
2026年3月、アメリカから音楽業界のトップクリエイターやエグゼクティブらを招いたソングライティング・キャンプ「TOKYO SOUND CONTINUUM」が東京で開催された。文化庁の補助金により、独立行政法人日本芸術文化振興会に設置された文化芸術活動基盤強化基金(クリエイター支援基金)の助成を受けた本プロジェクトには、エンターテインメント・スポーツ・メディア領域の知的財産(IP)に投資し、世界有数の音楽カタログを有するグローバル投資会社HarbourView Equity Partnersがパートナーとして参画した。
本プロジェクトは、日本が持つ固有の美意識・物語・感性を、楽曲という普遍的な言語に翻訳して世界に届けること、そして、単発のキャンプではなく、制作から海外展開までを一貫支援する日本発の国際クリエイティブ・エコシステムを築くことを目的としている。HarbourViewのパートナーシップは、世界で活躍するソングライターたちの日本招致を可能にし、国際的なクリエイティブ人材と本プロジェクトが掲げるより大きな志とを結びつけた。
そのため、今回キャンプに参加した海外ゲストらは、制作スタジオに籠るだけではなく、茶道や生け花といった日本文化にも触れて包括的な没入型体験を実現することができた。
本稿では、主宰者の一人であり、これまでに日本と海外マーケットの架け橋としてSUMMER SONICのブッキングや、新しい学校のリーダーズ、星野源らの海外展開を担ってきた高山玉由(タマユ)氏と、来日したエグゼクティブたち――マーク・ピッツ(RCA Records CEOほか)、ロドニー・シーリー(Def Jam Recordings EVPほか)、エチオピア・ハブテマリアム(Motown Records CEO、Hybe Americaほか)、そして、これまでにレディ・ガガやブルーノ・マーズ、ケンドリック・ラマーら数多のヒット曲を手がけてきた名プロデューサーのジェイムス・フォントルロイに加えて、日本からはクリエイティブマンの代表取締役社長である清水直樹氏、スポティファイジャパン株式会社の代表取締役であるトニー・エリソン氏、そしてASOBISYSTEM代表の中川悠介氏らが参加した座談会の様子をレポートする。
プロデューサー、ソングライターたちによるソングライティング・キャンプの様子
今回のプロジェクトのテーマは「Cracking the Code」。グローバルに活躍していくために必要なコードを解くように、一週間のキャンプ期間、実際に日本のアーティストらとともにスタジオで時間を過ごしてきた。また、タマユは今回のキャンプ開催を振り返って「今回のキャンプは、日本のクリエイターが、グローバルなクリエイティブ・コミュニティの一員として自然に関われる環境を築くための第一歩として大きな意味を持つものになったし、継続的なコミュニケーションを築く土台ができた」と語る。日本とグローバルの音楽マーケットを俯瞰すると同時に、現場レベルでの底上げを図る貴重な意見の数々に触れてほしい。
異なる文化が交わる、創作の現場
タマユ:滞在中、私たちが一緒に音楽を作る中で、日本のクリエイターたちから何を学んだのかを聞きたいです。滞在中は言語や文化の壁にも直面したと思うのですが、実際に体験してみて、どう感じましたか?
マーク・ピッツ:本当に大きな学びがありました。まず僕が最初に言っておきたいのは、僕は日本人の振る舞い方とか、規律や礼儀、献身的な姿勢は本当に素晴らしいと思う。でも音楽を作る時はお互いにやり取りして、そこにダイナミックなエネルギーが生まれないといけない。なので、日本独特の年上を敬う文化や言いたいことをあまり言わない空気感をどうするか、というところが課題だなと思いました。まずは、アーティストのエネルギーを感じたいわけだから。
タマユ:日本には”恥”や上下関係の文化があるし、心を開いて考えを言語化するのが難しいとも感じます。でも、何かをクロスオーバーさせるには、まず信頼と友情を築くことが不可欠。素晴らしい音楽は、初対面同士から突然生まれるものではないですし、アメリカの音楽業界では、プロデューサーやソングライター、マネージャー、レーベル関係者などが日頃から交流し、そのつながりの中から新しい作品やチャンスが生まれている。
言葉を越えて共有される「エネルギー」
マーク:今回改めて学んだのは、エネルギーには言語がないってこと。ある曲を作っていた時、みんなが同じビートに乗って、同じエネルギーでヴァイブしていたんです。お互い、言葉は分からないけど、何に乗っているかは通じ合える。それが音楽の本質だと思うんだよね。マイケル・ジャクソンが(「Wanna Be Startin Somethin」において) ”Mama-say, mama-sa, ma-ma-ko-ssa” と歌っているのを聴いても、正直、何を言っているかは分からない。でも、あの感覚は分かる。みんなが同じエネルギーの中で動いている時、そこには確実に何かがある。だから、シャイな反応の日本人アーティストに対しても僕はこれからもトライし続けたいし、実際にキャンプの最後の方は手応えも感じた。
タマユ:逆に、日本人アーティストたちが少し考え方をシフトして、もっとエネルギーを出したり、インタラクティヴになったりする必要はあると思いますか?本気でやりたい、という意志をちゃんと伝えるというか。
ロドニー・シーリー:それには時間が掛かると思う。例えば、バッド・バニーにしろ、ヒット曲を持つアメリカのアーティストにしろ、言葉を知らなくても感じ取れるエネルギーがある。音楽はユニバーサルな言語だというのは、ありきたりに聞こえるかもしれないけど、本当だと思うから。大事なのは、彼らがそれぞれ用意された”部屋”に適応できるかどうか。自分自身でなくなる必要はない。部屋に入った時に、「この人にはこう返そう」と、その感覚を合わせることが大事。
タマユ:私の課題は、日本の音楽が世界でより大きな存在感を示していくこと。誰も否定できないくらいのヒットを作りたいし、日本の足跡として残していきたい。要するに、大谷翔平が日本のためにやっていることを、音楽でやりたいんです。キャンプの期間中、ジェイムスは、その方法論を4つのステップに分解して教えてくれました。まずは、リズムが必要だと。なぜなら、リズムはユニバーサルだから。さっきマークも言ったように、マイケル・ジャクソンの”Mama-say”が分からなくても、あのリズムは伝わる。次に必要なのはアイデンティティ。その人の強烈な存在感です。レディ・ガガやリアーナ、ビヨンセには、みんな唯一無二の存在感がありますよね。3つ目は、オーディエンスとメッセージを理解すること。日本では日本人に向けたメッセージは伝えやすいけど、アメリカや世界を相手にする時には、そのメッセージを変換しなければいけない。これは単なる翻訳ではなく、フィーリングの話だと思う。そして最後のステップが一番大きなチャレンジで、それはお金のこと。
世界的ヒットを支える、創作と投資の構造
清水直樹:例えば、アニメや食のような文化は、その形を変えずに世界で受け入れられています。音楽も同じように、そのまま越えていけるのか。それとも、グローバルなオーディエンスの好みに合わせた適応が必要なんですかね?
ジェイムス・フォントルロイ:僕はアニメファンなんですが、アニメが世界中で繋がる理由は、日本で作られているけれど、日本だけに閉じていないからだと思う。たとえば『NARUTO』は、視聴者にとって価値がある作品であると同時に、日本文化のプロモーションにもなっている。技の名前やキャラクター名には伝統的な日本の要素があるし、神道や江戸時代への言及も多い。実際、僕は『NARUTO』や他のアニメ作品を通じて、日本文化について本当に多くのことを学ぶことができた。みんなが日本文化に反応しているのは、その証拠だと思う。ただ、日本のアニメの例に共通しているのは、そこに大きなお金が投じられていること。
韓国のBTSもそうで、僕がBTSを初めて見たのはグラミーの会場だった。彼らはかなり前方に座っていて、あの席はすごく高いんだよね。当時はまだ誰も彼らのことを話題にしていなかったんだけど、チームごとその席に座っていた。チケットやアメリカへの移動だけでも10万ドルくらい使っていたんじゃないかな。アニメも同じです。本格的な作品は1話あたり100万ドルくらいかかる。『鬼滅の刃』の映画も、ロサンゼルス中のバス停やモールに広告が出ていましたから、それは映画の予算に加えてマーケティング予算もきちんとあるってことですよね。BTSで言えば、グラミーのステージやプロモーションのための映像、そしてラジオ・プロモーションへの予算など、莫大な金額を費やしていると思う。
トニー・エリソン:僕は日本の音楽のクオリティに問題があるとは思っていません。この国には、まだ海外でファンダムを見つけ切れていない素晴らしい音楽がたくさんあるし、しかも、ものすごく多様です。Spotify上の数字で言うと、世界的にはK-POPを100とするとJ-POPは10くらいのボリュームだと思われている。でも実際には違います。国外で聴かれている日本発の音楽と、国外で聴かれている韓国発の音楽の比率は、だいたい2対1。韓国は日本の2倍にすぎません。ただ、K-POPと違って、J-POPにはスーパースターがいない。あと、日本の音楽はすごく細分化されています。小さなニッチがたくさんある。東京で食事に行く感覚に似ていて、LAやニューヨークでは「みんなが行っている新しい店に行きたい」と思うものだけど、東京では、”自分だけが知っている秘密の店”に価値がある。
音楽も同じで、アーティストごとに細かなオーディエンスがいる。でも大きな違いは、日本の音楽がグローバル市場に向けて十分にマーケティングされてこなかったことです。アーティストのプロフィールをどうグローバルに構築していくか、業界全体としてまだ発展途上にある。韓国は20年早く、政府資金を使ってアーティストを海外へ送り出し、グラミーの会場に座らせ、世界的なソングライターと仕事をさせ、オンライン上のアイデンティティを作ってきました。日本ではそうした取り組みがまだこれからです。これは才能やコンテンツの問題ではなく、マーケティングとプロモーションの課題だと思います。
タマユ:つまり、お金の問題でもありますよね。海外向けのクロスオーバーな楽曲を作ろうと思っても、トラックに1万ドル、リミックスに3〜4万ドルくらいの予算感だったりする。それに、曲ができた後のマーケティングにもお金が必要だし。
トニー:日本の音楽業界全体として、Spotifyのようなプラットフォームの活用にはまだ伸びしろがあると思います。Discovery Mode(Spotifyのパーソナライズド・レコメンドで楽曲が取り上げられやすくなるプロモーション・ツール)のような仕組みや、レーベル、マネジメント、アーティスト自身が広告を出して再生を後押しできるメニューもあります。でも、こうしたツールをもっと活用できる余地がある。
ロドニー:僕はもともとプロモーション畑の人間で、長年ラジオを担当してきました。例えば、昔担当していたアーティストにアレッシア・カーラがいました。実際、僕たちは彼女の曲をまず最初にアーバン・ラジオ局に持っていったんです。なぜなら、TOP40の局に持っていったらかなり長い間待たされることが明白だったから。でも、あえてアーバンに持っていったことでリズミック局まで曲の人気を拡げることができた。伝統的なやり方を守っていたら、そこまでのスピード感で動くことは難しかったと思います。でも、大金を使ってもヒットしないこともあるし、結局は、できるだけ多くのオーディエンスに露出させて反応を待つしかない。
今のラジオは、昔ほどストリーミングに直接影響するわけではないけれど、グローバルな人気には影響します。(ラジオでOAされて)ビルボードのチャートに入れば、それでグローバルなリスナーが増えるきっかけになる。あと、食べ物などのカルチャーが海外で受け入れられやすい理由は、それがその人たちにとって本物だからだと思う。音楽も同じで、R&Bやヒップホップはアメリカのカルチャーでありアートです。そこに外から入り込もうとすると、自分たちなりの本物は作れても、同じようには消費されにくい。BTSがうまかったのは、ポップのフォーミュラを理解し、アメリカナイズされた楽曲で、予算をかけて本気で勝負したことだと思います。
ジェイムス:K-POPはもともと、僕たち黒人が育って聴いてきた音楽を土台にしているんだよね。でも、黒人コミュニティにとっては、それが古くなり、クールではなくなっていった。今では黒人コミュニティの中でも、R&Bや自分たちの音楽をどう支えるかという議論が起きているくらいだから。
国内市場の強さが生むジレンマ
清水:日本は、レコード会社とマネジメントの関係が一番問題だと思う。この間、すごくいいバンドと出会って「君たちは今からでも世界にいけるよ」と言ったら、本人たちは「行きたい」と言う。でもマネジメントに同じことを言うと「いや、もっとステップを経験して日本でもっと曲が売れないと」と言って、レコード会社とマネジメントは日本の中で売れるためのステップを何年もやっていくということになる。そうすると、海外に行くチャンスを逃してしまう。そういうところがすごくあると思う。
タマユ:日本では、マネジメント会社がレーベルよりも力を持っていることも多いんです。
マーク:僕がずっと気になっているのは、別の国から来たアーティストは、必ずその国のレーベルと契約しなければいけないのか、ということ。日本人でもアメリカに住んでいるなら、アメリカのレーベルと契約してもいいはずなのに、日本のレーベルに縛られていることがあるように思うし、そのせいで可能性が制限されているようにも感じる。あと、この機会に聞きたいんだけど、日本のグループって、なんであんなに人数が多いんだろう?
タマユ:日本にはまだフィジカル市場があります。11人組のグループなら、11人分のアルバムのジャケットを作れる。それはファンダムに向けた商品になるので。
ジェイムス:日本のグループには、シャイな子、かわいい系の子、ハーフブラックの子、みたいに、それぞれの役割がある。僕が初めて日本に来たのはLDHと仕事をするためでした。10年以上前にLDHのHIROさんに会った時、彼がツアー演出にとんでもない金額をかけていて本当に驚きました。アメリカでも見たことがないような規模だったし、学べることは本当に多いと思った。たとえばライブの最後に降ってくる紙吹雪。アメリカでは、紙吹雪は基本的にただのゴミだよね。でも日本では、そこに名前やメッセージが入っていて、ファンが持ち帰ることができる記念品になる。そういう細かい発想や意図性がすごいな、と。
エチオピア:まさに、意図的なんですよね。韓国は政府が音楽の輸出に大きなお金を投じてきました。今は日本への関心も高まっていて、アメリカ人もたくさん日本に来ています。観光も伸びていると思いますが、日本政府として、日本の才能をアメリカへ向けてプロモートする動きはあるのでしょうか。
タマユ:あります。現首相のもとで国としてもクリエイターの海外展開を後押しする取り組みが進められていて、今回のTOKYO SOUND CONTINUUMもその対象になっています。今、日本にはもっとグローバルに出ていきたいという飢えのようなものがあると思います。それは音楽だけではなく、映画、ゲーム、ファッション、演劇など、クリエイターエコノミー全体に対する投資になりうるんです。
エチオピア:今回、アメリカのトップソングライターたちを日本に連れてきたのは、本当にスマートだと思いました。音楽はまず制作から始まるし、彼らがどう作るのか、日本の若い才能がどこで萎縮してしまうのか、文化的な違いがどう影響するのかを実際に見られた。今回の学びは、次に必ず活きると思います。
ファンダムは日本の弱点か、資産か
トニー:先ほどのファンの話で言うと、ASOBISYSTEMは、その点では世界でもかなりうまくやっていると思います。Spotifyで何百万、何千万というリスナーがいるわけではない。でもドームをソールドアウトできる。それは、ものすごく熱量の高い深いファンを作っているから。日本でCDが売れていることも、僕はむしろ誇るべきだと思っています。CDを買う人たちは、同時にストリーミング・サービスでも音楽を聴いている。ファンクラブも同じで、日本にはファンが継続的にお金を使う仕組みがある。Spotifyで500万人のリスナーがいなくても、年に2回ドームに来てくれる10万人がいれば成立する。その人たちはファンクラブに入り、CDを買い、何度もお金を使ってくれる。国内市場が十分に大きいから、それだけでビジネスが成立するんです。
タマユ:しかもファンクラブの会費は安くないんです。100ドルくらい掛かることもある。それでも、ファンはその”何かの一部”になるためとか、優先的にライブチケットを買うためにファンクラブに入るんですよね。ここで触れておきたいのが、中川さんの存在です。彼はきゃりーぱみゅぱみゅを通じて”カワイイ・カルチャー"を世界に押し上げた人です。きゃりーは英語で歌うわけでも、海外向けに作り変えるわけでもなく、原宿のクリエイターたちと一緒に、自分たちの場所から"原宿"をそのまま発信していました。ファレル・ウィリアムスやヴァージル・アブローも原宿で買い物をしていたくらいですから。私が新しい学校のリーダーズと仕事を始めたのも、その独自の面白さに惹かれたからです。きゃりーも彼女たちも、日本語で歌うスタイルのまま、Coachellaに出演しました。ただ、あくまで小さなステージ。私が目指しているのは、メインステージで歌うヘッドライナーです。日本のアーティストがそこにたどり着くには、どうすればいいのか——アメリカの現場を知る私たちだからこそ、一緒に考えてみたいところです。そのうえで、ここからは中川さんにも話に加わってもらいましょう。
中川悠介:日本の仕組みは特殊で、ビジネスの成り立ち方がたくさんあるんです。特に、毎月15万から20万円を使ってアーティストを支えているというファンの方がたくさんいる。一人で何百枚もCDを買うファンもいて、たとえばFRUITS ZIPPERのようなグループになると、70万枚ものCDが売れることもあるんです。なので、ファンダムが強すぎて、日本の中で盛り上がることが大事になっちゃっている。ゆえに世界に行かないという側面がすごく強いと感じます。で、僕が思っているのは、アニメやゲームが好きなアメリカ人の中には日本の音楽が好きな人も絶対いるので、日本の音楽もそうしたカルチャーの一つとして持っていけば、世界に通用するんじゃないかなということです。世界中のオタクに知ってもらえれば、また次のステップに行けるんじゃないかな、と。
ジェイムス:日本も、空手とか『鉄腕アトム』とか、戦後に玩具や文化を輸出してアメリカとのビジネスインフラを築いてきた歴史がある。韓国における文化輸出の戦略も、日本の成功例から学んでいるはずだし、日本には文化的な優位性がある。ただ、韓国は、日本やアメリカの例を使って、自分たちの仕組みを作りあげた。たとえばプリクラも日本発なのに、LAでは韓国式のフォトブースの方をよく見るくらいだし。彼らはトップクラスのエグゼクティブを巻き込み、成長のために動いている。HYBEやAvexがアメリカでビジネスを広げられるのは、アメリカのレコード業界が自分たちのカタログに安心しすぎて、次の大きな基盤を作るスペースを空けてしまっているからだと思う。
エチオピア:日本のファンダム文化やIPの作り方から、アメリカが学べることはたくさんあると思う。アメリカにはもう、昔のようなファンダム文化があまり残っていないし。今では音楽は受動的な体験になっているし、ポッドキャストなどにリスナーの注意も奪われている。でも、音楽への愛情や情熱はまだある。だから日本のように、なぜファンが深く関わり、これほどお金を使うのかを学びたいと思っているんです。それに、アメリカの大物ソングライターたちはK-POP市場にも日本市場にも入りたがっているんですよね。なぜなら、日本ではまだフィジカル商品が売れていて、そこに付随するメカニカル・ロイヤリティも高いから。HYBEに入ってから、ソングライターやプロデューサーから「どうすればこのプロジェクトに入れるのか」ってよく聞かれるんです。フィジカルが売れる市場にはチャンスがあるし、アメリカでは今、売り場そのものを作ることが難しくなっている。今回のライティングキャンプは、まさにそのブリッジを作る取り組みだったと思います。
ロドニー:結局、ファンダムがすべて。アメリカはその感覚を手放してしまったから。ただ、日本の音楽がアメリカ市場に入るには、誰かがそのアーティストに腕を回して、「この人を連れていく」と言ってくれるような環境も必要です。ヒット曲だけでは、その曲が終われば消えてしまうから、コミュニティの一部として受け入れられることが大事だと思う。
清水:たとえばHYBEが日本人グループを開発して世界的にプロモートしたら、うまくいくと思いますか。
エチオピア:曲が良くて、きちんとお金を使い、彼ら自身がその市場へ行って努力すれば、うまくいくと思います。
アニメとIPが開く、もうひとつの回路
ジェイムス:僕が知っている日本の曲は、竹内まりやの「Plastic Love」以外は、ほとんどアニメのテーマ曲。『ジョジョの奇妙な冒険』のエンディング曲にジョデシィの”Freekn You”が使われてバイラルになったのも、日本のクリエイターがポップカルチャーをよく理解しているからですよね。ミーガン・ザ・スタリオンも、アニメファンとして自分をうまくブランディングしたことで大きな注目を集めた。僕も彼女が『僕のヒーローアカデミア』の轟焦凍の格好をしているのを見て、彼女に興味を持ったくらい。
タマユ:彼女がSUMMER SONIC 2022に出た時は、セーラームーンの格好でトゥワークしてましたからね(笑)。
エチオピア:それってすごくリアルだし、オーセンティックな信頼関係ができてるってことですよね。
ジェイムス:アメリカのスターたちは、もうお金だけでは動かない。彼らにとってクールだと思えるもの、つまりアニメや日本そのものがインセンティブになるんです。星野源の曲を聴いて『SPY×FAMILY』だと分かったり、LDHの曲を『ONE PIECE』のテーマ曲として歌えたりする。そういうIPは、大物アーティストを引き込む大きな武器になると思う。もうひとつ重要なのは、アメリカの意思決定者の多くが白人であり、成功指標も白人の反応に基づいているということ。でも日本には、黒人コミュニティとの強い接続がある。アメリカの大きなアニメファンには黒人が多いし、僕を含めて、今回のキャンプに来たのも全員が黒人。日本には、すでに言葉にされていない(ブラック・カルチャーへの)愛情がある。東京で古着の店を廻っていると、ヒップホップの店があちこちにある。それは本当に強力なツールだと思います。
マーク:アメリカでブレイクすることばかり考えている人も多いと感じるけど、僕は、もっと世界をひとつにすることの重要性を感じるんだよね。特に、今回日本に来てから、本当にそれを実現したいと思うようになりました。あと、日本語も学びたいと思うようになった。日本の文化や敬意の表し方、クラフトマンシップも含めて本当に好きだし、このムーブメントを手伝いたい。
トニー:市場を日本へ連れてくる、ということも大事だと思います。昔はアメリカのエグゼクティブたちは日本に来たがらなかったけど、今は違う。実際に来てみると、日本の機能性、礼儀正しさ、クラフトへの真剣さに驚く。まず300人、次に1000人、2000人とそういった人たちを日本に連れてきて、帰る時に少し日本の良さを持ち帰ってもらうことはできるはずです。
マーク:そうやって興味を持つことが本当の意味での”Cracking the Code”だと思う。日本でスターを育てること、同時に、自分自身でいてもらうこと。そして、僕はそれを理解したい。改めて、日本での時間は本当に楽しかったです。
タマユ:今回、本当に重要だったのは、参加者同士が心からコラボレーションできる環境をつくることでした。誰もが楽しめて、新しい出会いがあり、安心して意見を交わせて、「また一緒に制作したい」と思える空間をつくること。それが私にとって最も重要な役割だったと感じています。人は、一緒に音楽を作りたいと思う前に、「この人と一緒に時間を過ごしたい」と思うもの。これらのつながりが、将来、世界に通用する音楽だけでなく、日本と世界を結ぶ新たなクリエイティブ・エコシステムへと発展していくことを願っています。
TOKYO SOUND CONTINUUMは、HarbourView Equity Partnersの格別なご支援により実現しました。世界で活躍するソングライターたちを日本へ迎えられたこと、そして制作のインスピレーションとなる楽曲の数々をご提供いただけたことは、同社の惜しみないご協力があってこそでした。
WHOS WHO — 東京に集結した、世界のヒットメーカーたち
東京サウンド・コンティニュアムに集ったソングライターとプロデューサーたちは、決して裏方の名前ではない。この10年、世界のNo.1を生み出してきた張本人たちだ。あの部屋にいたのは誰だったのか、その顔ぶれを紹介する。
プロデューサーは活動名のアルファベット順、日本のアーティストはその後に掲載。
バングラデシュ(Bangladesh/本名ショーンドレイ・クロフォード)
デモイン育ち、アトランタを拠点とするスーパープロデューサーで、ヒップホップのリズムを塗り替えた立役者。リル・ウェイン「A Milli」「6 Foot 7 Foot」、ニッキー・ミナージュ「Did It On Em」、ケリス「Bossy」、グッチ・メイン「Lemonade」を手がけたグラミー受賞者であり、ビヨンセ、アッシャー、リアーナとも仕事を重ねてきた。
ジェイムス・フォントルロイ(James Fauntleroy)
イングルウッド出身、”ソングライターのためのソングライター”と称される存在で、幾度もグラミー賞に輝いてきた。ブルーノ・マーズ「Thats What I Like」、レディー・ガガ & ブルーノ・マーズ「Die With a Smile」、ジャスティン・ティンバーレイク「Mirrors」を共作。ビヨンセ、リアーナ、ケンドリック・ラマー、フランク・オーシャンへと連なる深いカタログを持つ。
インク(Atia Boggs)
カントリーもR&Bも自在に行き来するグラミー受賞ライター。ビヨンセ『Renaissance』、そしてアルバム・オブ・ザ・イヤーに輝いた『Cowboy Carter』(「Texas Hold Em」を含む)に名を連ね、ケンドリック・ラマー、ジャスティン・ビーバー、ジェニファー・ロペスとも仕事をしている。
J.LBS(Jason Pounds)
ロサンゼルスを拠点とするプロデューサー、ソングライター、マルチ奏者。Roc Nation所属。ケンドリック・ラマーのグラミー受賞作『Mr. Morale & The Big Steppers』に参加し、ドクター・ドレーやアンダーソン・パークとも共作。生演奏の質感を現代のラップに持ち込んでいる。
J・ホワイト・ディド・イット(J White Did It)
この10年の巨大なラップ・レコードを次々と築いたプロデューサー。カーディ・B「Bodak Yellow」「I Like It」、ミーガン・ジー・スタリオン「Savage (Remix)」、そしてグラミー最優秀ラップ・ソング賞を受賞した21サヴェージ「A Lot」を手がけた。バッド・バニーやJ・バルヴィンとの仕事も。
セロン・トーマス(Theron Thomas/R. City)
セントトーマス出身、デュオR. Cityの一員であり、2024年グラミー賞「ソングライター・オブ・ザ・イヤー(非クラシカル部門)」の現・受賞者。最近耳にするヒット曲の、いたるところに彼のペンがある。ジョングク「Seven」、ROSÉ & ブルーノ・マーズ「APT.」、リゾ「About Damn Time」、マイリー・サイラス「We Cant Stop」、そしてR. City自身の「Locked Away」。
WorldWideFresh(Akil King)
スコット・ストーチに見出されたブルックリン出身のソングライター。ビヨンセ「Black Parade」でグラミーを受賞し、コイ・リーレイの出世作「Players」を共作。その活動はR&BからK-POP、そしてラテン(Bad Gyal)にまで及ぶ。
Koshy
2024年の日本発クロスオーバーを象徴する2曲——千葉雄喜「チーム友達」と、ミーガン・ジー・スタリオン「Mamushi(feat. Yuki Chiba)」——の両方を手がけた東京のプロデューサー。バイリンガルの「Mamushi」はTikTokでバイラルヒットし、全米「US World Digital Song Sales」チャートで1位を記録、さらにアメリカ大統領選の応援集会でもパフォーマンスされた。千葉雄喜のアルバムを全曲プロデュースしており、シンプルなのに耳を離れない、鍵盤を軸にしたスパースなトラップ・サウンドは、すでにシーンで模倣され始めている。
岡嶋かな多(Kanata Okajima)
アジア屈指の多作なヒットメーカー。日本レコード大賞を2度受賞したソングライター/トップライナー/ヴォーカル・プロデューサーであり、これまでに携わったオリコン1位作品は190作にのぼる。BTS「Crystal Snow」や、BillboardのRock Albumsチャートで日本人アーティスト初の1位を獲得したアルバム『METAL GALAXY』収録のBABYMETAL「DA DA DANCE」を共作。aespa、LE SSERAFIM、TXT、TWICE、Ado、Snow Manなど、J-POP、K-POPのトップアーティストに加え、Jax Jones、Becky Hill、Pablo Alboránをはじめ、ダンス、ポップ、ラテンなど幅広いジャンルの世界的アーティストにも楽曲を提供している。
主催:Gradient Japan株式会社
特別協賛:HarbourView Equity Partners
助成:文化芸術活動基盤強化基金(クリエイター支援基金)
HarbourView Equity Partnersについて
HarbourView Equity Partnersは、エンターテインメント、スポーツ、メディアの各市場においてコンテンツを支援する機会に注力する投資会社である。同社は、知的財産(IP)に支えられた事業や資産、そして永続的な資産価値とリターンの構築を目指す投資機会を追求している。2021年の設立以来、HarbourViewは極めて積極的に活動を続けており、規制上の運用資産残高(AUM)は約38.8億ドル*に達する。これには、これまでに取得した70を超える音楽カタログや、中核領域において経営陣を擁する各種ポートフォリオ企業への投資が含まれる。同社の際立って多様な音楽ポートフォリオは、さまざまなジャンル・時代・アーティストにまたがる数千のタイトルで構成され、原盤(マスター)と出版(パブリッシング)双方の収益源にわたる約41,000曲以上の多様なカタログに及ぶ。本社は米ニュージャージー州ニューアークに所在する。
*プライベートファンドの規制上のAUMは、2025年12月31日時点における総運用資産の性質にかかわらず算出されている。これには、ファンドへの出資義務に基づく未実行のコミット済み資本を含む。タイトル数には、カバー、リミックス、リマスター、および命名規則上の軽微な差異など、同一楽曲の複数バージョンが含まれる場合がある。


