飛行機事故からの生還、妻と経験した流産 トラヴィス・バーカーの知られざる半生を映すドキュメンタリー

ブリンク182(blink-182)のドラマーとして活躍し、ロックからヒップホップまで、ジャンルを超えて多くのアーティストに求められてきたトラヴィス・バーカー。その人生には、華やかなキャリアだけでは語れない苦難がある。2008年の飛行機事故では親友2人を失い、自身も重傷を負った。妻コートニー・カーダシアンとの間に子どもを授かるまでには、公にしてこなかった喪失も経験していた。

【関連記事】「音楽伝記映画」名作ベスト30

ドキュメンタリー『Travis Barker: Louder Than Fear』は、本人や家族、友人たちの証言と、バーカー自身が叩くドラムの音を通じて、その半生をたどる作品だ。2017年に始まった撮影は、飛行機事故による心的外傷後ストレス障害(PTSD)と向き合う日々を追っていたが、制作は一筋縄ではいかなかった。彼自身、この映画を作ることに抵抗があったのだ。

本作は、全身をタトゥーで覆うドラマーの原点にも触れている。ドラムに興味を持ったきっかけは、マペットのキャラクター、アニマル。4歳からレッスンに通い、母に支えられて練習を重ねたが、その母は彼が14歳のときに亡くなった。15歳で初めてタトゥーを入れた際、父から仕事に就けなくなると叱られたものの、本人にとっては、音楽以外の道を断つための覚悟でもあった。「食べる金があって、寝る場所があって、ドラムを叩ければよかった」。1998年、急遽ブリンク182の代役を務めたときには、1時間もないなかで曲を覚え、その演奏でメンバーを魅了。同年、正式に加入した。

事故機に乗る前から、嫌な予感がしていた

本作の核心にあるのは、人生を一変させた2008年の事故だ。バーカーはもともと飛行機が大嫌いだった。2000年代初頭、友人から気持ちを落ち着かせるための薬をもらったことをきっかけに、搭乗前には薬を飲むようになり、やがて依存に陥っていった。元妻シャナ・モークラーによれば、1日に20〜30錠を飲んでいたという。「あまりにも大量に飲んでいたから、俺が眠っているところを見守ることだけが仕事の警備員を雇っていた」と、彼は明かす。

事故当時、バーカーはDJ AMことアダム・ゴールドスタインと、DJとドラムによるプロジェクト、TRV$DJAMで活動していた。その日、2人はサウスカロライナ州コロンビアでのプライベートイベントに出演。アシスタントで親友の「リル・クリス」ことクリス・ベイカーと、警備員で親しい友人のチャールズ・”チェ”・モンローも同行していた。

だが、バーカーは出発する前から気が進まなかったという。飛行機にはうんざりしていたし、幼い子どもたちをまた家に残していくのも嫌だった。作中では、家を出る直前の娘アラバマの様子を振り返っている。

「出かける前、娘のアラバマが取り乱して泣いていたんだ。『屋根が燃えて、外れちゃう』って……。俺が出たあとも、2時間くらい泣いていたらしい」

ライブは順調に進み、午後9時か10時には終了した。ゴールドスタインは翌朝まで待たず、その夜のうちに帰ろうと提案。バーカーは一泊しても構わなかったが、ほかの3人は帰りたがっていた。「要するに多数決を取ったんだ。今から飛行機で帰りたい人と、帰りたくない人。それで俺が負けた。でも、みんなに合わせたんだ」

出発する頃には深夜0時近くになり、霧が出ていた。大型機が並ぶ駐機場で、自分たちの小さな飛行機は、その陰に隠れるように停まっていた。バーカーによれば、機体の前で写真を撮ったクリスも「くそ、この飛行機、大丈夫かよ」と口にしたという。バーカーは父ランディに電話し、飛行機の写真を送った。父はそのときの言葉を覚えている。「『これからこれに乗るんだ。この飛行機には、あまり乗りたくない』と言っていました」

その飛行機は、まともに離陸することさえできなかった。リル・クリスとチェは即死。ゴールドスタインは生き延びたものの、1年後に薬物の過剰摂取で亡くなった。バーカーは全身の65%にやけどを負い、家族と離れて何週間も治療を受けた。心身の苦痛は激しく、自ら命を絶つことも考えたという。

映画では、彼があの夜の出来事を細部まで語る。その証言に重なるのは、事故の記憶をもとに本人が組み立てたドラムソロだ。言葉だけでは伝えきれない感情が演奏に刻まれ、ドラムを叩くことがいかに彼の人生を支えてきたかを浮かび上がらせる。

事故後、バーカーは飛行機に一切乗らなくなった。本作の冒頭で彼がいるのも、大西洋を横断する客船クイーン・メリー2の船室だ。ヨーロッパをツアーするには、船で渡るしかなかった。製作者側にとって、再び飛行機に乗る場面は自然な結末だったが、当時の本人には考えられないことだった。その隔たりが、制作にも軋轢を生んだ。

再び空を飛べたのは2021年。現在の妻コートニーが、サプライズでメキシコ旅行を用意してくれたときだった。その数年後、彼はドキュメンタリーの制作にも戻ることを決めた。

妻と子どもを授かるまでに経験した、知られざる喪失

映画では、コートニーと子どもを授かるまでの知られざる苦難も明かされる。2人は妊活の苦労を公に語り、体外受精をめぐる経緯もタブロイドに盛んに取り上げられてきた。だが、それ以前、交際が始まってわずか6カ月の頃、彼女は妊娠していたという。

2人は大喜びした。バーカーは、もう子どもを持つことはないと思っていた。だが、生涯をともにしたいと思える相手に出会い、再び子どもを迎えるのが待ち遠しかった。「私たちは本当に幸せでした」と、コートニーは振り返る。

しかし、その3カ月後、2人は流産を経験する。バーカーがこのことを公に明かすのは、本作が初めてだ。「病院に行ったら、医師から赤ちゃんの心拍がないと言われたんだ」。コートニーによれば、2人は何日も一緒にベッドで横になり、泣いて過ごしたという。「ただ、2人の子どもが欲しかった。それだけだったんです」

流産、そして体外受精でも授からなかった日々を経て、2023年11月、ロッキー・バーカーが誕生した。バーカーと彼の3人の子ども、コートニーと彼女の3人の子ども、そしてロッキー。互いの子どもたちとともに築いた家族の姿が、つらい記憶をたどる映画に温かな時間をもたらす。

再婚同士の夫婦と子どもたちを描いたコメディになぞらえ、バーカーは「要するに『ゆかいなブレディー家』みたいなものだよ」と語る。コートニーも「見た目は『アダムス・ファミリー』でも、中身はそんな家族なの」と続ける。今では家族でよく旅行に出かける。ときには、飛行機にも乗って。

『Travis Barker: Louder Than Fear』は、今年のトライベッカ映画祭で初上映され、HuluとDisney+で配信されている。

from Rolling Stone US