夏になると、乳幼児を中心に流行する手足口病。保育園や幼稚園で一気に感染が広がることもあり、「一度かかったのに、また感染した」「きょうだい全員にうつってしまった」という家庭も少なくありません。

なぜ手足口病は夏に流行しやすく、爆発的に患者が増える年があるのでしょうか。また、一度感染すれば免疫がつき、しばらくはかからなくなるのでしょうか。

今回は、手足口病の症状や感染経路、かかりやすい子どもの特徴、再感染の可能性に加え、家庭で実践できる感染対策と免疫力を高める工夫について、武井 智昭医師に詳しく聞きました。

手足口病、なぜ夏の子どもに流行しやすい?

手足口病は、その名の通り手のひら、足の裏、口の中(粘膜)などに米粒大の特有の水疱(水ぶくれ)性発疹が現れるウイルス性感染症です。最近では足や腕にも生じることがあります。主に4歳以下の乳幼児を中心に流行します。

なぜ「夏」に流行しやすいのか?

原因となる「エンテロウイルス」や「コクサッキーウイルス」などのグループは、「高温多湿」の環境を非常に好む性質を持っています。

日本の夏はウイルスにとって活動・増殖するのに最適な条件が揃っているため、一気に生存・拡散しやすくなります。

主な症状

発疹・水疱:手のひら、足の裏、足の甲、お尻、口の中に現れます。最近では下腿や上腕・前腕にも発疹が生じることもあります。痛みやかゆみがないことが多いですが、口の中の水疱は破れて潰瘍(口内炎)になりやすく、食事や水分を摂る際に強い痛みを伴います。

発熱:約3分の1の割合で発熱が見られますが、多くは37〜38℃台で1〜2日程度で下がります。

主な感染経路

手足口病の感染力は非常に強く、以下の3つのルートで感染します。

飛沫感染(ひまつかんせん):咳やくしゃみのしぶきを吸い込むことによる感染。

接触感染:ウイルスが付着したおもちゃや手すり、あるいは水疱の中の液体に直接触れることによる感染。

糞口感染(ふんこうかんせん):便の中に排泄されたウイルスが手を介して口に入る感染。症状が消えた後も、便の中には3〜4週間ほどウイルスが排出され続けるため、回復期も油断できません。

保育園・幼稚園で広がりやすい理由

集団生活の場では、子どもたちが密接に触れ合って遊びます。また、おもちゃを口に入れたり、共有したりすることが日常茶飯事です。さらに、乳幼児はおむつ替えが必要であり、保育士や保護者が介助する際の「糞口感染」リスクが高いこと、乳幼児自身がまだ上手に手洗いを徹底できないことが、一気にクラス全体へ広がる要因となっています。

手足口病が爆発的に流行する年があるのはなぜ?

手足口病の流行規模は、単一の要因ではなく、ウイルスの種類、子どもたちの集団免疫力、そして気候といった複数の要素が複雑に絡み合って決定されます。

1. 流行するウイルスの「型」の交代と免疫

手足口病の原因ウイルスには、主に「コクサッキーA6型(CA6)」「コクサッキーA16型(CA16)」「エンテロウイルス71型(EV-A71)」など、複数の種類(型)が存在します。

これらは数年おきに主役が交代するように入れ替わりながら流行します。例えば、本年のようにコクサッキーA6型(CA6)が流行する年は、通常より発疹の数が多くお尻や太ももまで広範囲に広がったり、数週間後に爪が剥がれたりする特徴があり、近年大きな流行を引き起こす要因となっています。

2. 子どもたちの免疫の有無

ここ数年、COVID-19のように感染症対策が強化された時期に風邪をひく機会が激減したため、特定のウイルスに対する免疫(抗体)を持たない「免疫の空白世代」と呼ばれる子どもたちが増加しました。

集団の中に「一度もかかったことがなく、免疫を持たない未感染の年齢層」が厚く存在すると、ウイルスが持ち込まれた際に一気に爆発的な流行(大流行)に発展しやすくなります。

3. 暑さによる体力低下との関係

猛暑による熱帯夜などで睡眠不足に陥り、食欲が落ちると、子どもたちの基礎的な抵抗力(バリア機能)が低下します。これにより普段なら免疫で抑え込めるはずの微量なウイルス量でも簡単に発症・重症化してしまい、感染のスピードと流行規模を拡大させる要因となります。

手足口病にかかりやすい子どもの特徴

年齢は1歳〜2歳の乳幼児が最もかかりやすく、4〜5歳以下の保育園・幼稚園などの集団生活を行っている子どもが圧倒的多数を占めます。これは、人生で初めてこれらのウイルスに遭遇する時期だからです。

普段の体調

「睡眠不足」「食欲低下(夏バテ)」「疲労の蓄積」「ストレスを感じやすい」子どもは、免疫を司る自律神経のバランスが崩れ、ウイルスの侵入を防ぐ粘膜バリア(唾液や鼻水に含まれる免疫物質)の働きが低下するため、極めてかかりやすくなります。

症状が重くなりやすい子どもの特徴

基本的には「予後の良い(自然に治る)病気」ですが、以下のような場合は重症化や合併症に注意が必要です。

アトピー性皮膚炎や湿疹がある子:

皮膚のバリア機能が低下しているため、皮膚炎がある部分に一致して水疱がびっしりと激しく出現し、痛みが強く出たり、細菌の二次感染(とびひなど)を起こしたりしやすくなります。

水分摂取ができない子(脱水リスク):

口の中の痛みが原因で「よだれを飲み込むのもつらい」状態になり、食事だけでなく水分まで全く受け付けなくなる子どもは、急速に脱水を起こしてぐったりしてしまいます。

特定のウイルス型(EV-A71)に感染した場合:

エンテロウイルス71型(EV-A71)が原因の場合、ごくまれに中枢神経系にウイルスが侵入し、「髄膜炎(ずいまくえん)」といった深刻な合併症を引き起こすことがあります。

一度手足口病にかかれば、しばらくはかからない?

結論から言うと、同じ夏に複数回、手足口病にかかることは十分にあり得ます。

なぜ何度も手足口病を繰り返すの?

手足口病を引き起こすウイルス(エンテロウイルス属)には、非常に多くの種類(型)があります。

人間は、一度手足口病にかかると「その時感染した特定の型(例:コクサッキーA6型)」に対する強力な終生免疫(あるいは長期免疫)を獲得します。しかし、この免疫は他の型(例:コクサッキーA16型やエンテロウイルス71型)に対しては効果がありません。

そのため、園の中で同時に2種類の型が流行している場合や、7月にA6型にかかった後、8月に別のA16型が流行してきた場合などは、同一シーズンであっても普通に2回目の手足口病を発症します。

ほかの夏風邪にもかかりにくくなる?

残念ながら、感染リスクの減少はありません。

「夏風邪」と総称されるものには、手足口病のほかに、プール熱(アデノウイルス)やヘルパンギーナ(これもエンテロウイルスの一種ですが、異なる型が原因になります)などがあります。

手足口病にかかったからといって、アデノウイルスなどの全く異なるウイルスへの免疫は作られないため、他の夏風邪に対する予防効果は得られません。むしろ、手足口病の病み上がりで体力が落ちている時期は、別のウイルスを続けてもらいやすくなるため、より一層の注意が必要です。

感染症に負けにくい体をつくるために家庭でできること

夏休みや猛暑の時期は、生活リズムが乱れがちです。子どもの免疫機能を正常に保つために、家庭で意識したいポイントを整理しました。

免疫機能を正常に保つために「特に重要な3つの柱」

●「良質な睡眠」と「遮光・室温調整」

子どもでも免疫細胞(T細胞やNK細胞など)は、寝ている間に分泌される成長ホルモンによって活性化し、修復されます。暑さで眠りが浅くなると免疫力は低下します。エアコンを適切に使い、夜間は室温を26℃前後に保ち、朝は決まった時間に日光を浴びて「体内時計」をリセットさせることが大切です。

●「腸内環境」を整える食事(免疫の7割は腸にあり)

人間の免疫細胞の約7割は「腸(腸管免疫)」に集中しています。冷たい飲み物やアイスクリームの与えすぎは胃腸の血流を悪くし、免疫機能を低下させます。

おすすめとしては、発酵食品(ヨーグルト、納豆、味噌汁)、野菜のスープ、善玉菌のエサとなるオリゴ糖・食物繊維を日頃から少しずつ摂り、お腹を冷やさないようにしてください。

●「こまめな水分補給」で粘膜のバリアを維持する

喉や鼻の粘膜が乾燥すると、ウイルスの侵入を防ぐ繊毛(せんもう)運動が鈍くなります。「のどが渇いた」と感じる前に、一度に大量ではなく、15〜30分おきに「ひと口、ふた口」ずつのこまめな水分補給(水や麦茶)を習慣にしてください。

夏休みや猛暑の時期に保護者が注意したいポイント

●「アルコール消毒」だけに頼らない

手足口病の原因となるエンテロウイルス等は「ノンエンベロープウイルス」と呼ばれ、一般的なアルコール消毒薬が効きにくいという特徴を持っています。予防の基本は「流水と石けんによるしっかりとした手洗い」です。おむつを替えた後は特に、石けんでしっかりと手を洗いましょう。

●タオルの共有を避ける

家庭内での接触感染を防ぐため、洗面所やトイレのタオルは家族で分け、ペーパータオルなどを使用するのも有効な対策です。

●「遊びの疲れ」を翌日に持ち越さない

夏休みはプールや外出などイベントが多くなります。帰宅後はぬるめのシャワーで汗を流し、早めに就寝させるなど、大人が先回りして「休養」のスケジュールを確保してあげてください。

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