東京真中が語る、ニッチとポップをつなぐ美学 「ブレインロット」から「フォーモ」への挑戦

「人知れぬ夜を音楽に」をコンセプトにして、2024年5月より活動を開始したボカロP/音楽プロデューサー・東京真中にとって、2026年は間違いなく飛躍の1年になっている。

【画像】東京真中のキービジュアル

昨年発表した「ドゥーマー」がジワジワと話題を呼んでいたが、今年2月に発表した「ブレインロット」では、UKガラージをベースにしたサウンドメイクと歌謡曲風のメロディを組み合わせた。自ら監督を務め、重音テトがバックルームで踊るミュージックビデオは、4000万回再生を突破。現時点での東京真中の代表曲となった。韓国のボカロP・TAKが編曲で参加した「ポッペンキュート」に続く最新曲「フォーモ」のミュージックビデオにはのべ40人以上のクリエイターが参加し、実写とアニメーションを行き来するスリリングな映像で、「トレンドに取り残されないように踊るのではなく、自分のために踊る」というメッセージを表現している。

現在「クリエイティブディレクター型アーティスト」を掲げている東京真中は、音楽と映像を並列に捉え、職人的なこだわりとセンスで次世代のJ-POPを生み出そうとしている。2010年代以降のボカロP出身のアーティストがそうであったように、今後は「ボーカロイド」の枠組みを超え、より広い世界で活躍することになりそうだ。数年後に振り返ったときに、「飛躍の1年」はまだ「予兆の1年」だったことに気づくのかもしれない。

「ブレインロット」が生まれるまで

ー2026年はここまで「ムーンライト」「ブレインロット」「ポッペンキュート」「フォーモ」の4曲を発表していますが、東京真中にとってどんな年になっていると言えますか?

東京真中:活動を始めて今2年半くらいなんですけど、最初の1年半くらいは「どこへ向かえばいいんだ?」みたいな感じというか、自分の中でゴールは決まってるけど、「どういうふうにあそこにたどり着けばいいんだ?」みたいな感じだったんです。でも今はようやく自分なりの道がわかった感じではありますね。去年「ドゥーマー」を出して、「この感じで行けるのかも」と思えて、「ブレインロット」を出して、それが確信に変わりつつあって、ようやく方向性を定めて走り出せた感じがあります。

ー「ブレインロット」はMVの再生回数が4000万回を超え、現時点での東京真中の代表曲になっています。もともとどんな着想から作られた曲なのでしょうか?

東京真中:家で歌詞を書くのに疲れたときとか、次にどういう曲を書こうかな?とか考えてるときに、ショート動画で犬の動画を見たり、あと物件を見るのがすごい好きなんですよ。「8億の家すげえ」みたいな(笑)。そういうのを見てると、一日中ダラダラ過ごしてしまって、結局歌詞も思いつかなかったし、新しい曲も思いつかなかった、みたいなことがあって。じゃあ、そういう自分を曲にするかっていうところで、言葉を探してみたら、「ブレインロット」を見つけて。で、自分がそうなんだから、同じような人たちが一定数いるだろうなっていうところで着想を得て、書き始めました。

ー「ブレインロット」はショート動画などを中毒的に見続けて、脳が腐っていくことを表したネットスラング。「ドゥーマー」も未来を悲観する人を表すネットスラングだったし、そういう現代的なワードをテーマにして曲にすることは、東京真中らしさになっていますよね。

東京真中:「ドゥーマー」で自分を知ってくれた人が多かったので、この方法論はいいのでは?と思って、それを再確認するための実験で「ブレインロット」を出した感じです。なので、細かいところで「ドゥーマー」にはなかったものを足したり、逆に「ドゥーマー」にあったものを削ってみたり、そうやって自分だけの方法論をどんどん尖らせていってる段階ではありますね。

ー「ドゥーマー」からダンスミュージック的な方向性がより明確になって、「ブレインロット」もダンスミュージックのループ感と、ショート動画を繰り返し見ちゃう感じがリンクしているなと思いました。

東京真中:無意識でも常にアンテナは張っていて、点と点が線になるときがあるというか、パッとつながったりするんですよね。「ブレインロット」のMVだと、アニメーションを使いたいけど、予算がないからそんなに豪華なものはできなくて、じゃあループアニメーションにしようっていうのをまず決めて。そのループアニメーションと、「中毒性」というテーマと、ダンスミュージックのミニマルに繰り返していく感じが、「こことこことここがつながる!」みたいになって。そういう化学反応がしっかり出たからこそ、多くの人に広がってるんじゃないかなって。

ー「ドゥーマー」は最初からMVの監督と一緒に作品の方向性について話をしてから作り始めたそうですが、「ブレインロット」でも最初から映像をイメージしていた?

東京真中:「ブレインロット」に関しては私がMVの監督もしてるので、音楽と映像の関係がすごくシームレスにできたような気がします。ループアニメーションっていうことだけ決まってる中で、曲を作ったり、歌詞を書いたりする中で、「こういう内容だったら背景はこうした方がいいよね」とか、「ダンスはこういうふうにした方がいいよね」とか、逆に「映像がこうだったら編曲はこうしようかな」とか、相互作用をもたらす感じで進めました。

ー「ブレインロット」の音楽的な方向性はどのように決めていきましたか?

東京真中:当時はUKガラージをすごく掘ってた時期で、何百曲と聴く中で、「違和感があるけどずっと聴きたくなる」みたいなものを探っていって、海外のニッチなダンスミュージックと日本の歌謡曲をどうやって結びつけるかっていう、アイデア自体は結構シンプルでしたね。で、「この曲のこの部分とこの曲のコード感を混ぜよう」とか、「フィルだけこれを使おう」みたいな、サンプリングしてるのに近いかもしれないです。ただ、真似事になっても面白くないので、「ドラムのフィルはこの曲から取るけど、スネアの音色はこっちにしよう」とか、そういうところが無数に組み合わさって、東京真中らしさになってるんだと思ってます。例えば、ビリー・アイリッシュの「bad guy」のボーカルとかハーモニーの感じは影響を受けたものの一つだったりして。

ーああ、言われてみると確かにわかります。

東京真中:そう、その「言われたら確かに」ぐらいがちょうどいいと思ってて。「なんか聴いたことあるけどなんだっけな?」くらいがちょうどいいと思うんですよね。尖りすぎてても広がらないし、聴いたことあるまんまだとすぐ飽きられちゃうし、その絶妙なバランスが大事なのかなって。「ジャンルはなんですか?」って聞かれることがあって、いろいろ混ぜちゃってるから何とも言い難いですけど、そういうときに「J-POP」はいい言葉だなと思います。

ー歌謡曲という面では、どんなことを意識しましたか?

東京真中:日本ならではの歌メロというか、歌の譜割りですかね。具体的に言うと、2小節目の4拍目を空けるとか、息継ぎのタイミングとか、ヒットソングの共通点みたいなものがあって。そこさえちゃんと守れば、どんなものでもキャッチーに感じる、みたいなことは「ブレインロット」を作って感じたことかもしれないです。

ー浮遊感のあるシンセの音色も東京真中らしいなと。

東京真中:シンセの音作りに関しては結構感覚なんですけど……もともとの東京真中のルーツは海外のサウンドが多いので、あんまドンシャリじゃないというか、どちらかというと中音域がふくよかで、ナチュラルな感じが自分のルーツとして刷り込まれてるから、シンセの音もああいうちょっと丸い感じになるんだろうなって。

ニッチをポップに変える発想

ーMVに関しては「バックルームを背景にテトが踊る」という組み合わせが爆発的に広がった要素として大きいと思うんですけど、あのアイデアはどこから?

東京真中:バックルームもそうだし、リミナルスペースとか、ドリームコアとか、現実的なのか非現実的なのかわからない空間みたいなものって、ネット界隈ではずっと文脈としてあって、昔から評価もされてたんですけど、ただそれを表舞台に引き上げる人がいなかったんだろうなと思って、それをやってみた感じです。アンダーグラウンドでこれだけ人気があるんだったら、それをキャッチーにアレンジしたら絶対もっと広がるだろうなって。音楽でやってることとも近いかもしれないですね。自分の好きなニッチなフィールドのものを、いかにメジャーに持っていくか、みたいな。

ーそこが東京真中の発想の核にあると。

東京真中:こういうことはアートとエンタメではよくあることで。ちょっと前になりますけど、「メディアアート」っていうジャンルが流行って、チームラボだったり、ライゾマティクスだったり、オリンピックの演出に使われたりとかして。あれも調べてみると20年前とか、もっと前からあの文脈はあって、いろいろな方法論が培われてきたけど、でもメジャーに持っていく人がいなかった。それを変えた人がいたから、ぶわっと広がったんですよね。「描いた魚が動く」みたいな技術も実は20年前からずっとあるけど、それをエンタメ化することによって、一気に子供たちにも喜ばれるようになった。そういうことと自分がやってることは変わらないかもしれない。

ー現代のエンタメという意味では、ダンス動画であることはやはり重要で。振り付けにも関わっているのでしょうか?

東京真中:ディレクションはしていて、例えば、「表拍じゃなくて裏拍で取るリズムにしてくれ」みたいなことを言ったり。「ブレインロット」はバスドラが表にあって、裏でボーカルが入るので、それを意識させたいからって。それで3パターンぐらいもらって、それを自分が動画編集して、「ここはめちゃくちゃいいから8小節繰り返して、16小節の最後だけ変えよう」みたいなのは私の方で判断した感じではありますね。

ーコレオグラファーはぽるしさんですね。

東京真中:いいダンサーさんいないかなと思って調べてて、ぽるしさんが一番違和感があったんです。この人の決めポーズ変だけど癖になる、みたいな。かわいいダンスとかかっこいいダンスはもうありふれてると思うんですけど、かっこよさがありつつ、でも決めのところ変だなっていう、その違和感は絶対武器になると思ってて。キャッチーだけど、ちゃんと引っかかる部分があるっていうのは、東京真中のクリエイティブの思想にすごくぴったりだったので、ぽるしさんにご連絡してお願いしました。

ー他にバズが起きた要因としてどんなことが大きかったと思われますか?

東京真中:なとりさんがラジオで紹介してくれたり、EveさんがSNSで反応してくれたりして、「J-POPの最前線で活躍している人たちも注目してる、ニッチなクリエイターがいるらしいぞ」みたいな、多分そういうところでも噂になったんじゃないかなと。あともう一つは「ボカコレ2026冬TOP100」で2位だったことも広がる要因の一つだったと思います。ニコニコ動画は、ほとんど日本でしか見られないので、海外でアンテナを張っている人たちが、「日本人がざわついてる。やべえもん出そうだな」みたいな感じになって、YouTubeで公開されたときに一気に盛り上がる、みたいなことはあったかもしれない。

ーYouTubeのコメントなどを見ると、海外ファンの熱量の高さも伝わってきます。

東京真中:YouTubeを見てると海外のファンの方々が5割くらいか、もうちょっと多いぐらいかな。なので、翻訳を十何カ国語とか載せたりもしていて。

ー海外人気もいろんな背景がありそうですよね。テトの人気も大きいだろうし。

東京真中:キャラデザも大きかったと思います。衣装も私が好きなイラストレーターの方に頼んで、すぐにOKだったと思います。「スカートをズボンにしてください」ぐらいしか言わなかった気がしますね。

ースカートをズボンに変えたのはなぜ?

東京真中:重音テトっていうキャラクターは、どちらかというと、おちゃめで、厄介ごとに巻き込まれる、ちょっと不憫な子、みたいな扱われ方をしてきたんですけど、それを心機一転、「メロい」みたいな感じにしようと思って。かっこいいし、セクシーだし、「こんなテトがいたら惚れちゃうよ」っていう、今までのテトとのギャップみたいなものが、一つまた話題の着火点になったのかなって。

ーたくさんのアイデアが詰まったMVがこれだけ再生されていることは、クリエイティブの力を強く感じます。

東京真中:音楽マニアとか映像マニアからすると「キャッチー」とか「ポップ」は馬鹿にされがちですけど、でも意外とその方が難しいんじゃないかなって、自分の中で最近思ってますね。自分がやってることはただポップでキャッチーなだけじゃなくて、ニッチなものを使って、それをちゃんとポップなものにしたい。なので、どういう塩梅で広さを持たせて、どこまで深く掘り下げるか、みたいなバランス感覚はすごく難しいけど、でもそれが面白くて、今一番やりがいを感じてるかもしれないですね。

ーもともとは海外の音楽のファンだったそうですが、今はJ-POPを作ることにやりがいを感じているわけですよね。

東京真中:そうですね。Vaundyさんも「J-POPってそんな簡単じゃねえからな」みたいなことを言ってたり、米津玄師さんの曲とかも、海外の音楽が好きな自分からすると、「ここボン・イヴェールから持ってきたか。うまいなあ」みたいなことが結構あるんですよね。YOASOBIのAyaseさんもルーツはメタルだったり、ずっと真夜中でいいのに。のACAねさんもジャズをはじめとしたいろんな音楽を聴いてたり、今J-POPの最前線で活躍している人たちもちゃんとルーツがあって、それをポップに消化してる。東京真中として活動するようになって、そういった部分での尊敬はすごく強くなりました。もちろん、彼らみたいな音楽をそのままやりたいわけではなく、彼らの思想をちゃんと受け継いで、自分なりの新しい音楽を作っていけたらなと思いますね。

クリエイターと作る音楽と映像

ールーツという意味では、「ポッペンキュート」は東京真中のルーツの一つであるエモの要素も感じられつつ、それだけではない曲になっていて。もともと活動の初期に作った曲を、改めて作り直してリリースしたそうですね。

東京真中:もともとは終始バンドサウンドだったんですけど、編曲を手掛けてくれたTAKさんがバキバキなエレクトロニカサウンドを作る方で、リミックスをしてくれてる感覚というか。ああいうことを許容できるようになったのは今の東京真中だからだし、このサウンドは自分じゃ絶対作れないので、すごく面白い楽曲になりましたね。過去の楽曲が息を吹き返した感じがしました。

ーTAKさんはK-POPの最前線で活躍しながら、現在はボカロPとしても活動していて、非常にユニークな経歴ですよね。

東京真中:ちょうど中間地点で合流した感じがあって。TAKさんは韓国でちゃんと音楽をやられて、でもそこから日本の文化に寄り添ってきてくれた。私ももともと海外の音楽を聴いてきたとはいえ、もちろん日本人なので、日本のJ-POPとか歌謡曲が軸にありつつ、近年は韓国を参考にする部分も多くあった。中間地点でちょうど合致して、面白い試みになりましたね。

ーちなみにどうつながったんですか?

東京真中:それこそ「ブレインロット」で出場したボカコレですね。イベント開催中にXのスペースにTAKさんが遊びに来てくれて。お互い「曲聴いてます」「好きです」ってなって、「何か一緒にやれたらいいね」って言って、すぐにお願いした感じでした。

ーMVは「パラノイア」ぶりにふたつさんが監督をされていて。「ブレインロット」以前から東京真中が好きだった人からすると、きっと嬉しかったでしょうね。

東京真中:ふたつさんファンの方が喜んでくれて、すごく嬉しかったです。どうしても音楽がメイン、ミュージシャンがメインっていう感じになっちゃうと思うんですけど、自分の立ち位置的にアニメーターだったり、映像作家さんとよく喋るので、むしろそっちの方が友達が多いし、やっぱり彼らにもちゃんと日の目を見てほしい。音楽業界で言ったら、日本でももっとミックスエンジニアとかマスタリングエンジニアが評価されるべきだし、作品に関わってくれた人たちにファンがついてほしいなっていう私の思いもあるので、ふたつさんやTAKさんがちゃんと話題になるのは嬉しい限りですね。

ー「フォーモ」はクリエイターの力の結集というか、MVには40人以上が関わっていて、だからこそのクオリティになっていますね。

東京真中:どうクリエイターたちを紹介しようか、ちょっと頭抱えてますけど(笑)。

ーさすがに全員は難しいですね(笑)。そもそもどんな着想から曲を作り始めたのでしょうか?

東京真中:「ブレインロット」は自分がMVの監督をして、各担当の方々にディレクションをしたんですけど、それを毎回やるのはさすがにしんどくて(笑)。で、「ドゥーマー」以降の東京真中は曲ベースでも映像ベースでもなく、企画ベースで作品を作っていて、今回はMVを監督してくれた葱びーだまさんと、どういう企画にしようか話すところから始まっていて。その中で、葱びーだまさんが挙げてくれたアイデアを深掘りしていったら、「フォーモ」っていう言葉に出会って、意味を調べたら、自分にも当てはまるし、そうは思わない部分もあったり、そのバランス感が面白いなと思って、それをテーマに作ることにしました。

ー「FOMO=Fear of Missing Out」は「自分だけが流行や話題から取り残されてしまうのではないかという不安や焦りを表す言葉」で、やはり東京真中らしいテーマですね。現在のプロフィールには「クリエイティブディレクター型アーティスト」という言葉が載っていますが、今回も全体のディレクションは東京真中さんがしているわけですか?

東京真中:イメージとしては、スタートとゴールを私が決めて、そこから逸れすぎてないかをちゃんとチェックする役割だと思ってます。なので、すべてを監修してるわけではなくて、逆に自分が思ってもみなかったアイデアが出てくることも面白くて。「フォーモ」で言ったら、キャラクターデザインを担当するイラストレーターは私が選んだんですけど、キャラクターの方向性は葱びーだまさんが選んでて、「確かにいいじゃん!」って、バチッと来るとこがあったり、そういうのがチームでやる醍醐味だなと思います。話し合いの時間は多くなって、大変なこともありますけど、それこそが人として生きる営みなんじゃないかなとすら思ってますね。

ー音楽的にはディスコがベースになっていて、ストリングスのアレンジが印象的です。

東京真中:「ドゥーマー」や「ブレインロット」のような、東京真中を知ってくれた人が多いであろう作品に共通する展開や音色はちゃんと入れつつ、「ドゥーマー」はK-POP寄り、「ブレインロット」はUKガラージ寄りだったので、好きなダンスミュージックでまだやってないものあるかな?ってなったときに、ディスコをベースに曲を書こうと思って。あと調声に関しては、今回初めて黒うさぎさんという、ボカロPの方にお願いさせてもらいました。作ってるうちに「ここはもっと面白くなりそうだけど、今の自分の力じゃ足りないな」と思ったので、作品をより広げてもらいました。

ー歌詞のサウンド感の気持ちよさも東京真中らしいなと。

東京真中:日本語だけど日本語に聴こえない部分というか、ちょっとニッチな部分は意識しました。〈あからさまな愛想笑い〉の「な」と「あ」がつながって「あからさまないそう笑い」になってたり、〈しょうもない?〉を「Show More Night」っていう発音にさせたり、そういう部分で引っかかりを作りつつ、〈Tik-Tak-Tok〉とか〈Bring & Bang & Born〉みたいなわかりやすいものも入れていて、これもバランスですね。

ーアニメと実写を行き来するMVも最初からイメージとしてあったのでしょうか?

東京真中:そうですね。それをできるだろうなっていうのが葱びーだまさんであり、「コンポジット」っていう、アニメと実写を合成する作業は映像作家の安倉さんにお願いしました。2人は星街すいせいさんの「ビビデバ」や「Caramel Pain」を担当していて、アニメーターのFYANさんもその二つを担当してたアニメーターさんなので、信頼もあってお願いして。実写とアニメーションでまだ見たことのない表現をやってみたくて、ただ合成させるだけじゃなく、アニメーションと実写を行き来するような感じでいこうってなって、このメンバーを集めた感じですね。

ーディレクションをする上で特にこだわったポイントはありましたか?

東京真中:見た人に一発で伝わるかどうかは意識しました。音楽にしても、ラジオで流れてきて、「お、なんだこの曲」って思ってもらえるかどうかってすごく大事じゃないですか。おすすめで流れてきたときに、「なんかサムネいいな」と思って、ポッと押したやつが、人生変えられるぐらいすごいもので、思わず誰かに共有したくなるっていう、そういうキャッチーさがいかに大事かっていうことは監督と2人で話し合いましたね。ただキャッチーなだけだとありふれてる感じになっちゃうので、間口の広さを持たせつつ、テーマや表現の仕方をいかに深めるか。そこはかなりこだわりました。

ーキャラクターデザインは「ドゥーマー」に続いてohutonさんが担当していて、終末的な世界観もつながってる部分があるなと思いました。

東京真中:そこは意図したわけではないですね。ただ、やっぱり私はohutonさんの世界観が好きで、きっともともと好きなものが近しいから、「フォーモ」にもそういう部分が表れたのかもしれないです。

ー「ドゥーマー」では未来に絶望してるZ世代が描かれていて、「フォーモ」も同時代性を感じさせつつ、でも曲の後半からは「いや、絶望してないで自分の踊りを踊ろうよ」っていうメッセージを感じました。後半の展開がめちゃめちゃドラマチックですごくいいなと思って、そこは意識したポイントだったのかなと。

東京真中:確かに、新しいチャレンジでしたね。「ブレインロット」はあんまり起承転結が見えるものではなくて、そこが良かったのかもしれないですけど、じゃあ起承転結がちゃんとあるコンテンツを作ったときに、どういうふうにみんなに見てもらえるんだろうと思ったんです。例えば、『君の名は。』はちゃんと最後がハッピーエンドで終わっていて、それが、作品があれだけ世の中に広がった大きな理由の一つだと思っていて。私は男女が離れ離れになって、そのままもう出会えずに生きていくっていうエンドの方が好きなんですけど、ちゃんとまた巡り会って、腑に落ちる感じというか、満足する感じがある。ああいう王道のストーリーにもチャレンジしてみようと思ったんです。

自分のために踊る、J-POPへの野心

ー「トレンドを追いかけるのではなく、自分のために踊る」っていうのは、聴き手に対するメッセージでもありつつ、自分にも矢印が向いてるというか。東京真中として自分の踊りを踊って、自分がトレンドを作っていくんだっていう、ある種の所信表明になっているようにも思いました。

東京真中:まさにそうです。これもビリー・アイリッシュの受け売りになっちゃうんですけど、彼女はボツ曲が一つもないらしくて、「80何億人いる世界で、どんな曲でも誰か一人には刺さるだろう」みたいなことを言っていて。その言葉を聞いたときに、「自分のことを歌ってもいいんだな」と思って、自分起点で何かを始めることは意識してるというか、あまり恐れなくなったので、今は意識しなくても出てるところなのかもしれないです。だから東京真中の活動を歌った曲と言われれば確かにそうだし、でもきっと同じような感覚の人が一定数いるはずだって、信じてる部分もありますね。

ー自分の音楽を聴いてくれる人がたくさんいることを実感することによって、聴き手に対する意識の変化もありますか?

東京真中:ありますね。まだ手探りのときはちょっと怯えてたというか、「こういうの好きですか?」とか「どうですか?」みたいな感じだったんですけど、多くの人が応援してくれるようになって、「驚いてもらいたい」っていう気持ちは強くなりました。「お前らこんなの聴いたことねえだろ」みたいな(笑)、ちょっとサプライズ的な部分があったり、でもちゃんとこれまでの東京真中が好きな人に刺さる部分もある。「これぞ東京真中だけど、今までの東京真中とはちょっと違う」と思ってもらえて、ファンが誇らしくなれるようなアーティストでいたい気持ちはすごく持つようになりましたね。

ー今年の夏のボカコレを終えて、「ここで出会ったみんなと、ここで得た感情全てを抱え、次のステージへ進みます!」とポストをされていました。今後の東京真中について、どんな展望を持っていますか?

東京真中:ボカロ曲も出しつつ、人間のボーカルの方にフィーチャリングで参加してもらうことを具体的に考えています。ボーカロイドっていうカルチャーだけじゃなくて、J-POPのフィールドにももう一歩踏み出せたらなっていうのは思ってますね。なので、2027年は楽しみにしていただけたらと思います。

ー東京真中なりのJ-POPを追求する背景には、どんな思いがあるのでしょうか?

東京真中:自分がJ-POPを作って広めることによって、もともと好きなUSインディだったり、ディープハウスだったり、そういうものを聴いてても音楽オタクと思われない感じにしていきたいです。例えば、海外の音楽が好きで、フォークとかが好きな身からすると、アコースティックギターはエレキギターよりもむしろメインの楽器なんです。でも日本だと「カントリーミュージックね」とか「牧歌的な感じね」みたいに思われちゃうことも多いし、ミックスとかマスタリングにしても、日本は結構特殊だと思うんです。それはお国柄しょうがないですけど、でもやっぱり自分の好きなものを多くの人と共有できた方が人生楽しいので、それは勝手に自分の使命の一つだなと思ってます。今J-POPの最前線にいる人たちの中には、一度大成功した上で、「あとは自分の好きなことやらせてくれ」っていう感じの活動をされている方もいる印象で、自分もあそこまで行けたらいいなと思います。今はまだね、まずポップスターにならないといけない。

ー「ポップスターになる」ということを将来的なビジョンとして明確に描いている?

東京真中:自分の場合はクリエイティブディレクター的な立ち位置なので、自分がポップスターになるというよりは、自分も含めて、「ポップチームを作る」っていうのがイメージとしては近いかもしれないですね。

東京真中

デジタルシングル「フォーモ」

配信中

収録曲:

01. フォーモ

02. フォーモ - Instrumental

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