七海は実の家族とのつながりが薄い一方で、仕事として家族を演じる人々や、旅の途中で出会った真白と新たな関係を築いていく。血縁を超えたつながりを描く背景には、「自分の根っこのところにあるもの」が反映されていると岩井監督は話す。
「子どもの頃から、家出や冒険、ロードムービー的な物語に惹かれてきたので、物語の、スタート地点から孤立して、旅に出るということをさせたかったんです。家族と仲が良いと、それが始まらず、あまり遠くに飛べないんですよね」
物語を作り始める際は、要所となる場面を頭の中に思い描きながらも、実際に作り進める中で展開を考えていくことが多いという岩井監督。その中で常に意識しているのが、作品を見始めた時とは“異なる場所”へ観客を連れていくことだ。
「実際に旅をしなくてもいいし、同じ場所で展開してもいいんです。でも、見始めた時とあまり変わらない印象で終わっていくより、“随分遠くまで来たな”という気持ちにさせたい。それは、作っている時のベクトルとしては常にあります」
綾野剛演じる安室も、物語の展開に必要だから先に生み出したのではなく、「こういう人がいたら面白いだろう」と七海と組み合わせたことで、次第に大きな役割を担っていった。
七海をだまして金銭を得ているはずの安室だが、彼が七海を“カモ”にしていくほど、七海の笑顔は増えていく。そんな関係を描いた「コメディーというか、アイロニックな物語にしたかった」と振り返った。
作品づくりは「まず自分をどこまで楽しませてくれるか」
改めてなぜ、この作品は公開から10年を経ても愛され続けているのか。
岩井監督が作品を作る際、最初に考えるのは「自分が飽きないものにする」ことだという。企画から完成まで数年にわたり、毎日のように作品と付き合うだけに、創作活動は自分自身を楽しませ続けることを前提に行っている。
「自分が3年飽きていないわけだから、観客は2~3時間ぐらいは全然大丈夫だと思うんです。それを10年、ずっと好きでいてくれる人がいるというのは、自分が作った時間をさらに超えている話なので、改めてありがたいです」
キャラクターや物語だけでなく、映像、ウェディングドレス、メイド服、演劇のような結婚式の余興など、「見ていて楽しむことができる要素」が随所に織り込まれたことも、繰り返し見たくなる作品につながったのではないかと分析。「自分がとことん向き合って、まず自分をどこまで楽しませてくれるかということをずっと考えているのが、大きいかもしれないです」
