
10代のパーソナルな痛みを綴ったベッドルームでの囁きが、巨大なアリーナで数万人と共有されるアンセムへと育っていく──ビーバドゥービー(beabadoobee)ことベアトリス・ラウスの歩みは、現代のインディ・ロックがその親密な手触りを保ちながらスケールを拡大していく過程そのもののようだ。エリオット・スミスらを道標に自身の内面を掬い上げてきた彼女は、作品を重ねるごとに表現の解像度を高め、同世代を牽引するソングライターとしての逞しさを獲得してきた。
その音楽的探求がひとつの成熟を見せたのが、2年前の3作目『This Is How Tomorrow Moves』だった。巨匠リック・ルービンと共に彼女が挑んだのは、過剰な音の装飾を剥ぎ取り、ギターと声だけでも成立する曲の「本質」を見極める作業。そのアコースティックな響きのなかで自らの弱さや非を認め、他者への怒りを手放すという自己受容のプロセスを経たことで、彼女は精神的な平穏と、何にも揺るがない表現の土台を手に入れた。
だが、成熟とは必ずしも”静かになること”を意味しない。その確固たる土台の上に築かれた最新作『Pylon』は、前作の静けさを豪快に打ち破るラウドでハイボルテージなギター・アルバムだ。チノ・モレノ(デフトーンズ)やブレンダン・イェーツ(ターンスタイル)ら敬愛する先駆者たちを迎え入れ、グランジ、ミッドウェスト・エモ、ポスト・ハードコアといった90〜00年代オルタナティブ・ロックの重厚なテクスチャーを現代の鳴りとして再構築。さらに、女性ロック・アイコンの先陣を切ってきたヘイリー・ウィリアムス(パラモア)との共闘を通じ、怒りや孤独といった生の感情を堂々と肯定してみせている。
特筆すべきは、歪んだギターや轟音のディストーションが単なる意匠ではなく、「怒りたかった。フラストレーションを感じたかった」という彼女の言葉通り、むき出しのエモーションを伝達する極めてフィジカルな言語として機能している点だろう。内なるカオスをあるがままに引き受ける術を知った彼女は今、内部に高電圧を宿した送電塔(Pylon)のように巨大なエネルギーを放ち始めている。この痛快でヘヴィな傑作はいかにして生まれたのか、彼女の現在地に迫る。
「Sun Has Set」MV:ヘヴィなギターとむき出しの怒りで、『Pylon』のラウドな方向性を鮮明に示した先行曲
轟音の背景にあるルーツ
―内部に高電圧を宿した「Pylon(送電塔)」というイメージは、今作を特徴づける轟音のディストーションと、あなたの内側で荒れ狂うエネルギーを見事に象徴しているように感じました。かつて自分の部屋でエリオット・スミスを聴きながら「Coffee」を書いていた17歳の頃のあなたが、この『Pylon』のむき出しの怒りとノイズを聴いたら、今の自分に向かってなんて言うでしょうね?
Bea:たぶん、「カッコいい」って思うんじゃないかな。本当にカッコいいって。正直こういう質問をされたことって今までなかったんだけど、これ、考えるとすごくうれしい気持ちになる。17歳のBeaだったら、今の私を見て「私、超イケてるじゃん」って思うと思う。それに、「Coffee」を作ったあとは、オルタナティブ・ミュージックしか作りたくなかったんだよね。そのあとに出したデビュー・アルバムもオルタナティブ・ロックだったし。だから、すごく筋が通ってるというか、今の自分が、あの頃の自分に一番近いような気がする。
―前作『This Is How Tomorrow Moves』はリック・ルービンのもとで、アコースティック・ギター一本でも成立するソングライティングの骨格を徹底的に磨き上げた作品でした。対して今回の『Pylon』では、歪んだギターのテクスチャーそのものが感情を伝える主役を担っています。このサウンドスケープの変化は、どのように生まれたのでしょうか。
Bea:たぶん、ごく自然な流れだったんだと思う。当時の私の人生がカオスだったから、音楽を取り囲むプロダクションも同じくらいカオスになるのが自然だったというか。それに私は昔から、100個くらいのメロディが一度に鳴っていて、それによって何かを感じさせてくれる音楽がすごく好きだった。歌詞だけじゃなくて、ギターの音そのものにも何かを感じさせられるような音楽。今回私がリファレンスにしていた音楽、つまりミッドウェスト・エモの美しさって、まさにそこにあると思うんだよね。だって、あのジャンルのお決まりって、ほら、「死にたくなるようなギターコードを探そうぜ」みたいな感じだから(笑)。だから今回はそういう方向に進むことにしたんだと思う。それが当時の自分が感じていたことにも合っていたし。
―すべてを削ぎ落として本質を見極める前作のアプローチと、あえてカオスの中に本質を委ねるアプローチは、あなたの中で地続きのものだったのでしょうか。
Bea:なんとなく(笑)。結局、全部を削ぎ落としてしまえば、今でも私ひとりで歌える曲ではあるの。ただ、『This Is How Tomorrow Moves』の場合は、あらゆるカオスを経験した”あと”に生まれた作品だった。そこにはある種の親密さがあったし、ある意味”偽りの受容”みたいなものがあったと思う。当時の私は、もう全部わかったつもりでいたから。それはプロダクションにも表れていると思う。音自体は落ち着いていて、ソングライティングそのものに語らせている。私は本当に、そういうアルバムを作りたかったんだよね。でも今回は、怒りたかった。フラストレーションを感じたかった。それに、自分の性格の中で「毒」だと思われるような部分も含めて、全部受け入れたかった。そういう深いところにちゃんと入り込むことで、自分が経験しているあらゆる感情を受け止めたかったんだと思う。それもただ人生の一部で、成長していくことの一部なんだって。
―今作はヘイリー・ウィリアムス(パラモア)をはじめ、ブレンダン・イェーツ(ターンスタイル)、チノ・モレノ(デフトーンズ)、エヴァン・ステファンズ・ホール(パイングローヴ)らとのコラボレーションも話題です。ただこれは、単なるゲスト参加というより、あなたが10代の頃から聴き込んできた音楽の系譜を、彼らの「声」として直接アルバムに招き入れる試みのように感じます。
Bea:えっと……まず、ありがとう。それ、すごくうれしい。私も本当にそう思う。自分がこれまでの人生でずっとリファレンスに挙げてきたような人たちに、自分が心から大好きなアルバムに参加してもらえたなんて、ものすごいことだと思うから。でも、それこそがこの作品の素晴らしいところでもあるんだよね。彼らが何をするのか、何を加えてくれるのかについて、私は別に何か具体的なイメージを持っていたわけじゃなかった。ただ、彼らと同じ部屋にいたかったの。たとえ一緒に何も作れなかったとしても、それだけで私の人生を変えるような経験になっていたと思う。そこから実際に何かが生まれて、一緒にアートを作ることができたのは本当にありがたいことだけど、私にとってはその経験自体でもう十分だった。とにかく彼らから学びたかったんだよね。ある音楽ジャンルへのオマージュみたいな作品を作るんだったら、そのシーンの中でずっと尊敬してきた人たちみんなから、なんていうか、「いいじゃん」って背中をポンと叩いてもらいたかったというか。だから本当に最高だった。たとえあのセッションから何も生まれなかったとしても、全然構わなかったと思う。ものすごくたくさんのことを学べていたから。
―「ソングライター」という視点において、今回彼らからどのような刺激を受けましたか。
Bea:どちらかというと、もっと技術的なことだったと思う。たとえば、彼らが名前を挙げるバンドとか、好きな音楽とか。あるいは本当に単純に、どこの店で買い物してるのか、とか(笑)。私はただ、彼らのことを知りたかったんだよね。頭の中で何が起きているのか。何が彼らを今いる場所まで連れてきたのか。だって私も、みんなと同じくらい彼らのファンだからずっと興奮しっぱなしだった。
でもエヴァンについて「ソングライティング」という意味で言うなら、彼はすごく深いことを、たった3語くらいに凝縮するのが本当にうまい。それにはすごく刺激を受けた。アーティストとして私は自分の作品に対して常に批判的だと思うんだけど、これからもソングライティングではずっといろいろ実験していきたいな。
パイングローヴ「So What」:2022年作『11:11』収録。Beaはこの曲を「リピートして聴いている曲」のひとつに挙げている
―たとえばチノ・モレノやブレンダン・イェーツは、90年代から現在に至るラウド/ハードコアの系譜において重低音とテクスチャーを独自のスタイルで極めてきた存在です。彼らとのスタジオワークは、あなたのギター・リフの構築や音響的なアプローチ、ボーカル表現にどのようなインスピレーションを与えましたか。
Bea:なんていうか、チノが叫ぶときって、彼はそれについて考えてないんだよね。そこが美しいんだと思う。彼は「今、自分は何かすごいことをやっている」なんて考えない。ただ自分自身でいるだけ。だから彼らのおかげで、そういう自分自身の部分をもっと受け入れられた気がする。本当に正直な自分というか、19歳の頃、本当にそうだった自分。だから、ただその瞬間を生きて、この曲がどうなるとかどこへ行くとか気にせず、尊敬している人と一緒に何かを作るのが楽しかった。実は一緒に作った曲がほかにも2曲あって、『Pylon』には入らなかったんだけど、いつか何らかの形でみんなに聴かせられたらと思ってる。「Satellite」の最後で彼がコーラスを私と一緒に叫んでくれただけでも最高だし、彼は曲にものすごくたくさんのテクスチャーを加えてくれた。彼は、とにかくレジェンドでしかない!(笑)
―一方、「Write Me A Letter」には長年の盟友であるマシュー・ヒーリーとジョージ・ダニエル(The 1975)が参加しています。今回のようにダイレクトでハードな質感の曲で彼らと組むのは、これまでの共作とはまた異なる手触りがあったと想像しますが、この曲を彼らに託した理由を教えてください。彼らとのスタジオでのダイナミクスに変化はありましたか。
Bea:絶対に変わったと思う。私はずっと、もっと自分の意見を口にするようになっていたから。このアルバムで自分が何をしたいのか、かなりはっきりわかってたんだと思う。もちろん今まで作った音楽も全部大好きなんだけど、これは家でひとりでいるときに私が実際に聴いてるような音楽なんだよね。そして私は、この音楽を私に教えてくれた人をわかってた。それはマシュー。マシューがミネラルを教えてくれたの。これまで誰にもちゃんと言ったことなかったけど、実は私に最初にミネラルを教えてくれたのは彼だった。それに、マシュー自身も素晴らしい”エモ・アーティスト”で、世に出てないんだけど、本当に素晴らしいエモの音楽を作る。だから、自分が初めて書いたエモの曲をマシューと作るのはごく自然なことだった。
「Write Me A Letter」はツアーの合間に書いた曲で、私が初めて書いたミッドウェスト・エモっぽいリフだったの。それで「これは絶対彼とやらなきゃ!」って思った。だってミネラルを教えてくれて、アメリカン・フットボールにもハマらせてくれた人だから。だから私はあのふたりが大好きだし、ジョージも本当に素晴らしい。スタジオもすごく楽しかった。ものすごく久しぶりに、私は前よりずっと自分の意見を言って、深く制作に関わってた。彼らは本当に、本当にいい人たちで、私の話をちゃんと聴いてくれるの。プロデューサーがそうしてくれるのって、最高だよね。
ミネラル「Parking Lot」:1997年の1stアルバム『The Power of Failing』収録。静と動を行き来するギターと切実な歌声で、90年代エモを象徴する存在となったテキサスのバンド
―グランジやミッドウェスト・エモ、90年代のオルタナティブ・ロックという参照点は過去の作品でも部分的に顔を出していましたが、今回それらを最も直接的な形で前面に押し出したのはどうしてですか。単に音楽的な気分というより、今伺ったような内面の変化や歌詞の内容の切実さが、必然的にそのサウンドを要求したように思えます。
Bea:正直、そのとき自分が経験していたことが理由だと思う。今言ってくれたように、私はずっとこういう音楽をやってきたし、自分なりのバージョンを作りたかった。単純にミッドウェスト・エモのグランジ・アルバムを作りたかったわけじゃない。つまり、あのジャンルでいつもやるようなクリシェを全部使ってるわけじゃない。これは私なりの解釈なの。だって、そのとき私はただそう感じてたから。それに、私はものすごく感情的な人間だから、人生で一度くらいはエモの音楽を作らなきゃね(笑)。少なくとも一回くらいは、アルバム丸々一枚を「感情的になること」に捧げなきゃと思ったの。
―ちなみに、音楽的な面で具体的にインスピレーションを受けたアーティストやレコードはありますか。
Bea:すっごいたくさんいる。聴いてたバンドでいうと……これ前にも言ったことあるんだけど、日本のエモ・バンドもかなり聴いてた。by the end of summerとか、Texas 3000とか。もちろんミネラルもたくさん。それから面白いことに、レディオヘッドとブラーもかなり聴いてた。これは今まで言ったことなかったと思う。でも、あの人たちのプロダクションがすごく実験的なところが大好きで、そういうものを混ぜたかったんだよね。エモの音楽って基本的には全部生の楽器でしょ? それでものすごく強い感情を伝えることができる。でも、そこにもっと変な音を加えて、それをさらに強烈にするにはどうすればいいんだろう?って。そういうところから、あのリファレンスが来てるんだと思う。
―日本のエモ・バンドのどんなところがいいと思いますか。
Bea:正直、ただ本人たちが最高に楽しんでるように聞こえるんだよね。わかる? 「これはこういう音にしなきゃ」みたいなことを考えてないというか。もちろん素晴らしい音になることは考えてるだろうけど、自分たちのクリエイティブなプロセスで、ひとつひとつの決断を考えすぎてない感じがするというか。まあ、私の勝手な想像なんだけど、Texas 3000を聴くとそう感じるの。ガレージにいる子どもたちが、ただめちゃくちゃ楽しんでるみたいに聞こえる。それって最高だよね。本当に素晴らしい。
Texas 3000「Connector Fuck Man」:2023年の1stアルバム『tx3k』収録。Beaが2024年11月に公開したプレイリスト「gnochi5000bea」の1曲目に選んだことでも話題に
怒りを受け入れて見えたもの
―前作『This Is How Tomorrow Moves』は、「他人のせいにするのをやめ、自分の非を認める」という内省的な成熟がテーマでした。そこから一転して、『Pylon』で再び怒りや荒々しさに向き合うことになった背景には、どのような心の動きがあったのでしょうか。
Bea:『This Is How Tomorrow Moves』のときの私は、なんかものすごく偉そうなところにいたんだと思う。「みんな、これが20代半ばの私です。もう全部わかりました。これが答えです。全部わかってます!」みたいな(笑)。でも、それが目の前で全部ガラガラと崩れ去った。それで、「だったらもういいじゃん!」って思うようになったの。誰かを責めたいなら、私は誰かを責める。自分が毒女なら、それでいい。だから私は『Pylon』みたいなアルバムを作る必要があったんだと思う。「そうだよ、私は怒りたい!」っていう。何でもかんでも「許して忘れよう」って話じゃない。「いや、私は許さないし、忘れない」って。まあ、いつかはそうするかもしれないけど。でも、それが『Pylon』の美しいところだと思う。人生の中にあるカオスとか、大人になっていくことの中にあるカオスを受け入れること。私はたぶん、何もかも完全に理解できる日なんて永遠に来ない。でも、それでいいし、そうやって人生を進んでいくつもり。わかる? 『This Is How Tomorrow Moves』のときは、「これで完成です、みんな。私はもう成熟した女です」って感じだった。でも、違う。「未熟でいるのって、たまにはめちゃくちゃ楽しいじゃん」って。それが本当のところなの。
―以前、次のアルバム(『Pylon』)について「悲しい時間を受け入れ、あらゆる感情を感じ切ることについての作品になる」と語っていましたね。ただ、その”感じ切る”ことの先にあるのは、決して静かな受容ではなく、大人になった上でなお消えない感情をそのまま言葉にすることなのではないか、と感じました。
Bea:完全にそう。完全に。なんていうか、このアルバムには答えがないんだと思う。でも、その中で平穏を見つけるというか。それがただ人生なんだって。それも全部、大人になっていくことの一部なんだってこと。
「Memories」MV:『Pylon』のなかでも特に明るい曲調でありながら、過ぎ去った時間を美化してしまうことで生まれる切なさを描いている
―実際に曲を書き進める中で、予想外の感情に出会うことはありましたか。
Bea:怒りだと思う。正直、これまでの自分の音楽では、『Fake It Flowers』は別として、怒りに対してもいつも内省的になろうとしてたと思う。相手のどこが悪かったのか、自分のどこが悪かったのかを理解して、理屈で整理しようとしてた。でも『Pylon』では、「もうマジでどうでもいい」っていう感じ。怒りたいなら、ただ怒る。それがいいことなのか悪いことなのかは関係なくて、その瞬間の自分の感情を表現して、とにかくそれを通り抜ける必要があった。わかる? いつもいつも考えすぎるんじゃなくて、ただ全部吐き出す、みたいな。
―『Fake It Flowers』での生々しい痛みの吐露、『Beatopia』での自己受容、『This Is How Tomorrow Moves』での大人としての責任の引き受け──この流れを多くの人があなたの”成長の物語”として受け取っています。その延長線上に『Pylon』を置いたとき、ビーバドゥービーというアーティストの歴史において、今作はどのような「章」として定義づけられると感じていますか。
Bea:この章が表しているのは、ただ「正直な真実」なんだと思う。私は人生の中でいろんな時代を通ってきて、『Pylon』では「オーケー、もうそれを真正面から顔面に食らってる」みたいな感じ。つまり、「いや、私は全部わかってるわけじゃない」「いや、この人はよくない」「あ、これは私にとってよくない」「あ、私、今でもツアーにどう対処すればいいのかわからない」って。ほんの一瞬、わかったと思ったことはあったかもしれない。でも、わかってなかった。だから『Pylon』って、大人になって20代半ばにいることについての、厳しくて、恐ろしい真実そのものなんだと思う。でも正直、私はそれでいいと思ってる。音としてもその中にあるカオスを本当にうまく捉えてると思うし、「そういうものなんだ」「大人になるってそういうことなんだ」って受け入れることには美しさがあると思う。私はそれ自体に怒ってるわけじゃない。もちろん、それについて怒ってる歌ならいくらでも歌えるけど(笑)。でも結局は、あなたがそれぞれのアルバムについて説明してくれたことって、すごく筋が通ってると思う。『Pylon』についても、これが一番しっくりくる説明なんじゃないかな。

―あなたはエリオット・スミスやフィオナ・アップルのように、自分の弱さや痛みをそのまま歌うソングライターだけでなく、ホールやリズ・フェアのように、怒りや荒々しさを隠さず表現してきたアーティストたちからも多大な影響を受けてきたと思います。『Pylon』を完成させた今、あなたが敬愛するミュージシャンたちが紡いできた「個人の痛みや怒りを普遍的な芸術へと昇華する」という系譜を、現代において自分自身が受け継いでいるという実感はありますか。
Bea:まあ、なんていうか、「悪びれずにいること」という意味では、そうなのかな。でも、いつかは自分がどう感じているのかを本当に、本当に理解したうえで、それでも怒っていられるようなところまで行けたらいいと思う。でも今の私は20代半ばで、めちゃくちゃ混乱してる。でも彼女たちも、ある意味で私と同じくらい混乱してたんだと思う。自分が同じ系譜の一部だなんて言うのはすごい話だよね。ただ、女の子たちが自分を表現して、ロックすることは大事だと思う。だから、そういう人たちの中に自分もいられるならうれしいな。
―「Nothing to Prove」で共演したヘイリー・ウィリアムスは、男性中心だったロック・シーンの最前線でバンドを率いる女性像を塗り替えてきたひとりです。彼女が切り拓いた道は、あなたや同世代のアーティストが今のシーンを作り上げていく上で、どんな支えになっているのでしょうか。
Bea:正直、ヘイリー・ウィリアムスは「お手本」そのものだと思う。私がずっと作りたかった音楽を作ってきた人。それに、すごく堂々と、悪びれることなくそれをやってきたと思う。自分の意見をちゃんと口にする一方で、周りにあるくだらないことからは距離を置いて、本当に純粋にアートと自分自身に集中してきた。それでたくさんの女の子たちに影響を与えてきた。私にとって彼女が象徴してるのは、本当にそういうことだと思う。それに今言ってくれたように、彼女はアートだけじゃなくて自分の意見についてもすごくはっきり発言する。それって、女の子たちが自分を表現して、堂々とカッコよくロックスターになっていくことを後押しするうえで、すごく大切なことだよね。ある意味、男性中心の業界にいながら、その中で最も成功している人たちが女性だというのはすごく心強い。正直、周りにいるアーティストたちにすごく大事にしてもらってるように感じるから本当にありがたいし、ヘイリーみたいな人がいてくれることにも感謝してる。
―その「Nothing to Prove」は、成功した時だけ近づいてくる人間関係についての曲だと伺いました。この曲でヘイリー・ウィリアムスに声をかけたのは、彼女自身が長いキャリアの中で同じような経験をしてきたはずだという確信があったからでしょうか。彼女のヴァースが入ったことで、曲の意味合いに変化はありましたか。
Bea:実は彼女が参加する前に曲ができてたわけじゃないの。あの曲は本当にゼロから一緒に書いた。でも、まさにそれが曲のテーマだから、そこを読み取ってくれたのはすごくうれしい。自分がものすごく尊敬している人、それこそ「お手本」みたいな人、あの時代の女性ロック・ミュージシャンのパイオニアみたいな人と一緒に仕事をしているわけだよね。そこで、当時自分が経験していたこと、あるいは経験したばかりのことと同じようなことを彼女もたくさん経験してきたんだと知れたのは、すごく「自分の感じてることは間違ってないんだ」って思わせてくれた。そこですごく分かり合えて、それから「Nothing to Prove」を書いたの。
成熟しなくてもいい──今、怒りを歌う理由
―デビューから約9年が経ちました。10代の痛みを歌っていた「Coffee」の頃の自分と今の自分を並べてみたとき、形を変えずに残り続けている「ソングライターとしての核」があるとすれば、それは何だと思いますか。
Bea:たぶん、どうしても脆い部分をさらけ出してしまうことと、うざいくらい自分自身でいること(笑)。人間としてのBeaと、アーティストとしてのbeabadoobeeの間に、今まで一度も区切りはなかった。ただ私なんだよね。どうしようもない。それは意識して残そうとしてきたものでもないし、ただ、どうしてもなくせないもの。私はずっと、音楽を自分自身を表現する方法として使ってきた。言葉がほかの人にとって曖昧すぎようが、逆に具体的すぎようが、私が作る音楽は全部、本当にものすごく自分勝手な視点から生まれてる。つまり、その瞬間に自分がどう感じているのかを理解したくてたまらない、切羽詰まった気持ちからただ出てくるものなんだよね。
―一般的にミュージシャンの「成熟」というと、サウンドがアコースティックになったり、静観したトーンになったりすることを指しがちです。けれどあなたは今作で、ラウドで怒りに満ちたサウンドこそが今のあなたの成熟であることを証明しています。今のあなたにとって、表現者としての「成熟」とは何を意味するのでしょうか。
Bea:『This Is How Tomorrow Moves』のときとは、考え方が完全に変わったと思う。当時、自分が「成熟」だと思ってたものとはね。音楽的な成熟って、ただ誕生日をまたひとつ迎えることなんじゃないかな。わかる? 人って大きくなれば、自然に成熟していくでしょ? 私は以前、「オーケー、私は成熟したんだから、こういう曲を書かなきゃ」って、ものすごく自分にプレッシャーをかけてた。そんなのクソくらえ。たぶん私、50歳になっても「この人、大嫌い」みたいな曲を書いてると思う(笑)。でも、それでいいの。それで全然いい。「成熟したアーティストであるってどういうことなんだろう?」っていうプレッシャーをかけると、私はちょっと頭がおかしくなりそうになる。自分が「今までで一番成熟した」と感じる地点に到達することなんて、たぶん永遠にないと思う。人って自然に大人になっていくものだから。だって学ぶし、常にいろんなことをどうにか理解していかなきゃいけない。たぶん髪が白くなるまで、ずっとそれをやり続けるんだと思う。でも、それでいいの。
「Switchblade」リリックビデオ:「闘うのか、逃げるのか」という葛藤を通じて、自己防衛や怒り、不確かさと向き合った曲
―このアルバムの最大のテーマのひとつは怒りだと言っていましたが、今、一番何に怒っていますか?
Bea:今? うーん。『Pylon』全体を通して表現されているテーマは怒りなんだけど、その多くは孤独とか、孤立してる感覚とか、混乱してる感覚でもあると思う。今、何に怒ってるかっていうと……怒ってることはたくさんある。でも面白いのは、私はただ孤独を感じることがすごく多いってこと。孤独って、どこへ行ってもずっと私についてくるもののように感じる。大勢の人と一緒にいてもね。ツアーに出てるときが一番それを強く感じる。それが、私がかなりたくさん曲を書いた理由なんだと思う。
―社会についてはどうですか? 今、社会に対して怒っていることはありますか。
Bea:社会に対して怒ってることはたくさんある。世界がどれだけ変わってしまったかとか、どれだけ速く変化してるかとか、今起きてること全部。何が起きてるのかを理解するには、あまりにも多すぎると思う。でも私は、この巨大な宇宙の中のほんの小さな点みたいな存在で、ほかのみんなと同じように、自分自身の世界の中にいて自分自身の問題を抱えて生きてる。だから、いつも上がったり下がったり。ずっと上がったり下がったりしてる。
―このアルバムを聴き終えたリスナーから、もし一言だけ感想を伝えられるとしたら、どんな言葉を受け取りたいですか。
Bea:わかんない(笑)。なんて言うんだろう。何を言ってほしいのかな。でも、理解してくれたらいいなとは思う。それで、一番うれしいのはたぶん、「私もまったく同じように感じてる。あなたはひとりじゃないよ」って言ってもらうことだと思う。私の音楽の美しいところって、そこだと思うんだよね。私は本当に、人に気に入ってもらいたいと思って何かを作ってるわけじゃない。この超クレイジーな世界の中で、自分が少しでも孤独じゃないって感じるために音楽を作ってるの。

Photo by Erika Kamano

ビーバドゥービー
『Pylon』
発売中
レーベル:Dirty Hit
再生・購入:https://beabadoobee.ffm.to/pylon
1. Pylon
2. Sun Has Set
3. Estranged
4. Switchblade
5. Write Me A Letter
6. Its Alright
7. In Motion
8. Memories
9. Nothing To Prove
10. Radio
11. Powerlines
12. Spark
13. Despite That
14. Satellite
