Mrs. GREEN APPLEは何を成し遂げ、どこへ向かうのか? 大森元貴が描く「国民的」のその先

10月9日、Mrs. GREEN APPLEのマネジメント&プロジェクトチーム、PMGA(Project-MGA)によるラウンドテーブルが開催された。ユニバーサル ミュージック社長兼CEO/PMGA代表の藤倉尚が、ミセスの実績とそれを支える体制を説明したあと、大森元貴もサプライズ登壇。最新アルバム『POPS』が初週売上64.6万枚を達成するなど、巨大な成功を収めてきた彼らが、何を考え、次にどこへ向かうのかを窺い知る機会となった。

藤倉尚(ユニバーサル ミュージック社長兼CEO/PMGA代表)

ミセスは何を成し遂げたのか?

まず藤倉が説明したのは、ミセスの活動を支えるPMGAの成り立ちだ。大森、藤倉、ユニバーサル ミュージック グループのルシアン・グレインジ会長兼CEOの3人で、新たな会社・組織を立ち上げようという話になったという。世界的アーティストを数多く擁する同グループにおいても、こうした取り組みは極めて異例であり、その形を提案したのが大森だったと藤倉は明かす。今回のラウンドテーブルも、『POPS』の宣伝を目的とするものではなく、ミセスが何を成し遂げ、これからどんな未来を描こうとしているのかを伝える場として設けられた。

続いて示されたのは、日本人初となるストリーミング総再生数180億回という驚異的な記録だ。日本の人口で単純計算すると、一人あたり約150回に相当する。さらに、売上規模として336億7000万円という数字も提示。しかも、これは主に音源に関するもので、ファンクラブやグッズ、企業との協業なども含めれば、ミセスが生み出す経済的な広がりはさらに大きなものになるという。

この商業的な成功は、グローバル規模で見ても際立っている。アーティストの世界的な商業実績を測るIFPI(国際レコード産業連盟)の2025年グローバル・アーティスト・チャートにおいて、首位のテイラー・スウィフトを筆頭に、Stray Kids、ドレイク、ザ・ウィークエンド、バッド・バニー、ケンドリック・ラマー、ビリー・アイリッシュらが名を連ねるなか、ミセスは日本人唯一となる堂々の13位にランクイン。海外でのプロモーションをまだ精力的に行っていないにもかかわらず、主に日本国内での支持によって、ミセスは世界ランキングにまで食い込んでいる。

藤倉は、ミセスが生む経済的な広がりを、テイラー・スウィフトの「スウィフトノミクス」になぞらえた。これは彼女の公演を目当てに大勢のファンが移動し、開催地のホテルや飲食店、観光業などにも消費が広がる現象を指す。藤倉によれば、同じようなことが、ミセスを中心に日本でも起きている。地方から家族でライブに遠征すれば、チケット代に加えて交通費や宿泊費がかかり、現地で食事や買い物も楽しむ。一組のアーティストが生む熱量が、音楽業界の外へと波及し、街の経済を動かす力になっているというわけだ。

実際、ライブには10代から60代まで幅広い層が訪れているというデータも披露された。ミセスの音楽は、ファミリー層の共有体験としても浸透している。

さらに、その文化的インパクトは音楽のみに留まらない。GEM Partnersの「エンタメリーチトラッカー」による2026年上半期メディア横断ランキングでは、『ポケモン』、『LINE:ディズニー ツムツム』に続く3位にランクイン。映像、ゲーム、マンガ、音楽などのジャンルを横断し、人々がどれだけ日常的にコンテンツに触れているかを測る調査でも、ミセスはお茶の間に根づいた作品と肩を並べている。

ちなみに、昨年の同ランキングでは、大森も出演したNHK連続テレビ小説『あんぱん』も上位に入っていた。作曲家いずみたくをモデルとする「いせたくや」役を演じた彼は、音楽と俳優業の両方を通じて、幅広い世代との接点を広げている

そのための準備は、活動休止中から始まっていた。大森は、シリアスに音楽を届けるだけでなく、お茶の間に向けてはバラエティも必要だと考え、メンバーに番組の構成、撮影、編集を自分たちで試すよう提案。藤倉によれば、番組制作の大変さや作り手の意図を理解するための取り組みでもあったという。そこから現在は、3人がMCを務める冠番組『テレビ×ミセス』が、TBSのゴールデンタイムで毎週放送されるまでになった。

企業とのコラボレーションも多彩で、ミスタードーナツの「ミセスドーナツ」、ファンケルの肌解析サービス「FANCL SKIN PATCH」、眼鏡市場のSPFグラス、クーリアのボンボンドロップシールなど、食、美容、日用品にまで及ぶ。「ミセスドーナツ」では混雑を避けるため、発売当初の2日間を予約商品の受け渡しに限定するなど、その反響は販売方法にも影響した。さらに『POPS』のリリースに合わせ、音楽誌のみならず『Newsweek』から『anan』まで雑誌の表紙をジャックし、書店の棚をも席巻している。

音楽業界で35年、社長として13年のキャリアを誇る藤倉も、「これほどの実績を上げたアーティストに出会うのは初めて」だという。大森元貴はなぜ、これほどの快挙を成し遂げることができたのか。ここから話題は、ミセスの未来を描き、その構想を実現していく大森の手腕へと移っていった。

「プロデューサー」大森元貴の類い稀な資質

藤倉の説明で浮かび上がったのは、大森が音楽家とプロデューサーを兼ねる存在だということだ。

歌唱、作詞、作曲、編曲に加え、ライブ、MV、衣装、グッズ制作のディレクションから、SNSでの発信に至るまで、活動全般に関与する。さらに彼は、その構想を共有し、実現するチーム=PMGAの力も重んじている。個人では届かない場所へ、組織として到達しようとしているのだ。課題を抱える社員や仲間も鼓舞し、「自分のいいところをなくさないでね」と、社長のようなメッセージを送ることもあるという。

藤倉は、ドキュメンタリーフィルム『THE ORIGIN』のなかで、大森が「戦国武将のようだ」と評されていたことにも触れた。指揮官として戦略を考え、仲間を動かすことができる一方、自らも一対一で戦える。さらに藤倉は、その姿を『ONE PIECE』のルフィにもなぞらえた。優れた仲間を引きつけ、同じ船に乗って共に航海する。自ら先頭に立ちながらも、仲間とともに進むことを大切にしているのが大森だという。

メンバーそれぞれの可能性を広げる働きかけも、具体的な成果を生んでいる。活動休止中、大森の提案で韓国語を学んだ若井滉斗は、NHK Eテレ『ハングルッ!ナビ』の生徒役を務めるほか、テレビ朝日『M:ZINE』ではK-POPアーティストと交流。また、藤澤涼架に演技の才能を見いだした大森は、自ら映像を編集して売り込み、TBS日曜劇場『リブート』への出演につなげている。自身やバンドの表現を追求するだけでなく、仲間の強みを見つけ、活躍の場を作るところにも、プロデューサーとしての手腕が表れている。

そうしたプロデューサーとしての資質は、ライブにも発揮されている。『NOAH no HAKOBUNE』では巨大な船で観客と航海に出発し、『Atlantis』では海底王国の神殿へ、『BABEL no TOH』ではバビロンの街へと物語をつないだ。『The White Lounge』では、9つの物語からなる音楽劇を構成。白いアイテムの着用を呼びかけるなど、客席も含めて世界観を作り上げた。壮大な祝祭から親密な音楽劇まで、楽曲を異なる体験へと展開するセルフプロデュース能力が際立っている。

藤倉はスタッフの発言だと前置きしたあと、ミセスは『週刊少年ジャンプ』のヒット作品ではなく、『ジャンプ』丸ごと一冊なのだと紹介した。一つの世界に、多様な楽しみを詰め込む。その発想は、16曲全てが主役として制作された最新アルバム『POPS』にも通じるものだ。

「和食」のまま世界と向き合う

特に印象的だったのは、大森がインタビューでたびたび口にしている「ミセスは和食」という言葉だ。世界で聴かれ、輝くことを目指すアーティストが大勢いるなか、大森がまず大切にしているのは、日本の人々に広く聴いてもらうこと。幼稚園児から年配の方々まで、世代を問わず日常に届く音楽を作ることが、ミセスの活動の軸になっている。

とりわけ2010年代、日本の音楽シーンは国内市場を軸にドメスティックな発展を遂げてきた。その結果、K-POPなどと比べ、海外展開では後れを取ってしまう。近年はその反省を踏まえ、MUSIC AWARDS JAPANの創設に象徴されるように、業界を挙げて日本の音楽を世界へ届けようとしている。同アワードで2年連続「最優秀アーティスト賞」を受賞したミセスも、日本に根づくことを大切にしながら、海の向こうにも視野を広げている。

ただし、ミセスが目指しているのは、海外の好みに合わせてカリフォルニアロールになることではない。日本で磨いたものを、そのまま世界にも味わってもらうこと。本人たちの言葉を借りると「Go Global」に対する「Be Global」である。

マーベルとの取り組みも、その姿勢を示す一例だ。映画『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』の日本版主題歌として書き下ろした「Brand New」では、ミセスらしい音楽性を研ぎ澄ましつつ、作品への深い愛情を楽曲に込めた。ケヴィン・ファイギら制作陣は、大森やミセスの才能を理解し、日本版では楽曲が映画の余韻につながる形で大切に扱われたと藤倉は説明する。日本で培ってきた表現が、世界的な作品の作り手にも響き、協働へとつながる。そこにも「Be Global」の姿勢が表れている。

さらに藤倉は、グラミー賞授賞式でのエピソードを明かす。大森から「僕にワクワクを届け続けてくださいね」と言われた藤倉は、彼をロサンゼルスの授賞式へ連れていった。そこで大森が注目していたのは、名だたるスターたちのパフォーマンスやスピーチだけではない。カメラの位置、照明、舞台演出。藤倉には理解しきれないほどの解像度でもって、制作する側の視点でショーを観察し、興奮していたという。

今年6月10日・11日にKアリーナ横浜で開催された、ミセス主催のエンターテインメントショー『CEREMONY』で舞台設計を担ったのは、グラミー賞をはじめ世界的なショーを手がけるYellow Studioだ。創設者フリオ・ヒメデはRolling Stone Japanのインタビューで、授賞式のスケール感や洗練を取り入れながら、音楽とアーティストを中心に据えた独自のショーを目指したと語っている。

その協働がもたらしたのは、華やかな舞台装置だけではない。競い合う「PRIZE」より、互いを称え合う「PRAISE」を大切にするミセスの構想を、世界の大舞台で培われた技術で体験へと変えること。日本に根を張る「和食」でありながら、その表現の質には世界水準を求める。『CEREMONY』には、そんなミセスの姿勢が反映されている。

Mrs. GREEN APPLE presents『CEREMONY』のステージセット、記事《グラミー賞からミセス『CEREMONY』へ──Yellow Studioが語る、アーティストをつなぐ舞台づくり》より(Photo by Seitaro Tanaka Photo Office)

大森元貴がサプライズで加わった質疑応答で、Rolling Stone Japan編集長・上野拓朗が、海外のクリエイターやショービジネスから受けた影響について尋ねると、大森は「大いにあると思います」と答えた。とりわけ刺激を受けたのは、直感的なノリと、緻密な制作とのバランスだという。

「作品におけるフィーリングって大事だよね、要はノリって大事だよね、ということを、ふざけた意味じゃなくて、すごく海外から感じるんですよね。一方ですごく緻密なものも感じる。その塩梅が、グラミーはすごく絶妙だったんです」

そこからチームで考えたのは、「日本でやりながらもグローバルを見据えているけど、あまり『グローバル化したよね』ってならない、うまい塩梅」だった。世界の大舞台から得た刺激を、自分たちの表現としてどう根づかせるか。その問いが、海外チームとの協働につながっている。

一方で、大森はグラミー賞を見たあと、「日本で頑張ろうって気分になりました。ここ(アメリカ)で戦うには、超えなければいけない壁が大きすぎるということも含めて、勉強させていただきました」とも振り返っている。この回答からも「和食」を標榜する「Be Global」の精神が垣間見えるだろう。

そこから海外のカルチャーと接してきた原体験として、大森が挙げたのは、幼少期から親しむディズニーだ。「子供心ながらに何にワクワクしたかっていうのは、すごく覚えてるんですよね。それをなるべく言語化して、チームで話したいなって」と彼は語る。自分をワクワクさせたものを見つめ直し、仲間と共有し、新たな体験へと育てていく。日本の人々に広く届けることと、海外から刺激を受けて表現を磨くことは、大森のなかで自然につながっているのだろう。

2027年2月から6月にかけて、ミセスはKアリーナ横浜で『Harmony2』全20公演を行う。このニュースを最初に知ったとき、筆者が想起したのは、ハリー・スタイルズが最新ツアー《Together, Together》の一環として、今年8月から10月にかけてニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで開催している全30公演の大型レジデンシーだった。「世界一有名なアリーナ」と称される会場に腰を据え、記録的なレベルで公演を重ねる。その形式に、ミセスの次なる挑戦との共通点を感じた。

同じ会場で公演を重ねれば、理想のステージ演出を追求しやすくなるだけでなく、公演のクオリティも安定させやすい。米音楽業界誌Pollstarの2025年世界アリーナランキングで観客動員数1位を獲得したKアリーナ横浜は、音楽のために設計された会場だ。すべての座席がステージを向く扇形の構造に加え、会場全体に高品質なスピーカーを常設し、どの席にも良質で迫力のある音を届けることを目指している。

この会場選びからは、どれだけ多くの人に届けるかと同時に、一人ひとりにどんな音楽体験を届けるかを重視していることもうかがえる。規模を広げながら、歌声や演奏、舞台演出の細部まで磨き上げる。ミセスのポピュラリティを支えているのは、そうしたクオリティ面の飽くなき追求でもあるのだろう。

筆者は今年6月、ハリーの《Together, Together》ツアーを、ロンドンのウェンブリー・スタジアムで目撃した。都市間の移動を繰り返す従来型のツアーとは異なり、限られた都市で公演を重ねる形式であるがゆえに、開催期間中は世界中から多くのファンが詰めかけていた。

その光景は、藤倉が語ったミセスの未来像とも重なる。多くのアーティストが「日本から世界へ」を目指すなか、藤倉が2030年以降に実現したいと語ったのは、「日本の真ん中にドーンといて、世界の人たちが観に来たい、感じたい」と思うような存在にしていくこと。日本でしか味わえない体験を磨き続けることで、その魅力が海外の人々をも引きつける。もしかしたら、大森も同様のヴィジョンを描いているのかもしれない。

「国民的」であることを引き受ける

質疑応答のなかで、藤倉が大森元貴と対比できそうな人物として挙げたのは、大谷翔平だった。ともに常識を覆す偉業を成し遂げてきたことはもちろん、その活躍が日常の風景となった今では、どれほど驚異的な記録を残しても「それぐらいは当然」と受け取られてしまう点も含めて。

大森も、数字だけで成功を語ることの限界を感じている。ストリーミング総再生数180億回が200億回になったとしても、おそらく世間はもう驚いてくれない。「それが本当にムカつくんです」と笑いながら語る大森。その言葉と彼の表情が、前人未到の記録さえ当たり前に受け止められてしまうミセスの、あまりにも特異すぎる現在地を物語っていた。

ラウンドテーブルを終えて帰路につくと、原宿の竹下通りでも、昼食に立ち寄った定食屋でも、ミセスの曲が流れていた。東京の街中でも至るところで彼らの広告を見かけるし、SNSではアルバムへの熱い感想が日々飛び交っている。

「みんなが聴いているから好き?」

「みんなが聴いているからダサい?」

『POPS』の広告が投げかける問いは示唆的だ。多くの人に愛されることと、誰からも受け入れられることはイコールではない。そもそも、ポップカルチャーの世界において「誰からも受け入れられる」ということは、ほぼありえない。広く届けば届くほど、無数の好意だけでなく、反発とも向き合うことになる。国民的アーティストになるというのは、そういったネガティブな声さえも受け止め、抱きしめることなのかもしれない。

マスメディアの「マス」が失われたと言われる時代に、ミセスは「誰も置いていかない」というスタンスを掲げている。彼らは一人ひとりの心に何が響くのかを考え、それぞれが「これは私のための曲、僕のための曲だ」と感じられるように作品を作っているという。そうして育んできたリスナーとのつながりを、大切にしながら歩みを進めていく。2026年1月1日に開幕したフェーズ3で、「これまで築いてきたものをしっかりと守りながら、ミセスの現在地を大切にする期間」をコンセプトに掲げたのも、つまりはそういうことなのだろう。

そう考えると、途方もないスケール感だけでなく、覚悟と誠実さにも改めて驚かされる。しかし壇上の大森は、メディアで普段見せるのと同じように、余裕すら感じさせる表情を浮かべていた。自分が現実離れした領域にいることを、フラットに楽しんでいるようにも映る。

彼は今年4月に開催された『PMGA SUMMIT about PHASE-3』で、ミセスの2029年までの活動プランをすでに明かしている。日本ですべてをやり尽くしたと思える日が来たとき、そこにはどんな景色が広がっているのか。〈I love youの先〉には、いったい何が待っているのか。大森は想像もつかない「Brand New」な未来を見据えている。