
前作『Volcano』から3年ぶりにジャングル(Jungle)の5thアルバム『Sunshine』が届いた。GREENROOM FESTIVALの出演で来日した2024年に、前々から制作とライブに関与していたボーカルのリディア・キットーが正式加入し、今作は全てを3人で作った初めてのアルバムということになる。よってリディアのボーカルをこれまで以上にフィーチャー。彼女のカラーが非常に濃く出たアルバムで、喜びに満ちた明るい曲やスウィートな曲が多く並んでいる。先行シングル「Someday, Somewhere」は日本でも大評判で、8月2日付けのJ-WAVE「TOKIO HOT100」で1位を獲得。アルバムもこれまで以上に広い層に届くことになるだろう。ジョシュ・ロイド・ワトソンとリディアに話を聞いた。
リディア加入で「深化」したジャングル
―新作『Sunshine』のコンセプトを教えてください。
ジョシュ:コンセプトは「ある場所がもたらす感覚」といったものだったと思う。ただ僕らの場合、初めから「今回はこういうコンセプトで作ろう」と決めたりはしない。音楽から始まるんだ。グルーヴから始まるし、フィーリングから始まる。曲が僕らの前に姿を現すにつれて、だんだんとコンセプトの輪郭がはっきりしてくるという感じだね。今回も曲ができるにつれ、これは「憧れ」や「距離」、「希望」や「時間」についてのアルバムであり、「時間の経過とともに変化する感情」についてのアルバムなんだと気づき始めた。アルバムのタイトルは『Sunshine』だけど、文字通りの意味での「太陽の光」がコンセプトってわけではないんだ。希望を感じさせるフィーリングのようなもので、それを『Sunshine』というワードに託している。ひとつひとつの曲のなかにもそういうフィーリングがあると思う。
このアルバムは「Come Back To Me」という曲で始まるけど、あの曲には「切望」や「恋しさ」がある。「Someday, Somewhere」には「憧れ」や「痛み」がある。だけどそういう感情が、喜びのなかにあるような形で提示されている。温かでシネマティックな表現のなかに、希望や憧れと痛みのような感情とが並置されているんだ。
―3年前の『Volcano』はアッパーでエネルギーに満ちたアルバムでした。それに比べて今作はそこまでアッパーというわけではなく、喜びの感情が素直に出ている曲やスウィートな曲が増えていますね。それは3人の今の気分の表れなんでしょうか?
ジョシュ:今の僕らの気分というよりかは、アーティストとしての自分たちのなかから自然に出てきたものを反映させた結果だろうね。『Volcano』は今作よりも大胆で、若々しくて、向こう見ずなところのある作品だった。ジャケットの彩度も高かったし、ある意味、人の注意を引こうとするところがあったと思う。そこから「Candle Flame」「Dominoes」「Back On 74」「Good At Breaking Hearts」みたいな曲が生まれ、そうした曲を通じてジャングルはもっと肩の力が抜けた、ソウルフルだけど自然体なサウンドへと立ち返っていったんだ。「Casio」や「Beat 54 (All Good Now)」(どちらも2018年の2ndアルバム『For Ever』に収録)にも無理のない温かさがあったと思うけど、結局僕自身が今一番しっくりくるのが、そういう温かみを持つ楽曲だった。だから今作『Sunshine』ではその方向性をさらに発展させたいと思ったんだよ。
僕はよくこういう説明の仕方をしている。『Sunshine』はひとつのグルーヴを見つけて、そのグルーヴのなかに留まり続けている感覚。一方『Volcano』は、クルマを運転していて、高速でカーブを曲がるような感覚。サビに入る度に「ほら、来たぞ。ここで曲がるよ。驚いただろ?」というような感じ。で、今の僕らはそういうやり方に少し反抗したかったんだろうね。そうして向かった先が『Sunshine』というアルバムだったわけだ。
―制作にはどのくらい時間をかけたんですか?
リディア:去年の10月に2週間くらい作業をしたけど、本格的に作業したのは今年の1月から2月にかけて。その2カ月で新しい曲を作り、集中的に制作して完成させたの。実は数年前に書いた曲が最終段階でアルバムに入ることになったりもしたんだけど。
―それはどの曲?
リディア:「Carry On」は間違いなく古い曲のひとつで、確か『Volcano』の時期に書いた曲だったと記憶している。ほかにも以前書いていた曲があって……。なんだっけ?
ジョシュ:「Sunshine」は『Volcano』のツアーを終えた直後に書いた曲だったね。あのツアーが終わって、僕らはすぐロンドンのメトロポリタン・スタジオに入り、たくさんの曲を書いたんだ。2024年の終わり頃だったかな。「Sunshine」は初め、もっとテンポが遅かった。何回かの作業のなかで今の形に再構築されていったんだ。
僕とリディアはこれまで一緒にたくさんの曲を書いてきた。Loaded Honey(ジョシュとリディアのプロジェクト。昨年6月に1stアルバム『Love Made Trees』をリリース)の曲もふたりで書いたしね。で、曲を書いてから、この曲はこのプロジェクトで使ってここに置こうと居場所を決めるやり方をしている。あとから最適な置き場所が見えてくるんだ。逆に、ジャングルのこういうアルバムを作るためにこういう曲を書こうなどと思って作ると、たいていうまくいかない。だから僕たちはいつも、もっと抽象的な何かのために曲を書くやり方を模索している。今回もそのようにしてできていった感じだね。
僕とリディアは最近、リオン・ブリッジズのニューアルバム『Happiness Anytime』にプロデュースとソングライティングで関わっていた。そこでもいろんなことを試したよ。ボサノヴァのリズムやハイライフのリズム、西アフリカの音楽のリズム……。フェラ・クティからの影響もあった。そうやっていろんなリズムを試そうというアイデアは僕の頭のなかに以前からあったもので、それをリオンのアルバムで試したんだ。彼のアルバムに取り掛かったのも完成させたのも、僕らのアルバムより早かったからね。今回の「Where Are You Now?」は、リオンのアルバムに入っていてもおかしくなかった曲だね。逆にリオンのアルバムを聴くと、「これってジャングルの『Sunshine』に入っていても不思議じゃないな」って感じる曲があるかもしれない。
―リオンの新作も早く聴きたくなりました。ところでそのことと関係あるのかどうかわかりませんが、『Sunshine』は「歌」にフォーカスした楽曲が以前より多いですよね。リディアのボーカルが素晴らしいから、そういう曲を多くしようと考えたのですか?
ジョシュ:もちろんそれも大きい。リディアは声で感情を伝える才能に溢れているからね。声そのものも素晴らしいし、本当に信じられないくらい優れたボーカリストだと思うんだ。そんな彼女の歌声がメロディそのものを形作っている部分がたくさんあることが、「歌にフォーカスした曲が多い」というキミの印象に繋がっているんだと思う。実際、リディアのボーカルのおかげで、メロディに以前よりも豊かな起伏やストーリーラインが生まれている。初期のジャングルの曲とはかなり違うんじゃないかな。
初期のジャングルは僕とトム(・マクファーランド)のふたりだけで、当時のメロディはもっと単音節的だった。リズム重視だったんだ。細かく刻まれたリズムのアクセントが肝で、ボーカルはサウンドプロダクションが支えているような作りだった。でもリディアが入ってくれて、そうじゃなくなった。その変化は、僕がジャングルを始めた頃から夢見ていたことでもあったんだ。昔から僕はカーティス・メイフィールドやマーヴィン・ゲイのソウルを愛していたからね。リディアのおかげでそういったソウルの表現に近づくことができたと思っている。今のジャングルは感情的な部分で他者と繋がれる音楽を奏でている。初期のジャングルにはなかったところだね。
―リディアがジャングルに加わって本当によかったですね。
ジョシュ:うん。実はリディアは、世の中の人たちが思っているよりも前からジャングルの一員と言っていい存在だったんだ。「What DYou Know About Me?」(2021年作『Loving in Stereo』収録)という曲で一緒に作業をしたのが始まりだった。それから「Keep Moving」の制作にも参加してくれて、僕たちの間にすごくいいエネルギーが生まれていった。彼女は優れたソングライターで、仕事のスピードも驚くほど速い。だからとても自然に進んでいくんだ。リディアがジャングルの正式メンバーになるのは、だから極めて自然な流れだった。リディアが初めからスタジオにいてくれるというのは、僕とトムが超能力を手に入れたことに等しい。強力な秘密兵器がひとつ増えたような感じだね。リディアは直感が鋭くて、その曲に何が必要かを瞬時に見抜く力がある。それは制作現場において、ものすごく大きな助けになっている。
―サウンドや全体の作りに関しては今回どのようなことを意識しましたか?
リディア:心地いいバイブスやフィーリングをアルバム全体を通して保たせることをこれまで以上に意識した。再生したときに「この曲は今の気分じゃないな」とスキップしたくなる瞬間がない作品にしたかった。音楽的にも感情的にも、通して聴くことで自然に旅ができる、そういう作品にしたかったんだ。旅路の邪魔になるような曲、聴いている人の気分を削いでしまうような曲は入れたくなかった。とにかく気持ちのいい流れを味わえるアルバムにすること。それが今作のテーマだったのかもしれない。
―今作に限らずですけど、ジャングルはある時期からずっと古き良きソウルミュージックに現代的な解釈を加えて再構築するということをやっている印象があります。それをするにあたって意識していることはありますか?
ジョシュ:特別に意識していることはないかな。たぶんそれって僕らの好みや直感から自然にそうなっているんだと思う。昔のソウルミュージックをどう解釈して現代的に聴こえるようにするか、その決まった方法論や公式みたいなものがあるわけではないんだ。僕たちはソウルに限らずさまざまな種類の音楽を聴いているわけだけど、それを自分たちのなかに取り込む際に大事なのは、その音楽が持つフィーリングそのものを受け継ぐということ。手法としては、例えばキックの下にサンプルを重ねたり、ドラムをプログラミングしたり。70年代にはドラムをプログラミングするという発想がなかったわけで、そういった手法や音の選び方が僕らの音楽に未来的な感触を与えているんだと思う。その一方、ボーカルの表現やメロディではノスタルジーを感じさせたりもする。未来的なサウンドと懐かしさのあるメロディを併せ持つことこそが、ずっとジャングルの表現の根底にあるものなんだ。
―ちなみに3人が普段よく聴いている音楽は似ていますか?
ジョシュ:好みはけっこう違うかもね。今作の制作期間に関して言うなら、僕はボサノヴァをよく聴いた。ブラジルの音楽が好きなんだ。セルジオ・メンデスが様々な作品でやっていたことから、僕は多大な影響を受けている。トムが最近何を聴いていたかはわからないな。リディア、キミはどう?
リディア:私は子供の頃からアース・ウィンド&ファイアーやスティーヴィー・ワンダーを聴いて育ったの。あと、父がよくかけていたので、ジャズも聴く。今でもそういう音楽はよく聴くし、馴染みがあるから家に帰ってきたような気持ちになれるんだよね。現実から少し逃げたくなって心を解放したいときにも自然とそういう音楽を聴いている。でもレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンも好きだし、J・ディラも好きなんだけどね。
言葉とダンス、本物の感情
―話は変わりますが、今作のリリックに関しては、どんなことを意識しましたか?
ジョシュ:今回に限らず僕たちはいつもできるだけ普遍的な内容を書こうとしている。ジャングルの音楽性に物語を説明しすぎたり具体的すぎたりするものは合わないと思うんだ。それよりも様々な状況や人それぞれの経験に当てはまるようなもののほうが、多くの人の心に響くんじゃないかと思っている。ひとつ言うなら、僕は昔から歌詞のなかにメタファーがあって、それが聴き手の経験や感情に重なるような歌詞表現が好きなんだ。ジャングルはグループであり、コレクティブでもあるから、歌詞もまた多くの人が共有できるものであるほうがいい。つまりシンガー・ソングライターが個人的な経験や内面を歌う、そういうスタイルとは違うってこと。もちろん詞を書くときには自分自身の内面に潜っていく必要があるけど、曲として完成させる段階では広い視野に立って、誰にでも理解できるもの、普遍的なものに変えていくんだ。
それでも僕はときどきヘンにひねった表現をしたり、理屈っぽい書き方をしてしまうことがあるんだけど、そんなときにリディアが入って直してくれる。リディアは、どういう言葉だと気持ちよく歌えるかを見抜くのが早いんだ。そうして結局のところ、すごくシンプルな表現に戻るケースが多い。思うに男性は物事を必要以上に複雑にしてしまう傾向があるんじゃないかな(笑)。リディアはそれをスッとシンプルな形に戻してくれる。助かるよ。
―楽曲についても聞いていきたいんですが、全曲説明するのはたいへんでしょうから、特に気に入っている曲を2~3曲挙げて話してもらえますか?
ジョシュ:僕が気に入っているのは「Come Back To Me」と「Where Are You Now?」、それと「Move Like You Do」もいいね。大好きな1曲だ。もっともこの曲は僕よりリディアが大きく関与したものなんだけど。それがこの曲を好きな理由かも(笑)。
リディア:その3曲は私もすごく気に入っている。特に「Come Back To Me」はサウンドが未来的だし、なんかすごくクレイジー(笑)。この曲が生まれた過程も好き。ジョシュがひとりで部屋にこもって、夢中になっていろいろ試していたんだよね。私が部屋に入ってきたことにも気づかなかったくらいで。それを聴いて、私はぶっとんだの。「わ、すごい曲!」ってね。なんだかとっても新鮮だった。この曲はアルバムのオープニングとしても完璧だと思う。
ジョシュ:「Heavy On My Soul」も、これまでジャングルでやってこなかった領域に踏み込んだ曲だと思う。終盤にかなり大胆なボーカル・パフォーマンスが入っていて、それは偉大なソウルシンガーたちを想起させるものになっているんだ。ジャングルではああいう高音域のボーカル表現をやってこなかったよね。そういう意味でこの曲も僕らにとって新たな挑戦だった。
リディア:そうだね。あのパートはもとから曲の一部としてあったものではなかった。ある程度できた段階でマネージャーに聴かせたら「最後に高い音を歌ってみるとか、何か新しいことをやってみたら?」と言われて、じゃあ試しにやってみようかってことになって、高い声で歌ってみたんだよね。あの高い声を残せたのは、私にとってもよかったこと。
―僕は「Carry On」が気に入っているんです。リディアのボーカルが立っていて、70年代あたりのシンガー・ソングライターの楽曲のようにも感じられるのがステキだなと。
ジョシュ:あの曲は僕たちなりにもう一度「Back On 74」的な曲を作ろうとしていたところがあった。テンポも近いし、ギターから始まる曲でもあるしね。ミュージシャンって「ああいう曲をもう一度作ろう」「あれを超えよう」って繰り返し挑戦するところがあったりする。だけど結果的に「Carry On」は「Back On 74」と違った作りになった。「Carry On」は僕らがこれまで書いてきたなかでもっとも哀しい曲のひとつじゃないかな。「Back On 74」にはここまでの深さはなかったと思う。なんというか、「Carry On」には本物の感情が宿っているんだ。
―前作『Volcano』にはゲストが多数参加していましたが、今作は「Romeo Ⅱ」でフィーチャーされているBasだけですよね。それは、あえてですか?
ジョシュ:もちろん素晴らしいゲストがたくさん揃ったアルバムというのは理想ではある。けどみんなのスケジュール調整をして進めるのは、いろんな面でたいへんなんだよ。それに……。
リディア:それに今回は時間もなかったから。1カ月程度の制作期間に大勢の人を呼んで参加してもらうのは無理だった。でもBasが今回も参加してくれたからね。私たち3人ともBasのことが大好きで、信頼のおける友人のひとりだから。ジャングルとBasって最高に相性がいいし、一緒にスタジオに入るのがすごく楽しいの。
ジョシュ:うん。彼はもはや家族みたいな存在だからね。それに彼はやるべきことをすぐに理解してくれるから。
―ところで今回もまたシングル曲のMVはコレオグラファーと組んで、ダンスシーンをメインにしたものになっています。ああいうMVのアイデアはコレオグラファーやディレクターと一緒に考えるんですか?
ジョシュ:そうなんだけど、今回のMVに関してはウィル・ウェスト(コレオグラファー)が自分なりの解釈で進めてくれたのが大部分なんだ。とはいえコンセプトは一貫している。僕たちはできる限り、MVの全てをダンスを軸にした作品にしたいと思って、そうしてきた。そうすることで、人々にこれがジャングルの曲だって認識してもらえるからね。毎回違うスタイルのMVを作っていたら、きっと人々の記憶に残りはしなかったと思う。以前、ダミアン・ハーストが「ふたつ作れば、それはコレクションになる」と言っていて、僕はその考え方に共感した。ダンス表現をメインにしたMVをいくつか作れば、それがジャングルのコレクションになる。僕らはダンサーやコレオグラファーやディレクターを信頼している。彼らが僕らの楽曲をどのように解釈して、どんな映像で表現するのか、いつもそれを楽しみにしているし、彼らなら必ず素晴らしいものを作ってくれると信じることが大事なんだ。
―最後の質問です。このアルバムが、聴く人にとってどのような作品になったら嬉しいですか?
リディア:聴いた人が幸せな気持ちになったり、心が穏やかになったりしたらいいなって思う。カラダを揺らしたくなったり、パーティーをしたくなったりするのもいいよね。なにしろ一貫した空気感を持った心地いいアルバムになったと思うので、その雰囲気に身を任せてほしい。そして聴いた人がその人なりのインスピレーションをもって先へと進んでくれたら嬉しいな。

ジャングル
『Sunshine』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15677
