
Mrs. GREEN APPLE presents 『CEREMONY』は、音楽やファッション、カルチャーが交わり、アーティストが互いを称え合うショーだ。2025年に初開催され、2回目となる今年は6月にKアリーナ横浜で2日間にわたって行われた。その舞台設計を担うのは、米グラミー賞やバッド・バニーのスーパーボウル・ハーフタイムショーを手がけるYellow Studio。世界の大舞台を知るクリエイターは、ミセスの思想をどう空間に変えたのか。創設者フリオ・ヒメデに、国境を越えた協働の舞台裏を聞いた。
【写真ギャラリー】Mrs. GREEN APPLE presents 『CEREMONY』のステージセット
―まず、フリオさんご自身のバックグラウンドと、Yellow Studioを設立した経緯について教えてください。演劇の舞台美術から、放送やライブイベントのプロダクションデザインへと活動を広げるなかで、スタジオの制作理念や仕事の進め方は、どのように変化してきましたか?
フリオ・ヒメデ(以下、フリオ):私は12歳のときにエルサルバドルからオーストラリアへ移り、その後、現地の大学で演劇の舞台美術を学んだ。そこで身につけたのは、空間を通して物語を伝えるための基礎だった。空間の構造や照明、動き、素材をどう組み合わせれば、ひとつの体験として成立させられるのかを学んだ。
その後、ニューヨークに移り、2014年にYellow Studioを設立した。それ以来、スタジオはコラボレーションを軸に活動するデザイン集団へと成長し、仕事の領域も従来の舞台美術から、世界各地の放送番組や音楽ライブ、大規模イベントへと広がっていった。規模もテクノロジーも大きく進化したが、私たちのアプローチの根底にあるものは変わっていない。物語をしっかりと伝えること、協働すること、そして核となるひとつのアイデアをもとに、一貫したビジュアルの世界をつくることだ。
―Mrs. GREEN APPLEおよび『CEREMONY』とのコラボレーションは、どのように始まったのでしょうか。彼らの音楽やビジュアル表現、ライブパフォーマンスに初めて触れたとき、プロダクションデザイナーとして、どんなところに最も惹かれましたか?
フリオ:最初に声をかけてくれたのは、Mrs. GREEN APPLEのチームだった。私たちの仕事を知っていて、『CEREMONY』の世界観を一緒につくっていくプロダクションデザイナーを探していた。公演の約半年前から協働を始め、2月にはロサンゼルスで会って、クリエイティブの方向性を一緒に考え始めた。
そこから、デザイナーのDamun JawanrudiをはじめとするYellow Studioのデザインチームが、Mrs. GREEN APPLEのチームと密に連携しながら、最初に定めた方向性を会場全体の空間へと発展させていった。当初から目指していたのは、プロダクションの質を高め、上質で、細部まで考え抜かれたものをつくることだった。授賞式のようなスケール感や洗練は取り入れつつ、従来の授賞式の形式にはとらわれない。あくまで音楽とアーティストを中心に据えて、その魅力を伝える独自のショーケースをつくることに集中していた。

Photo by Seitaro Tanaka Photo Office
―2026年の『CEREMONY』の制作にあたって、Mrs. GREEN APPLE側からは、どのような言葉やイメージ、物語が共有されましたか。前年の初開催から2日間の公演へと規模を広げるなかで、受け継ぎたいと考えた精神と、新たに加えたいと考えたスケール感や物語性を教えてください。
フリオ:私たちが繰り返し立ち返ったのは、「成長」と「進化」という考え方だった。プロダクションの規模が大きくなっても、『CEREMONY』の中心にある祝福の気持ちや、人々のつながりを大切にしたかった。2026年は、空間そのものによってイベントの個性をより鮮明にし、その世界にすっかり入り込めるような環境をつくりたいと考えた。ステージだけでなく、会場全体をデザインの対象として捉えた。構造物をステージの外側や観客席の上まで広げることで、出演者と観客が、ひとつのビジュアルの世界を共有できるようにした。

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「熟しきらない青リンゴ」を空間にする
―今回のデザインは、「決して完全には熟しきらない青リンゴ」という考え方、つまり、絶えず進化し、変化し続ける音楽の象徴から着想を得たと伺いました。この抽象的なアイデアを、成長や変化を感じさせる実際の空間へ、どのように落とし込んだのでしょうか?
フリオ:私たちが興味を持ったのは、青リンゴという物体そのものよりも、それが表す考え方だった。常に成長の途中にあって、完成しきることはない。その感覚が、音楽や創作のプロセスにとてもよく通じると感じた。「成長」を空間の造形として表したら、どんな姿になるのか。そう考えるなかで、上へ伸び、枝分かれし、空間を巡っていく形にたどり着いた。デザインを練り上げていく過程で、その考え方を表現する重要な要素になったのが、木目調のリボンだった。空間そのものが、成長し、変化し続けているように感じられる環境をつくった。
―会場内を上へと伸びる木目調のリボン、大型スクリーンに映し出される光を帯びたオニキスのイメージ、空間を縫うように配された植物、そして観客席の上に浮かぶ花と光の天蓋が印象的です。それぞれに、どのような意味や役割を持たせましたか。また、有機的な造形や構造物、映像、照明を、どのようにひとつの風景として調和させたのでしょうか?
フリオ:個々の舞台装置が集まっているのではなく、会場全体がひとつの風景として感じられるようにしたかった。木目調のリボンは空間の骨格をつくると同時に、成長や時間の流れを表している。一方、光を帯びたオニキスのイメージは、自然の素材感を取り入れながら、映像によってその表情を次々と変化させられる要素だ。植物や、頭上に吊るした花の天蓋は、その風景をステージの外へ、観客席まで広げていく。そうすることで、会場全体につながりが生まれるようにした。

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―2026年の『CEREMONY』には、ジャンルも世代もパフォーマンスのスタイルも異なる13組のアーティストが出演しました。イベント全体のビジュアルに一貫性を持たせながら、それぞれの個性を引き立てるステージを、どのようにつくったのでしょうか。出演者ごとに、映像や照明、空間の見せ方をどう変化させましたか?
フリオ:そこは、デザインの全過程を通して、特に重視していたことだ。空間の造形には明確な個性が必要だが、それによってパフォーマンスのスタイルを限定してはいけない。そこで、共通の骨格をつくり、そこに映像と照明を重ねることで、アーティストごとに空間を変えられるようにした。同じ場所でも、パフォーマンスによって、広がりを感じさせる空間にも、親密な空間にも、色彩豊かな空間にも、グラフィックの印象を強く打ち出した空間にもなる。観客には、常に『CEREMONY』の世界のなかにいると感じていてほしい。同時に、アーティストにも、その瞬間は自分自身のステージなのだと感じてもらいたい。
競うのではなく、称え合うための舞台
―『CEREMONY』が掲げるのは、競い合う「PRIZE」ではなく、互いを称え合う「PRAISE」という考え方です。空間デザインを通して、アーティストと観客のつながりをどのように生み出そうとしたのでしょうか。また、出演者が会場に残り、互いのパフォーマンスを見守ることは、会場のレイアウトにも影響しましたか?
フリオ:アーティストが会場に来て、演奏して、そのまま帰っていくわけではないという点は、とても大きかった。彼らもまた、観客であり、その場の参加者でもある。だから、序列を感じさせるのではなく、全員で共有する場にしたかった。デザインをステージの外へ、会場全体へと広げたのも、そのためだ。構造物や植物、花、照明によって、出演者と観客を視覚的につなぐ。そうすることで、この大きな空間を全員で共有していると感じられるようにした。

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―この公演はKアリーナ横浜でのライブ体験に加え、WOWOWの放送・配信を通しても届けられました。会場での没入感と、カメラを通した映像のインパクトを、どのように両立させたのでしょうか。また、映像で観る際に、特に注目してほしいディテールはありますか?
フリオ:放送を前提にデザインするときは、まったく異なるふたつのスケールで考える必要がある。会場にいる人には、空間全体を体験してもらわなければならない。一方、自宅で観ている人は、クローズアップや、特定のカメラアングルで切り取られた映像を通して、その空間に触れることになる。ステージを囲んで座るアーティスト同士が親密さを感じられる場にすると同時に、自宅の視聴者にも、アーティストを身近に感じてもらいたかった。
―Yellow Studioは、グラミー賞授賞式の巨大な蓄音機、2023年のユーロビジョン・ソング・コンテストで連帯を象徴した「抱擁」、2024年の英国アカデミー賞(BAFTA)授賞式で映画の歴史を表現したゾートロープに着想を得た構造など、数々の大規模なテレビイベントを手がけてきました。そうした経験は、『CEREMONY』の制作にどう生かされていますか。逆に、アーティスト自身が主催する『CEREMONY』だからこそ、従来の授賞式では難しかった表現に挑戦できた部分はありますか?
フリオ:そうした仕事を通して学んだのは、非常に複雑なプロダクション全体をまとめる、明確なひとつのアイデアを見つけることの大切さだった。グラミー賞の蓄音機、ユーロビジョンの「抱擁」、BAFTAを象徴する仮面のモチーフ。強いコンセプトがあれば、何百もの細かなデザイン上の判断を導いてくれる。『CEREMONY』が違っていたのは、組織や従来の授賞式の形式ではなく、ひとつのバンドが持つ創造的な世界を出発点にできたことだ。だから、賞の部門や決まった進行に沿った場面転換よりも、2夜を通して変化し続けるひとつの空間をつくることに、意識を向けられた。
―今回のプロジェクトを実現するうえで、クリエイティブ面、あるいは技術面で最も難しかったことは何ですか。また、その構想を形にするうえで、日本のクリエイティブチームや制作スタッフは、どのような役割を果たしたのでしょうか。完成したショーを実際に見て、Mrs. GREEN APPLEや日本のライブエンターテインメント文化について新たに発見したこと、そして今後の『CEREMONY』の可能性について教えてください。
フリオ:いちばん難しかったのは、明確な個性を持たせながら、非常に幅広いアーティストやパフォーマンス、技術的な要件にも対応できるものをつくることだった。その構想を実現するうえで、日本のクリエイティブチームと制作スタッフの存在は欠かせなかった。仕事の精密さや職人技には、本当に感銘を受けた。細部にわたる技術的な課題を解決しながらも、全体を貫くクリエイティブの核を守ろうとする姿勢も素晴らしかった。
完成したショーを見て、Mrs. GREEN APPLEが、自分たちの音楽を軸にした体験づくりに、いかに大きな意欲を持っているかをあらためて実感した。それこそが、『CEREMONY』の面白さだと思う。従来型の授賞式になる必要はない。アーティストが集まり、互いを称え合うという考え方を大切にしながら、これからも進化し続けられる。
Yellow Studio Website
https://www.instagram.com/yellowstudionyc/
Mrs. GREEN APPLE presents 『CEREMONY』 2027開催決定
※詳細は後日発表