
メジャーレーベル時代の葛藤を経て、2019年からインディペンデントで活動を続けてきたティナーシェ(Tinashe)。試行錯誤を重ねながら独自のポップを築き上げ、8作目『Popstar』はリリース後、その大胆なサウンドとコンセプトが広く絶賛されている。発売を目前に控えた彼女が語っていたのは、周囲の議論に揺さぶられることなく、自らの居場所を主張し、信念を貫くことの意味だった。
『Popstar』で貫いた自分の信念
ティナーシェは8作目のスタジオ・アルバム『Popstar』のリリースを1週間後に控え、プレッシャーが高まっていくのを感じている。これまでの作品も、決してひっそりとリリースされてきたわけではないが、大きな注目を浴びないまま世に出ることも少なくなかった。だが今回は、何かが違う。「すごく注目されているし、いろんな議論が起きている」と彼女はRolling Stoneに語る。「みんなが待ち構えている。それは今までになかった感覚」
ティナーシェはニューヨークを訪れ、CoachとSpotifyによるイベントシリーズ「Tabby Tour」の幕開けを飾るパフォーマンスに臨んでいる。告知からわずか数時間でロウアー・マンハッタンに駆けつけたファンが、屋外スペースを埋め尽くした。会場でもアルバムについての話題は聞こえてくるが、オンラインで繰り広げられている議論ほど騒々しくも攻撃的でもない。そこでは、アルバム・カバーからシングルの選び方、さらにはアルバム・カバーやシングル選びについてティナーシェ自身が強い調子で意見を表明していることまで、ありとあらゆることが話題になっている。『Popstar』はもともと、もっと大きな議論を生み出すための作品だった。ただ、その議論が少し早めに始まっただけだ。
「タイトルから、堂々と自分の場所を占めるあり方、世に出る瞬間まで、すごく自信に満ちていて大胆だと感じられるレコードを作りたかった。『私はここにいる』って宣言するような作品にしたかった」とティナーシェは言う。「アルバムを『Popstar』と名づけることで、自分の居場所を堂々と自分のものだと主張しているように感じた。そういう強い自信が、さらに多くの議論を生んで、作品全体にもう少しプレッシャーをもたらしたのかもしれない」
この1週間、ティナーシェは『Popstar』に納得していないファンや傍観者に対し、オンライン上ではっきりと自分の立場を示してきた。とりわけ盛んに語られているのがアルバム・カバーだ。彼女の顔を大きくクローズアップし、瞳には星の輪が浮かび、トランス状態のような表情で正面を見つめている。写真の中ではヘッドフォンもつけており、受け身で流し聴きするのではなく、意識して耳を傾けることを前提に作られたアルバムにはふさわしい。Xでは、代わりにプロモーション写真のどれかを使うべきだったと彼女に言う人もいた。なかでも、ロサンゼルスのU.S. Bank Towerを背景に、建物の縁に座るティナーシェを捉えた一枚を推す声があった。「クリエイティブな選択って、全部が『あ、この写真きれい』みたいに単純なものじゃない」と彼女は返信した。
「消費社会に生きていると、『これが一番見栄えがいい、これが一番派手、これなら注目を集められる、これがヒット曲、ここが切り抜きになる一言、これがバズるTikTokのクリップ』みたいに考えるのはすごく簡単」と、ティナーシェは今語る。「本当のアーティストでいるためには、そこを超えて、それに抗えなきゃいけない。だって、そこばかりに意識を向けた瞬間、クリエイティブなプロセスそのものが狭くなってしまうから。私たちはサムネイルや一言の切り抜きなんかより、ずっと多層的な存在なんだよ」。彼女がアルバム・カバーを選んだのは、議論を生み出すことを意図してのことだった。視線を引きつける一方で、その瞳を長く見つめていると、ほとんど不穏さすら覚える。「このカバーは、一番派手で、一番”ポップスターらしい”ビジュアルという意味では、普通なら想像するものじゃない」と彼女は言う。「私にとっては、そこが肝なんだ。それを見ると、この先にはもっと何か物語があるんじゃないかと思えるから」
ティナーシェはすでに5曲のシングルで『Popstar』を先行して披露してきた。「Pillow Fight」と「Crash Out」はこれ以上ないほど異なり、「Crash Out」と「Melatonin」もまったく別のスペクトラムにある。そして「Melatonin」は、「Too Easy」や「Id Rather Be Alone」とも違う一面を見せている。その中でも「Crash Out」は際立った一曲だ。パーカッションを強く前面に押し出した楽曲で、疑問を投げかけてくる無数の声が嵐のように押し寄せるなか、どうにか集中を保とうとすることを歌っている。アルバムがリリースされれば、シングルで提示されたテーマをさらに押し広げる11曲が新たに待っている。ティナーシェはこの作品に十分な自信を持っているから、今のところ好きな曲が1曲しかないという人物からXで「もっとレベルを上げないと、俺は聴かないよ」と言われても、それほど気にしない。「それならどうぞ」と彼女は返信した。「ぜひ聴かないでください」
「今は、人々がニュアンスというものを以前より嫌う時代になっていて、創作上なぜその選択をしたのかを、時間をかけて本気で掘り下げようとしなくなっている気がする」とティナーシェは言う。「だからこそ、アーティストはそういう意味で自分の信念を貫くことがすごく大事だと思う。単に、すぐ受け入れられるものばかりを出すんじゃなくて」。彼女の返信は、過剰に防衛的という印象ではない。むしろ少し苛立っているように見えるとすれば、そうしたファンが作品にきちんと向き合い、考えようとする努力をほとんどしない一方で、画面の向こうから大手レーベルの重役さながらの注文をつけてくるからだろう。もちろん、彼女はそうした声をフィードバックとして受け入れるつもりもない。
過小評価され続けた10年、その先へ
ティナーシェは2019年にRCA Recordsを離れて以来、インディペンデントで活動している。当時、彼女のマネージャーは、5年間で3枚のアルバムを発表した末のレーベル離脱について、「彼女にクリエイティブな主導権を取り戻させること」だと説明していた。キャリアの初期には、自分ではつながりを感じられない音楽を録音するよう求められたこともあれば、クリエイティブ面での意見の相違によってリリース計画が何カ月も遅れたこともあった。そう考えれば、彼女がStan Twitterから芸術面のアドバイスを受けたくないと思うのも無理はない。こうしたオンライン空間では、どのアーティストが現在のポップの風景を形作っているのか、あるいは洪水のように押し寄せるリリースの中で、誰が際立った選択をしているのかといった重要な議論も起きている。だが一方で、ファンには、自分たちが消費しているものの多面性を平板なものへと単純化してしまう癖もある。ティナーシェの言葉を借りれば、端的に言って「ニュアンスは死んだ」のだ。
「私にとって、この議論はファンだけの話でもなければ、アーティストだけの話でもない。それよりもっと大きくて、私たちが作り上げてきたシステムそのもの、そしてその中でアーティストがどういう形なら活躍できるのか、という話なんだと思う」と彼女は言う。「私たちは物事をすごく白か黒かで捉えてしまうし、アーティストがひとつの作品の幾重もの層を通して伝えようとしていることを、それよりはるかに単純化された何かに切り詰めてしまう」。ポップをめぐる議論が、文化におけるより大きな変化と意味のある形で結びつくことがあるのは、これまでにも目にしてきた。そうした対話に価値があることは十分に分かっている。ただし、それをオンラインのタイムラインという限られた空間だけに閉じ込めてしまわないことが前提だ。「この問題をどう解決すればいいのか、その答えは私にも分からない」とティナーシェは言う。「でも大事なのは、ただ自分に正直であり続けることだと思う。何かに馴染むためとか、特定の層にアピールするために、自分を制限したり、必要以上に自分を検閲したりしなきゃいけないと思わないこと」
そうした姿勢は、2010年代に彼女と同じ頃にブレイクのきっかけをつかんだ、チャーリーXCXやザラ・ラーソンといった同世代のアーティストたちにも功を奏してきた。「この世界で10年以上、ずっと働いて、がむしゃらにやり続けてきた女性はたくさんいる」とティナーシェは言う。「自分のことしか話せないけど、私はずっと、たぶん過小評価されてきた、という感覚があった。(私たちは)とにかく脇目も振らず、働いて、働いて、働いて、働いてきた。そうしていると、ある時点で突然、一気に突き抜ける瞬間がやってくる。それを見るのは本当にワクワクする。10年間同じようにやり続けてきて、今ようやく自分の瞬間を迎えている仲間たちや女性たちのことを、本当に誇らしく思うし、心からうれしい」
8月にはチャーリーがXで、「ティナーシェのメロディ、マジでヤバい」と投稿した。数週間後には、ピンクパンサレスも別の投稿で「Crash Out」を絶賛した。「今年の曲」と彼女は書いた。「ごめん、でも今年は彼女が持っていくと思う」。こうしたアーティストたちは誰も、予測どおりの、定石に沿ったやり方でポップに向き合ってきたわけではない。むしろ彼女たちは、2020年代においてポップというジャンルがどんな見た目をし、どんな音を鳴らすものなのかという、私たちの共通認識そのものを変えてきた。「今の人たちは、”ポップ”が何を意味するのかについて、すごく狭い理解しか持っていない。それはすごくクリーンで、すごくメインストリームで、すごく白人的で、すごく作為的なものとして捉えられている」とティナーシェは言う。「そこに疑問を投げかけるのはいいことだと思う。その二分法の外側にいて、私がポップだと思うものをやっている人たちはたくさんいる。だから、そういう人たちもこの議論の中に入れたい」
『Popstar』のリリースまでカウントダウンが続くなか、ティナーシェは、人々がただ話題にするだけでなく、考えるきっかけになるのなら、そのプレッシャーも歓迎している。その程度のことなら、彼女には十分に受け止められる。
From Rolling Stone US.