今夏最大のヒット作となった『VIVANT』(TBS系)続編の序盤をけん引したのは阿部寛だろう。放送前から「激ヤセ」が話題となっていたが、スタート後はまさかの裏切りや、とらえられて絶食に苦しむシーンで視聴者を驚かせている。

「そんな阿部寛の出演作で今見たいのは何なのか」と考えたところ頭に浮かんだのが2004年放送の『アットホーム・ダッド』(カンテレ・フジテレビ系、FODで配信中)。

今年6月2日に亡くなった脚本家・尾崎将也さんのオリジナルだが、「阿部寛×尾崎将也のドラマ」と言えば、2年後に放送された『結婚できない男』(カンテレ・フジ系)ばかりフィーチャーされ、なかなかスポットがあたる機会がない「隠れた名作」と言っていいだろう。

「『VIVANT』で壮絶な演技を見せる阿部寛のまったく異なる姿を見る」「数々の名作を遺した尾崎将也さんを哀悼する」という2つの意味を込めて同作をドラマ解説者・木村隆志が掘り下げていく。

  • 『アットホーム・ダッド』(C)関西テレビ・MMJ

    『アットホーム・ダッド』(C)関西テレビ・MMJ

22年が過ぎて専業主婦は増えた?

主なあらすじは、主人公・山村和之(阿部寛)は念願のマイホームを手に入れたが、勤務先の大手広告代理店を辞めなければならない状況に追い込まれてしまう。しかし、そのころ専業主婦の妻・美紀(篠原涼子)に仕事復帰の誘いが舞い込んだことで夫婦の役割が逆転。それまで「専業主夫なんて男の風上にも置けない」と公言していた和之は、妻子を養う一家の大黒柱から家事と育児を担う専業主夫への転向を渋々受け入れる。

ところが、仕事人間で家事がまったくできない和之は、料理を焦がし、皿洗いでズボンがびしょ濡れ、洗濯機も掃除機も扱えず、宅配便の認め印すら見つからず、5歳の娘・理絵(安藤咲良)の髪を結えないなど、散々な状態。見下していた隣人の専業主夫・杉尾優介(宮迫博之)に不本意ながらも頭を下げて家事を教わることにするが、これによって彼の中で何かが変わりはじめていく……。

エリート意識が強く、自信に満ちあふれていたCMディレクターの和之は、「専業主夫は次の仕事が決まるまでの骨休め」と公言して主婦たちから反感を買ってしまう。しかし、そのスキルは家事・育児では何の役にも立たず失敗を重ねる和之。「こんなことすらできないの?」と蔑まれてボロボロになりながらも向き合うことで、徐々に変わっていく姿が描かれた。

専業主夫が主人公のメジャー作品は04年の『アットホーム・ダッド』、06年の『誰よりもママを愛す』(TBS系)、20年の『極主夫道』(日本テレビ系)くらいだろうか。それぞれ二枚目の阿部寛、田村正和さん、玉木宏が専業主夫を演じるギャップがコメディとしての笑いにつながった。

専業主夫をメインで描いた作品は意外なほど少ないが、家事がテーマの作品は2020年代に入ってジワジワと増えている。なかでも多いのはTBS「火曜ドラマ」で、『私の家政夫ナギサさん』『西園寺さんは家事をしない』『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』が放送され、いずれも主に女性層からの支持を集めた。

この傾向を見る限り、「『アットホーム・ダッド』から20数年が過ぎた今も専業主夫はそれほど増えず、キャリアと家事の問題に悩まされる女性が多い」と感じるのかもしれない。その意味で、専業主夫の難しさを知り不器用ながらも奮闘する和之、専業主夫を堂々と楽しむ優介の姿は、令和の世を生きる女性の心を打ち、男性に気付きをうながすのではないか。