『エンジン』が痛快さを感じるもう1つの理由は主演・木村拓哉。

96年の『ロングバケーション』、97年の『ラブジェネレーション』、98年の『眠れる森』(いずれもフジ系)で「平成の視聴率男」となった木村は以降、「キムタクにどんな職業を演じさせるか」という視点で企画が立てられていた。

00年の『ビューティフルライフ』(TBS系)は美容師、01年の『HERO』(フジ系)は検事、03年の『GOOD LUCK!!』はパイロット、04年の『プライド』(フジ系)はアイスホッケー選手、08年の『CHANGE』(フジ系)は総理大臣、09年の『MR.BRAIN』(TBS系)は脳科学者。いずれも木村の華に負けない派手な職業が用意された。

なかでも『エンジン』で演じたレーサーは木村の華と見事にフィット。児童養護施設という舞台と子どもたちの生い立ちの重さを中和し、老若男女が見られるエンタメ作となった。

「レーサーをクビになった次郞が子どもたちの送迎バス運転手を務める」→「次郞は子ども嫌いだからこそ本音で接していく」→「徐々に子どもの心をつかみ、レーサー復帰への後押しをされる」という主人公を取り巻く展開は、多くの視聴者が共有して楽しめる王道のエンタメと言っていいだろう。

令和の主演女優3人がそろい踏み

周囲の登場人物に目を向けると、理想に燃える新米保育士・水越朋美(小雪)とリアリストの保育士・鳥居元一郎(堺雅人)が次郞との三角関係を形成。特に子どもへの接し方と恋の両面で対極にいる元一郎は次郞の魅力を引き立てる重要なポジションを担った。

当時の堺は朝ドラ『オードリー』(NHK総合)を見ていた人以外は「知らない」という状態。一般的な認知度は低く『エンジン』は民放メジャー作品への初レギュラー出演だった。さらに堺は翌06年の『Dr.コトー診療所2006』(フジ系)で主人公・五島健助(吉岡秀隆)のライバル的なポジションの大学病院医師・鳴海慧を演じて知名度が急上昇。2010年代に国民的俳優となる足がかりをつかんだ。

ホームの子どもたちを演じた俳優で注目は、上野樹里、戸田恵梨香、夏帆の3人。上野は最年長でしっかり者の高校3年生、戸田は愛を求めて恋愛を繰り返す高校2年生、夏帆は泣き虫でノロマな中学1年生を演じてそれぞれ出世作となった。『エンジン』は主演女優となった3人のお宝映像な作品と言っていいだろう。

その他では当時ジャニーズJr.の有岡大貴と中島裕翔もそれぞれ中学2年生、小学5年生の役で出演。次郞の父で園長を演じた原田芳雄、次郞の姉で事務長を演じた松下由樹、栄養士を演じた高島礼子、慈悲深い教会の神父を演じた角野卓造らベテランぞろいの中で貴重な経験を積んだ。

「風の丘ホーム」に危機が訪れ、次郞がレーサーとして子どもたちを守ろうとする終盤は連ドラらしい盛り上がりと、ハッピーエンドを期待して待つ多幸感があった。人気絶頂の「キムタク」を楽しむ、子どもたちのエピソードに感動する、長年F1中継を担うフジらしいレースの描写を見るなど、複数の醍醐味を併せ持つハイブリッドなエンタメ作であることに疑いの余地はない。

日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。