にやってみて、嘘偽りなく、本当に楽しかったので。「サテライトブルー」も、みんなでニヤニヤしながら「この音がいいんじゃないか」「この音、UFOっぽいすね」みたいなことをやるのがめちゃくちゃ楽しくて。

ー子どもが大きな想像力を持って、遊ぶように何かを作っているときのようなピュアさというか。

昔バンドを組んでいたとき、みんなでスタジオに入ってやいのやいのやっていた時期を思い出すような節もある現場で、すっごく音楽しているなと思ったんですよね。そこがこれからのTani Yuukiにとって大事なカギになるなって思いました。<同じ音を楽しめば誰もかもが通じ合える魔法があるらしい>(「エイリアンズ」)って、自分でも書いている通り、音楽ってそういうことだなって。おっしゃった通り、僕の音楽の始まりは内省的で孤独な部分で、自分のしゃべり言葉では吐き出せない気持ちを、音楽という日本語以外の第二言語をツールにして吐き出すということだったんですけど、音楽にはもっといろんな「楽しい」があるだろうから、それを見つけていけたらいいなと思っている最中ですかね。

ーここまでの話を聞いて、5周年を経て日本武道館公演も成功させてもなお、まだまだ大きなところへ行きたいという欲は尽きていないんだなと思って。第一線に立ち続けている人の発言だなと思いました。

いやいやいや。始めるよりも続けるほうが難しいんだなって、日々思いますよ。でも何がしかの形でファンの人たちに新しい景色や夢というものを提示し続けないといけないと思っているし、走り続けることが大事だと思っているので。次の目標として、特にアリーナ(兵庫・GLION ARENA KOBE、神奈川・ぴあアリーナMM)は大事だと思っています。あくまで通過点ではありつつも、間違いなく新たなチャレンジですね。

ーTaniさんにとって、走り続けたい理由とは?

今日話した「未知との遭遇」というのは、新たに追加されたポジティブな理由だと思います。あとは……なんやかんや言って、結局自分に期待しているんだと思いますよ。自分が作ったヒットが壁になる瞬間もあるけど、それを超えるものをチームのみんなで生み出さないうちに歩みを止めるのはもったいないと思うし、ちゃんと噛み合えば作り出せるとも信じているし。武道館が終わった直後とかはぶっちゃけ「休みたいな」とかちょっと思いましたけど、そこはすごく人間というか。シンプルに、度胸がないんだとも思います。

ー度胸?

「休みます」「レーベルを去ります」みたいな度胸がない。実際にそういう選択をしている人たちを見て、英断だなと思うこともありますし。「覚悟を持って止める、辞める」ということを俺はできないなって、燃え尽きていたときのTani Yuukiは思ったんですよ。でも今は後ろ向きな気持ちを抱えているわけではなくて、ポジティブな理由が僕を動かしていると思います。真面目に、真剣に、でも楽しさを持ってやることが大事だなって、そう気づかせてくれた作品です。

ー『SPACE RENDEZVOUS』で宇宙の旅をしたTaniさんが、次はどこへ行くのかも楽しみにしています。

EP全体を通して、地球(「エブリ・デブリ」)を出て、人工衛星(「サテライトブルー」)、月(「ムーンウォーカー」)、火星(「エイリアンズ」)を経て、最後に「コールドスリープ」をするというストーリーになっているんですけど、『SPACE RENDEZVOUS』ツアーで終わりにはしたくなくて。今回のツアーから未知との遭遇を続けていって、輪を広げて、今までの人と新たに遭遇した人や音たちを何か一個の形にしたいなという構想があるので、ワクワクしながら楽しみにしていてほしいです。

ーそれが、夢として語っている地元・茅ヶ崎でのフェスかも?

宇宙を旅して、茅ヶ崎に降り立つかもしれないですね。最近茅ヶ崎FMでレギュラー(「茅ヶ崎ランデヴー」)を始めたりして種を蒔き始めたところなので、時間をかけて茅ヶ崎フェスに辿り着けたらなと思っています。

<リリース情報>

Tani Yuuki

EP『SPACE RENDEZVOUS』

2026年10月14日(水)発売

予約リンク https://kmu.lnk.to/SPACERENDEZVOUS_CD

=収録曲=

1. エブリ・デブリ(Everyday-Debris)

2. サテライトブルー(Satellite Blue)

3. ムーンウォーカー(Moonwalker)

4. エイリアンズ(Aliens)

5. コールドスリープ(Cold Sleep)

Official HP:https://taniyuuki.com/